貫地谷しほりさん
連続テレビ小説『ちりとてちん』に主演!
貫地谷しほりさんがドラマの見どころ&NHK作品出演の思い出を語る
2007年~2008年放送
コンプレックスだらけのヒロイン・和田喜代美。高校卒業を目前に故郷の福井県小浜から大阪へと飛び出す。そこで上方落語と出会い、落語家を志す。恋あり涙ありの、まるで落語みたいな人情ドラマ。
脚本:藤本有紀音楽:佐橋俊彦語り:上沼恵美子
喜代美一家、小浜の生活始まる
エピソード01
和田喜代美は、9歳の時に家族で福井県小浜市の父・正典の実家へ引っ越してきた。
小浜での新しい生活に胸を踊らせていた喜代美。しかし、父・正典と祖父・正太郎の確執を目の当たりにし、又、一風変わった叔父の小次郎の出現により未来への不安が募る喜代美。
「その雑音混じりの声がやがて
私の人生をおもしろおかしく
導いてくれるみちしるべとなるのですが・・・
このとき数えで9歳の私にはまだ見ぬ未来の話。」
―喜代美(語り)
祖父の仕事部屋でカセットデッキから流れる不思議な声に魅了される喜代美。
はじめての「落語」との出会いであった。
転校先の小学校。同じクラスには同姓同名の和田清海(きよみ)という優等生がいた。事の成り行きで、人気者の清海がA子、喜代美がB子と呼ばれることに・・・。落ち込む喜代美であった。
喜代美が初めて聞いた落語は古典「愛宕山(あたごやま)」。愛宕山名物「かわらけ投げ」(山頂から下の的に向かって円盤を投げる願掛け)にまつわる小話を聞いて喜代美の妄想はどんどん広がる。
喜代美の父・正典が祖父・正太郎との確執について幼い喜代美に語る。正典は若狭塗り箸の職人を目指すも、3年で挫折し正太郎の元を去った。その後も次々去っていく弟子たちに正太郎は深く傷つき、心を閉ざしてしまったというのだ。
「人間も箸と同じや・・・。
一生懸命生きてさえおったら、
悩んだことも落ち込んだことも
キレイな模様になって出てくる。」
―正太郎
正太郎は、喜代美に塗り箸作りから学んだ人生訓を語る。
しかし、直後病に倒れる正太郎。
「正典よう帰ってきてくれた。
ほんまはずっとお前が
跡を継いでくれたらと、そんな思うとった。」
―正太郎
「お母ちゃんの笑顔は
朝日のように私の心を温めてくれました。」
―喜代美(語り)
正太郎の死を乗り越えられない喜代美は母と梅丈岳(ばいじょうだけ)に行く。
泣きながら正太郎への思いを吐き出す喜代美。
母・糸子は喜代美を笑顔で抱きしめる。
喜代美、
ふるさとを出る
エピソード02
高校3年生になった喜代美。「主役になれるチャンス!」と最後の学園祭のステージに立つように親友・順子に勧められる喜代美だが・・・。A子にあっさりその座を奪われてしまう。
喜代美に想いを寄せるA子こと和田清海の兄・友春(ともはる)。進路に悩む喜代美に遠回しにプロポーズをするも・・・喜代美には全く相手にされない。
「いつも自分は脇役やったこの町で、
ドンと人生の真ん中を歩くことなんか
できひんのちゃうやろか・・・」
―喜代美(語り)
学園祭当日。
ステージで脚光を浴びるA子に対して、裏方としてA子に照明を当てる喜代美は浮かない顔。
「小浜を出たい」という気持ちが募る。
喜代美、大阪での新しい人生
エピソード03
一念発起して単身、大阪へ飛び出したものの・・・頼りにしていた知人も不在。更に宝物の落語のテープも壊れてしまい途方に暮れる喜代美。
初老の男性の家で晩御飯をごちそうになった喜代美。その家にチンピラ風の怪しげな男が入ってくる。借金取りと間違えてして撃退しようとしたその時、その男は「師匠!」と初老の男に頭を下げた。
