きょう23日とあす24日に放送されるテレビ東京開局55周年特別企画ドラマスペシャル 山崎豊子原作『二つの祖国』(ともに後9:00~11:24)。かつて大河ドラマの原作にもなった山崎豊子氏の同名小説を民放で初めて映像化する本作。万人受けする類ではないかもしれないが、老若男女、一人でも多くの視聴者にこのドラマを届けたいとの思いから、田淵俊彦プロデューサー(テレビ東京)はあえて「禁じ手」を使ったという。
『二つの祖国』は、1900年代、第二次世界大戦前・中・後の日本とアメリカ、二つの国の狭間で家族の絆を引き裂かれ、涙の別れを経ながらも未来を信じ、激動の時代をたくましく生き抜いた3世代64年の愛の物語を描く。
禁じ手を使ったというのは、劇中に流れる音楽。選曲したのは、本作のタカハタ秀太監督だ。2015年末にTBSで放送された『赤めだか』(落語家・立川談春と師匠の立川談志の師弟愛の物語)では、ポイントになる場面、場面で昭和の名曲が挿入歌として使われ、話題を呼んだ。「落語に興味ない人も、音楽がフックになる。その観客の取り込み方が、うまいと思った」と田淵プロデューサー。
「一つひとつのシーンを監督なりにかみ砕いて、理解して、ぴったりだと思う既存の曲を頭の中で流しながら撮影していた。ドラマ全編にわたって名曲が散りばめられています。ドラマでは禁じ手なんですが、いい仕上がりになっています」。音楽を自由に使えるというのは、「テレビでの放送」に限ってできること。リアルタイムか、録画しておかなければ観られないし、聴くことができない。
映画やテレビなどで頻繁に使われているイーグルスの「デスペラード」が本作でも使用されているのだが、「『二つの祖国』ではここで使うんだ、って驚くかもしれないですね。でも、はまっていると思います。すごく泣けると思います」と期待感をあおる。
ビートルズの「カム・トゥゲザー」が流れるシーンがあり、「日本とアメリカの話で、なんでイギリス・リヴァプール出身アーティスト?という理屈をふっとばすくらい、シーンと合っている。ただ、そう思わない人もいるかもしれない。なんでこのシーンでこの曲? それは違うだろう、という意見があってもいい」と、反対意見も大歓迎だという。それは、『二つの祖国』が、日系二世の若者たちが自らのアイデンティティを求めて懸命に生きる姿を描いた物語でもあるからだ。
太平洋戦争によって、アメリカか日本か、どちらの国に忠誠を誓うか、選択を迫られる日系二世の若者たち。主人公・天羽賢治(小栗旬)は米軍の陸軍情報部で日本語教官や暗号解読の仕事に就きながらも、日本人としての誇りを持ち続け、開戦当時に日本で教育を受けていた弟の忠(高良健吾)は日本軍へ、末の弟・勇(新田真剣佑)は米軍の日系人部隊に志願する。同じ、日系二世の兄弟であってもこれだけ違う。賢治の同級生・チャーリー田宮(ムロツヨシ)も、「日本人であること」に賢治とは正反対の考えを持つ。
「僕らはこのシーンにはこの曲だと思います、というメッセージを投げかけるわけですが、それを押し付けたいわけじゃない。いいね、と共感してくれてもいいし、違うと思うのであればそれもよし。それがあなた自身なのだから。むしろ、いろんな価値観の人に観ていただいて、議論したくなるような作品になってほしいし、そういう作品に仕上がっていると思います」。
■なぜ、いま、『二つの祖国』なのか
今回のドラマを企画した田淵プロデューサーは、1986年に同局に入社以来、一貫して制作畑を歩み、特にドキュメンタリー番組の経験が豊富。ドラマでは、昨年10月期の連続ドラマ『ハラスメントゲーム』や、ビートたけし・山田孝之の共演で各種放送賞を受賞した『破獄』(2017年)などを手がけている。社会性とエンターテインメント性を掛け合わすアイデアに長けたプロデューサーとして異彩を放つ人物だ。
「20代後半から30代前半は、ヒマラヤの周辺の国へ取材に行けるようなドキュメンタリーの企画書ばかり書いていました。まだ、インターネットがない時代。チベット仏教文化や日本人に似た人々が住んでいて、照葉樹林文化の共通点もあるヒマラヤにすごく興味があったんです。一方で、南米・ブラジルの日系人のドキュメンタリーを作ったこともあって。そうした経験がなかったら、ドラマの題材として『二つの祖国』は選ばなかったかもしれません。33年のテレビマンとしてのすべてをこの作品にぶつけた集大成といっても過言ではありません」と、本作にかける情熱は半端ない。
