余談ですがダージリン地方で採られた紅茶よりも世間に出回っているダージリン紅茶のほうが多くね?という噂があるとかないとか……。
少し短いですがどうぞ。
突然ですが皆さんはダージリンという紅茶をご存知でしょうか?
恐らく普段紅茶をほとんど飲まない方でもこの紅茶の名前くらいは聞いたことがある という方が多いでしょう。
ダージリンが美味しい、珍しい、貴重だという噂から飲んでみたという経験もあるかもしれません。
ただ思ったより癖がある、渋みがあると思った方もいるのではないでしょうか?
そういった癖がある事は間違いありません。ただそれだけの紅茶を思ってはもったいない。
ダージリンとは素晴らしく芳醇な香り、そして四季から生み出される季節別での味わいにこそ特色があると言えます。
飲んだことが無い?それはいけない、ぜひこの先の町 ダージリンにて一度お試しを……
「……ふむ」」
(ずいぶんと自信のある案内、ただ町というよりも紅茶の紹介だな)
この先 帝国領土 ダージリン と書かれた看板をじっと見つめるモモン...アインズだが目的付近へはあれからほどなくたどり着けた。
ドワーフ国よりそのままエランテルに戻っては憂鬱な仕事があると現実逃避――気分転換――をしたいと考え帝国を散策することにした。せっかくだから帝都に行き紅茶についてどこか産地のような場所はないか商人シネンシスから紅茶の町とひそかに言われているダージリンの情報を得る。
早速旧ドワーフ帝都へ転移し、幻術をかけワーカー風の装いで街付近まで来たところだった。
そこで見つけた看板には目的地であるダージリンの情報が書かれていたのだが……
(町の紹介=紅茶の紹介ともあれば非常に力を淹れて、いや入れているに違いない。これは期待できそうだぞ?)
アインズ自身、一般メイド アストリアにより紅茶についてそれなりに詳しくなっている自負はあった。とはいえ専門家には到底敵わないことも自覚している。今までに飲んだ紅茶……ヌワラエリヤ、ディンブラ、ルフナ、ブレンドのブレックファスト、アレンジでのロイヤルミルクティ、街に出てからはサバラガムワという紅茶を試す機会もあった。
その個性を活かしながらアインズはタイミングによって飲む紅茶を使い分けていた。
ストレートで紅茶の風味をゆっくりと楽しみたいときはヌワラエリヤやディンブラを好んで。ちょっと疲れた時、リフレッシュしたい気分の時はルフナやブレックファストのミルクティを飲む事が多い。
(まだ俺が知っている紅茶は10かそこら。それでも素晴らしい感動と潤いを与えてくれている……骨にも沁みわたるとはまさにこのことか?)
上手い事を言ったような気になり、笑えてしまう。
-------------
「紅茶の名産地 ダージリンへようこそ……ね」
入口には少しさびれてしまったようなアーチがありここでも紅茶について書かれていた。
(やはり嗜好品の需要が落ち込んでいる事は間違いないだろう。多少は回復しているかもしれないがメインの客層がいないのでは難しいだろう)
だが名産地であることは変わらない、せっかく来たのだからじっくりと見て回りたい。
ただそんな気分をなくすようにスッと影に潜むシャドウデーモンが報告を行ってくる。
「アインズ様、ご報告させて頂きます」
「うむ、あぁいやまてここでは……ダークウォーリ…いやダークと仮の名を使う。一介のワーカー、ダークとそう他の者にも伝えておけ」
「畏まりましたダーク様……周辺ですがレベルは最高10程度の存在しかおらず脅威度は非常に低いとの事です」
「ご苦労、引き続き潜んでいるシェイプシフターらと協力してあたれ」
「勿体なきお言葉……承りました」
シモベの気配が消える。この町にも脅威といっていい存在はいない、念のために調べさせたが杞憂だったか。
(いや油断だな、どこであろうとも最低限度の調査を怠ってはいずれ致命的なミスにつながるだろう)
(……どうせならどのあたり人がに多いか聞いておけば良かったな)
思った以上に人が見当たらない、適当な店に近づいてみる。
「すまない、この辺りは初めて来たんだがちょっと教えてもらえないか?」
奥で飲み物を啜っていた老婆がこちらに気づく。
「おや、旅人さんとは珍しい。飲むかい?」
そう言ってカップに入ったお茶……紅茶を差し出してくる。
「……頂こう、いくらだ?」
「飲み物に金はとってないよ、代わりに何か買ってっておくれよ」
ストレートな物言いで驚くがこれぐらいなら逆に聞きやすい。
「じゃあ、とりあえずそこのドライフルーツをもらおう」
「これは期待が出来そうじゃないか。なんでも聞いておくれよ」
銀貨数枚渡すと景気のよさそうな客に遭遇し上機嫌になる老婆がいた。
「以前この町は紅茶で有名と聞いていたが今ではそうではないのか?」
「そんなことはない、この町は今でも紅茶が盛んだ。住民だって毎日紅茶を飲むものばかりさ」
新しく用意した紅茶をこちらに差し出しながら老婆が語る。
「ほう」
(出荷は減ってもこの辺りでの消費はそう落ち込んでないのか、予想以上に生活と密着している)
「まぁ昔ほど都で飲まれなくなっているのは確かだろうけどね、貴族様には人気があったようだけど商人や騎士様にはそれほどだね」
「同じ嗜好品でも酒などのほうが人気が高いだろうな」
「全くだよ、紅茶ってのは男よりも女のほうが飲むし貴族様でもなけりゃそういったものにはなかなか目を向けてくれない」
ふむと老婆の話を聞きながらアインズ...いやダークがカップに口をつける。
しかしカップから漂う香りに疑問が浮かぶ。
(待てこれは何だ?香りが……非常に強い、青々しさ、瑞々しいマスカット?)
