オーバーロード 拳のモモンガ   作:まがお
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この話は前作よりもかなり真面目に、シリアスな感じで作ったつもり……のはず。
いまいち緊張感が出ないのは何故だろう?

今回は今後の展開のための話です。


各国のあれこれ

 ツアレは非常に困った事実に直面していた。いつまでもモモンガに頼り切りではいけないと、一人であれこれ悩むが答えは出ない。部屋の中をグルグルと回り、ベッドでゴロゴロと考え続ける事三十分。

 結局自分ではどうしたら良いかわからず、身近に頼れる唯一の大人――モモンガに相談することを決めたのだった。

 

 

「どうしましょうモモンガ様……」

 

「どうしたんだ、今日も物語を披露しに行くんじゃないのか?」

 

 

 最近はモモンガがついて行くことも少なくなり、一人で出かける事も増えてきた。

 音楽の出るマジックアイテムを大事そうに抱えながら、意気揚々と宿を出る姿を昨日も見送ったものだ。

 

 

「実は、お金が貰えないんです……」

 

「はい?」

 

「お捻り、投げ銭、お布施、言い方は何でも良いです。それが貰えないんです」

 

「最後のは違うような…… ふむ、それはいつからだ?」

 

「最初から…… というか、今までもらった事ありません……」

 

「……」

 

「うぅ、私、吟遊詩人の才能無いんですかね」

 

 

 眉を八の字にし、弱々しい声をだすツアレ。

 ついに現実――お金という壁にぶつかる時期になってしまったか。

 音楽や物作り等にも言える事だが、趣味のレベルならそこそこ満足するものは作れる。

 だが、お金を貰うという域に入ると格段に難しくなるのだ。

 それが悩み所らしいんだよなぁと、かつてのギルドメンバーとの会話を思い出す――

 

 

「はぁ、ネットで出した時の反響はそこそこ良かったんだけどなぁ。同人誌にするとまるで売れなかったんだよね。何がダメだったんだろう……」

 

「それは残念でしたね。どんな内容だったんですか?」

 

「聞かない方がいいよ、モモンガさん。あんなニッチなもん売れるわけねーだろ愚弟が」

 

「メイド成分が足りなかったんだ。ヒロイン全員にメイド服を着せていたら最高だった。むしろそれだけで最強。ビバ、メイド服」

 

「いやいや、やっぱり獣成分ですよ。ケモ耳に尻尾のある女の子って可愛くないですか? いや、普段は生えてなくて、変身したらってのも良いな。褐色なら尚良し」

 

「甘いな、黒髪ポニテこそが至高だ」

 

「皆さんは分かっていませんね。ヒロインの魅力を引き出すもの、それすなわちギャップですよ」

 

「モモンガさんはどう思う? ぶっちゃけ性癖なに?」

 

 

 ――うん、やめよう。

 うちのギルドにはこんな奴しか居なかったのかと頭を抱えたくなる。いや、記憶を探ればもっと良い、そうカッコイイ思い出もあるはずだ。

 最近は彼らの事を思い出しても平気になりつつあるが、今はツアレのことだと頭を切り替える。

 

 

「そんな事はないと私は思うが」

 

「でも銅貨の一枚も貰えないんですよ? ごく稀にお菓子とか食べ物をくれる人がいるくらいです……」

 

 

 モモンガは今まで気にした事は無かったが、これは確かに不味い。お金を稼ぐ事が出来なければ将来生きてはいけない。

 そして何より現在のモチベーションにも関わる。拍手や歓声といったものも大事だが、金額という形として貰える反応も大切だ。

 

 

「うーん、今はまだ子供だからって要因もあるんじゃないのか?」

 

「広場に来ている人の数も心なしか減っている気がするんです……」

 

 

 ネガティブな思考の渦に飲み込まれていくツアレ。しかし、それを聞きながらモモンガは不思議に思う。

 立ち止まる人が少なくなったなら分かるが、人の数そのものが減るのは少しおかしい。

 何やらきな臭いものを感じ、立ち上がる。どうせ今は目的も無くて暇なのだ、少し調べてみてもいいだろう。

 

 

「ツアレ、私はちょっと出てくる。ああ、それと上手くいかない時は休むことも大事だぞ。時間を置けば自然とアイディアが浮かぶこともある」

 

「あ、はい、いってらっしゃい」

 

 

 宿を出たモモンガが目指すのは酒場。

 自分にとって情報収集といったらこれである。

 

 

 

 

