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"バズーカ"の呼び名を持つ注目の新人、HARUKA「サイバージ…
欅坂46のオーディション最終審査の当日、長崎から上京してきた母親に連れ戻され、いったんはアイドルへの道を絶たれた長濱ねる。しかし、乃木坂46のライブを見た両親は、娘の夢を応援しようと決意する。
最終審査を受けていない長濱は、新グループ「けやき坂46」のたったひとりのメンバーとして出発することになった。しかし、欅坂46の冠番組『欅って、書けない?』の収録で初めて欅坂46メンバーと対面した際、あるメンバーからはっきりと拒絶の言葉を突きつけられる。
欅坂46の現メンバー、米谷奈々未がオーディションを受けたのは、高校1年生のときだった。大阪府内でも有数の進学校に通っていた彼女は、学校の都合で審査に遅れて参加することもあったりと、加入前から学業との両立に苦労していた。当然、親はアイドルになることに猛反対したが、きちんと勉強を続けることなどを条件に、自分で親を説得して欅坂46のメンバーになった。
そんな彼女の前に、突然、長濱ねるという新メンバーが現れた。番組で流されたVTRによると、親の反対にあった彼女は、オーディションの最終審査も辞退し、泣いているばかりだったという。なのに、こうして後から加入を許された。
――自分はこのコのことを認められるだろうか? 正直すぎる米谷は、収録の合間に、はっきりと長濱に告げる。
「ごめんやけど、私、仲良くなられへんと思う」
この言葉に、当然、長濱はショックを受けた。次の収録が始まってからも、涙を堪えるのに必死で声が震えた。
ただ、自分だけ後から入って拒絶されるのは、これが初めてではなかった。3歳から長崎の五島列島で育ち、"島民みんなが家族"という環境のなかで過ごしてきた彼女は、小学2年生のときに長崎市内の学校に戻ると、いきなり壁にぶつかる。島育ちの人懐っこいこの転校生を、周りの女生徒たちは「ぶりっ子してる」と拒んだのだ。このとき、彼女の人生観が早くも決定される。
「女のコって、怖いんだ。少しでも目立つと、いじめられるんだ。私はなるべく目立たないように、みんなに気を使いながら生きよう」
その後、欅坂46メンバーと合流してからも、長濱は目いっぱい気を使った。年下のメンバーにも絶対に"さんづけ"をし、メイクは必ず最後に入る。開けたドアは全員が通るまで持ったままにする......。「自分は後から入ってきた後輩だ」と思っていた長濱は、これを当然の義務だと感じていた。
番組収録から1ヵ月半が過ぎた12月後半、長濱と欅坂46のメンバーたちは、新たな課題に取り組んでいた。翌2016年の1月に開催される「新春!おもてなし会」というイベントのためのレッスンが始まったのだ。まだ持ち歌のなかった欅坂46は、このイベントではダンス部や音楽部に分かれ、それぞれの演目をファンの前で披露することになっていた。
そんななか、演劇部に振り分けられた7人のメンバーの中に長濱と米谷の姿もあった。
長濱は、米谷とあれ以来ロクに話していなかった。ほかのメンバーにも、なれなれしいと思われるのがいやで近づきすぎないようにしていた。
そんなある日、たまたまほかの5人がコンビニへ買い物に出かけると、長濱と米谷がふたりきりになった。気まずい空気が流れた後、ついに長濱は腹筋やスクワットを始めてしまう。「私は筋トレをやらなきゃいけないので、話しかけなくても大丈夫ですよ」という意思表示だった。
一方の米谷は、話すタイミングを失い焦っていた。実は、米谷は当時のブログにこんなことを書いている。
「(長濱の加入を)聞いた時は混乱と不安だらけでした。今もなんかモヤモヤしてるとこもあるのかな...。でも、もう同じ欅のメンバーやから! 少しずつになってしまうかもしれないけど仲良くなっていけたらいいなと思ってます」
まだこだわる部分がありながらも、同じグループのメンバーとして近づきたいという思いが、正直につづられていた。この頃、彼女は長濱との関係についてマネジャーにも相談している。どうすればあのときの言葉を謝れるのか、いつも考えていた。
そんなふたりの関係が劇的に変化したのは、「おもてなし会」の当日だった。
長濱の加入発表以前に「お見立て会」というイベントをすでに経験していた他メンバーとは違い、長濱にとってはこれが初めてのイベントだった。楽屋で出番を待っているときから、怖くて涙が出てきた。舞台袖からステージを見ると、足がすくんだ。
しかし、いよいよステージに立つというそのとき、長濱の背中を誰かが叩いた。
「がんばって!」
ふり返ると、米谷がいた。思いがけない言葉に、長濱の気持ちは揺すぶられ、号泣してしまう。米谷もまた、その顔を見て泣いた。ふたりは涙を流しながら抱き合った。
ステージに出る直前、たった10秒ほどのできごとだった。しかしこれが、それまでのふたりの関係性が見事に逆転し、お互いがかけがえのない仲間になった瞬間だった。
これをきっかけに距離が近づいた長濱と米谷は、プライベートでも一緒にノートを開いて勉強をするような仲になる。だが、しばらくしたある日、米谷は長濱の目を見て真剣に言った。
「ごめんね」
かつて「仲良くなられへんと思う」と言ったことを謝っているのだ。もう何も気にしていなかった長濱のほうが、きょとんとしてしまった。米谷には、こういうバカ正直なところがある。