「こんなどうしょうもないもんでも
生きてる思たら、くよくよ悩んでんのが
アホらしくなるやわからんで」
―草若
喜代美が気に入った草若は「一緒に暮らそう」と同居を提案する。
喜代美と草若、草々との新しい生活が始まった。
福井県小浜の喜代美の実家。喜代美が草若のもとで暮らすことになったと知り、父・正典は心配し連れ戻そうとするが、母・糸子は、見守る決意を固めていた。
徒然亭一門の
過去と再起
エピソード04
喜代美の前に草若の息子・小草若(草若の三番弟子)が現れた。小草若は草若が3年前、関西一の芸能プロダクション・天狗芸能の会長を怒らせ落語界を追放されたことを明かす。
「恋というのはおかしなもんで、
変やとおもてた巨大なお椀まで
素敵に見えたんです」
―喜代美(語り)
草若が草々に「家を出ていってくれ」と土下座する場に遭遇した喜代美。
高座にあがるまで離れないと食い下がる草々の姿に恋心を感じる喜代美であった。
恋心を抱く草々を助け、もう一度徒然亭一門の落語会を開くことを心に誓った喜代美。まずは、バラバラに散った3人の弟子を集めることを決意し、草々と共に奔走する。
喜代美と草々は、まず草若の一番弟子の草原(そうげん)に復帰を懇願する。しかし、落語家を辞めて就職し妻子を養っているからと断られる。次に、四番弟子の四草(しいそう)を訪ねるも、冷たくあしらわれる。
草若の息子であり三番弟子の小草若は、父・草若に対して強い憎しみを抱いていた。3年前、草若は他の女の元へ行って高座をすっぽかし、そのせいで一門は離散、病気であった母の死期も早まったのだというのだが・・・
徒然亭には復帰しないと一度は喜代美らの懇願を突っぱねた草原だったが、実は落語への未練を断ち切れずにいた。そして、妻の温かい後押しの言葉によって復帰を決意する。
草原が四草(しいそう)を訪ねると、ふいに四草が飼っている九官鳥の声が部屋に響く。「瀬をはやみ・・・」落語”崇徳院”の一説。四草もまた、落語への志が捨てられず稽古を続けていたのだ。草原の説得で四草も復帰を決める。
父・草若と
息子・小草若、涙の和解
エピソード05
師匠・草若に徒然亭の復活と草若の復帰を懇願する3人の弟子、草原、草々、四草。しかし、草原は決して首を立てに振ろうとしない。落語をやりたかったら他へいけと弟子たちを冷たく追い返す。
父を憎む小草若は亡き母の親友・菊江から草若が落語をやめた本当の理由を知らされる。草若が高座をすっぽかした日、妻の寿命が長くないと聞かされたショックで高座に上がることができなかったのだという。
父・草若が落語を辞めた真相を知り、草若への誤解が解けた小草若が徒然亭一門に戻ってきた。あとは、師匠草若の復帰だけ・・・弟子4人は一丸となって徒然亭一門の落語会の準備をすすめる。
「落語を辞めたい辞めたい言いもって
毎日稽古をつけてくれはる
けったいな師匠でして・・・」
―草々
4人の弟子が集まり、ついに徒然亭の落語会が開かれた。
師匠に聞かせるように熱心に落語をする弟子たち。
その姿を静かに見つめる草若の姿が客席にあった。
小草若の演目は初めて父から教わった古典「寿限無(じゅげむ)」。子どもにいい名前をつけたい一心で長い名前をつけてしまうバカな親の話。小草若は、話しながら、父への思いが溢れて舞台上で号泣してしまう。
喜代美、
落語家の道へ
エピソード06
「私、子どもの頃からずっと言われてきました。
「あんたはすぐ投げ出すんやさけっ」て、
でも今回は絶対にあきらめません。」
―喜代美
落語会も盛況に終わり皆が新しい門出に湧く徒然亭一門。