「はぁ、やっぱりこの国を滅ぼした方がいいかしら」

 

 

 自国の王城に住みながら物騒な事を呟く少女。

 明るくてちょっと恥ずかしがりやで、天然で抜けているところもあるけど笑顔の可愛い――そんな極限までのプラスイメージをモモンガに植え付けたラナーである。

 

 

「モモンガ様は地位とか名誉に全く興味が無いのよね。国を良くしようかと思ったけど、結局冒険が好きだから留まってはくれないでしょうし意味無いわね」

 

 

 御前試合の後、それとなく自分に仕えるような事を聞いてみたが、結局やんわりと断られている。さらに、彼は珍しい物は好きだが、金銭に興味はないようだった。

 地位や金銭に価値を感じないのなら、自分の使える手札は意外と少ない。

 世間一般から見て自分の容姿は最高クラスだと自負しているが、同様に自分がまだ子供だと言う事も理解していた。成人を迎えるという意味でも、後数年は女としての魅力を武器には使えないだろう。

 相手の美醜感覚が普通で、特殊な性癖を持たないという前提の話だが。

 

 

「ああ、王女だとバラした時の反応、名前で呼んでくださいと言った時の対応……」

 

 

 モモンガ様は普通に驚いてくれた。

 そして何より王女の威光にではなく、歳下からのお願いに折れてくれた。

 

 

「もっと見てもらいたい。ずっとずっと私だけを……」

 

 

 あの後、正体はバレているのだから顔を見せて下さいと言ったら、なんと鎧が消えてローブ姿になった。なぜか腕の籠手だけは別のものを着けたままだったが。

 まさか鎧ごと魔法で作っていたとは思わず、モモンガ様が自分をまた驚かせてくれた事が嬉しかった。

 ついでに腰を抜かしたフリをして、その場で転んでみたら手を差し出してくれた。籠手越しだが、手を握る事にもちゃっかり成功している。

 転んでもただでは起きない――本当は失敗などしていないが――演技派のラナーだった。

 

 

「私を私として見てくれる。隣にいる普通の人間、ツアレに向けるものと変わらない、優しい瞳」

 

 

 自分が一人ではないと、人間であると実感できる。あの暖かい視線を手に入れるにはどうすればいいか考える。

 実際は父親であるランポッサ三世もラナーに親として、十分に愛情のこもった目は向けている。

 だが、ラナーは本当の自分にすら気がつかず、時折この国の第三王女として見る様な目には興味がなかった。

 自分はもっと純粋な思いが欲しいのだ。

 

 

「そうね、逆の発想をすればいいのよ。国を滅茶苦茶にして助けに来て貰えばいいんだわ」

 

 

 モモンガは積極的に誰かを助けるような善人ではない。だが、一度知れば見て見ぬ振りが出来るほど悪人にはなれない。優しさと甘さの両方を持つ、力はあるが普通の人。

 目立つ事を避けたいが為、理性では行動する事を否定しながら、何かと理由をつけては手を伸ばすのだろう。

 これはラナーが実際に話した時に感じた事と、今まで集めた情報から判断したものだ。

 今度こそ間違っていないと確信している。

 

 

「何人不幸にすれば貴方は気付いてくれるのかしら。何人悲鳴を上げれば貴方の耳に届くのかしら。何人の死を積み上げれば貴方の目に映るのかしら――」

 

 

 この国に問題など山の様に溢れている。そこを突けば国の崩壊は早まるだろう。

 国はモモンガを呼ぶ為の巨大な呼び鈴、壊れたら捨てればいい。

 こんな国など消えようが最終的に帝国が統べようが自分には関係ない。たとえ帝国に吸収されても、自分が処刑されないだけの価値や状況を作っておけばいいのだ。

 

 

「――気が付かないなら、直接会いに行くだけですけどね……」

 

 

 ――そのために全てを利用する。

 

 

「まずは孤児院でも作って、それと犯罪組織の動きを活発にさせなきゃ。王派閥と貴族派閥の対立も煽らないと…… そうだわ、使える政策で密偵(メイド)にアピールするのも忘れないようにしないと」

 

 

 彼女は笑顔を浮かべながらこれからの事に想いを馳せた。

 この身を焦がすような思い。破滅も全て覚悟の上だ。

 神に縋ったり祈るような不確実な事はしない。

 全てを自分の手で、貴方の瞳に自分の姿が映るまで何度でも繰り返そう。

 

