徳間デュアル文庫を読もう
▼この夏徳間書店が創設した新レーベル「徳間デュアル文庫」。これまでに刊行された全作品(注:原稿の〆切であった一〇月一五日時点で発売されていたもの)のレビューを行い、その傾向と対策を探ろうというこの企画の意図するところである(ほんとかよ)。
【復刊作品】
「闇狩り師〈1〉」
夢枕獏(イラスト:寺田克也)
この本は人気の九十九乱蔵シリーズを再録したもので、「怪士の鬼」「蛟」「くだぎつね」「蘭陵王」の4つを収録してある。乱蔵は霊に苦しんでいる人々を相手とした稼業をしており、さまざまな霊と対決するというお話。ジャンルを単純かつごちゃごちゃと言えば、オカルトホラーヒーローアクションものとでもなる(のかな?)。夢枕獏のもっとも得意とするところだろう。
主人公の九十九乱蔵は台湾で仙道の修行を積んでおり、中国拳法の一派である八卦掌の原形のような武術を心得ている。身長は2メートルを超す大男で、体も全身筋肉に覆われている。怪力と敏捷さを兼ね備えた、とってもつよーい人物として描かれている。年齢は三十代前半で、容姿は美男子とは言えないが、不思議に人を魅きつける顔をしてるらしい。愛車のランドクルーザーを乗り回して、いつも友達である猫又の黒猫シャモンを連れている。
この乱蔵の活躍と化け物の不気味さを味わう小説なんだろうけど、個人的には乱蔵があまりに人間離れしておりいまいち感情移入できなかった。男臭さやスーパーヒーローが好きな人ならいいかも。怪奇的雰囲気はなかなかのもの。
好みじゃないけど、イラストは内容の雰囲気をうまく捉えていると言ってよい。
(山田)
「ラビリンス<<迷宮>>」
新井素子(イラスト・入江アリ)
筋肉隆々男勝りのサーラとインテリ美少女トゥード。ファンタジーの世界でキャラが映えてるにゅ。読みやすくて話にも引き込まれやすいから、読み始めたら一気に最後まで読んでしまうのが良いにゅ。
そんなに貶されるような作品じゃないにゅ。まずまず面白いから、新井素子が嫌いじゃない人には薦められるにゅ。ハイファンタジイ風、実はちょっぴりSFにゅというスタイルの話で、取り上げられてるテーマは「グリーンレクイエム」「緑幻想-グリーンレクイエム2-」「ネプチューン」あたりで散々使われているのとそっくり同じにゅ。新井素子らしいと言えば新井素子らしいのだけど、とどのつまりはありがちな人間賛歌にゅ。好きな人は好きなのだろうけど、話の後半で紙面の大半を割いて綺麗事を延々繰り言されるのにはぷちこにはかなり辟易、ちょっぴり虫酸が走るにゅ。もっと簡潔にまとめれば好感のもてる話になったはずにゅ。このあたりラビリンスよりは後に書かれた「緑幻想」とはかなり被ってるにゅ。ウンザリにゅ。(「緑幻想」はグリーンレクイエムからすると蛇足だったにゅ!)