約3年前から脚本化を進め、俳優の小栗旬に主演のオファーをしたのは約2年前。「時代のオピニオンリーダーのイメージがありました。流行りの先端を走りながら、浮ついていない。コミカルな役は思い切り振り切り、シリアスな役はとことん作り込むといったように、演技表現に対して妥協しないし、決してブレない。そういった姿勢を貫いているところに注目していました」と、小栗以外の主演は考えられなかったという。
「小栗さんには、『新しいドラマ』を作りたい、自分の子どもたち世代に残したい作品、いま観てすぐには理解できなくても糧になるような作品を作りたい、といったこの企画の意義やドラマの意味を伝え、心から賛同していただきました。作品への参加を決めてからの小栗さんの覚悟は相当なものがありました。日系人を演じるために、すぐに英語のせりふの準備を開始して、見事に演じてくれました」。
小栗は、英語のせりふだけでなく、日系人が全裸で屈辱を受けるシーンでは全裸になるなど、体当たりで撮影に臨み、「作品を背負う覚悟」に田淵プロデューサーも感服したという。
本作にはほかに、ムロツヨシ、多部未華子、仲里依紗、新田真剣佑、池田エライザ、橋本マナミ、原菜乃華、仲村トオル、田中哲司、柄本佑、甲本雅裕、リリー・フランキー、中村雅俊、ビートたけし、笑福亭鶴瓶、余貴美子、泉谷しげる、麻生祐未、松重豊などが出演。
さらに、1980年代に外国人タレントの先駆けとして『世界まるごとHOWマッチ』などでブレイクした、チャック・ウィルソンやケント・ギルバート、ダニエル・カールがそろい踏み。セイン・カミュ、モリー・ロバートソン、厚切りジェイソン、ハリー杉山なども登場する。フィギュアスケーターでタレントの織田信成は、“ラストエンペラー”愛新覚羅溥儀役で、中国語のせりふに初挑戦するなど、キャストも「テレビ東京史上最も豪華」と自称するほど。
実は、選曲のほかにも、「禁じ手」とされる撮影のルールをあえて破る斬新なカット割りや、ハッピーエンドやカタルシスにこだわらない終わり方など、「ドラマのセオリーをとっぱらって、エンターテインメントとして魅せる効果のある映像づくり」のためにあらゆる手を尽くしたという。東京裁判のシーンで、実際の東京裁判でも使用された防衛省市ヶ谷記念館の大講堂で史上初となるドラマ撮影を敢行したのもその一つ。ドキュメンタリー番組で“カメラ初潜入”を実現させてきた田淵プロデューサーの経歴を考えれば、生まれるべくして生まれた、開局55周年にふさわしい『二つの祖国』に思えるのだ。
『二つの祖国』は、1900年代、第二次世界大戦前・中・後の日本とアメリカ、二つの国の狭間で家族の絆を引き裂かれ、涙の別れを経ながらも未来を信じ、激動の時代をたくましく生き抜いた3世代64年の愛の物語を描く。
禁じ手を使ったというのは、劇中に流れる音楽。選曲したのは、本作のタカハタ秀太監督だ。2015年末にTBSで放送された『赤めだか』(落語家・立川談春と師匠の立川談志の師弟愛の物語)では、ポイントになる場面、場面で昭和の名曲が挿入歌として使われ、話題を呼んだ。「落語に興味ない人も、音楽がフックになる。その観客の取り込み方が、うまいと思った」と田淵プロデューサー。
「一つひとつのシーンを監督なりにかみ砕いて、理解して、ぴったりだと思う既存の曲を頭の中で流しながら撮影していた。ドラマ全編にわたって名曲が散りばめられています。ドラマでは禁じ手なんですが、いい仕上がりになっています」。音楽を自由に使えるというのは、「テレビでの放送」に限ってできること。リアルタイムか、録画しておかなければ観られないし、聴くことができない。
映画やテレビなどで頻繁に使われているイーグルスの「デスペラード」が本作でも使用されているのだが、「『二つの祖国』ではここで使うんだ、って驚くかもしれないですね。でも、はまっていると思います。すごく泣けると思います」と期待感をあおる。
ビートルズの「カム・トゥゲザー」が流れるシーンがあり、「日本とアメリカの話で、なんでイギリス・リヴァプール出身アーティスト?という理屈をふっとばすくらい、シーンと合っている。ただ、そう思わない人もいるかもしれない。なんでこのシーンでこの曲? それは違うだろう、という意見があってもいい」と、反対意見も大歓迎だという。それは、『二つの祖国』が、日系二世の若者たちが自らのアイデンティティを求めて懸命に生きる姿を描いた物語でもあるからだ。