 部屋の片隅にある鏡、そこに反射する彼女の姿。

 その目は映る光の全てを飲み込むような暗さだった。

 

 

 

 

「――王国から流れてきている麻薬に関してはその様に致します。次の報告ですが、王国で御前試合が行われたようです。そこで王が平民を取り立てた事で少し話題となっているようです」

 

「ほう、彼らも血ではなく能力の重要性にやっと気がついたのかな。それとも我が帝国の真似事かな」

 

 

 次々と出てくる部下からの報告を聞き、小馬鹿にした様な声を返すのはこの国の若き皇帝――ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。

 ちなみにこの言葉は皇帝なりの冗談だ。彼は王国が変わったなどとは微塵も思っていない。

 王国が大幅な方向転換をしたというなら帝国も対策を考えるべきだが、たった一人平民を召抱えただけなら問題にはならないと判断している。

 寧ろその平民が王派閥と貴族派閥の対立の元となり、国の纏まりを崩してくれるとさえ思っていた。

 

 

「彼らにそれだけの知恵があるかは不明ですが…… それと密偵によると第三王女が病から回復した様ですね」

 

「ああ、それは私も小耳に挟んで気になっていた。なにやら急に元気になったと思ったら、見事な政策を提案しているそうじゃないか」

 

「貴族派閥の横槍でまともに通ってはいないみたいですがね」

 

 

 苦笑いしている部下の話を笑って聞きつつも、ジルクニフは妙な引っ掛かりを覚えていた。

 それらの政策は帝国に取り入れて良いと思えるレベルの物ばかりで、実際にいくつかそうしようと彼は考えている。

 しかし、あれ程の策を考えられる者が手回しを怠るのかと。第三王女で後ろ盾も無く、年齢も考えれば当たり前とも思えるが違和感は拭えない。

 

 

「すみません、報告漏れが一つ。御前試合にて取り立てられたガゼフ・ストロノーフという人物ですが、彼は優勝者ではなく準優勝だそうです」

 

「二番手を取り立てるとは思い切った事をしたものだ。そいつは余程の者だったのか? 期待は出来んが、本当に強ければ私が直接スカウトしたいくらいだ。それで勝ったのはどんな奴だ?」

 

 

 ジルクニフは能力を重視するため、敵の兵士であろうと勧誘する。皇帝が身分や過去に拘らないのは既に周知の事実のため、帝国でその事に反感を覚えるものは少ない。

 仮に貴族などが反対しても、何か出来るほどの力はそいつらに残していない。改革の際にほとんど削ぎ落としている。

 しかし、そんな帝国と違って今の王国でそれをするのは不味い。

 只でさえ平民だというのに、一番ですらない者を王が取り立てるのは問題だろう。派閥間の争いをどうにかできるなら別だが。

 

 

「ええ、無名の戦士で『モモン・ザ・デスナックラー』というそうです。全身鎧でグレートソードを二本も振り回す凄まじい強さの男だったとか」

 

「……そうか」

 

 ――アイツだな。

 

「王の誘いを断って、なにやら一緒にいた子供と国宝だけ見て帰ったそうです」

 

 ――思いっきりあの子のためだな。

 

「ガゼフという男は、きっと相手が悪かったのだな……」

 

 

 闘技場であれだけ暴れた男だ。王国の御前試合程度、優勝しても何もおかしくはない。

 ガゼフという男も結構強かったのではないか。そう思い直すジルクニフだった。

 

 

 

 

 戦争が起こる際を除き、年中霧が晴れず大量のアンデッドが跋扈する呪われた土地――カッツェ平野。

 帝国の兵士クライムはこの場所でアンデッド狩りをする予定だ

 弱いアンデッドを放っておくと、それに引き寄せられる様に段々と強い存在が現れるからだ。それを防ぐために帝国と王国の両者が度々行っている。

 もっとも今のクライムは修行の為という意味合いが強いが。

 

 

「本気で殺しにくる相手と戦う事で得られるものもある。万が一お前が勝てない様な相手が出てきたら全力で逃げ出せ」

 

「はいっ!!」

 

 

 クライムにそう告げるのはわざわざ監督をしに来てくれたバジウッド・ペシュメル。

 雷光の異名を持つ帝国四騎士の筆頭。そして今はクライムの教育係だ。

 バジウッドはクライムの将来ぶつかる限界を見据え、それを打ち破ることが出来るか見極めようとしていた。

 

 

「では行って参ります!!」

 

「おう、あんまり深くは行きすぎるなよ。訓練じゃなくて自殺になっちまうからな」

 