ぷちこはデュアル文庫になる前の、徳間文庫で読んだにゅ。前のは四八〇円だったのだけど、デュアルになって五九〇円+税にお値段が上がったにゅ。そもそもこの本ははじめは単行本で出て、新書(徳間ノベルズ)に落ちて、文庫(徳間文庫)に落ちていた作品にゅ。デュアル文庫では四回目にゅ。刷数がホンノちょっと上がっただけで、ここまですぐに新しい装丁になる本も珍しいにゅ。イマサラ再刊するような本でもないのににゅ。何を考えているのかキガシレナイにゅ。
表紙は軟弱な感じで内容にあってないにゅ。古い徳間文庫の表紙は如何にもファンタジイという感じで恰好良かったにゅ。
ちなみに単行本ではじめて出たのは八二年のことらしいにゅ。
(ぷちこ@GENJIN代理)
「おもいでエマノン」
梶尾真治(イラスト・鶴田謙二)
一九八三年刊行された梶尾慎治の連作短編に、「SF JAPAN」創刊号に掲載された一作品を加え、復刊されたのが本書。
生命が発生してからの先祖代々の記憶を全て受け継いできた少女「エマノン」。彼女は様々な不思議な人々と出会いながら、旅を続ける……。
「ジーンズに白っぽい麻地のシャツを着」「E・Nのイニシャルだけが入った素っ気ないナップザックをもった」「東洋系とも南欧系ともとれる顔立ちをした」少女、「エマノン」の持つ、飄々とした魅力と、少しだけ科学の味付けがされたセンチメンタリズムを感じさせるストーリーとが本書の大きな魅力であろうが…鶴田謙二のイラストのせいか、「エマノン」は非常に魅力的に思えたが、ストーリーはいまいち詩情が足りないと私は感じた。昔にかかれた作品であるため古くさいのはやむを得ないのだが、もう少し詩情があれば「ノスタルジック」と評することができたのではないか、と思う。
(塩崎万里子)
「銀河英雄伝説<黎明篇・上・下><野望篇・上・下>」
田中芳樹(イラスト:道原かつみ)
今さら説明する必要もない超有名シリーズの復刊。だから特には説明はしません……。
最初にTokuma novelsから新書版で出版され、つい二、三年ほど前徳間文庫から出て、そのどちらもが未だに手にはいるというのにここにきてデュアル文庫から復刊……。どこまで銀英伝で稼ぐつもりだ徳間文庫!!(いや、稼げる本なんだから稼いだらいいとは思うけどね。)
イラストは道原かつみ…銀英伝のイラストは道原かつみが描くのが一番いいとは思うが、道原かつみは漫画版でバンバン銀英伝の絵を描いてるわけで、「道原かつみの表紙だから買おうかな~」て気分になる人も少ないだろうし、「田中芳樹自らが手を入れた、ファイナルバージョン」(田中芳樹以外の誰が手を入れるっちゅーんや…)と宣伝されているが、いくら加筆修正があるからってなあ…そのために買うファンなんてほとんどいないだろうし…いやキルヒアイスが死なない設定とかになってるなら私だって買うが、そんなわけないしなあ…しかも前刊行されたの文庫なら一冊にまとまっていた「黎明篇」等のまとまりをを二冊に分けるという強欲ぶり(?)…ぶっちゃけた話、こんなん今さら買う人いるんかいな?
と思ったのだが、よく考えてみればデュアル文庫のターゲットとなっているのは主に中高生であろうから、その世代は銀英伝という本を知る機会が今までなかったのかもしれない。漫画版の連載はCharaだし……。だからここで大々的に本屋に平積みになれば、若者が買うのかもしれない…と気付いた。つまりは「全艦出撃!!」を知っているよーなおばさんなんてターゲットじゃなかったのだ。そうか。そうだよな……なんだか時の流れを感じて切なくなってしまうなあ……。
(塩崎万里子)
【書き下ろし作品】
「海底密室」
三雲岳斗(イラスト・大本海図)
これはミステリィらしい。三雲岳斗を読むのは「アースリバース」に続いて2作目である。これは「アースリバース」にくらべるとSF的色彩が薄い。
舞台は海底4000メートルの実験施設<バブル>。そこで起った1つの死、それは自殺として処理されたがそれを信じられない死者の弟が<バブル>を訪れるが、そこ、完全に密閉された密室、ではさらに2件の怪死事件が待っていた。というのが内容。
事件を解決に導く探偵役は不眠症のサイエンスライター、鷲見崎遊。ワトソン役は人間の人格を複製した電子人格、e・御堂健人、いろいろと面白い道具立て。
実験施設<バブル>の価値を「孤独」にのみ認める女医、寺崎緋沙子の論には興味深い物が感じられる。 イラストは大本海図。人工人格の描写が興味深い。
(Neco-Alpha)
「僕らは虚空に夜を見る」
上遠野浩平(イラスト・中澤一登)
色々と設定してあってとりあえずつっこみ所は多々あるが、そこをさらっと流して読むべきであろう。ヤングアダルトの作品の本質は絶対にそんな所にはない。
話の筋は紙面がないのでばっさり切るが、この世の中は、深宇宙の虚空の中で戦うナイトウォッチと呼ばれる機械のコア(主人公他)が気が狂わないように用意された夢であるという設定の上で話が進む。これで主人公がなかなか納得しないのがこの作者の作品であるのだが、実は戦いの才能があって結局戦いに赴いていくというのは実にヤングアダルトの王道を行っていると思う。ただ未読の人は、電撃文庫で出ている他の作品を読んでから読むことをお勧めする。
この人の話に出てくる登場人物はとかく世の中に距離を感じているのであるが、本を買う中高生は、日々の生活になんとなくとけ込めなくて、「この世では平凡であるけれども、別の所で才能を発揮して活躍する」というシチュエーションに酔うのであろうか。売れているらしいので、世の中に距離を感じている人というのは思いのほか多いようだ。
ビジュアル世代を意識しているにしては、電撃文庫で出ている他の作品と同じように各章の頭にしか挿し絵がついていない。本当に意識しているのだろうか?
