<社説>非正規の家庭相談員 専門職の身分安定が先決

 深刻化する児童虐待にこれでは十分に対応できない。対策が社会の変化に追い付いていない実態が明らかになった。

 児童虐待や育児などの相談を受ける家庭相談員の実情を琉球新報社が調べたところ、県内11市の42人全員が非正規の嘱託職員であることが分かった。町村も同様で、確認できた5町3村の13人も全員非正規の嘱託職員だった。
 児童虐待に対応する職員が不安定な身分に置かれ、一方で負担や責任の重い業務を任されているのは看過できない。早急に待遇改善を進め、専門知識と経験を生かせるよう安定雇用を図るべきだ。
 非正規の根拠となっているのは55年前の国の通知だ。1964年の厚生省児童局長通知は、家庭相談員の身分を「非常勤の特別職」と明記する。
 しかし家庭相談員の業務は大きく様変わりしている。特に2005年施行の改正児童福祉法は、児童虐待の相談窓口を市町村に広げた。都道府県所管の児童相談所に集中していた相談の受け皿を増やして、迅速に対応するためだ。
 法改正後、市町村は児童相談の第一義的な役割を担うと位置付けられた。以後、虐待相談は右肩上がりだ。
 厚労省調査によると、市町村への相談は法改正後の05年度に全国で年間4万222件だったが、16年度には10万147件と倍以上に伸びた。同年の児相への相談は12万2575件だった。13年度までは市町村への相談件数が児相を上回る状態が続いていた。
 現場の家庭相談員の声は切実だ。「毎日追い詰められている。子どもたちのためという福祉の精神で何とか業務に当たっている」「正職員と同じようにフルタイムで働いているが、残業代もつかない」
 不安定な身分なので、他に好条件の正職が決まれば辞めていくのは致し方ない。だが、虐待対応の経験や対処法が蓄積されず、専門性を持つ人材が集まらなくなる。市町村も後任の人材確保に苦慮するという悪循環に陥ってしまう。
 政府は児童虐待防止法の改正案を今国会に提出している。児童相談所の職員を、子どもを保護する「介入」担当と親への「支援」担当に分けて、機能を強化する方針だ。
 同様に、一義的な窓口となる市町村の体制強化にも力を注ぐべきだ。半世紀前の化石のような通知を見直すことはすぐにでもできるだろう。
 国連の子どもの権利委員会は先月、児童虐待対策を強化するよう日本政府に勧告した。子どもへの暴力が繰り返されていることに懸念を示したものだ。国際的にも政府の腰の重さが指摘されている。
 来年度予算案に計上された防衛費は過去最大の5兆2574億円、児童虐待対策費はその31分の1の1655億円だ。子どもたちを守る分野にこそ、もっと血税を投じるべきだ。政府は絶対に虐待をなくすという強い決意を見せてほしい。児童相談行政の抜本的見直しは待ったなしだ。