一方で、喜代美はある決意を固めていた。
「わたし、落語家になる!」
草若に弟子入りをあっさりと拒否されてしまった喜代美。しかし諦めきれない喜代美は、四草が勤めていた中華料理屋で働きながら独学で落語の勉強を始める。
独学で落語の勉強をはじめたものの、無理がたたって倒れてしまう喜代美。手には、亡き祖父・正太郎との思い出の落語のテープが握られていた。
「なんや不思議やけんど、
亡くなった父が
私や喜代美の進むべき道を
照らしてくれとる気がするんです。」
―正典
A子が大阪を離れ東京でニュースキャスターを目指すことを決意。別れ際、A子「いい落語家になってね」と喜代美に告げる。ずっとA子に劣等感を抱いていたからこそ、落語家の道を見つけられたことに気付いた喜代美であった。
1995年、夏。喜代美が内弟子となって2年の月日が流れていた。喜代美は「若狭」という芸名をもらい落語の猛特訓中。徒然亭一門の寄席は人気を呼び順風満帆な日々を送っていた。
「若狭、あんたがあんたの思てるように
変われたかどうかは知らん。
けど、あんたがおれへんかったら
俺は3年前のただの
飲んだくれのおっさんのまんまや。」
―草若
喜代美、
花嫁になる
エピソード07
大舞台での高座を盛況に終えた喜代美に、大晦日で年季明けだと告げる草若。喜ぶ喜代美だったが・・・。同時に、年季が明けたら家を出ていくように言われてしまう。寂しさと不安で一杯になる喜代美。
「草々兄さんにとって私は妹弟子。
これまでも、これからも・・・」
―喜代美
恋心を抱く草々と一緒に住めなくなる・・・。
不安でいっぱいの喜代美は草々への素直な思いを伝えられない。
すれ違う二人であった。
大晦日。徒然亭一門は年越しと喜代美の年季明けを祝っていた。お酒が入った喜代美は、草々が好きな気持を抑えられずに草々と大喧嘩になってしまう。
「逃げられたんや、
私は逃げられた花嫁なんや~!」
―喜代美
喜代美と草々は結婚することになった。
しかし、結婚式当日の朝から草々が見当たらないと大騒ぎになっていた。
草々が行方不明になったと大騒ぎの結婚式。草々は遅れてひょっこり顔を出す。独身最後の夜、他の弟子たちと飲んだくれていたというのだ。喜代美の父・正典は草々に怒り「結婚式は中止や!」と叫ぶ。
師匠との別れ
エピソード08
草若は、関西のお笑い界の重鎮・鞍馬(くらま)会長を訪ねる。徒然亭の常打ち小屋建設に力を貸してほしいと頼み込む。首を立てに振らない鞍馬は、代わりに草若と若狭(喜代美の芸名)の師弟落語会をするよう命じる。
「女が落語やっていこうおもたら
男がやるより大変や・・・
この道で生きていける術を
身につけささなあかん」
―草若
草若は、喜代美に師弟落語会の演目は創作落語で勝負するよう命じる。
無謀な注文だと噛み付く喜代美。
その直後、草若は病に倒れた。
余命がせまった草若は自宅の稽古場で弟子たちに最後の稽古をつける。その光景を目に焼き付けようと真剣に師匠を見つめる弟子たち。これが、草若最後の高座となった。
師弟落語会の当日。草若が病に倒れたため、弟子たち全員が舞台にあがることになった。草若に命じられた新作の創作落語で客席をわかせる喜代美。落語が終わると、安心したかのように草若は静かに息を引き取った。
徒然亭一門の
新しい出発
エピソード09
草若なき後の草若邸では、喜代美と草々が草若のいなくなった食卓にとまどっていた。心にぽっかりと穴が開いてしまったのだ。そんな時、草々に弟子入りを志願する一本の電話が入る。
