ところで「飛び地」って、なに?
このHPは「世界飛び地領土研究会」と銘打っていますが、書きたいところを書くってポリシーで 作ってますんで、実際には飛び地とは言えないような場所をたくさん紹介しています。では、厳密に言って「飛び地」とは一体どういう場所のことを指すもの で、世界には一体いくつあるのでしょう?以下は、ワタシ流の「飛び 地の定義」です。
飛び地とは、他国の領土によって本土から隔絶された場所のことであ る。具体的には、2種類あると思います。(A)周囲のすべてを他国に囲まれた、内陸の飛び地 →例:ナ ヒチェバン(B)の場合は船を使えば他国を通らずに本土と行き来できますが、(A)の場合は他国の領土を 通らないと本土へ行くことはできません。現代では飛行機でピューッと飛ぶという選択肢もありますが、実際問題として(A)の飛び地は空港が作れないような 村単位、集落単位の小さな飛び地がほとんどなので、空を飛んでゆくことは不可能な場合が多いです。いずれにしても「領空」は通過しなくてはならないです ね。
(B)陸上では他国の領土によって隔絶されているが、海などに面している飛び地 →例:カ リーニングラード、ア ラスカ
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(A)タイプの飛び地(アゼルバイジャンのナヒチェバン) と、(B)タイプの飛び地(東ティモールのオエクシ)さて、その一方で「これは 飛び地とは言えない」という除外規定もあると思います。
(1)島は飛び地ではない →例:伊豆大島は「日本の飛び地」とは言 わない。(1)については、逆に島が本土(首都がある)の場合も、大陸部は飛び地ではないでしょう。 →例:デンマーク、赤道ギニア
(2)植民地や海外領土は飛び地ではない →インドは「イギリスの飛び地だった」とは言わ ない。
また、他国の領海・水域内に島がある場合は、飛び地(C)だといえます。 →例:リコマ島、チスムル島(2)については、「じゃあ、植民地ってなに?」ということになりますが、植民地とは以 下の条件をすべて満たした地域です。
(ア)その国の固有の領土ではなく、新たに征服、併合、割譲などに よって獲得した地域。かつての日本の例で言えば、台湾、朝鮮、樺太、関東州(租借地)、南洋群島(委任統治領)が植 民地です。これらの地域はもともと日本の領土ではなく、日清戦争以降に新たに獲得した領土で、もともと日本人が住んでいたわけではなく、異なった民族が住 んでいました。また日本本土(内地)とは別の法律が適用されていて、内地では法律は帝国議会で制定しますが、植民地では総督(台湾、朝鮮)や長官(樺太、 関東州、南洋群島)が制定していました。そして植民地(外地)では帝国議会への参政権がなかったり、徴兵の義務や義務教育がなかったり(台湾では1943 年から実施)と、内地とは異なった立場に置かれていました。
(イ)歴史的に、本国とは異なった民族(先住民)が居住していた地域。
(ウ)本国とは異なった法域(異なった法律が適用される地域)に置かれ、先住民の権利や義 務も本国民とは平等で無い地域。したがって、台湾や朝鮮、関東州は「日本の飛び地だった」とは言わず、同様にインドや オーストラリア、カナダ、香港、ジブラルタル、ピトケアン島は「イギリスの飛び地(だった)」とは言わず、ベトナムやアルジェリア、ポンデンシェリ、サン ピエール島は「フランスの飛び地(だった)」とは言わず、モザンピークやマカオ、東ティモール、ゴアは「ポルトガルの飛び地だった」とは言いません。 まぁ、つまり、世界飛び地領土研究会で取り上げた場所は、ほとんど飛び地では無いということです(笑)
