なまずのねどこ

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合成地名についての考察

市町村合併などの際に命名の折衷案としてよく用いられるのが合成地名。要は2つ以上の地名から一部をそれぞれ持ち寄って生まれた新しい地名のことで、明治/昭和/平成の大合併の際には多くの合成地名が生まれました。

合併による合理化が一区切りついている現状を鑑みると、合成に起源をもつ自治体名が今後大幅に増えるなどというシチュエーションは考えにくいです。が、駅名や高速道路のインターチェンジ名なんかに2つ以上の地名を組み合わせて採用するケースは未だに多く、それが二次的に地名として波及することも多いわけです。

 

さて、合成地名にもいろいろなパターンがあります。まずはその構成や成因について整理していきましょう。

 

①連称

合併後の市町村名などの折衷案としては最も無難な選択肢といえそうなパターン。「◯◯」+「✕✕」→「◯◯✕✕」という至極分かりやすい形ですね。駅名などに採用される合成地名の大半もこれです。

例としては

・山陽町 + 小野田市 → 山陽小野田市山口県

三方町 + 上中町 → 三方上中郡福井県

那須(栃木県北東部) + 塩原(温泉) → 那須塩原駅東北新幹線、後に市名にも採用)

なんかが代表的でしょうか。複数地区の境界上に設置されることの多い地下鉄の駅名にも多く見られる印象です。白金高輪とか野江内代とか。

 

②漢字表記の部分合成

合成地名と聞いてパッと思いつきやすいのがこのパターンでしょう。複数の地名の漢字表記から一部を切り取ってくっつける形です。連称地名と比べると文字数が少なくて済むというメリットはありますが、せっかくの由緒正しい地名を上書きしてしまうような例も多く、その辺りについては賛否両論ありそうです。

有名な例として

・谷 + 久々(菊田) + 鷺津田沼(千葉県)

森 + 蒲大田区(東京都)

分寺 + 川 → 国立駅中央本線、後に市名にも採用)

などが挙げられますね。津田沼のように3つ以上の地名を合成する場合、連称にするには長すぎて現実的とはいえないので、1文字ずつ取るのが安定択といったところでしょうか。

特殊な例に

今金町(北海道。開拓功労者・村藤次郎と森石郎の姓から)

浜岡町静岡県松市と静市の中間にあることから)

竜洋町静岡県。天川と太平に面することから)

のようなものがあります。

なにも「合併元の文字を引き継いだ地名」だけが合成地名というわけではない、という好例たちですね。

 

③ひらがな表記の部分合成

これはかなり少ない部類です。その少ない中の代表的な例を挙げてみます。

・鳥羽 + 吉野 + 新田 + 成相 → 豊科(長野県)

察しのいい方はもう気付きですね。「ば」「しの」「んでん」「りあい」この4つの頭文字をくっつけて漢字を当てたのが豊科、というわけです。合併を経た現在もJR大糸線の駅に名を留めています。

山がちな長野県には段差を意味する「◯科(しな)」という形の地名が多く(例: 蓼科、埴科、浅科)、旧国名である信濃の由来になるほどですが、豊科は合成地名にもかかわらず見事にこれに倣っているのが凄いところですよね。豊かな科野、まるで長野県を象徴するかのような傑作合成地名といえそうです。

まだ面白い例はあります。

・与川 + 三留野 + 柿其 → 読書(長野県)

がわ」「どの」「かきぞれ」の頭を合わせたものですね。そのまま与三柿とせず読書の字を当てるところに命名者のセンスを感じます。読み書きそろばん読書村。

 

④漢字の合成

このパターンもマイナー地名ばかりです。1つだけ分かりやすい例をご紹介しましょう。

上 + 木 + 居 + 樋清哲山梨県

各地名から1文字ずつ取り、それぞれを部首として(水は氵)組み合わせ並べたもの。「せいてつ」と読みます。「哲」という、地名としては珍しい漢字を使っているのがエモいですね。

やはり4つ以上の地名を組み合わせるとなると漢字1文字ずつ持ち寄っても長くなりすぎるためか、この例や前述の豊科のように何かしらの工夫を施して新地名を作り出すケースが出てきます。

 

パターン別に分けるとこんなところでしょうか。複数の地名から文字を引き継ぐという性格上、合成地名の成因としては市町村合併によるものが圧倒的に多いわけですが、それでも津々浦々の地名の中で占める割合はそんなに高くはないんですよね。

地名の合成という文化自体、元来の地名を壊すことに繋がるという指摘もありますが、数多の洒落た地名の起源について遡って探る好奇心は持ち合わせていたいものですね。