ぼくが述べたいのは、かくもイチローは孤高の存在だということだ。彼はファンやメディアを大切にする人物だとは思うが、決して媚びた発言はしない。この日、ヤンキー・スタジアムでぼくは拒否の態度を示されたのだけれど、NPBの試合後のヒーローインタビューで選手達が発する決まり切った奇声と、それを引き出そうとするインタビュアーに辟易としているぼくには、そのこと自体はそれほど不愉快ではなかった。
昨年8月に日米通算4000本安打を達成した後の会見で、彼は「8000回の失敗としっかり向き合って来たということだ」と語ったが、それこそぼくたちがプロ中のプロから聞きたいコメントだ。「明日も球場に来て下さーい」とか「これからも応援よろしくお願いしまーす」なんて彼らは言う必要はない。営業社員ではないのだから。
イチローが4000本を遥かに超す安打を放つ過程においては、8000回以上のフィールド上での失敗に向き合うことのみならず、いつも大勢で周囲を囲み彼からすれば意味のない質問を繰り返すメディアに辟易とし、誤解に満ちた解釈をされることを怒り続けることも経てきた訳だ。その中で、できるだけ野球に集中できる環境を作り上げるために辿りついた結論が、あの取材スタイルだったのだろう。彼はフィールド上以外でも戦って来たのだ。
メディアやファンに愛想を振りまくがそのコメントにはさほど意味がない選手と、やや気難しいがプロならではの含蓄あるコメントを発する選手、どちらが好ましいかは個人の好みの問題だろう。しかし、どちらがより希少であるかは明らかだ。
2014年、イチローはそれをぼくにリマインドしてくれた。やっぱり、大きな○をあげたいと思う。
次回の(後編)では、日本人選手の×を取り上げます。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com
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