老婆がおや気づいたかねとこちらを伺ってくる。
「今あんたが飲んでるのはこの町の名産品 ダージリンの紅茶だよ。そこらの紅茶とは香りが違うよ」
「確かに、この香りは他の紅茶よりも抜群に強い。葡萄…よりも甘い、マスカットを彷彿させる香りだ」
もう一度カップを軽く揺らし香りを楽しむダーク。先ほどよりもっと深く吸い込むとさらに甘味を感じさせてくる。
「いい鼻を持ってるじゃないか、それこそがダージリンの特徴。
「マスカテルフレーバー……、着香などはしておらずこの香りなのか?」
「当然さ、着香なんてしたらこの香りが台無しだよ」
老婆が自分のカップに入った紅茶を掲げる、そこには自分達が大事にしてきたものを誇らしげに語る老婆がいた。
「町の名産品にそれほどの自信を持てる事は素晴らしい」
「当たり前だよ、これほど美味い紅茶を毎日飲ませてくれるなんてなんとぜいたくなことか!」
おしゃべりな老婆はケラケラと笑いながらカップを啜る。
「それほど言う理由もわかる、これほどの香りは他の紅茶と比較にならないだろう」
「味だって他の紅茶に負けやしないさ、ダージリンを飲まない奴らの気がしれないね」
確かに素晴らしい香り、繊細な味わいの紅茶であるダージリンは絶品というほかない。需要が減ったからと言ってそれほど飲まないというのも不思議な話だ。
「ふむ……、そうだな。あぁ俺は他の国にも商売でよく行くんだが最近ではミルクや蜂蜜を使ったアレンジが流行っていたな」
「蜂蜜?ミルク……?」
おしゃべりな老婆の雰囲気が少し剣呑なものへ変わる。
「はっ!邪道だね……これほど素晴らしい紅茶に他の物を加えるなんて馬鹿馬鹿しいにも程がある!」
(なるほど、ストレート信者だったか)
一気に雰囲気が変わった事に驚きつつも、無礼なと殺気立っている護衛らをそっと下がらせる。
(確かにヌワラエリヤを飲んだ時はミルクなどを入れようとはしばらくしていなかったな。気持ちは分かる)
同じような経験をアインズもしたことがあったので共感できるところはあった。ストレートで飲むと美味い紅茶とはただそれだけで完成していると言っても差し支えない。繊細さも併せ持っている紅茶が多くどうしてもバランスが崩れやすいためだ。しかし……
「ふむ、なるほど確かにその気持ちはよくわかる」
「だろう?全くもっておかしなもんさ」
「ただな……婆さん、あんたももったいない考え違いをしている」
「あぁ?」
「俺も紅茶をそれなりに楽しんでいるんだが、色々な紅茶を飲んできた。その中にはダージリンのようなストレートが素晴らしい味わいの紅茶もあった」
「だったら何が考え違いなんだ。その通りじゃないか」
いつのまにかヒートアップしている老婆は先ほどのおしゃべりな雰囲気とは打って変わっていた。
「まぁこればっかりはな、飲んでみないと分からん事だ。そこでだ婆さん」
ダーク...アインズは懐から小さな袋を取り出す、少し前に朝市で購入した茶葉だ。
「美味い紅茶は1種類だけじゃないってことを教えてやるよ」
茶葉を取り出しながら老婆にそう語るアインズはまさに紅茶好きの人だった……。
さぁダージリンです、さすがにこれで終わりじゃない(多分
普段はあんまりダージリン飲まないんですが、以前紅茶イベントに出店されていたTBエンタープライズさんのグレイスピースという紅茶、そこのダージリンが印象深い。
お察しの通りクッソ高いんですが、めっちゃ美味いです。ダージリン好きっていう人にプレゼントするなら俺はこれを選ぶ。ぜひ一度お試しあれ甘味がやばいよ。