草々に憧れて弟子入りを志願してきた木曽山勇助。まだ自分は未熟だからと何度も断っていた草々だったが喜代美の「草若師匠の落語を受け継ぐ人かもしれない」という言葉に説得され弟子入りを受け入れる。
「ただ嬉して。
皆が楽しそうに笑ろうとる顔
見とるだけで嬉して。」
―糸子
「学校で嫌なことがあっても、
落ち込んどっても落語聞いとったら
いつの間にか笑ろうてました。」
―喜代美
喜代美は徒然亭の皆に師匠の夢だった常打ち小屋の建設を受け継ごうと提案。
皆に、かつて落語に励まされた自分自身の思いを語って聞かせる。
「師匠が叶えられへんかった夢やからこそ
叶えなあかんのです。」
―草々
徒然亭一門は正装をして鞍馬会長を訪ねる。
常打ち小屋建設に理解を求めるも、「やれるもんならやってみい」と突き放されてしまう。
「誰でも気軽に入れて
噺家が腕を競う・・・
わしに頼らんでも出来たやないか、
この時を待ってたんや」
―鞍馬会長
「草若邸お別れ落語会」の様子を見に来た鞍馬会長。
大盛況ぶりをみて嬉しそうに徒然亭一門に言葉をかける。
喜代美、
母になる
エピソード10
2006年9月。常打ち小屋はついに完成。オープンを間近に控えていた。そんな時、喜代美が妊娠していることがわかる。喜びにわく徒然亭一門と小浜の面々であった。
「大丈夫やない、あんたは昔
お母ちゃんのお腹におったんや、
ほやさけわかるんや」
―糸子
常打ち小屋オープンにむけて草々と稽古する喜代美。
実はつわりがひどく稽古に集中できるような状態ではなかった。
そんな喜代美を見かねて、母は草々に喜代美を休ませてほしいと直訴する。
「自分でもつかめない思いが
込み上げて来ていました」
―喜代美
皆に照明を当てながら、「人にライトを当てるゆうのは素敵な仕事」そう諭された親友・順子の言葉を思い出していた喜代美。
そして、目に飛び込んできたのは、楽しそうに舞台を見つめる母の姿であった。
「悩んだことも、落ち込んだことも
キレイな模様になって出て来る。
お前のなりたいもんになれる」
―正太郎
体調が回復した喜代美に「ひぐらし亭」の高座の日がやってきた。
奇しくも大好きだった祖父・正太郎の命日。
うつつか、幻か・・・楽屋に正太郎が現れる。
「お母ちゃんは太陽みたいに
いつでも周りを照らしてくれとる、毎日毎日。
それがどんだけ素敵なことかわかったんや。
どんだけ豊かな人生かわかったんや。
お母ちゃんありがとう。」
―喜代美
ついに陣痛がはじまる喜代美。草々が分娩室の扉の前で大きな声で「愛宕山」を演じる中、元気な産声が響き渡るのだった。
和田喜代美(主人公)
桑島真里乃
和田喜代美(主人公)
貫地谷しほり
和田糸子(喜代美の母)
和久井映見
和田正典(喜代美の父)
松重豊
和田小梅(喜代美の祖母)
江波杏子
和田正太郎(喜代美の祖父)
米倉斉加年
徒然亭草若(そうじゃく 徒然亭一門の師匠)
渡瀬恒彦
徒然亭草々(そうそう 草若の二番弟子)
青木崇高
徒然亭四草(しいそう 草若の四番弟子)
加藤虎ノ介
菊江(小草若の亡き母・志保の友人)
キムラ緑子
鞍馬太郎(関西落語会の重鎮)
竜雷太
和田小次郎(喜代美の叔父)
京本政樹
野口順子(喜代美の親友)
宮嶋麻衣
和田清海(喜代美の同姓同名の同級生)
佐藤めぐみ
徒然亭草原(そうげん 草若の一番弟子)
桂吉弥
徒然亭小草若(こそうじゃく 草若の三番弟子、草若の息子)
茂山宗彦
木曽山勇助(草々の初弟子)
辻本祐樹
悲しみを笑いに変えてくれる「落語」
第2回 第1週 笑う門には福井来る
正太郎との別れ
第5回 第1週 笑う門には福井来る
お母ちゃんみたいになりたくない!
