エ・ランテル冒険者組合 2階
その部屋の一室で多くの者が集まっていた。
後の『漆黒』、『虹』『天狼』『クラルグラ』のミスリル級冒険者たち、
それとアインザック冒険者組合長だ。
先程話したことが事実なら幾つか確認しないといけないことがある。
窓際に立ったアインザックは一言呟いた。
「成程・・・そういうことが」
そう言って冒険者組合長アインザックは手に持った『薬草』を見つめる。
(確かに依頼の品だな)
ソファに座るは四人。モモン、モックナック、ベロテ、そしてイグヴァルジだ。
「イグヴァルジ・・・事実か?」
「・・はい」
「そうか・・・まずは依頼を果たしてくれて感謝する」
そう言ってアインザックは頭を下げた。だが一同の表情は動かない。
「次に幾つか確認させてくれ・・・モモン君の活躍により『奇跡的に』死者はゼロで済んだ。間違いないかね?」
「えぇ。組合長。私たちやベロテたちが生きていることが何よりの証拠です」そう言ってモックナックが口を開く。
「そうか・・・そちらは嬉しい報告だな。次は嬉しくない報告を聞こう」アインザックがそう告げるとイグヴァルジが険しい顔つきになる。
「モックナック、俺自身の口から話させてくれ」それを聞いた一同はイグヴァルジの顔を見る。先程とは異なり何か覚悟を決めた顔をしていた。
「イグヴァルジ!」アインザックはイグヴァルジが自分の保身の為に発言しようとしていると危惧した。
「組合長、お願いします」
そう言ってイグヴァルジは頭を下げた。その姿は今までのイグヴァルジからは想像できないものであった。アインザックも仕方ないと思い折れることにした。
「・・・分かった。話してみてくれ」
「はい。実は・・・・・」
・・・
・・・
・・・
イグヴァルジが言った内容は事実そのものであった。強いて言うならば少し自虐が混ざり過ぎているフシがある。それは『クラルグラ』ではなくイグヴァルジ個人についてだ。
「勝手な行動で仲間を危険に晒しただけでなく、他のチームにも被害を出した。間違いないな?」
「はい・・・俺個人の身勝手な行動で危険に晒したことを・・・この場を借りて謝罪させて下さい」
そう言ってイグヴァルジは屈むと両膝を地面に着けて上半身を前方に折った。いわゆる土下座だ。
「すまない・・・・・・」
「・・・・イグヴァルジの処遇は後日行おう。イグヴァルジ及び『クラルグラ』は今日はゆっくり身体を休まぜておけ。『明日以降』の為に」
アインザックのその言葉にイグヴァルジは立ち上がり頭を下げると部屋を出ていった。クラルグラのメンバーもついていった。いつもより人数が少ないのは半数以上が病院送りになったからだ。
(『明日以降』か・・・その部分を強調したのは恐らくイグヴァルジ個人か或いはクラルグラに対して重い処分を下すということか)
「・・・・・」
部屋の中に沈黙が流れる。
沈黙を破ったのは先程まで話していたアインザックだった。
「部屋の空気を悪くさせてしまってすまない」
「組合長は何も悪くないでしょう」
「そうか。そう言ってもらって感謝する」
そこで言葉を一度区切ると再び口を開いた。
「悪いがモモン君は1階で待っていてほしい。後で必ず呼びに行くから」
「分かりました」
そう言ってモモンとナーベは退室した。
それを見たアインザックは一言呟いた。
「さて、君たちに聞きたいことがある」
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冒険者組合 1階
「どうしましたか?モモンさん」
「いや、少しな・・・」
「イグヴァルジのことですか?」
「あぁ。彼は心の底から反省しているように見えたんでな」
「・・ですが他の冒険者を危険に晒した以上、厳罰は免れないでしょう」
「それは分かるが・・・」
「冒険者組合も組織である以上、他の冒険者の手前何かしらの罰を与えないといけないでしょうから」
「・・・・」
少しだけ気まずい空気が流れた。
(モモンさんは人に対して優しすぎます。もっと傲慢でも良いと思いますが・・・・)
モモンが喋らないことでナーベはモモンの考えを察した。
(だけど・・・・そこがモモンさんの素晴らしい所ですね)
「罰か・・・・」
先に沈黙を破ったのはモモンだ。
「?」
モモンはその呟きの意味が理解できず考える。
(一体どういうことかしら?)
