第二十三話:回復術士は超越する
2/1に発売される回復術士五巻(スニーカー文庫)にはドラマCD同梱版もあります!
視聴などできるサイトを一番下の画像にリンクを張ったので、是非そちらも見てください!
追い詰められている。
フレイア、クレハ、セツナ、イヴは黒い化け物が変形した樹木に捕らえられてしまった。
そして、俺自身も魔砲タスラムを突き付けられている。
ブレットが合図を送るだけで、黒い樹木はうごめき、女たちは殺される。
樹木の一本が伸びてきて、イヴが目の前に差し出される。
ブレットは俺にイヴの心臓を抉り、【賢者の石】を手に入れろと迫る。
一ミリの隙もない。この勝負、俺の詰みだ。
……とはいえ、すべてを諦めれば仕切り直しはできる。
イヴの心臓を抉って、賢者の石で力を増し、世界そのものを【
そうすれば、時間をさかのぼり、やり直すことができる。
懐かしい村に戻って、なにも失っていないところから。そこから、今度こそ幸せになれるよう積み上げればいい。今度はアンナさんも失わないように気を付けて。
しかし、そうしないと決めていた。
俺は、俺と一緒の時間を過ごした彼女たちが好きだから。
そのわがままを通すため、賭けをする。
合図がきた。
言葉はない、テレパシーでもない、魂の繋がりを用いた言うならばシンパシー。
『ご主人様、あと二十秒ほどなの』
それは神獣であり、俺の眷属であるグレンの声。
そう、グレンはあえて、この最終決戦では使っていない。
貴重な戦力であり、黒い力に対抗できる浄化の力を持つグレンを別行動させるのは戦力的には痛かったが、とある狙いがあった。
「ケアルぅ、愛する女の心臓を抉れないか? なら、俺が代わってやる」
「いいや、結構だ。汚い手でイヴに触れるな」
「ああ、いいぜ。しかし、俺は我慢弱い。あんまりぐずぐずやっていると手を出しちまう」
ブレットが喜悦に満ちた表情で俺たちを見る。
俺はイヴの胸に向かって手を伸ばす。
そして、グレンの合図から二十秒……とうとう仕込みが発動する。
「があああああああああああああああああああああ」
ブレットが叫びをあげる。
そこから一拍遅れて、俺の女たちを捉えていた黒い樹木が黄金の炎によって燃え上がり、その中身をこぼす。
ここまで隙が一切なかったブレットに隙ができる。俺の服の内側から子ぎつねが飛び出した。
「溜めに溜めた、グレンの超必殺技を喰らうの【絢爛狐炎】」
ブレットめがけて子ぎつねが、浄化の力を込めた黄金炎を吐き出す。
服の中に隠れながら、練りに練った渾身の一撃。
いつもとは比較にならない威力。
圧倒的な瘴気量を誇るブレットでもかなり効いているようで、後ろに下がる。
それを追いかけるように前へでると、ブレットの牽制射撃で足止めを喰らう。
背後で、焼け落ちた黒い樹木から俺の女たちが立ち上がる。
「びっくりしました。グレンの炎って熱くないんですね」
「私はたまに剣に纏っていたから知っていたわ」
「んっ、熱くないけど暖かい炎」
「あの駄獣の炎とは思えないぐらい、清らかで綺麗な炎だよね」
全員無事のようだ。
黒い化け物との戦いで苦戦することは想定済みだった。
だから、二つの保険を用意していた。
一つは、セツナたち全員の魂にグレンの浄化の炎を限界まで注いでいたこと。
魂にグレンの浄化の炎を限界まで貯めていたことで、動きが悪くなってはいた。
しかし、それでもこうして保険にはなる。
読みがあたり、まともに戦えば勝機が少ない、とびきり強力な黒い化け物を、内側から焼くという手段で撃退できる。
いわば、彼女たち一人ひとりが、とっておきの毒餌だったのだ。
「何をした! 急に魂から、炎が」
火傷を再生しながら、ブレットが問いかけてくる。
魂に込めたグレンの炎を解放するまえ、ブレットが一瞬硬直した。
それがなければ、女たちがグレンの炎を解放する前兆に気付き、炎を解放する前に殺されていただろう。
それをさせなかったのが第二の保険。
第二の保険は俺とグレン、それにここへやってきた精鋭部隊たちの力を合わせて可能になったもの。
俺とグレンが魂で繋がっているように、ブレットとその眷属たちも魂で繋がっている。
