転生、そして
俺が真の意味でこの世に生まれたのは、四歳の頃だった。
こう言うとまるで俺が頭のおかしいやべーやつであるかのように聞こえてしまうかもしれないが、少し俺の話を聞いてほしい。
俺ことアラン・フォン・フラムスはフラムス家の長男、つまり跡取りとして生まれた。フラムス家とはこの王国クラルスで莫大な権力を持つ四大貴族の一つであり、とても裕福な暮らしをしている。
――――と、まあ。ここまでは何ら問題はない。むしろこんなにも恵まれた立場は世界中を見ても殆ど無いだろう。
俺の家系である四大貴族とは、王族にも匹敵するほどの権力を持つこの国有数の極めて高貴な血族なのだ。そして俺はその一族の長男。
これほどまでに成功を約束された出自など
…………もしかしたら勘のいい人はもう分かってしまったかもしれない。そう、前世だ。
俺は前世の記憶をハッキリと持っており、自分がただの冴えない高校生だったことも、信号を無視してきたトラックから女の子を庇いそのまま死んでしまったこともバッチリ記憶しているのだ。
…………まぁ確かに、前世で俺が好んでよく読んでいたライトノベルスでは『信号無視してきたトラックに轢かれそうになっている女の子を助けて無念の死を遂げた男が異世界に転生する』というのはとてもありがちな設定で、
まあ俺はこの世の者とは思えないほどに美しい女神様に出会ったり、そこで特典としてチートを貰ったりはしていないが……事実として前世の記憶を持っているのだから間違いは無いだろう。
俺は四歳の時、激しい頭痛と共に前世の記憶を思い出した。それ故に俺が真の意味で生まれたのは四歳の頃だったという言い方をしたのだ。
俺の感覚的には転生したというよりは『アラン・フォン・フラムス』という少年に憑依したと言った方が近しい気がする。まあ本当に感覚的にはそっちの方がちょっと近いかな? 程度のものなので大した差ではないのだが。
まあ、何はともあれ前世ではただの冴えない高校生だった俺は今生まれ変わって異世界にいるのだ!
正直超舞い上がった。それはもう激しい頭痛で寝込んでいたにも関わらず、目を覚まして状況を把握出来た途端に奇声を上げながら小躍りして側で見てくれていた侍女の方にとてつもないレベルで心配をかけてしまうくらいに狂喜乱舞した。
でもそれも仕方ないと思う。なぜならこの世界は剣と魔法の世界なのだ。中世ヨーロッパ風なのだ。俺は世界史なんて好きでもなんでも無かったから正直中世ヨーロッパとか全然知らないけど。どうでもいいけど、宗教や神話のことなら中学時代に狂ったように調べて覚えた。社会科目もそういう厨二心を擽られるものばかりならもっと真面目に勉強したかもしれないのにな……。
……ごめん、少し話が逸れた。一体俺が何を言いたいのかというとだな。
俺はずっと憧れていた異世界転生というものを経験し、テンションが上がりまくった結果今の惨状になってしまっているということです……。
…………そうだな、その話をする前に一つ、例え話をしよう。
まあただの例え話だから、そんなに気構えることは無い。単純な質問だ。
もし君が剣と魔法の世界に生まれ変わることになったらどうする?
王族と同じくらいの権力を持つ家系の長男に生まれ、これ以上の環境は殆どないと言ってもいい身分で。
王国の外へと足を踏み出せば魔物がうじゃうじゃおり、人類が住まうこの国からそこそこ離れた場所にはなんと魔族の国があるらしい。
そしてお誂え向きな事に、自分には天賦の才があるんだ。とっておきのな。四大貴族の英才教育の一環として三歳の頃から剣術や魔法、勉学に至るまでをみっちり教わってきているが、どうやらそのどれもが人類史上例を見ない…………自分の他の天才と呼ばれてきた人物とはとても比べ物にならない程の才能。人間離れした最上の天稟だ。
――――さて、もしも君がこの立場ならば、一体どうする?