第12回 第2週 身から出た鯖(さば)
ふるさとを離れる日
第12回 第2週 身から出た鯖(さば)
師匠との出会い
第14回 第3週 エビチリも積もれば山となる
おかみさんの墓前で誓い
第36回 第6週 蛙(かえる)の子は帰る
草若、復帰。落語「愛宕山」
第42回 第7週 意地の上にも三年
喜代美と正典の運命のカセットテープ
第47回 第8週 袖振り合うも師匠の縁
師匠の初稽古
第48回 第8週 袖振り合うも師匠の縁
年季明けのかかった大舞台
第73回 第13週 時は鐘なり
若狭の”ちりとてりん”
第73回 第13週 時は鐘なり
今日からお前が俺の故郷
第77回 第13週 時は鐘なり
喜代美、草々夫婦になる
第78回 第14週 瀬戸際の花嫁
俺を笑わせてくれ!
第107回 第19週 地獄の沙汰(さた)もネタ次第
喜代美と草若最後の会話
第115回 第20週 立つ鳥あとを笑わす
糸子の嬉し泣き
第143回 第25週 大草若の小さな家
常打ち小屋の資金め
第144回 第25週 大草若の小さな家
悲願の常打ち小屋ついにオープン
第149回 最終週 笑う一門には福来る
喜代美の最後の高座
第150回 最終週 笑う一門には福来る
私、お母ちゃんみたいになりたい
第150回 最終週 笑う一門には福来る
連続テレビ小説『ちりとてちん』に主演!
貫地谷しほりさんがドラマの見どころ&NHK作品出演の思い出を語る
連続テレビ小説の放送期間は半年。これほど長くひとつの役を演じるのは初めての経験で、貴重な体験をさせていただきました。当時は、どこへ行っても役名で声をかけられ、とにかく貫地谷しほりイコール和田喜代美というイメージだったように思います。それはうれしい反面、実は嫌だなと思う自分もいて…、というのも“もっともっとチャレンジしたい”、“違う自分も見せたい”という若さゆえの欲があったんですよね(笑)。いま思えば、あの頃の私は次へ次へと生き急いでいたような心境でした。
喜代美は心配症で涙もろいヒロイン
長い撮影期間のなかで、一番苦労したのは方言でした。最初は小浜弁。そして落語をやるようになってからは大阪弁。その微妙な違いに頭がこんがらがってきてしまって…。結局、大阪弁に変わることなく最後まで小浜弁で通すことになったのですが、喜代美のキャラクターを作る上で小浜弁にはすごく支えてもらいました。ひとりの人物を作っていくのって、色んな要素を積み重ねていかなきゃいけないんです。普通にやっていたら、すぐに底をついてしまうところを、喜代美の場合は最初から小浜弁という特徴がドーンと用意されていた。落語や三味線は覚えるのが大変でしたが、それも含めてとても贅沢だったなと思います。
福井・小浜での高校時代
大阪で落語家を志す喜代美
“朝ドラ”のオーディションは3度目でしたが、ヒロインに決まったときにプロデューサーの遠藤(理史)さんから「今まで選ばれずに残っていてくれてありがとう」って言ってもらえたことを覚えています。すごくうれしかったし、何だか必然的な巡り合わせだったのかなと思いますね。
『ちりとてちん』は振り返ってみても、とても素晴らしい作品です。先輩方からもよく聞く話ですが、自分が本当に面白いと思える作品に出会えることって人生に何本かしかありませんから。藤本有紀さんが書かれる脚本がとにかく魅力的で、毎週あがってくる台本を読んで号泣していたんですよ。「こんな台本ないよね」って誰もが思っていて、その素晴らしさをどう伝えようかと、出演者、スタッフみんなが全力で考えているパワーあふれる現場でした。そんな作品に出会え、ヒロインを演じることができて本当に幸運でした。
