君をもっと知りたい   作:Red Rose  
<< 前の話

2 / 2
遅れてすみません。



2、ダイアゴン横丁

「ルーピンさん、起きて」

「…ラムズラ?」

 

ラムズラの声で起こされたルーピンは吃驚して一瞬で頭が覚醒した。

確かに、ラムズラの起床時間はとても早い。だが、今まで直接自分を起こしに来ることは一度もなかった。

 

あぁ、そうか。

 

今日はダイアゴン横丁に行く日だ。きっと、ラムズラは昨日からとても楽しみにしていたのだろう。そうでなければこういう行動は取らない。

 

「今日、買い物」

 

そう言うラムズラの一喜一憂が可愛くて仕方がない。

 

「そうだね。じゃあ、先に下に降りてってくれるかい?着替えてからそっちに行くよ」

 

こくりと頷いたラムズラは大人しく下に降りて行った。

 

やはり、ラムズラがホグワーツに行ってしまうのは寂しい。

だが、本人も楽しみにしているそうだし、何より自分自身もラムズラには楽しんできてもらいたいと思っている。

 

———そういえば、ラムズラはハリー・ポッターと同級生になるのか。

 

ふと、彼等のことを思い出した。

 

…あの頃に戻れたらどんなに良かっただろうか。

 

だが、今はラムズラがいる。なんだかんだ毎日忙しいが、十分幸せな日々を送っている。

 

 

彼等は私の光だった。

 

 

 

—————

 

 

 

「ここ、どこ?」

 

ラムズラとリーマスは魔法界の入り口となる大切な場所に来ていた。

 

「漏れ鍋だよ。宿泊もできるんだよ」

 

ラムズラを外に連れて行ったことはあまりなく、ラムズラとって外とは家の庭だったので目を輝かせていた。

 

「さぁ、ダイアゴン横丁に行こうか。」

 

更に目を輝かせたラムズラを見て微笑ましくなったのはリーマスだけではない。漏れ鍋で酒をひっかけているお客達までもが漆黒の髪に赤い瞳の小さな美少女に目を離せないでいた。

 

だが、それに気づかないのがラムズラである。

 

リーマスはラムズラを連れて、ダイアゴン横丁の入り口まで来た。

 

ラムズラは、今通った入り口が壁になっていたので、閉じ込められたのかと思い焦った。

その様子にリーマスは気づき、笑みをこぼした。

 

「ラムズラ、大丈夫だよ。よく見てて」

「?うん」

 

ラムズラが自分を見ているのを確認し、ポケットから杖を取り出したリーマスは煉瓦を決められた順番になぞった。

 

すると、先程まで壁一面を覆い尽くしていた煉瓦が動き、綺麗に両脇に寄せられた。それによって、ダイアゴン横丁の風景が目に入ってくる。

 

この時のラムズラの驚き様は忘れないだろう、というぐらいにラムズラは驚いており、チラチラと周りを見渡していた。

 

「ラムズラ、人が多くて疲れるだろうから抱っこしようか?」

「…歩く」

 

最初に出会った頃は素直に抱っこされていたのに…とラムズラの成長を目の当たりにして嬉しさよりも寂しさの方が誇った。

 

このまま、ラムズラは自分の知らないところで成長して行ってしまうのか…まぁ、それはそれで喜ばしいことなのだが。

 

「じゃあ、先ずは制服を誂えに行こうか」

「うん」

 

 

ダイアゴン横丁に行くこと自体がとても懐かしいことなのが、特に懐かしいのがマダムマルキンの洋装店だった。

 

持病…人狼のリーマスにとっては、満月になると自分より大きな狼に変身してしまうため、洋服が破れるのは日常茶飯事だった。

人狼ってだけで家族に迷惑をかけているため、これ以上迷惑をかけたくなくて破れてしまった洋服は魔法で直して、それでも限界が来たらここのお店でよく洋服を買っていたものだ。

唯一の救いといえば、マグル界よりも魔法界の方が全体的に出費が少なく済むことだろうか。

 

「ここだよ」

 

意識をこちらに戻し、お店の扉を開けた。ベルの音が店内に響くとマダムマルキンが顔を見せた。

 

「いらっしゃい…あら、リーマスじゃない!久しぶりね。そちらは…娘さんかしら?」

「お久しぶりです、マダムマルキン。こちらは娘のラムズラです。今年からホグワーツに入学するんだ。」

「…初めまして」

「初めまして、ラムズラ。」

 

マダムマルキンは、親子なのに全くと言っていいほど似ていないラムズラを不思議に思ったが、気にせずに店内を案内した。

 