太平洋戦争によって、アメリカか日本か、どちらの国に忠誠を誓うか、選択を迫られる日系二世の若者たち。主人公・天羽賢治(小栗旬)は米軍の陸軍情報部で日本語教官や暗号解読の仕事に就きながらも、日本人としての誇りを持ち続け、開戦当時に日本で教育を受けていた弟の忠(高良健吾)は日本軍へ、末の弟・勇(新田真剣佑)は米軍の日系人部隊に志願する。同じ、日系二世の兄弟であってもこれだけ違う。賢治の同級生・チャーリー田宮(ムロツヨシ)も、「日本人であること」に賢治とは正反対の考えを持つ。
「僕らはこのシーンにはこの曲だと思います、というメッセージを投げかけるわけですが、それを押し付けたいわけじゃない。いいね、と共感してくれてもいいし、違うと思うのであればそれもよし。それがあなた自身なのだから。むしろ、いろんな価値観の人に観ていただいて、議論したくなるような作品になってほしいし、そういう作品に仕上がっていると思います」。
■なぜ、いま、『二つの祖国』なのか
今回のドラマを企画した田淵プロデューサーは、1986年に同局に入社以来、一貫して制作畑を歩み、特にドキュメンタリー番組の経験が豊富。ドラマでは、昨年10月期の連続ドラマ『ハラスメントゲーム』や、ビートたけし・山田孝之の共演で各種放送賞を受賞した『破獄』(2017年)などを手がけている。社会性とエンターテインメント性を掛け合わすアイデアに長けたプロデューサーとして異彩を放つ人物だ。
「20代後半から30代前半は、ヒマラヤの周辺の国へ取材に行けるようなドキュメンタリーの企画書ばかり書いていました。まだ、インターネットがない時代。チベット仏教文化や日本人に似た人々が住んでいて、照葉樹林文化の共通点もあるヒマラヤにすごく興味があったんです。一方で、南米・ブラジルの日系人のドキュメンタリーを作ったこともあって。そうした経験がなかったら、ドラマの題材として『二つの祖国』は選ばなかったかもしれません。33年のテレビマンとしてのすべてをこの作品にぶつけた集大成といっても過言ではありません」と、本作にかける情熱は半端ない。
約3年前から脚本化を進め、俳優の小栗旬に主演のオファーをしたのは約2年前。「時代のオピニオンリーダーのイメージがありました。流行りの先端を走りながら、浮ついていない。コミカルな役は思い切り振り切り、シリアスな役はとことん作り込むといったように、演技表現に対して妥協しないし、決してブレない。そういった姿勢を貫いているところに注目していました」と、小栗以外の主演は考えられなかったという。
「小栗さんには、『新しいドラマ』を作りたい、自分の子どもたち世代に残したい作品、いま観てすぐには理解できなくても糧になるような作品を作りたい、といったこの企画の意義やドラマの意味を伝え、心から賛同していただきました。作品への参加を決めてからの小栗さんの覚悟は相当なものがありました。日系人を演じるために、すぐに英語のせりふの準備を開始して、見事に演じてくれました」。
小栗は、英語のせりふだけでなく、日系人が全裸で屈辱を受けるシーンでは全裸になるなど、体当たりで撮影に臨み、「作品を背負う覚悟」に田淵プロデューサーも感服したという。
本作にはほかに、ムロツヨシ、多部未華子、仲里依紗、新田真剣佑、池田エライザ、橋本マナミ、原菜乃華、仲村トオル、田中哲司、柄本佑、甲本雅裕、リリー・フランキー、中村雅俊、ビートたけし、笑福亭鶴瓶、余貴美子、泉谷しげる、麻生祐未、松重豊などが出演。
さらに、1980年代に外国人タレントの先駆けとして『世界まるごとHOWマッチ』などでブレイクした、チャック・ウィルソンやケント・ギルバート、ダニエル・カールがそろい踏み。セイン・カミュ、モリー・ロバートソン、厚切りジェイソン、ハリー杉山なども登場する。フィギュアスケーターでタレントの織田信成は、“ラストエンペラー”愛新覚羅溥儀役で、中国語のせりふに初挑戦するなど、キャストも「テレビ東京史上最も豪華」と自称するほど。
実は、選曲のほかにも、「禁じ手」とされる撮影のルールをあえて破る斬新なカット割りや、ハッピーエンドやカタルシスにこだわらない終わり方など、「ドラマのセオリーをとっぱらって、エンターテインメントとして魅せる効果のある映像づくり」のためにあらゆる手を尽くしたという。東京裁判のシーンで、実際の東京裁判でも使用された防衛省市ヶ谷記念館の大講堂で史上初となるドラマ撮影を敢行したのもその一つ。ドキュメンタリー番組で“カメラ初潜入”を実現させてきた田淵プロデューサーの経歴を考えれば、生まれるべくして生まれた、開局55周年にふさわしい『二つの祖国』に思えるのだ。