【大相撲】1敗守った逸ノ城が不気味な存在に2019年3月20日 紙面から ◇北の富士評論「はやわざ御免」さて、どの相撲から始めますかな。熱戦続きで迷ってしまう。うれしい悲鳴である。それでは1敗同士、高安と逸ノ城から振り返ろう。 立ち合いは激しい当たり合いはなかった。右と左のけんか四つ。先に十分の上手を取った方が有利は当然。高安は頭を下げて右の上手を取ろうとしたが、逸ノ城はあえて差し手争いをせずに高安の右を引っぱり込んだ。これは高安にとって多少面食らったと思われる。不利な右四つに組み止められた高安は、止まっては苦しくなるとばかり強引に寄って出た。だが明らかに腰高であった。不得手な右四つでしかも腰が浮いて、寄っても攻め切れる相手ではない。逸ノ城は十分に余裕を持って残し、左から突き落とすと高安はたまらず横転する。前半は引いてばかりの逸ノ城だが、この2日間の相撲は怪物と言われた時分の強さを見せている。少しばかり不気味な存在となりつつある。 お次は白鵬と玉鷲戦。またもや白鵬が相手に「けつ」を見せながらヒヤリとさせたが、持ち前の反射神経の良さで突き落としで逆転勝ち。もう誰も驚かない。本人もケロリとしたものだ。それでもこの一番は白鵬もひとつのヤマ場と考えていたと思う。かなり立ち合いに神経を使っているのが読めた。 今場所はそれほど早い踏み込みは見せていなかったが、今日は一気に勝負をつける気で立っている。その後は体勢が高く攻め切れず玉鷲の左からの突き落としで背中を見せてしまった。これは先場所も見たシーンである。違うのは玉鷲に先場所の勢いと気迫が足りていなかったことだ。絶好の勝機をみすみす逃してしまったのは惜しまれる。白鵬は平然としているが、今後は気を付けた方が良い。このところの相撲は本来なら負けても不思議ではない。「勝ってカブトの緒(お)を締めよ」である。玉鷲は何としても勝ち越さねば今までの苦労が水泡に帰すことになろう。 それでは本日のメインイベント、鶴竜と貴景勝の大一番であります。過去の対戦成績は鶴竜の3戦全勝。ビデオを見たが鶴竜の低い体勢を押し切れず引く場面もあった。鶴竜のかたい守りを攻め切れず3連敗。しかし解説の境川親方は今までの相撲は参考にならないと言い切った。結局、勝負はその通りとなったのである。境川の慧眼恐るべしであった。展開はこうである。立ち合いはまったく互角。互いに頭で当たり合う。すごい音がした。貴景勝は突き放す。鶴竜も突っ張りで応戦する。火の出るような攻防だ。鶴竜の方がわずかに押し気味になる。貴景勝は例によって上体を上下に離し勢いをつける。少しずつ鶴竜が後退する。ここで引いてはいけない。我慢のしどころだ。しかし遂に鶴竜が引いてしまった。その機を待っていたかのように貴景勝が一散に押し込む。すごい出足に鶴竜たまらず、体勢を崩した。 貴景勝大きく大関に前進す。私ももうダメだ。疲れた。これ以上は書く元気がない。これ以上はもう無理。 (元横綱)
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