旧優生保護法に基づく障害者らへの強制不妊手術問題で、与野党の国会議員が被害者救済法案をまとめた。被害者が求める救済とは距離がある。これでは被害回復にはつながらないのではないか。
法案は超党派の議員立法で近く国会に提出、早期成立を目指す。
その柱は一時金三百二十万円の支払いだ。被害者からの請求で審査会が認定し支給する。
不妊手術は約二万五千人が受け、うち約一万六千五百人が強制だったとされる。手術に同意した人も救済の対象にする。
旧法は一九四八年に制定された。障害者差別に当たるとして九六年に母体保護法に改正されるまで旧法に基づく手術が行われた。
だが、法案は被害者の望む救済からは遠いと言わざるを得ない。
被害者の一番の思いは、こうした制度をつくり長年にわたり非人道的な行為を繰り返してきた国の謝罪だ。法案は「反省とおわび」を示したが、旧法の違憲性には触れていない。謝罪の主体も「われわれ」と国の責任はあいまいだ。
国の政策が間違ったのなら、まず謝罪から行動を示すべきだろう。それが被害回復への第一歩ではないか。
一時金の額だ。日本と同様な強制不妊政策があったスウェーデンを参考にした。
だが、各地で係争中の国家賠償請求訴訟での被害者らの請求額は最大三千万円台で差がある。ハンセン病の隔離政策の補償額は最大千四百万円である。
救済は必ずしも金額の問題ではないが、法案の提示した額では納得しがたいだろう。
法案には、救済制度の周知を国や自治体が行う規定も盛り込まれた。手術を受けた人の中には障害のために被害を認識できていない人もいる。
手術記録が残る人は約三千人いるが、個人への通知は行わない。被害の事実を周囲に知られたくない人もいるからだという。
だが、本人の請求を待っているだけでは救いきれないのではないか。効果的な周知と合わせプライバシーに配慮しつつ知らせる仕組みを検討すべきだ。
障害者差別を繰り返さないため、法案には国会が旧法を巡る実態調査を行うことも盛り込んだ。
旧法は議員立法で成立した。国会の責務としても救済が確実に進むよう力を尽くす必要がある。
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