二人の部屋の間の壁を壊す兄弟子・草々(青木崇高さん)
喜代美の思いが通じる名場面
武田信玄の軍師として知られる山本勘助の生涯を描いた作品。貫地谷しほりさんは、勘助が武田家に仕官する前の放浪時代に出会い夫婦同然に暮らした農民の娘・ミツを演じた。
ミツが登場したのは最初の4話ほど。すぐに死んでしまったのですが、後の勘助を形作る上で重要な役どころでした。でも、一話で一か月分あるんじゃないかというほど濃密なドラマの最終回が、ミツのことばで締めくくられていたのにはとても驚きました。出番は少しでしたが、私自身とても思い入れが強く、本当に恵まれていたと思います。
そんな中身の濃い脚本を手がけられたのは大森寿美男さん。当時はお会いすることが叶わなかったのですが、10年ほどしたころ、大森さん脚本の映画に出演することになり、ご挨拶できたんです。そうしたら「『風林火山』でミツを殺さなきゃ良かった!もう少し描きたかった」とおっしゃられて。それはそれは光栄でした。
ミツは勘助(内野聖陽さん)の隻眼も恐れず…
最終回、勘助が絶命した川中島の戦場にミツの声が響く“わしには見えるらよ、勘助の中に咲いてる花が…”
会津藩砲術指南の山本家に生まれ、会津戦争では銃を手に奮戦。のちに同志社大学を創設した新島襄の妻となる八重の生涯を描いた物語。貫地谷しほりさんは、綾瀬はるかさん演じる主人公・八重の幼なじみ、高木時尾を演じた。
『八重の桜』が放送されたのは、東日本大震災の後でした。私自身、ドキュメンタリーのナレーションをさせていただくお仕事も多く、震災で被害に遭われた方々の映像もたくさん見ていました。そんななかで撮影したのが、ドラマで戦場に向かう八重さんの髪を切るシーン。さまざまな人々の思いが、親友を送り出さざるを得なくなった時尾の思いと重なって涙が出ました。命の尊さを改めて考えさせられ、今思い出しても泣けてきてしまいます。
戦をしたい訳ではなく、ただ故郷のために犠牲を顧みずに戦おうとした会津の人々。そうした姿勢や気概が、現代を生きている私たちには希薄かもしれません。時代劇を演ると、かつての人々の思いが感じられ、私たちも、もっと一生懸命生きられるんだと改めて思わされます。
時尾は八重に髪を切ってと頼まれる
“こんなにきれいな髪を…おなごの命なのに…”
家族と落語に泣いて笑って
文/ペリー荻野
何かと不幸な妄想をするネガティブ少女喜代美(貫地谷しほり)は、塗り箸職人の祖父(米倉斉加年)のラジカセで落語の面白さを知る。大阪で落語家の徒然亭草々(青木崇高)と師匠の草若(渡瀬恒彦)と出会った喜代美は落語家になる決心をする。
喜代美はおそらく朝ドラ史上一番の泣き虫ヒロイン。小浜を出る電車の窓から母糸子(和久井映見)が自分に向けて五木ひろしの「ふるさと」を大声で歌う姿を見て号泣、落語修業の苦難に悔し涙、師匠の優しさに触れて感涙……主人公が涙ぐしゃぐしゃなのに湿っぽくならないのは、冷蔵庫に放置したたまねぎを持ち「芽がとぐろを巻いてる」と笑う糸子やお調子者の叔父小次郎(京本政樹)らずっこけ家族がからっと明るいから。小次郎たちが落語の内容をちょんまげ姿で演じる劇中劇にも笑うが、まさかあの世まで出てくるとは!