ナーベがそんなことを考えていると・・・
「モモン殿!ナーベ殿!」
二人が呼び声の方を見るとモックナックがいた。
「アインザック組合長が呼んでます」
「分かりました。行こうか。ナーベ」
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冒険者組合 2階
「やぁ。さっきはすまなかったね。モモン君」
そう言ってくれて笑顔で迎えてくれたのは組合長だ。
「いえ・・・」(何故笑顔なんだ?)
「まぁ座ってくれ」
「モモン殿、上座へ」
「いえ、冒険者組合長の前で上座など・・・」
そう言ってモモンは固辞した。
「流石だな・・・・ではこちらにでも座ってくれ」
「はい」
モモンは下座に座る。立場上、ミスリル級冒険者の中では新人だ。それゆえ下座に座る。
「モモン君、1つ尋ねたいことがある。答えてくれるかい?」
「はい。何でしょうか?」
「冒険者にとって1番大事なことは何だと思う?」
数秒間、沈黙が流れる。
モモンは考えを整理するために目を閉じた。
その中でも自分が心から冒険者に必要なものを考える。
やがて一人の人物の言葉を思い出した。
「『未知』を『既知』にすることです」
「ほう・・それは何故かな?」
「これはあらゆることに言えることですが、自分の知らないことを知っていくと分かるものがあります。それは自身の限界、あるいは可能性・・・そう言ったことを知ることが出来れば最適な答えを導き出すことが出来ます。例えば自分がどれだけ冷静でいられるか・・・・それを知っていれば冷静でいるために何かしらの対策が立てられます。対策を立てるためには対策の立て方を知らねばなりません。その為に必要なことは情報収集・・・・即ち、『未知』を『既知』にすることです」
「・・・・成程な」
アインザックがそう言うとやがて安心したような表情を見せる。
「そうか・・・・『強さ』だとか言われたらどうしようかと思ったよ」
そう言ってアインザックは一呼吸置くと口を開いた。
「パナソレイ都市長!お願いします」
この部屋の冒険者組合長の書斎の為の空間があるであろう場所のドアが開く。そこから現れたのは小太りの男性であった。
「ぷひー、久しぶりだね。モモン君」
「あなたは・・」
「私がエ・ランテルの都市長、パナソレイ=グルーゼ=デイ=レッテンマイアだ。モモン君、改めてよろしく」
そう言うとパナソレイは手を差し出した。モモンもそれに応えるように・・・・
今度はガントレットをしっかり外して握手した。
「こちらこそよろしくお願いします。パナソレイ都市長」
二人が握手を終えるとやがてパナソレイが口を開いた。
「アインザック組合長。頼む」
「分かりました。都市長・・・」
そう言ってアインザックはモモンの方へと身体を向ける。周囲にいるパナソレイたちがモモンに身体を向ける。
「モモン君」
「はい」
「ナーベ君」
「はい」
「二人とも・・・アダマンタイト級に昇格だ。おめでとう」
アインザックたちが拍手をし出す。
「正式な授与式は別に行うつもりだが、約束しよう。君たち二人はこの国で最高の冒険者だ」
「同じ冒険者として誇るに思うよ」
「俺もだ」
モックナックとベロテがそれぞれ言う。
「ありがとうございます」
モモンとナーベは共に礼を言う。
「それで早速なんだが、アダマンタイト級に昇格した記念だ。何か欲しいものはあるかね?あるいはやってほしいことでもいい」
(アインザック君とも話したが、彼ら・・・いや彼にはこの街でいてもらわないと。その為なら前借で何かを渡しておかないと・・・・。間違えても帝国などには行かれると困るからな)
パナソレイの発言に真っ先にモモンが反応する。
「欲しいものもやって欲しいこともあります」
「ほう2つ同時にかね・・・それで何かな?」
「地図が欲しいです。できるだけ正確な地図が欲しいです」
パナソレイがアインザックの方へと顔を向ける。それに気づいたアインザックが頷いた。
「いいだろう。後で手配しよう。それでやって欲しいことは何だい?」
「えぇ。実は・・・・・・」
モモンが言った「やってほしいこと」を聞いた一同はモモンという存在の凄さを改めて知ることになった。