(大澤和彦)
「野望円舞曲1」
田中芳樹&荻野目悠樹(イラスト・久織ちまき)
田中芳樹原案、荻野目悠樹作の新シリーズの第一巻です。
人類の版図が宇宙まで拡大された未来。統一されていたのも束の間、人類は小国家に分裂し相争っています。そんな中、オルヴィエートは小国ながら交通の要所をおさえ、商業を基礎にうまく大国と渡り合って平和と繁栄を享受しています。
主人公はこのオルヴィエートの国家元首の娘エレオノーラ。彼女は、小さい頃からずっと本性を隠して淑やかな令嬢として暮らしてきましたが、強国ボスポラスの侵攻を契機に自らの野望を実現すべく動き出します。
商業で栄える小国と強大な武力を持つ国家といううヴェネチアとオスマン帝国であるのが丸わかりな設定がまた何とも言えませんが、書いているのはキャラクター造形もすぐれて田中芳樹的です。話の筋も次巻以降を期待させる展開で、書いているのは違う人のはずなんですが、ベテラン作家の安心して読めるシリーズものといった風でした。
絵で特徴的なのは、メカニックデザインをイラストレーターとは別に専門の人を用意しているということ。他の本のことはよく分からないので、これが本当に特徴的なことなのかは定かではありませんが、「ビジュアル世代を意識した」という謳い文句に対する意気込みを感じました。 (大澤和彦)
「イミューン―僕たちの敵―」
青木和(イラスト・緒方剛志)
この作品は、日本SF作家クラブ主催の第一回日本SF新人賞・佳作入選作し、このほど創刊された徳間デュアル文庫で出たばかりである。
デュアル文庫の全レビューをするってことで、私の分担になったのが此の本、「イミューン」だった。初めて実物を目の当たりにして、まずは驚いた。もっと軟弱な(薄い)敵(本)を予想していたのだが、予想に反して結構厚く、なんと「2.3㎝」もある。
富士見ファンタジアや角川スニーカー、朝日ソノラマと紙質が違うせいもありますが、ページ数にして四二九頁。結構ボリュームがあるなぁ、と嘆息しつつ表紙を見てみると、表紙だけは知っている。「ブギーポップ」で見たことがある絵柄だ。表紙絵は、高校生風の若者(男)が二人。手前に座り込んだ茶色い頭の方の左手から、煙が立ち上っているように見える。ヤニでも吸ってるのかなぁ、と思っているとどうやら勘違いのようで、手には何も持っておらず、ゆらゆらと陽炎が立ち上っているだけのようだ。絵柄から察するにその掌から「爆熱ゴッドフィンガー」を放ってくれたり、手から気弾を打ち出して熱い戦いを繰り広げてくれそうな雰囲気は微塵も感じられない。なんとなく厭な予感が脳裏をかすめた。一抹の不安に胸躍らせつつも、果敢に頁をめくり読みはじめる私。
春四月、新天地を求め進学校へ進む元虐められっ子の主人公。自分にはない行動力に溢れた友人との出会い。不可解な母の死、病身の母に自分だけが見えた妙なモノ。活性化させられる能力。その妙なモノを人類の敵として駆逐している集団に仲間として迎えられ、戦いに身を投じる主人公。リーダーの自殺とともに崩れていくグループ。その渦中で、主人公は苦悩しつつ成長していく。はたして、主人公はどんな春を迎えることになるのかっ?! 乞ウゴ期待デス。てなわけでこの作品は、様々な苦悩を経て大きく長していく主人公ってな感じの青春小説なのだ。でも、陰々滅々とした雰囲気に気が滅入り、読んでいてそんなに楽しくはありませんでした。(もっと精神的に余裕のあるときに読めば別の感想を持つかも知れないけど、今はこんなもんだ)
