~IT技術の開発者と利用者の権利を守るために~
下記発起人による寄稿
弁護士・裁判費用の援助
3月4日に報道されたように、繰り返しアラートボックス(警告メッセージ)が出るウェブページへのリンクを掲示板に貼った行為が、刑法の「不正指令電磁的記録の罪」に当たるとして、一人の中学生と二人の成人が兵庫県警察の家宅捜索を受けました(関連記事)。
家宅捜索を受けたうち二人は、現在、費用の問題で弁護士をつけていないとのことです。このままでは、裁判を受ける権利を行使することができないまま略式命令で罰金刑に処されてしまう展開が予想されます。
我々は本件について、後述するように、法の趣旨を逸脱した不当な摘発の可能性があるのではないか、と疑問を持っています。そして、もしもそうであるとすれば、IT技術の開発者と利用者の権利が不当に害されてしまうのではないか、と恐れています。
二人に弁護士をつけることができれば、検察に不起訴処分とさせることや、正式裁判で無罪の判決を得ることも可能な事案だと考えています。
そこで、二人に弁護士や裁判に要する費用を援助すべく、ご賛同いただける皆さまからの寄付を募ることにしました。
恐れ入りますが、ぜひ皆さまのご協力をお願いいたします。
寄付の方法
寄付を募りたい複数の有志がバラバラに動いていたところ、一般社団法人日本ハッカー協会が寄付と支援の仕組みを提供してくださることになり、こちらに一元化しました。
任意の金額を下記口座にご入金ください。
銀行振込の場合は、本件の振込であることを示す記号として、振込依頼人名の前か後ろに「4」と記入してください(例:振込依頼人名「ヤマダタロウ4」。振込依頼人名はカタカナ及び数字以外は使えませんので注意してください)。この口座では本件以外の寄付も受け付けていますので、識別のための「4」です。忘れないようにしてください。
銀行口座: みずほ銀行 神田駅前支店 (009) 普通 2425398 一般社団法人日本ハッカー協会
仮想通貨:
BitCoin: 1JifugraGfdvNwKR7Gnm2KzdS2JkmJC6s3
MonaCoin: MErPDpddTa2xC5wndmiByF6wgH71ZNaEXL
寄付証明書、返礼品(5,000円以上の寄付者のみ)、寄付者名掲載をご希望の方は、メールもしくは、協会の お問い合わせフォームか twitterのDMなどで送付先とサイズなど以下の内容を含む形でご連絡ください。
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振込人名:
返礼品送付先:〒
Tシャツサイズ: 不要 S M L XL XXL
寄付者名掲載:する/ しない / 掲載名 ( )
なぜ摘発が不当である可能性があるのか
今回の摘発の容疑は「不正指令電磁的記録の罪」(刑法168条の2)です。この罪は、いわゆる「ウイルス作成罪」として2011年の刑法改正で新設された新しい罪です。
新しい罪であるため、裁判で正式に争われた事例が少なく、どんなプログラムがこれに当たり得るのか、未だはっきりしていない中での摘発です。
今回問題とされたプログラムは、アラートボックスの「OK」を押しても再びアラートボックスが現れ、何度「OK」を押しても繰り返し現れるというただそれだけのもの(いわば「アラートループ」)で、ウェブブラウザのタブを閉じる操作で消すことができるものです。
一部の報道で「ブラクラ(ブラウザクラッシャー)」と書かれましたが、実際にはブラウザをクラッシュさせるものではありません。
慶應義塾大学法学部の亀井源太郎教授(刑事法)は、本件についてブログで、「立法論/憲法論に立ち入るまでもなく、現行法解釈として疑問がある」として、以下の旨を指摘しています。
・本件で、同条1項1号における「意図」「不正」の要件を充たすか疑義がある。
・「意図」の要件は、個別のユーザーの認識を基準とするのではなく、社会一般の認識を基準とする。本件では、電子計算機に通常期待される動作は妨げられておらず、「意図」の要件を充たすか疑わしい。
・仮に「意図」の要件を充たすとしても、「不正な」の要件を満たすかも疑わしい。本件では、当該サイトを開いたPCやスマートフォン内のデータが消去される等の損害は生じない。社会生活上の活動が阻害されるとはいえないし、保護法益に対する侵害があるともいえないであろう。
このようなプログラムに対して「不正指令電磁的記録の罪」を適用して犯罪とすることは、他の正当なプログラムの作成や提供にも影響を及ぼしかねない重大な問題があると、我々は考えています。
本件で懸念される社会への悪影響
今回の件で明らかになったことは、一部の地方警察には、アラートループやジョークプログラムのようなプログラムであっても、個々の閲覧者の意図に反する動作をさせるプログラムであれば刑事事件として摘発する姿勢があるということです。
このことは、ソフトウェア技術者が通常の業務で作成するソフトウェアでアラートループを発生させた場合、その提供の態様によっては摘発の対象になり得ることを意味します。また、ジョークの表現行為であってもプログラムを用いたことをもってして犯罪とされかねないことを意味します。
この2年足らずの間に、一部の地方で、刑法の「不正指令電磁的記録の罪」の適用範囲が急速に拡大されている様子があります。
本件の他にも、リモート制御の通信プログラムの解説をウェブ記事として掲載していただけで(刑法が要件とする「人の電子計算機における実行の用に供する目的」がないのに)不正指令電磁的記録提供罪が適用されて、略式命令で罰金刑の有罪が確定してしまった事例もありました。
このようなリスクがあっては、ソフトウェア技術者が萎縮し、プログラムを公開したり提供すること自体をためらうようになり、日本のソフトウェア技術の進歩が強く阻害されることが懸念されます。
実際に、一部地方警察による摘発の続発をうけて、リスクを感じたソフトウェア技術者らがセキュリティの勉強会を中止するということも起きています。
今回のアラートループの事案がこのまま正式裁判で争われることなく略式命令が確定してしまうと、過去の有罪事例として「実績」となってしまい、他の地方警察や検察の判断にも影響し、次々と際限なく不正指令電磁的記録の対象が拡大されていってしまう事態になりかねません。
この寄付の呼びかけは、二人を単に救済することだけに目的があるのではありません。法の趣旨からの逸脱が疑われる摘発が「実績」として残されるのを阻止し、「不正指令電磁的記録の罪」の意義・運用の明確化を求めることで、ソフトウェア技術者・セキュリティ技術者の業務の自由のみならず、IT技術利用者の権利を守ることを目的としています。
寄付金の使い方について
いただいた寄付金のうち、返礼品仕入代金・送料・通信費・振込手数料を除いた金額を、今回の対象2名に本件対応のための弁護士費用、交通宿泊費等を助成します。
・助成範囲:本件対応のための弁護士費用、交通宿泊費、通信費その他の必要経費
・寄付金が不足した場合は、支援対象者に均等に分割します。
・罰金刑が確定した場合の罰金の肩代わりとしての助成は行いません。
・寄付金が助成支出を上回った場合は、主として類似案件に係る支援のための準備資金としつつ、副次的に、日本ハッカー協会のハッカーの法的支援のための費用として振り替えます。
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寄付の状況について
寄付と支援の状況についてはTwitter上の ハッシュタグ #alertloop で随時報告します。
発起人(当協会登録会員)
加藤公一、高木浩光、とつげき東北
賛同者(寄付者名の掲載を希望された方)
加藤公一、高木浩光、とつげき東北、SUGAI@IT議論、@Azunyan1111_、菊池陽一、平岡亮人、hykw
(随時更新中)