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【書評】

生きる力を育む「朝の読書」 静寂と集中 岩岡千景著

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◆生徒の思考、情緒豊かに

[評]母袋夏生(もたいなつう)(翻訳家)

 本欄を仔細(しさい)に読む人はたいてい、読書は個人が自由にするもので、強制されるものではないと思っているだろう。だが、それは読書習慣があってのことで「本を読まない子は、読めない子」だと、朝の読書推進協議会の大塚笑子さんは本書で言う。そして、そういう子も毎日、本を読み続けると、読む力(=読む技能)が次第に身につき、集中力が増して、会話の幅も広がるという。

 全国76%の小・中・高等学校が、(1)みんなで(2)毎日(3)好きな本を(4)ただ読むだけ、の四原則をかかげて三十年前に始まった朝の読書に取り組んでいる。読書好きが疑義を挟みたくなる原則もあるが、本書はそれらを事例をあげて解説し「試験問題への理解度も上がって学力が向上した」などの具体的効果を報告している。そもそもは荒れた学級対策として始まったそうだが、毎朝十~十五分間、教師も一緒に読んでいると、静寂が生まれ、集中によってメディテーション(瞑想(めいそう))的効果が出るのだろう。授業にもすんなり入っていけるという。

 大塚さんは「読書で頭が柔軟になってる生徒は常識がわかるし、人の話も聞ける」とも語る。能動的な読書習慣で想像力が自然に養われ、他者への慮(おもんぱか)りも生まれてくるからこその思考や情緒の広がりだろう。また睡眠時間を確保した上で毎日「一〇分でも一五分でも、読書の時間があるかどうかで脳の発達と学力に雲泥の差が出る」と、東北大加齢医学研究所の川島隆太さんは言う。

 読書の基礎ができたら、四つの原則は緩急自在でいいだろうし、時間を多めに取って長編や難しい本を試したり、読み聞かせや朗読テープを聴いたりするのもいいと思う。専門学校でわたしは、学生たちがほとんど本を読まないのに驚いて絵本を数冊ずつ読み聞かせたことがあるが、みんな食い入るように絵本を見つめ、耳を澄ませていたのを折々に思いだす。

 朝の読書が定着するまでの苦労や読書の喜びまでを取材した本書は、先生や本に携わる人たちへのエールである。

(高文研・1512円)

1968年生まれ。中日新聞東京本社記者。本書は2018年7~8月本紙文化面の連載に加筆。

◆もう1冊

川島隆太監修、松崎泰(ゆたか)ほか著『「本の読み方」で学力は決まる』(青春新書)

 

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