それは、ここでブレットと共に過ごしている間に気付いた。
だからこそ、観察し、その繋がりを利用する方法を編み出していたのだ。
つまり、ブレットと繋がっている眷属に、精鋭部隊がそれぞれの剣に宿しているグレンの力を注ぎ込み、魂のつながりを伝って本体であるブレットにダメージを与える。
ここに来る前、一時的にグレンと俺は別行動をとり仕込みをしていた。
俺の合図をグレンを通して精鋭部隊に送ることで、何十人もが黒い眷属にグレンの炎を同時に叩き込み、それを魂の繋がりを通してブレットに流し込む、そういう仕込みだ。
ぶっつけ本番、しかもグレンが気まぐれで精鋭部隊たちの武器に炎に宿していたからこそできたこと。
……そんな、いきあたりばったりだったからこそ、ブレットはこの手を読めず、一瞬の硬直に繋がったのだ。
その一瞬の硬直があったからこそ、女たちは逃げることができ、グレンの全力火炎を叩き込めた。
「ブレット、悪いな。過去には戻らない。俺は前へ進む! おまえは後悔を抱えて、もがき苦しめ」
おそらく、これが最後のチャンスだ。
魂を伝っての浄化の炎、外側からの大出力の浄化の炎。その両方をくらい、ブレットが弱体化している。
これだけの大技を喰らわせるのは最初で最後。
だから、ここで決める。
「ケアルうううううううううううう!」
ブレットの砲が煌めき、いくつもの砲撃が繰り出される。
しかし、それ以上の氷柱が次々と飛来して、砲撃と相殺し、さらにいくつかはブレットに突き刺さり、内側から凍らせていく。
「第六階位氷結魔術【氷柱舞】」
フレイアの魔法。
見た目は派手でない、それはこの氷の柱一つ一つに圧倒的な冷気を込めたからだ。
地味だからこそ、無駄がなく、とんでもない威力。
あのブレットですら、動きが鈍っている。
凍り付きながらでも、ブレットは砲を俺に向けて放つ。
その砲を光の槍が迎えうった。光の槍はそのまま砲撃を貫き、ブレットの心臓を抉る。
「私も少しはいいところ見せなきゃね」
脂汗を流しながら、黒い翼を広げてのイヴの一撃。
たった一発とはいえ、本気で放った魔王の力はブレットのそれを上回った。
グレンの炎とイヴは相性が悪く、先ほどまでは思ったように動けていなかった。その鬱憤も込められている。
「道具の分際で、俺の邪魔を」
「ブレットおじさま、それは油断じゃないかしら」
イヴに向かって吠え、そこに意識を集中したからこそ、クレハの神速の踏み込みを見逃した。
クレハはそこから、閃光のごとき居合。ブレットの砲を持つ腕がくるくると宙に舞う。
「おまえも邪魔をするか」
そんなクレハに傷口から黒い触手がいくつも伸びて遅いかかるが、後ろに下がりながらクレハはいなす。
「武器は奪ったわ。行ってケアルガ」
「奪われたところでっ。来い、タスラム!」
武器が手元から離れたと言って、【神造武具】は意思を持つ武器。
持ち主の声に応え戻ってくる。それを傷口から伸びた触手でブレットは受け止めるようとする。
しかし、飛来する神砲タスラムに向かい、横から小さな影が飛び蹴りをかます。
「させない。セツナにもこれぐらいはできる」
跳び蹴りの勢いで壁に砲をめり込ませ、そのまま動かないように氷漬けで固定。
なかなかやるな。
ブレットはグレンの炎でやかれ、フレイアの氷柱で内側から氷、心臓を抉られ、腕を斬り落とされ、武器を奪われた。
俺の女たちによってお膳立ては整えられた。
「ケアルガ様! お願いします」
「んっ、行ってケアルガ!」
「ケアルガ、決めなさい!」
「信じてるよ。ケアルガ!」
「ご主人様、いくの!」
それぞれの俺に後押しされるように俺は走る。
砲を失ったブレットは黒い触手で迎撃する。
砲に比べれば、まるで圧力は感じない。
力と速度の差から、躱せずに貫かれるが、それでも行く。
「ケアルぅ、また最初と同じことをするのか。おまえに俺は殺せない」
そうだな。
ここにやってきて最初の行動に似ている。
俺の女たちが道を作り、俺がブレットを【
当初用意していたカードは失敗に終わった。
だけど、もう一つだけカードは用意してある。
ギャンブル性が高すぎて、使うつもりがなかったカード。
エレンに言われて、そういう可能性もあると気付いた。
