傷ついた側と傷つけた側に向き合う彼女の覚悟

性暴力の当事者を許容しない社会への違和感

なぜ被害者である彼女が、性暴力加害者との対話を重視するのか?(写真:にのみやさをりさんの写真集「幽き(かそけき)声」より)
性暴力の被害者を、被害から生き抜いた人という意味を込めて「サバイバー」と呼ぶことがある。被害を受けた過去はあっても、それだけがサバイバーの人生ではない。今、彼女ら彼らはどんなふうに生きているのか。それぞれの今を追う。

写真家のにのみやさをりさん。彼女の自宅にお邪魔すると、昼食を用意して待っていてくれた。きんぴらごぼう、水菜の白和え、エノキのベーコン巻き、昆布のおにぎり。うれしくなって思わず「料理、好きなんですか?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

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「子どもの頃から料理するのが当たり前だったから。でもPTSD(心的外傷後ストレス障害)で味覚がなくなっちゃったから、よく子どもから『味がない!』って言われて困ったよ」

幼少時の最初の記憶は「愛されるには資格がいる」と思ったことだったという。厳格な両親の期待に応えようと弟の面倒を見て、家事を手伝った。勉強も頑張って親の望む私立の進学校に入学したが、それでも認められている実感は持てなかった。

ある日、世界がモノクロになった

大学卒業後、「これ以上、親の元にいては死んでしまう」と思い、家を出た。大好きな本に関わる仕事をしたいと出版社に就職。書店や画廊営業、編集業務をしていた入社1年目に事件が起こった。1995年1月。信頼していた上司からのレイプ被害だった。

被害を話すと、最初は社内で多少の理解を得られた。「本当なら新人の君に辞めてもらわないといけないんだけど」と言われ、刑事事件での立件はかなわなかったものの、上司は退職することに。しかしその後、噂が流れた。

「彼女がその気にさせたのだろう。彼も気の毒に」

それでもしばらくは仕事を続けた。そうする以外の道が見えなかったからだ。「私なら大丈夫」、そう自分に言い聞かせていたある日、突然、世界がモノクロになった。

「信号の青と赤がわからなくなって、そのうちに匂いも味も感じられなくなりました。友達が心配して精神科に連れて行ってくれたけれど、予約の手違いで、『今日じゃなくて、昨日受診の予定でしたよ』と言われて。

それでパニックになって病院を飛び出しちゃったんです。睡眠剤をたくさん飲んでいたこともあって、『私は病院を受診することもできないんだ』と思ってしまって」

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  • 大事マン122037a2d6d9
    性暴力が起こるのは異性をリスペクトしていないからだ。

    男性でも女性でも自分と違うからと言って興味本位や力まかせで相手を扱からダメなんだ。

    自分がやられて嫌なことはせず、相手が喜ぶことをすれば良いのだが、何度やっても喜ばないときは、ある程度の距離を置くしかない。

    だって、そのヒトとアナタは縁がないのだから。
    up3
    down0
    2019/3/22 16:43
  • NO NAME42fb11f337a9
    日本は加害者に非常にゆるい。

    人前でタバコを吸う事に加害者意識を持っている人は皆無。

    周りも注意する文化でないし。

    up2
    down0
    2019/3/23 22:15
  • AJRAc89f75cdf0c0
    社会は、人間は、感情で生きている限り、分かり合えるなんて、絶対に無理だと思うよ。
    up2
    down6
    2019/3/21 09:51
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