傷ついた側と傷つけた側に向き合う彼女の覚悟

性暴力の当事者を許容しない社会への違和感

最初に撮ったのは、自分の手や足。手足がまるで自分のものではないように感じていたから。撮ってみたら、写真の中の手足は自分のものだと思えるようになった。パニックが起きそうになるたびに、暗室にした風呂場にこもって朝まで写真を焼いた。

2001年から、年に一度のペースで喫茶店で小さな個展を開くようになった。「地平」「虚影」「降り積もる記憶」「鎮魂景」「幻霧景」「あの場所から」。

作品集「腔/ana」より

作品集にはそんなタイトルがつけられている。モノクロで、ざらりとした質感。砂丘や海辺の風景。そして人。それがにのみやさんの写真だ。

「今は、そのときを信じて、待とうよ」

事件から12年後の2007年からは、性犯罪被害者たちの写真を撮り始めた。きっかけは、当時人気だったSNSのmixiだった。PTSDを抱えている人たちが集うコミュニティで、発言した。

当時のことを、にのみやさんは「とてつもなく孤独だったのだと思う」と振り返る。

「誰かとつながりたくて、でも誰とでもつながれるわけじゃないことは百も承知だった。被害者とだったらつながれるかもと思って、被害者と会って話を聞いて、写真に撮ることを始めました」

北から南まで、いろいろな場所で暮らす人と会った。カメラの前に立ったのは約10人。「姉さん」と呼ばれ、慕われた。

彼女たちとのメールのやり取りを、写文集『声を聴かせて 性犯罪被害と共に、』(窓社)にまとめた。この中で、にのみやさんは被害に遭った女性にこんなふうに語りかけている。

心と身体とが一致して、感じるようになるまで、一体どのくらいかかったけかなぁ。ほんと、ながーい時間が、そこには在るよ。あくまでそれは、私の場合、だけどね。
(略)
今一致して感じられないことを、責めたりしたらだめだよ。責める必要なんてないんだよ。それは、或る意味、当然の症状なのだから。そうなって当然の体験を、私たちは経てしまったのだから。
今は、そうだね、その時を信じて、待とうよ。

にのみやさんは言う。

「人の間にいてこそ人間だけど、PTSDやトラウマを抱えると人の間にいられなくなる。再生すると思っている人が多いですけど、同じ場所からのやり直しはきかないし、元には戻れない。新たに構築するんです。それをもっといろんな人に想像してほしい」

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  • 大事マン122037a2d6d9
    性暴力が起こるのは異性をリスペクトしていないからだ。

    男性でも女性でも自分と違うからと言って興味本位や力まかせで相手を扱からダメなんだ。

    自分がやられて嫌なことはせず、相手が喜ぶことをすれば良いのだが、何度やっても喜ばないときは、ある程度の距離を置くしかない。

    だって、そのヒトとアナタは縁がないのだから。
    up3
    down0
    2019/3/22 16:43
  • NO NAME42fb11f337a9
    日本は加害者に非常にゆるい。

    人前でタバコを吸う事に加害者意識を持っている人は皆無。

    周りも注意する文化でないし。

    up2
    down0
    2019/3/23 22:15
  • AJRAc89f75cdf0c0
    社会は、人間は、感情で生きている限り、分かり合えるなんて、絶対に無理だと思うよ。
    up2
    down6
    2019/3/21 09:51
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