しかし、実験は失敗だった。
あまりにも馬鹿げすぎて、【
それでも今ならできる確信がある。
これだけ、女たちが頑張ってくれた。
それで俺ができなきゃ、カッコがつかない。
俺は、やり直しを選ばなかった。
やり直しを選ばなかったから、こんな窮地に陥った。
その責任を取らなければならない。
いや、責任を取るなんて後ろ向きな考えじゃなく、今の彼女たちと一緒にこの先を見たい。
だから、やるべきことをやる。
血反吐が口元を濡らす。
腹に空いた大穴から血がこぼれる。
ブレットが未だに俺を殺すきがないおかげで、急所を外れ死なずに済んでいるが、もし奴がその気なら殺されていたな。
「たどり着いたぞ」
奴の禿げ頭を鷲掴みにする。
「たどり着いてどうする。【
【
【
【
対象と力の差がありすぎる場合、本能が拒否するような術式は効きが悪い。ブレットには【
なら、【
癒し殺す、その方法が一つだけ存在する。
「【
俺の全魔力を使った【
ブレットの笑いが凍り付いていく。
「なっ、なんだ、これは、俺の、俺の力が、消え、いや、もど」
「ああ、そうだよ。俺の、癒しの勇者の【
ブレットの体が徐々に戻っていく。
黒い力が消え失せ、顔から皺が消え、皮膚に張りが出ていく。 魔力がレベルが消えていく。
それだけじゃない。筋肉がしぼんで、背丈が縮み、髪が伸び、ついには俺の背丈を下回り、頭を鷲掴みにしているか体が宙に舞う。
「なっ、なんだ。これは、俺はいったい」
「ああ、お望み通り巻き戻してやったんだよ。二十年前ほどのおまえを正常な状態に設定し、そこまで【
俺はかつて世界そのものを四年前に状態を正常と定義して【
それを個人レベルにまで落としたものがこれだ。
対象を世界ではなく、個人まで限定すれば、賢者の石の力なしでもやれるという仮説はあった。
もっとも、個人レベルに落としても、火事場の馬鹿力でようやくなのと、ブレット本人が巻き戻しを望んでいたから無意識の抵抗がなかったのが大きい。
「ブレット、わかっているだろうなぁ。今のお前は、勇者の力どころか、クラスすら得ていない、レベルもない、鍛錬もしてない、ただの無力なガキだ。そう、おまえの大好きな少年だ」
「……そういうことか。さすがだなぁ、ケアル。俺の負けだ」
この状況だと言うのに、ブレットは笑っている。
その声は少年の甲高いもの。
俺はブレットを片手で投げると、壁にぶつかり骨の砕けた音が聞こえた。
力を失う前なら壁のほうが砕けていただろう。
ブレットは何もかも失った。
「覚悟しろ。おまえが、俺や少年たちにやったようなことを、その身で味わうことになる。おまえのお仲間、少年大好きなサド野郎を手配してやる。きっと可愛がってもらえるぞ。嫌なら今すぐ舌を噛み切ることだ」
「死ねないねぇ。生きてさえいればまだ次がある。まぁ、しばらくはケアルが与えてくれる責め苦を楽しむとしようか」
ブレットが気を失った。
ただの無力な少年になった奴はこれから、地獄の日々を味わうだろう。
それを見届け、膝をつく。
「ケアルガ様ぁ!」
「だいじょうぶ!? ケアルガ様」
フレイアとセツナが駆け寄ってくる。遅れてクレハとイヴ、グレンも。
自分に【
でも勝ったんだ。
ようやく、俺の復讐は終わった。
いや、終わってないか、ブレットに地獄の苦しみを与えなけれれば終わらない。
それこそ、あのブレットが自分から殺してくれと懇願するような。
「あとは頼む」
それだけ言い残して意識を手放す。
俺が眠っている間は、フレイアたちがやってくれるだろう。
2/1に発売される回復術士五巻(スニーカー文庫)にはドラマCD同梱版もあります!
↓の画像をクリックでキャスト情報、視聴などが乗っている特設ページに飛べます!
《アニメ公式サイト》http://shieldhero-anime.jp/ ※WEB版と書籍版、アニメ版では内容に差異があります。 盾の勇者として異世界に召還さ//
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。 「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」 これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。 自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