「さぁ、ここに立って。ホグワーツの制服を誂えるのよね?」

 

こくりと頷いた少女の身長の低さに驚いたが、無言で魔法のメジャーを動かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、出来たわよ。」

「ありがと」

「どういたしまして」

 

制服を誂え終わるまでにはもうマダムマルキンはラムズラの小動物みたいな行動や無口なところに愛着を持っていた。無口は無口なのだが、その分顔に現れやすく感情が読み取りやすいのだ。そんな彼女が魔法で動くメジャーをあちこちと目で追いながら顔を動かしていたら無性に可愛い、と思ってしまうのは仕方のないことだ。

 

紙袋に入った制服を渡せば、細くて短い腕を精一杯使って紙袋を抱きしめていた。その様子をリーマスは微笑ましく見守っていた。

 

「ありがとう、マダムマルキン」

「ええ。また来てちょうだいね」

「勿論。」

「バイバイ」

 

紙袋を抱えながらも器用に小さく手を振るラムズラに笑顔を向け、リーマス達と入れ違いで入ってきたお客さんの接客に走った。

 

 

 

それから薬問屋を始め、色々なお店を周り大体の物が揃った。

 

 

「じゃあ、次は使い魔を探しにいくか。」

 

大きなトランクを抱えているリーマスは、眠そうな顔をしているラムズラにそう言った。

 

因みに、彼が持っているトランクには元々軽量魔法がかかっており、少し軽くなっている。中身にはこれまた検知不可拡大呪文がかかっており制服など、嵩張ってしまうものまですんなり入るものだ。

 

「使い魔?」

「そうだよ。マグル界でいうペットみたいなもので、ホグワーツにも持ち込めるんだ。」

「蛇!」

「蛇か…まぁ、大丈夫か」

「ん?」

「いいや、なんでもないよ」

 

ラムズラは動物と喋ることができるのでパーセルタングじゃなくても蛇とは喋れるはずだ。なら、ダンブルドアも許してくれるだろう。でも、逆目立ちしてしまうかもしれない。本人は気づかないだろうが、それだけは嫌だ。

 

それが原因でいじめにでもあったら…

 

やはり、ここは説得して梟か猫か蛙か鼠にしよう。

 

 

 

…と思って説得してみたところ、珍しく頑なに抵抗するので折れてしまったリーマスは上機嫌のラムズラと一緒に魔法動物ペットショップに来ていた。

 

ダンブルドアを必死に説得するしかない。

 

そう思いながらも、少し楽観視していたのはラムズラなら許されてしまうだろう、と考えたからだ。ダンブルドア自体が色々と緩いので断る可能性の方が低い気がする。

 

店内に入ると、色々な動物の鳴き声が聞こえる。兎に角五月蝿かった。一体、ラムズラにはどのように聞こえているのだろうか。

 

「お嬢ちゃん、使い魔を探しているのかい?」

「うん」

「それなら、この兎とかはどうだい?」

「ホグワーツ、兎だめ」

「ああ、そうか。君は新入生なのか…なら、この鼠はどうだい?」

 

どうやら、ラムズラの背では新入生に見えなかったらしい。

 

「私、蛇がいい」

「蛇?ホグワーツは蛇も持ち込み禁止だよ?」

「アルバスさん、きっと、許してくれる」

「まぁ、君がそんなに言うなら…蛇はあっちに沢山いるよ」

 

ラムズラとリーマスは店員についていき、店の奥に向かった。

 

『俺を買いなよ!この鱗、結構カッコよくない?』

『私の鱗の方が綺麗よ!私を買いなさいよ!』

『いやいや、私はこの中で1番賢いから私を買った方がいい』

 

シューシューという言葉と共に言葉が聞こえてくる。他の動物とは少し違う話し方だが、あまり違和感はなかった。

 

私は沢山いる蛇をじっくりと観察した。

余程買ってほしいのか、シューシューという声が大きくなってきている気がする。

 

「この子」

 

私が蛇のコーナーの隅っこに蹲っている蛇の籠を手に取った。

 

「あぁ、その子は病気でね…余命があと一年なんだ。お客さんは若い蛇を買う人が大体だから売れなくて…」

 

『そいつは病気だ!そんな奴より俺を買った方がいいぞ!』

『そうよ!』

 

私が手に持っている籠の中の蛇は目を伏せた。悲しそうだった。

 

だが、幼少期から自分から話すことが少なく、顔に出やすいが洞察力は異様に良いラムズラは一瞬の出来事でも見逃さなかった。

 

あの蛇の瞳は輝いており、希望で溢れていた。

 

…この瞳、どこかで見たことがある。

 