そんな米谷のようにはっきりと口にはしなかったものの、長濱が加入した当初は素直に受け入れられなかったメンバーも多い。しかし、長濱の過剰に気を使う性格の奥には、島育ちの人懐っこさがある。同じ時間を過ごすなかで、長濱と欅坂46メンバーとの関係は徐々に解きほぐされていった。
2月、欅坂46のデビュー曲『サイレントマジョリティー』のMV収録が行なわれた。けやき坂46のメンバーである長濱ねるは、この楽曲に参加していない。しかし、それまでのすべてのレッスンに自主的に参加しており、MVの収録にも同行して欅坂46メンバーを見守っていた。
夜の渋谷駅前、寒空の下で覚えたばかりの振り付けを何度も何度も繰り返すメンバーたち。初めてのMV撮影は誰にとっても過酷なものだった。しかし、カットがかかるたび、メンバーのために温かいスープをよそったり、カイロを渡したりする長濱の姿がそこにはあった。そしてそんな彼女の温かさにひかれるように、欅坂46メンバーたちも自然と彼女のそばへ寄り添うようになっていった。
3月に入って『サイレントマジョリティー』のMVが公開されると、"サイマジョ現象"とも言うべき状況が起こった。
君は君らしく生きて行く自由があるんだ/大人たちに支配されるな
そんな歌詞に込められたメッセージ性が共感を呼び、ティーン誌のアンケートでもすぐさま「好きな曲1位」になった。その夏、テレビの音楽特番で行なわれた人気投票でも、AKB48や乃木坂46の代表曲を抑えて1位を獲得するなど、この一曲だけでアイドルシーンのすべてを変えてしまうような勢いだった。
だが、けやき坂46のメンバーという立場だった長濱ねるは、そこにはいない。MV撮影と同様、ジャケット撮影にも立ち会ってはいたが、自分ひとりだけカメラマン側から見ていたみんなの写真が、渋谷のファッションビルの壁面を飾っているのを見て、不思議な気分になった。
「世の中の人たちが知ってる欅坂46に、私はいないんだなぁ」
2016年4月6日に発売されたデビューシングル『サイレントマジョリティー』に収録された6曲のうち、彼女が参加した楽曲がひとつだけある。『乗り遅れたバス』という曲だ。"けやき坂46の長濱ねるのセンター曲"として作られたもので、グループに遅れて加入した彼女の境遇が詞に歌われている。
ごめん/一人だけ 遅れたみたい/あの場所に/誰もいなくて/どこへ行ったらいいのかなんて/わからなかった/片道の夢/手に持ったまま/坂の途中で/途方に暮れた
長濱はこの歌詞をもらったとき「神様がいるのかな」と思ったという。特に、「坂の途中で/途方に暮れた」という部分は、オーディション最終審査の日、母親に手を引かれて坂道を上っていく自分の姿を、天から見ていた神様が描写したとしか思えなかった。
そんな彼女に、いよいよ仲間ができる日が近づいてきた。
前年11月、長濱ねるの加入発表と同時に告知されたけやき坂46の追加メンバーオーディションは、ちょうど欅坂46が『サイレントマジョリティー』でデビューした頃、大詰めを迎えていた。
4月下旬の時点で、3次審査を通過した候補者は18人。このときの候補者は、今までにない試みを経験することになる。それがインターネット上のサービス「SHOWROOM」での個人配信だ。
"仮想ライブ空間"を標榜するSHOWROOMは、個人のPCやスマホを使い、リアルタイムで映像を配信できるサービスだ。後に、欅坂46でもメンバーの個人配信が行なわれるようになったが、同グループのSHOWROOM利用はこれが初めて。乃木坂46やAKB48グループを含めた上でも、オーディションでの運用はこのときが最初だった。
期間はちょうど1週間。オーディションのための特設ページには、次のような文言が記されていた。
「イベント期間中の配信内容、獲得ポイント数、順位等は審査過程の参考とさせて頂きますが、直接的に合否には関係ありません」
SHOWROOMは、配信中のファンのコメント数や、ギフトと呼ばれるアイテムの投げ込みによってポイントがつくシステムになっている。「直接的に合否には関係ありません」とは書かれているものの、ここの順位が最終審査に響くかもしれないし、審査する側も配信をきっと見ているだろう......。何もかもが初めてだったこのときの候補者たちには、これも立派な審査のひとつだと思えた。しかも、審査員以外の数千人のユーザーにもジャッジされるのだ。
後にメンバーとなる齊藤京子は「1位を狙ってがんばるしかない」と思い、その1週間は配信をするかほかの候補者の配信を見るかという生活を続け、1位になった。齊藤は、このときの状況を「もう"仕事感"があった」とふり返る。
一方、同じくメンバーとなる井口眞緒は、スマホで自分の顔を大写ししながら大声で歌うなど、アイドル志願者とは思えない自由な配信で注目を集めた。この井口の配信では、ユーザーが自分のアイコンを変えられるアバター機能を使い、全員が同じ"だるま"の姿になった上で大量のだるまをギフトとして投げ込むなど、すでに強固なコミュニティが出来上がっていた。
そんななか、いつもきっかり30分間、顔出しなしで声だけの配信を行なう変わった候補者がいた。それが当時中学3年生になったばかりの影山優佳だった――。(文中敬称略)
★『日向坂46ストーリー~ひらがなからはじめよう~』は毎週月曜日に2~3話ずつ更新。第19回まで全話公開予定です(期間限定公開中)。