 

 バジウッドは笑いながらクライムを送り出す。自らが鍛えた弟子の初陣だ。

 正直かなり荒っぽいやり方だとは思う。しかし才能の無い者――クライムが限界を超えるには必要だと思っていた。

 死の寸前まで追い詰められなければ発揮出来ない類のものもある。今のクライムはまだまだ成長期だから、今回は壁にぶつかる前のテストといったところだろう。

 

 

「死ぬ目に遭いつつ無事ってのがベストなんだがな……」

 

 

 霧があるためクライムの姿はもう見えない。戦闘などで激しい音が鳴らないかぎりはどこにいるかも分からないだろう。

 厳しい事をやっているが、バジウッドはクライムの事を結構気に入っている。

 そのため危険が迫れば死ぬ気で助けるつもりだが、そんな甘い事までは伝えていない。

 バジウッドはいざという時のため、耳を澄ましてクライムの様子を探るのだった。

 

 

「霧が濃い…… アンデッドはどこから……」

 

 

 視界が悪く、迂闊に進めば思わぬ接敵を許すことになる。そんな死の恐怖を感じながらもクライムは慎重に進んでいた。

 歩くだけで消耗するような緊張の中、一キロも進まない内に人影を見つけた。

 すぐさま対応出来るように剣を抜き、盾を構えながらゆっくりと近づいていく。

 しかし、いたのはアンデッドではなく老婆だった。日向ぼっこでもする様な気軽さで地面に座り込んでいる。

 もしかしたら怪我をして動けないのかもしれない。そう思ったクライムはさらに近づいた。

 

 

「こんな所になぜお婆さんが…… 大丈夫ですか? ここは危険です。もし歩けないのなら私が背負いますから、直ぐに避難を――」

 

「ん、アンタは冒険者かい? こりゃえらく若いねぇ」

 

 

 クライムが声をかけると快活な声が返ってきた。フードを被った老婆は長い白髪を一つの大きな三つ編みにして、腰にはなんと剣まで下げていた。

 

 

「いえ、自分は帝国の兵士をしております。クライムといいます」

 

「そうかい、わしの事は気にせんでもええ。これでも若い頃は冒険者をやっとったんじゃからな」

 

「いえ、それでもこの様な所に置いていくのは……」

 

「わしより弱いお前さんに何が出来るんじゃ?」

 

 

 初対面の相手から、いきなりのズケズケとした物言い。クライムは怒りよりも驚きで言葉に詰まった。

 いくら過去に冒険者をやっていたとしても、この見た目なら引退してかなりの年月が経っているだろう。

 流石に自分がこの老婆より弱いとは思えなかったが、人に誇れる程強いとは思っていない。そのため否定して言い返すのも情けなく感じた。

 

 

「弱くとも私は帝国の兵士です。今は引退されているのですから、一般人を守るのは兵士の務めです」

 

「子供が持つにはちと大きすぎる程に立派な志じゃのう。じゃが――」

 

 

 老婆は変わらず笑っていたが、急に真面目な顔になる。

 

 

「――お前さん、気持ちは立派じゃがそれに見合う才能がカケラもないのぉ。兵士には向いとらんのじゃないか?」

 

「なっ、いきなり何を言うのですか。何も知らない貴方に言われる筋合いはありません」

 

 

 ここまで来ると流石にクライムの声にも少しだけトゲが混じる。

 それを聞いた老婆は怒るでもなく、ふっと顔を緩めながら遠い目をした。

 

 

「すまんの、歩き方や気配なんかで分かってしまうのじゃよ。お前さんは強くはなれんよ。強者の持つ覇気が、才能が圧倒的に欠けておる。これでも長い事冒険者をやっとったからな…… まぁ、年寄りの戯言と聞き流してくれてもええ」

 

 

 老婆の放つ不思議なオーラに納得しそうになるが、クライムの意思は変わらない。

 

 

「いえ、たとえ才能がなくとも、強くなれずとも私のやる事は変わりませんから」

 

「頑固じゃの。そこまでしてお前さんは何がしたいんじゃ?」

 

「人々を助けられる騎士になる。私が目指すのはただそれだけです」

 

 

 微塵の迷いもなく、ただ真っ直ぐに老婆の方を向いて答える。

 それはあの日より一度として変わらないクライムの夢。

 才能が無い。それがどうした。

 命を救ってくれた憧れの一人は、凡人の自分とは別種の存在。そんな事は知っている。

 これまでの訓練でも別の道はどうだと、気を使われながらも聞かれたことがある。それこそバジウッド様からも初めに伝えられている。

 だがそれは夢を諦める理由にはならない。

 