最近では植民地に代わって、海 外領土と称する地域があります。これは1960年に国連総会で「植民地独立付与宣言」が決議 され、国際的に植民地を領有し続けてはいけないということになったので、植民地の住民に本国民と同様の権利を与え、上の3条件で言えば(ウ)ではなくなっ たので「もう植民地じゃないですよ。海外にある領土です」と言うことにしている地域ですが、やはりこれも実質的には植民地の現代ヴァージョンだといえま す。
植民地を飛び地と認定してしまった場合、かつてのイギリスの「飛び地」ただし、植民地の飛び地というのは存在します。例えば東 ティモールはかつてポルトガルの植民地でした。植民地は飛び地ではないので、「東ティモールはポル トガルの飛び地だった」とは言えません。ただしティモール島にはもう1つオ エクシというポルトガル領の場所があり、ここもティモール総督の管轄下で東ティモールと同じ法律、 行政制度で統治されていました。
植民地を飛び地と認定してしまった場合、かつてのフランスの「飛び地」となると、以下のようなことが言えそうです。
・東ティモール(ポルトガル領ティモール)は、ポルトガルの飛び地で はなかった(植民地だから)
・オエクシはポルトガルの飛び地ではなく、ポルトガル領ティモールの飛び地だった(東ティモールの 総督に統治されていたから)同様に、以下のように言えるでしょう。
・ゴアはポルトガルの飛び地ではなかったが(植民地だから)、ディウ、ダ マンはゴアの飛び地だった。「植民地や海外領土は飛び地ではない」と定義しながら、こ ちらのページでは「モロッコの北岸にスペイン領の小さな飛び地の町が2つある。1つはセウタ、もう1つはメリリャ」と書いてみたり、こ ちらのページでは「アフリカの西海岸にあった面積たった2ヘクタール、つまり100m×200mしかないポルトガルの飛び地」と書いてみたり、こ ちらのページに至っては、沖縄はアメリカの旧飛び地、香港はイギリスの旧飛び地、マカオはポルトガルの旧飛び地だと言い出して、明らかに矛盾して いるわけですが、書きたいことを書くってポリシーで作ってるHPですので、そのへんはあまり深く気にしないで下さいね(笑)。
・ゴ ゴラ、シンボールはディウの飛び地で、ダ トラ、ナガルハベリはダマンの飛び地だった。
・ポン ディシェリはフランスの飛び地ではなかったが(植民地だから)、カ リカル、ヤ ナム、マヘ、シャ ンデルナゴルはポンディシェリの飛び 地だった。
・膠 州湾はドイツの飛び地ではなかったが(植民地だから)、イ エシケ岬と塔 埠頭、紅石崖は膠州湾の飛び地だった。
・香 港はイギリスの飛び地ではなかったが(植民地だから)、その中にある九龍城砦は中国の飛び地だった(植民地ではないから)。
・関 東州は日本の飛び地ではなかったが(植民地だから)、その中にある金 州城は中国の飛び地だった(植民地ではないから)。
・威 海衛はイギリスの飛び地ではなかったが(植民地だから)、その中にある威 海衛城は中国の飛び地だった(植民地ではないから)。
・広 州湾はフランスの飛び地ではなかったが(植民地だから)、仏領インドシナの飛び地だった。
世界で現存する飛び地
(A)タイプの飛び地:内陸の飛び地
地名 領有国 取り巻く国 数 現状 ヴォ ルフ、ジャンヤウル タジキスタン キルギス 2 △ Sarvan タジキスタン ウズベキスタン 1 △ ソ フ、カラチャ ウズベキスタン キルギス 2 △ 住民の多くはタジク人。周囲は地雷原だったが撤去中 シャ イマルダン、ジャンガイル ウズベキスタン キルギス 2 △ ウズベキスタンが周囲に地雷を敷設。現在撤去中 バ ラク キルギス ウズベキスタン 1 ■ 最近ようやく本土との通行が可能に バイコヌール ロシア
タジキスタン
1
○ ロシア が租借中の宇宙基地と都市