※タイトルが変更になります。 「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」 異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
◆カドカワBOOKSより、書籍版15巻+EX巻、コミカライズ版7+EX巻発売中! アニメBDは6巻まで発売中。 【【【アニメ版の感想は活動報告の方にお願いします//
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。 世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
※漫画版もあります! コミック アース・スター( http://comic-earthstar.jp/detail/sokushicheat/ )さんで連載中!//
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
とある世界に魔法戦闘を極め、『賢者』とまで呼ばれた者がいた。 彼は最強の戦術を求め、世界に存在するあらゆる魔法、戦術を研究し尽くした。 そうして導き出された//
辺境で万年銅級冒険者をしていた主人公、レント。彼は運悪く、迷宮の奥で強大な魔物に出会い、敗北し、そして気づくと骨人《スケルトン》になっていた。このままで街にすら//
勇者の加護を持つ少女と魔王が戦うファンタジー世界。その世界で、初期レベルだけが高い『導き手』の加護を持つレッドは、妹である勇者の初期パーティーとして戦ってきた//
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。 運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。 その凡庸な魂//
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。 あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
【3月5日書籍二巻発!】amazonにて予約購入できます!! 月刊コンプエースにてコミカライズ連載中! 平凡なモブを演じる少年。だが真の実力は――最強。 //
\コミカライズ開始!/マンガUP!様より11月1日から。※書籍版1、2巻発売中※ 【8章スタート!】ちらりとでも読みにきてー(´・ω・`)ノシ 至高の恩恵(//
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中! 魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた! え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
この世界には、レベルという概念が存在する。 モンスター討伐を生業としている者達以外、そのほとんどがLV1から5の間程度でしかない。 また、誰もがモンス//
記憶を無くした主人公が召喚術を駆使し、成り上がっていく異世界転生物語。主人公は名前をケルヴィンと変えて転生し、コツコツとレベルを上げ、スキルを会得し配下を増や//
4/28 Mノベルス様から書籍化されました。コミカライズも決定! 中年冒険者ユーヤは努力家だが才能がなく、報われない日々を送っていた。 ある日、彼は社畜だった前//
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
放課後の学校に残っていた人がまとめて異世界に転移することになった。 呼び出されたのは王宮で、魔王を倒してほしいと言われる。転移の際に1人1つギフトを貰い勇者//