 

「はっはっはっ、こりゃ筋金入りじゃの。ああ、良い目をしとるよ。才能が無い事だけが悔やまれるの」

 

 

 自分の目をじっくりと見つめた老婆は急に笑い出した。つまりはやる気しか無いと言いたいのだろうか。

 ひとしきり笑った後、老婆はこちらに向き直る。さらに自らの手から一つの指輪を外し、こちらに渡してきた。

 

 

「ああ、笑って悪かったね。お詫びにこれをやるよ」

 

「い、いえ、事実ですし、そのお気持ちだけで結構ですので!!」

 

「良いんだよ、わしにはもう必要の無いものさ。若いもんが引き継ぐ時だろう…… これはね、限界を打ち破る指輪さ。使えば少しの間だけ自分の才能を超えた力を発揮できる」

 

「えっ!?」

 

 

 そんなマジックアイテムなど尚更受け取れない。そう言って返そうとするが、老婆は自分の手の平を掴んでそれを乗せてきた。

 目の前にあると思わず観察してしまうが、指輪は小さな宝玉を爪が掴む様なデザインをしている。

 

 

「これにそんな力が……」

 

「お前さんの夢、叶うと良いねぇ。才能の無い坊や――クライム、わしも応援しとるよ」

 

 

 クライムにはこれがどれほど価値があるものなのか、全く見当もつかない。

 気持ちは嬉しいが、やはり受け取るべきでは無いと思う。

 

 ――強い力にはリスクがあるからね。滅多な事では使うんじゃ無いよ。

 

 

「あのっ!! あれ、いない……」

 

 

 しかし、顔を上げると目の前には誰もいない。指輪に意識がいっていた間に老婆の姿は完全に消えてしまっていた。

 聞きたい事は沢山あったが仕方がないと諦める。クライムは無くさない様に指輪を着け、いつかまた会った時に返そうと思った。

 

 

「あっ、いけない。バジウッド様を待たせてしまう」

 

 

 ここへ来た本来の目的を思い出し、クライムは慌ててきた道を戻って行った。

 

 

 

 

 とある国の上層部が行なっている、秘密裏の会議。

 この国は元々秘密が多いが、この件は国内に絶対に知られてはいけない相手がいる。それにより本当に極少数しかこの会議の内容を知らない。

 

 

「アレの様子はどうだ?」

 

「制御は問題ないようだ。装備も問題なく使いこなせている。伸び代が残っているのなら、以前やられた正体不明の修行僧にも勝てる様になるだろう」

 

「そうか、このまま上手くいけば第一席次と合わせて、動かせる中では最強の手札が増える事になろう」

 

「既に人間では手に負えないレベルの強さですがね。もう少し記憶が残っていれば相手も判明したのですが……」

 

「ふん、その相手の顔だけ分からぬとはな…… アレに嘘はつけぬ筈だが腹立たしいものよ」

 

「思い出せぬのなら仕方ない。それに顔の殴打された傷跡を見れば分かる。相手は確実に修行僧系の人物だ」

 

「アレの使い道ですが、ビーストマンの国でも滅ぼさせてみますか?」

 

「ああ、まずはそれで様子を見よう。少なくとも竜王国が襲われなくなる程度には出来るはずだ。それと絶対にアレをこの国に入れるんじゃないぞ。念のため近付けることも避け、任務の報告は別のやつが行え」

 

「分かってますよ。アレは人類のために使い潰――すのは勿体ないですね。潰れない程度に使い続けましょう」

 

「贖罪にたっぷり働いてもらうとしよう」

 

 

 ――全ては人類存続のために。

 

 

 

 

 評議国某所での出来事。

 

 

「ところで指輪はどうしたの?」

 

「あれは超若いのにやったよ」

 

「超? まぁ君がよいと言うなら、それで良いんだろう……」

 

「心配せんでも後数年もすれば良い青年になるじゃろ」

 

「ん?」

 

「才能はカケラも無かったがのぉ」

 

「んん?」

 

 

 




ラナーの魅力をもっと出したい……あとブレイン。

色々な感想を書いてくださりいつもありがとうございます。
偶に酷い誤字がありますが見つけてくださって感謝しています。

更新のタイミングは不定期ですが、これからも読んで頂けたら幸いです。





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