ク チビハール インド バングラデュ 129 ■ 二重、三重の飛び地あり ク チビハール バングラデシュ インド 95 ■ 二重、三重の飛び地あり。一部で本土への回廊を設置 マ ダ オマーン アラブ首長国連邦 1 ○ ナ ワ アラブ首長国連邦 オマーン 1 ○ 飛び地解消に住民が反発 Ormidhia、 Xylothimbou、デケリア発電所北部 キプロス イギリス 3 ○ 周囲はイギリス軍の軍事基地 ナ ヒチェバン アゼルバイジャン アルメニア 1 ○ 自治共和国を結成 キャ ルキ アゼルバイジャン アルメニア 1 × アルメニア軍が占領し、住民は難民となってナヒチェバンへ 上アスキバラ、バルフダリ、タトリー アゼルバイジャン アルメニア 4 × アルメニア軍が占領し、住民は難民に Artchvashen アルメニア アゼルバイジャン 1 × アゼルバイジャン軍が占領し、住民は難民に Sankova-Medvezhe ロシア ベラルーシ 1 - 放射能汚染で無人地帯 ビュージンゲン ドイツ スイス 2 ○ ベンバーン鉄道沿線 ドイツ ベルギー 5 ○ 観光鉄道化に失敗 バールレ・ヘートグ ベルギー オランダ 22 ◎ 飛び地が目玉の観光地 バールレ・ナッソー オランダ ベルギー 8 ◎ バールレ・ヘートグ内の二重飛び地 リヴィア スペイン フランス 1 ○ パランカ モルドバ ウクライナ 1? - 無人の湿地帯。すでに消滅? サスタビキ ボスニア・ヘルツェゴビナ セルビア・モンテネグロ 1 ■ 両国政府で国境線の修正を協議中 ブ レゾビカ クロアチア スロベニア 1
○
(B)タイプの飛び地:海や湖に面した飛び地
地名 領有国 取り巻く国 数 現状 デ ンブロン ブルネイ マレーシア 1 ○ 水上集落の国なので住民は本土とボートで行き来 オ エクシ 東ティモール インドネシア 1 △ 陸路封鎖のため本土へはフェリーのみ ム サンダム半島 オマーン アラブ首長国連邦 1 ○ デ ケリア発電所南部 キプロス イギリス 1 - 発電所の敷地 ア クロティリ イギリス キプロス 1 - 植民地デケリアの飛び地。軍事基地 ドゥ ブロヴニク クロアチア ボスニア・ヘルツェゴビナ 1 ○ エンゲブ イスラエル シリア 1 ○ 周囲をイスラエルが占領中 カ リーニングラード ロシア リトアニア、ラトビア 1 ○ 陸路での本土との行き来には簡易ビザが必要に Vistytis ロシア リトアニア 2? △ すでに消滅? Dubki ロシア エストニア 1 △ カンピオーネ・デ・イ タリア イタリア スイス 1 ◎ カジノがウリのリゾート地 カビ ンダ アンゴラ コンゴ民主共和国 1 ○ 独立ゲリラが存在 ア ラスカ アメリカ カナダ 1 ○ ロバーツ岬 アメリカ カナダ 1 ◎ カナダからの買い物客で賑わっているらしい Angel Inlet アメリカ カナダ 1 ○ エルム岬 アメリカ カナダ 3 - 何も無い湿地帯 プロビンス岬 アメリカ カナダ 1 - 100メートルも無い狭い土地 (C)タイプの飛び地:他国水域内の飛び地
地名 領有国 取り巻く国 数 現状 リコマ島、チスムル 島 マラウィ モザンピーク 2 △ 本土へは3日に1便の船のみ マーチン・ガルシア 島 アルゼンチン ウルグアイ 1 ○ 元監獄島 ※世界的に非公認な国(北キプロス、ナゴルノカラバフ)や正式に独立していない国(パレスチナ)の飛 び地は含みません。
※現状の目安
◎=飛び地をウリにして潤っている、恵まれた飛び地。
○=本土と自由に行き来ができ、または飛び地の中だけで不便なく生活できる、まだマシな飛び地。
△=本土との交通が制限されて不便な、一般的な飛び地
■=本国政府による住民サービスもままならない、不幸な飛び地
×=紛争により住民が住める状況ではない、最悪の飛び地