ちなみに、俺は死ぬ程調子に乗った。これ以上ないくらいに弾けた。完全にやってしまった。
異世界転生という経験を経て、俺の厨二病はまるで高くから一直線に落ちていくジェットコースターの如く勢い良く加速した。完全に拗らせた。
自分の潜在能力に気付いた俺は、剣術にも魔法にも勉学にも全力で取り組んだ。…………いや、それは正直ちょっと良いように言い過ぎたな。実際は自分でもちょっと引くくらいのめり込んだんだ。
でも、それも当然だろう!? 中世ヨーロッパ風だぞ! 剣と魔法の世界だぞ!? 誰だってこうなるのは自明の理。自己弁護のつもりではないが、正直みんなだって俺の立場ならそうしただろう?
まあ、ここまでなら別に問題ないんだ。だって俺が厨二病なのは前世からだからな。まあ悪化したのはダメかもしれないが、それだけであったなら許容範囲内だろう。じゃあ何か? 正直君も薄々勘づいているだろう? 直球で言うと、ぶっちゃけ全然それだけではなかったんだ。
当時の俺がやってた事を軽く抜粋して振り返ろうと思う。これは懺悔だ。
一つ。朝から晩まで新しい魔法を考案するのは当然日常茶飯事、詠唱だって凝りまくった。
一つ。人間の目には見えないはずの精霊に一晩中話しかけ続けた。
一つ。日本刀を作った。ちなみに、名は『
一つ。カッコイイ台詞を考えた。レパートリーはまあ、前世と大して変わらないけど。具体的には『……成程、それが世界の選択か』(世界という部分を「お前」や「人名」に変えても使えるから万能)や『英雄というのはなりたいと思ってなるものじゃない。英雄になりたいと思った時点で――――
「アアアアアアアアアァァァァァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!!!!」
「どうなされましたかアラン様ッ!?」
「あぁ、いや、なんでもないんだ……。ははっ」
俺の悲鳴を聞き駆けつけてくれた侍女になんとか平静を装って対応する。
ダメだ……ッ! 思い返しただけでも痛すぎる……ッ! アカン、過去の自分を殺したくなってきてしまう。これ以上具体的な事を思い出すのは俺の精神上大変よろしくない気がするのでやめてしまおう。
だが、勘違いしてはいけないところはここなんだ。
俺は今猛烈に身悶えているが、それは前世の感覚を持つ俺だからこそこれら記憶がこれ程までに痛々しく感じるのだ。
だがここは異世界。世界が違えば価値観も違う。実際に魔法が実在し剣と魔法で魔物と戦うこの世界において言えば、俺の奇行の数々はこの上なく勤勉な物だと扱われてしまったのだ。
俺にとっては気が狂っていたとしか思えないような忌々しい凶行でも、俺以外の人から見れば恥ずべき事どころか超絶優等生である。
考えてみれば当然なのかもしれない。物心がついてまだそれ程経たない幼少の頃からそこまで真摯に物事に取り組むような人物はそうそういまい。前世の記憶を持つ俺がおかしいだけで、どんな世界だろうが子供とは一つの物事に集中出来ないものである。ましてや俺は剣術も魔法も勉学も、全てにおいて妥協せずに学んできたのだ。
そんなただでさえ勤勉で利口な子供に、類例を見ない桁外れの天稟が備わっていれば周囲は騒ぐものである。
曰く、人類の守護者。
曰く、闇を照らす勇者。
曰く、生ける神話。
曰く、英雄。
転生をした時から。否、前世からの憧れであった英雄に、この世界でならば。この俺でならば――――なれる。
俺がまず感じたのは莫大な歓喜の感情だった。ずっとなりたかった夢の存在に、物語の主人公に、なれるんだ。
身体の内側から溢れる熱に浮かされ天狗になっていた俺は気付けなかったんだ。自分で言ったことすら忘れていた。
――――英雄というのはなりたいと思ってなるものじゃない。英雄になりたいと思った時点でもう英雄にはなれないのだ。
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清水彩葉