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【社会】

部活動時間の上限指針 選抜出場校 順守ゼロ

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◆本紙アンケート 27校回答

 学校の運動部活動について、生徒の健康面を考慮し活動時間の上限などを定めたスポーツ庁の指針が策定されて一年。守られているかどうか、二十三日に開幕する選抜高校野球大会の出場三十二校を対象に本紙がアンケートしたところ、「平日二時間、週末三時間まで」などの規定を完全に順守している学校は一校もなかった。強化優先からなかなか抜け出せず、長時間の練習を続けている強豪校の実態が浮かび上がった。 (原田遼)

 指針は、元プロ野球選手らも含む有識者会議で検討され、昨年三月に策定。「週十六時間以上練習すると、疲労骨折など明らかにけがのリスクが高まる」という海外の研究を踏まえ、一日の活動時間のほか、平日一日、週末一日以上の休養日や、オフシーズンを設けることなどを定めた。罰則はない。

 アンケートは匿名を条件に二月に実施し、二十七校から回答を得た。指針を踏まえて活動を見直したか尋ねたところ、十五校は「変更なし」、十二校が「一部を見直した」と答えた。

 九州地区のある高校は、平日の練習を六時間から四時間に削減。近畿地区のある高校も週末の練習を十時間から七時間に減らした。休養日は四校が週ゼロ回だったのを、一回に増やした。ただ、見直し幅は小さく、削減後も平日四時間、週末八時間を課している高校もあった。

 その結果、二十七校の現在の活動の平均は、平日三・四時間、週末六・四時間。休養日は週に〇・九二日と一日に届かず、通常の休み以外のオフ日は年七・四日だった。

 指導者からは「強化が遅れる」「学校により事情が異なる」など指針に後ろ向きな意見が多かった。

 指針は国公私立を問わず中学と高校に適用される。サッカーや柔道など一部の競技団体では、この指針を基にした指導手引を策定するなど、順守を促している。日本高校野球連盟は指針に対する議論を行っておらず、「各都道府県に現状を聞いている段階」としている。

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◆選抜出場校アンケート 「勝利至上主義」根強く

 良い結果を出すためにはそれなりの練習が必要だ-。運動部活動指針の順守について選抜高校野球出場校に聞いたアンケートには、活動時間を減らすことに否定的な意見が相次いだ。一方、少数ではあるものの、見直して「強化が進んだ」と回答した学校もあった。 (原尚子)=<1>面参照

 「指針通りでは強化は絶対に無理」。平日は五時間、週末には七時間の練習をしている東北地方の学校は、こう断言する。

 指針には、罰則規定がない。守るかどうかは実質的に学校の裁量に任されており「順守したチームほど強化が遅れる」と、敬遠する高校は少なくない。活動時間を減らすなどの見直しをした十二校のうち三校は、その影響で「強化が遅れた」と答えた。

 九州地方の公立高校は「順守はまず公立から求められる。寮や合宿所がある(私立)学校は守らないのでは」と不満を漏らす。ほかにも「自由時間が増えると、非行に走る時間を与えかねない」との懸念や「練習試合の準備や、他校などへの移動に時間がかかる」との意見もあった。

 一方で、練習時間を減らしたことで「強化が進んだ」と答えた学校が、関東地方に一校あった。六時間だった週末の練習を一時間削減。当初は部員や保護者の間で「そういう時代」と理解する声と「もっと練習を」と反対する声が半々だった。しかし、量をこなす日と実戦の日を分けるなど工夫した結果、技術向上につながったという。

 もともと練習時間が短めの学校や、時間を短縮した学校からは前向きな意見もみられた。関東地方の高校は「全ての部活動が月曜休み。生徒の負担軽減や教員の働き方改革の観点からも、指針に近づけようと考える」と説明。自主練習用のチェックシートを導入したり、メンタルトレーニングやミーティングを重視するなど、短い時間で効率を上げる試みもあった。

 指針を検討した有識者会議では、長時間練習で子どものけがが増えるほか、週六日以上の部活動にはほとんどの生徒が「休みたい」と感じるという調査結果も報告され、時間短縮の必要性が議論された。国際オリンピック委員会は二〇〇八年、ジュニアアスリートの育成について、十分な睡眠と学業、心身の健康、社会参加などバランスの取れた生活ができるよう、練習量の制限を提言している。

 アンケート結果について、名古屋大の内田良准教授(教育社会学)は「勝利至上主義の文化は変わっていない。部活動は教育現場で行われる以上、子どもの安全や健康を最優先した上で大会や競技のあり方を考えるべきだ」と指摘。「例えば『活動は週三日』と決め、守らないチームは出場できなくするなどの方法もある」と提案する。

 高校野球で頑張ることが将来のプロ入りや就職につながることもあり、生徒や保護者側から厳しい指導を求める面もある。日本部活動学会会長の長沼豊学習院大教授(教科外教育)は、サッカーのJリーグの育成組織などを例に挙げ「競技の高度化は学外で行うべきだ」と話している。

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