温泉水を通すパイプ(手前の管)を設置し冬場も水温を保つ=秋田・大館市
育て! 温泉ドジョウ
通年出荷を可能に
休耕地など地元資源を活用し事業化。雇用拡大も
秋田・大館市
温泉を使った養殖で、ドジョウの産地化をめざす取り組みが秋田県大館市で進められている。その名も「雪沢温泉どじょう」。将来は、休耕田の有効利用や雇用拡大につなげる狙いだ。総務省の「地域経済循環創造事業交付金」を活用して事業化したもので、同省は地方創生の柱として、こうした地域経済の好循環を生み出す事業を増やしていく方針。
秋田県北部の大館市(人口約7万7000人)。同市の中心市街地から東へ向かい、大館盆地に広がる水田を抜けると、山間の狭小地に株式会社グリーン白神のドジョウ養殖池がある。休耕地に建てたビニールハウス2棟には、温泉水を活用する養殖池があり、時折、ドジョウが水面から顔を出していた。
今年7月から8月にかけて、県内の業者から購入した650キロの稚魚を放流した。飼育を担当する渋屋祐慈さん(22)が網ですくうと、5センチほどに成長したドジョウがぬるりと体をくねらせた。「15センチほどで出したい」。早ければ来年夏の出荷をめざし準備を進めている。
渋屋さんは今年、秋田県立大学生物資源科学部を卒業したばかりで、初めての養殖に試行錯誤の日が続く。「明治、大正時代からドジョウの研究がされていると聞くが、養殖技術は確立されていない。分からないことだらけ」と語るが、「工夫次第で拡大もできる」と手応えをつかんでいるようだ。
養殖池には、近くで湧く雪沢温泉から温泉水が引かれている。ドジョウは水温10度以下で冬眠するが、冬場も温泉の熱で水温を保ち、成長を早めて通年での出荷も可能にしようというアイデアだ。「雪沢温泉どじょう」としてブランド化をめざす。養殖事業には、秋田県信用組合が資金計画を支援。秋田県立大学が養殖技術の共同研究で同社を支える。
同県は国内有数のドジョウの産地。かつては水路で捕獲したドジョウを卵とじや塩蒸し、空揚げにして食べる食文化もあった。水田の農地整備で全国的にドジョウのすみかが減り、生息数は同県でも激減している。都道府県レベルでは絶滅危惧種に指定する地域すらある。
現在、流通するドジョウは輸入物が主流で、安全性から国内養殖に期待が集まっている。大館市によると、ドジョウのかば焼きが有名な石川県や、柳川鍋として食する東京などに需要があるという。グリーン白神としても種苗生産から出荷を自社で担い、地元産ドジョウを全国に発信したい考えだ。
農林水産省が2010年に公表した農林業センサスによると、大館市の耕作放棄地面積は916ヘクタールで、前回の05年調査に比べて234ヘクタールも増加。県の増加率が約1割だったのに対し、大館市は約3割増だった。
同市は、雇用の拡大や、耕作放棄地の活用に加え、市が管理する余剰温泉の有効利用という“一石三鳥”をめざし、ドジョウ養殖を後押しする。市企画調整課が用地取得や地元金融機関への仲介役を担い、総務省の地域経済循環創造事業交付金の採択につなげた。今後も、ドジョウ生産地としての広報や、消費地への売り込み、加工品の開発を支援する方針だ。
地域経済の好循環を創出
大館市の「温泉水を活用した雪沢温泉どじょう創出事業」は、地域経済の好循環を生み出す事業として、総務省の同創造事業に採択され、初期投資費用に5000万円が交付された。
同創造事業については、これまでに総務省が全国で160事業を決定した。各事業計画の積算では、7年間で、地元人材の雇用創出効果を約230億円、原材料費として地元産業に与える経済効果を約504億円と見込んでいる。
同省はさらに、中小企業庁と連携し、「ローカル10000プロジェクト」として全国に1万事業程度の地域密着型企業の立ち上げをめざす。その一環で、同創造事業も今年度の倍額、約30億円が来年度予算の概算要求に盛り込まれた。政府が9月に設置した地域活性化の司令塔「まち・ひと・しごと創生本部」とも連携し、「地方創生の一つの柱」(同省地域政策課の塗師木太一・地域の元気創造推進係長)として推進する方針だ。