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こちらのページではサイドストーリーのサンプルをお読みいただけます。


400時間の蜜月 (O&Aラブもの) Sample SS


●おやすみオスカル●

 

 

 

「おやすみオスカル。」


そう言うと彼女は



「良い夢を」


と静かに笑い、後ろ手でドアを閉める。



振り返るのはいつも俺の方で。


閉ざされたドアに、地球の表と裏ほど隔たりを置かれた気がして心が潰れた。





「おやすみオスカル。」
「良い夢を」





何度繰り返したかわからないやりとりの後、いつものように俺は振り返った。
 




開け放たれたドアの中から、オスカルがこちらを見つめている。
たったそれだけのことに、唇がじんじんする。





愛を交えるのは、凝縮すればそういうこと。




暗い部屋に向かって、
ただオスカルに向かって、

俺は小さく一歩を踏み出した。

 

 

 

Fin

 

 

*あとがき*

 

夜遅い電車に乗ろうとしたら、

改札口のところで「じゃ、またね」と別れているカップルがいました。

女性は振り返らずにホームへ向かい、

男性は一度逆方向へ歩き始めたものの振り返り、

彼女の姿が見えなくなるまでひっそりと見送っていました。

 

そのふたりを見て思いついた作品です。




短編:パズルのかけら Sample SS



●ゆるしあうふたり<1>●



あのまま。

もう会えないかと思った。

 

 

俺は銃で撃たれることなんかより、

そのことがよっぽど怖かった。

 

 

 

 

後ろ手に縄。

三部会の警備を取り仕切る陸軍の命令を聞かなかったのだから仕方ない。

 

皆で豚箱に放り込まれたまではよかったが

俺は主犯だとかで特別扱い。

たったひとりで、独房にぶち込まれた。

 

La prison de l’Abbaye~アベイ牢獄。

この牢獄は戦犯及び危険分子専門の牢獄で、

地上4階、地下1階立ての、造りだけは瀟洒な石造りの洋館といった風情だ。

 

建物の4隅の2階部分には迫出した「見張り小屋」があり、

24時間体勢で警備が行われている。

瀟洒な洋館・・・とは程遠い、鉄格子のはめ込まれた窓、

いかめしい顔したパリの守り神の彫刻。

 

保安部隊が一日2回、食事を持ってくる以外は

誰も入ってこない石造りの個室に在って

俺は鉄格子の窓から差し込む陽の光だけで時間が過ぎゆくのを感じていた。

 

 

「おい、飯だぞ」

 

がちゃん、と音がして薄く開いた鉄のドアからバスケットが投げ込まれる。

ぼそぼそしたパンと、陶器のジャグにはいった薄いぶどう酒。

飽きるほど毎食同じメニューだ。

 

「なぁ、おい」

 

鉄のドアの向こうへ、はじめて呼びかけた。

 

「俺さぁ、やっぱり銃殺になるのかね。」

 

ややあって、野太い男の声が返ってくる。

 

「・・・だろうな。」

 

「その前に、5分間だけ自由にさしてくれねぇかな。」

 

「あ?」

 

「5分でいいんだ。どうしても・・・会って謝りたい人がいる。」

 

 

ガチャリ。

再び鉄扉がほんの少し開いて、ひげを生やした男がちらりと顔を覗かせた。

交渉成立か?と色めきたった俺に、男は唾でも吐きかけそうな様子で

 

「知るか。」

 

と言ってバタンとドアを閉めた。

 

「おい!!ここはキリスト教の国じゃなかったのかよ。

懺悔の時間は誰にでも平等に与えられるべきだろ!!!」

 

自分の声が部屋の壁にあたって小さく反響した。

すげー空しい。

 

 

やっぱりもう会えないのかな。

 

 

「隊長・・・」

 

 

このままだと後悔の坩堝の中で死んでいかなきゃならねぇな。

絶対、俺、地獄ゆきだ。

 

 

 

あのキスの後・・・

なぜすぐに謝らなかったのだろう。

そもそも俺は・・・なぜ力任せに奪ってしまったのだろう。

 

神がその手を子供たちの上に置くように・・・

あの人の唇に触れたら、

心の奥で燃え滾(たぎ)る鬱憤が氷みたいに溶けてなくなるような気がした。

 

 

・・・違う。

 

そんなかっこいい話じゃない。

 

かっとなってブルゼ候をぶったぎってやろうと駆け出した俺を

必死で止めたオスカルの軍服から

ふわりといい匂いがして、理性がとんだ。

 

猛烈に、彼女が欲しくなった。

それだけだ。

 

 

 

「・・・やっぱ、地獄ゆき決定・・・」

 

 

木でできたごつごつのベッドにごろりと身体を横たえ顎を撫でた。

ぼさぼさと生えた髭すらも憎らしいほど、今、俺は自分が嫌いだ。

 

 

「隊長・・・」

 

 

会いてぇな。

もうひと目。

 

それで一言謝れたら、もういつ地獄に行っても構わない。

 

 

 

アンドレが・・・

後ろから追いかけて来ていることはわかっていた。

 

ヤツの前で・・・

あんな風に唇を奪ったことを、謝りたい。

 

 

許してもらえないことは、わかっているけれど。

 

<2>へ続く。

<2>以降は新URLにてお読みいただけます。




*管理人より*

こんな感じで、O&A以外を主人公にしたものもけっこうな数ございます。
O&A以外ですと登場回数は1位はダントツでアラン、次にジェローデルです。


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