見せ場は青木ら俳優陣が熱演する高座シーン。中でも不精ひげの渡瀬は、思わず画面に拍手したくなる味のある語りっぷり。語りが上沼恵美子で、それが50代の喜代美という設定もすごい。泣いていたのにいつのまにか笑ってしまう。心地よくあったかい落語的物語だ。
心配性でマイナス思考のヒロインが、自分を変えようと故郷の福井を飛び出し大阪へ。そこで出会った上方落語の世界にひかれ、落語家を目指して奮闘する姿を描いた青春コメディー。
『ちりとてちん』は、ヒロイン・和田喜代美の故郷、福井・若狭でクランクインした。喜代美役の貫地谷しほりさんのファーストカットは、高校生になった喜代美が初めて登場するシーン。小浜中学校近くの道路を「遅刻する〜っ!」と叫びながら走り抜けるという設定だった。「中学時代は100メートル走の選手だったので短距離は得意!」と言う貫地谷さん。その言葉どおり、全力疾走で駆け抜けた。次に撮影されたのは、ファーストカットの続き、正門に走り込む喜代美の姿。ここで喜代美の顔にペタリと張り付いた桜の花びらは、春のうちに凍らせておいた本物の桜だ。春先に台本を読んだ美術スタッフが「きっと必要になるに違いない」と気をきかせて準備しておいたのだ。
本物の桜の花が頬に
クランクインロケの10日目には、喜代美が大阪へ旅立つシーンのロケが行われた。のど自慢会場で十八番(おはこ)の『ふるさと』を歌いながら喜代美の乗った列車を見送る母・糸子(和久井映見)と、列車から母の姿を見て号泣する喜代美。第2週のクライマックスシーンだ。撮影はのど自慢会場となった長井浜と喜代美が乗る列車、2つの現場で同時進行。長井浜には、200人以上の地元の方がエキストラとして集まり、朝から夕方まで行われた撮影に参加した。糸子役の和久井(映見)さんは撮影がスタートすると何度も何度も『ふるさと』を歌い続け、一方の貫地谷さんは小浜駅から20分ほどの距離を列車で何度も往復することに。撮影に使われた列車はドラマの設定と同じ1992年当時、実際に走っていたもの。撮影のためJR小浜線に特別ダイヤを編成していただき、何年ぶりかの復活を果たしたのだ。ロケ現場には、ひと目列車を見ようと駆けつけた鉄道ファンの姿も見られたそうだ。
喜代美の旅立ちを歌って見送る糸子(和久井映見さん)
福井出身の歌手・五木ひろしさんが歌う『ふるさと』は、喜代美の母・糸子が大好きな歌という設定。喜代美や糸子にとって重要な場面でたびたびこの曲が流れた。そんな糸子のあこがれの五木ひろしさんが、ずばり歌手・五木ひろし役でゲスト出演した。「これまで大河ドラマをはじめいくつものドラマに出演してきましたが、連続テレビ小説は想定外。“五木ひろし”の役を演じたのも今回が初めて(笑)」ととまどいながらも、「楽しいシーンにしたいという思いもあって、衣装は私服ではなく、撮影帰りのイメージで“ファンキーな”自前のステージ衣装にしたいと提案しました。撮影本番は照れくさかったけれど、貫地谷さんたちも大いに喜んでくれたので良かったのでしょう(笑)」と話していた。
五木ひろし(ご本人)が和田家に…
『ふるさと』は物語のもうひとつのテーマ曲
上方落語の名人・徒然亭草若を演じた渡瀬恒彦さんは、当初、「俳優は、極力うそのないように誇張がないようにと役を作りあげるのに、落語の世界はその正反対!」ということに、とまどったという。落語『愛宕山』の稽古をしていても「ひばりがピーチクパーチクじゃなくてチュンチュンと鳴くのはおかしいだろうと思ったり(笑)」。しかし、落語の世界は細かなことにこだわるのではなく、どっぷりと浸り込んで楽しむことで成立することがわかってきて、吹っ切れたとか。それにしても、「落語の名人という役どころは負荷のかかる役で、現場ではいつもアドレナリン全開でした」と振り返っていた。