以前より気になっていたのだが、どーして本文と食い違った挿絵が掲載されるのだろう。この本だけって訳ではないが、この点は凄く気に入らない。
(右兵衛)
「KI・DO・U」
杉本蓮(イラスト:森脇真末味)
大原まり子と小谷真理が強く押したために、日本新人SF大賞の佳作に入った作品。
死んだはずの父親から贈られた人間型コンピューター「モバイル」(人造人間?)を起動させた深優姫は、国家的陰謀に巻き込まれ、正体不明の集団に襲撃される。謎を解くため父親を捜すうちに明らかになる父親の研究の秘密とは…美貌の人間型コンピューター「アマネ」の「封印」の秘密とは………。 世の中には女性にしか楽しめない小説というものがある、と言い切ってしまうのは言い過ぎかもしれないが、女性の多くが楽しいと思うが男性の多くが楽しいとは思えない、という小説が確かにあると思う。(注:やおいなもののことを言っているわけではない。)
で、前評判を聞いて、この小説もそういう話に違いない、男どもにはわからない楽しみを独占してやるフフフ、とかちょっと期待していたわけだ。が。残念ながら私は楽しめなかった。文章が下手くそなことには目をつぶろう。ストーリーが無茶がある上あまりおもしろくないのも目をつぶろう。しかしくさい…くさいんですけどこの小説……(悶死)。主人公たちが答えのわかりきった問題について悩んでは慰められ復活、悩んでは慰められ復活、また悩んでは復活してくるのがなんとも……。アマネがくさいセリフを吐きまくらずに、罵詈雑言傍若無人キャラで通してくれればまだ楽しめたのだろうと思うのだが…ええと……。 如何せん、アマネは私の好みではなかった。そしてくさすぎた。その二つがが私がこの小説を決定的に楽しめなかった理由であろう。
「パパがかわいい娘のために王子様を用意するんだよ」というような話で始まる大原まり子、小谷真理によるチャット形式のあとがきはバカっぽくって、それはそれで楽しいと私は思うのだが、肝心の作品を読むと二人がどこをそんなにおもしろいと思ったのか理解できず、「二人とも男の趣味悪いんじゃないか??」とか思ってしまった……。
イラストの森脇真末味という人は、今もうかなりベテランの部類に入る漫画家さん。やや古い感じのする絵柄だが内容とそぐわない絵だったということは無いであろう。
(塩崎万里子)
▼編集人の雑感 ラインナップを見るとSF的な作品がほとんど。そして半数が復刊作品であり、もう半数は書き下ろし作品である。これはハルキ文庫のSFフェアと同じ戦略と言える。
しかしデュアル文庫の場合は、
①復刊はおしなべて自社作品の焼き直しである(この時点では、の話だが。)
②「ビジュアル世代を意識したもうひとつのシリーズ」「『小説』と『イラスト』で二重に楽しめ、キャラクター&ストーリーの二つの側面から読者を魅了する…」(宣伝ビラより抜粋)というコンセプトである
といった特徴を持っており、確かにイラストレーターのラインナップを見ると、イラストには力を入れているようだ。しかしイラストをよく見せるための装丁なのかなんなのかわからないが、やたらと紙が厚く、結果として本もやたらと分厚い。これでは(おそらくターゲットであろう)中高生はびびって買う気になってくれないような気がするのだが如何なものであろう……。
▼まあ多くは語るまい。詳しい傾向は各人のレビューを見ればわかってもらえると思う。何はともあれ、これからもデュアル文庫には頑張ってほしいものである(無理矢理締める)。