草若師匠の一番弟子・草原を演じたのは本職の落語家・桂吉弥さん。スタジオでは他の出演者にアドバイスをするなど頼もしい存在だったが、それだけでなくモノマネの達人でもあったらしい。一人で登場人物のキャラクターをモノマネして、さまざまなシーンを再現してみせる「一人ちりとて」が評判だったそうだ。喜代美の兄弟子で草若師匠の実の息子で「底抜けに…」のセリフでおなじみだった小草若を演じたのは、狂言大蔵流の能楽師でもある茂山宗彦さんだった。落語が下手という設定だったが、彼の『寿限無』を聞いた貫地谷さんは「上手でびっくりしました」と語っていた。
徒然亭草若役 渡瀬恒彦さん
草原役 桂吉弥さんは本職の落語家
小草若役 能楽師の茂山宗彦さん
四草役 加藤虎之助さん
草々役 青木崇高さん
大阪で喜代美が弟子入りしたのが天才落語家・徒然亭草若(渡瀬恒彦)。落語家の一門には、それぞれ独自の紋があり、この徒然亭にもドラマで使用される紋があった。もちろん、美術スタッフが考案した番組オリジナルだ。一見“セミ”に見えるこの紋のモチーフとなったのは“ヒグラシ”。落語家は実力勝負の世界。若手のころはなかなか仕事がないこともあり、“その日暮らし”にかけたという。またセミ=ヒグラシは生涯のほとんどを土のなかで過ごし、成虫になって初めて外の世界に出て鳴く。落語家も長い修業時代を経て初めて高座に上がり、大きな声で芸を披露することから、ヒグラシの一生にもかけた。もう一つ、ドラマでは喜代美が好きな古典作品として登場する『徒然草』。一門の名前が徒然亭であることから、冒頭部分の「徒然なるままに 日暮らし」にもかけたというこだわりの結晶だ。
このこだわりの紋は、落語家一門の紋ということで、伝統的な折り紙のセミをベースにデザイン。徒然亭一門の落語会で使われる膝の前に置く小さな衝立や、紋付きの羽織、喜代美が稽古で使う手ぬぐいや扇子をはじめ、草若邸の至るところにヒグラシの紋をあしらった。
“徒然なるままに、ヒグラシ…”
のれんにもヒグラシの紋が
『ちりとてちん』は視聴率こそ低かったものの、放送当時から熱烈に支持するファンが多いことで知られていた。そんなファンの期待に応えて開かれたのが、連続テレビ小説史上初となる「ファン感謝祭」だった。当日は、徒然亭の弟子を演じる貫地谷しほりさん、桂吉弥さん、青木崇高さん、茂山宗彦さん、加藤虎ノ介さんが出演。舞台裏トークや桂吉弥さんの生落語を披露して大盛況となった。放送終了後発売された『ちりとてちん』DVDボックスの売り上げは、『おしん』の売り上げを抜いてトップになっている。
2008年2月3日に開催された「ちりとてちんファン感謝祭」
全国から集まったファンと記念撮影
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かっぱまき
投稿日:2019年3月8日
6688
アカイ
投稿日:2016年3月8日
3709
うららん
投稿日:2015年6月26日
2715
ハル
投稿日:2014年3月31日
1500
ジェイムス
投稿日:2013年9月11日
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