「この子がいい。」

「本当にこの子でいいのかい?」

「うん、この子いい。」

「そうかい。じゃあ、餌とか籠とか諸々合わせて5ガリオンだよ。」

 

リーマスがお金払っているのを横目に、他の蛇を見やった。

抱えている籠の中の蛇を寂しそうに見つめていた。

 

きっと、この蛇と彼等はそれぞれに良い思い出があったのだろう。

彼らはあんなことを言っていたが、もしかしたら最後を自分たちでちゃんと見届けられるようにしたかったのかもしれない。だから、せめて自分が売れようとしたのか。

それに、この子がもう長生きしないのを知っているので、例え短期間でこの蛇を愛したとしてもすぐにお別れが来てしまう。

 

そう思うと、自分の判断が間違っていたのではないかと心配になった。

 

だが、ラムズラが見たあの瞳は特別だった。

 

希望を持っているような、挫けずに戦うような…私の言葉では表せないが、ドラマで見たようなかっこいい瞳だった。

 

他の蛇たちに『さようなら』というと蛇も店員も驚いていた。

確かに、この能力は珍しいらしいが魔法界にはそんなに私みたいな人が少ないのだろうか。

 

それは興味深いが、やはり疎外感の方が大きく寂しい。

 

『ご主人様、何故私を買われたのですか?』

 

先程まで全く喋る様子を見せなかった蛇が吐き出すようにそう言った。

 

『君の瞳は…特別』

『私の瞳がですか?』

『うん。』

 

「ラムズラ、話しているところ申し訳ないけど周りが驚いちゃっているから、あとでにしてくれるかな?」

 

ルーピンさんのその言葉でラムズラは周りの人々に目を向けた。すると、恐れ慄くような表情をした人々が私を見ている。

 

「私、何かした?」

「いいや。唯、君のその能力は非常に珍しいんだよ。」

 

あ、そうだった。と思い出した頃にはもう周りの人々は私とルーピンさんを避けるように歩き始めていた。

 

なんだが申し訳なくなった私はルーピンさんに謝った。

 

「ごめん…なさい」

「君が謝ることじゃないよ。君のそれは珍しいだけだよ。ただそれだけ」

 

ルーピンさんは私に話しているのではなく、自分自身に言い聞かせているような話し方だった。

 

不思議に思ったラムズラは頭を傾げたが、すぐあとにルーピンが放った言葉ですぐに思考を切り替えた。

 

「次は杖を買いに行こう」

「杖?杖!」

 

リーマスはラムズラが自分の杖を見て興味深そうにしてたのを知って

いる。だからこそ、これを最後にとっておいたのだ。

でも、杖を最初の方に買う人もとんだ物好きなのかもしれない。

 

「さぁ、ここだよ」

 

他のお店と違って少し古い感じが自分のイメージとは違って落胆したのをまだ覚えているリーマスはラムズラが目を輝かせていることに唖然とした。

 

「ラムズラ」

「楽しみ」

「なら良かった」

「?」

「…いいや、なんでもないよ」

 

笑って誤魔化したルーピンを不思議に思いながらラムズラはルーピンに続いて店内に入った。

 

 

店内は相当古いのか埃が舞っている。それに既視感を感じたが、何にも覚えてないので気にしないことにしたラムズラは店内の奥に並んでいる棚とそれに仕舞われている杖を眺めた。

所狭しと敷き詰められた様な杖の1つ1つの箱はあまり変わらないようにも見えるが、やはりあれは全て種類が違うのだろうか。それとも、同じ杖を何個も大量生産しているのか。

その疑問は、いつのまにかラムズラの正面にある長方形のテーブルを挟んだところに老人が立っていた。

 

「こんにちは、リーマス。久しぶりだね。そして…初めまして、お嬢ちゃん」

「…初めまして」

「お久しぶりです、オリバンダー」

「さて、君は新入生で間違いないかね?」

 

やはり、この質問はどこに行っても逃れられないのだろうか。

 

「うん」

「名前をお聞きしても?」

「ラムズラ…」

「彼女はラムズラ・ルーピンです。私の娘です。どうも人見知りが激しくて」

「…ほう」

 

どちらのファミリーネームで答えればいいかわからず言い淀んでいるところに、リーマスが助け船を出してラムズラを救った。

オリバンダーは見定める様に目をキラッと輝かせたのをラムズラは見逃さなかった。

 

「杖腕は?」

「利き腕なら…多分左」

 

ラムズラのか細い声を聞いたオリバンダーは魔法のメジャーでラムズラの体を測りはじめた。

 

「ここにある杖は全て違う素材で出来ている。この中の殆どの杖が私が作ったものだが、中には少数だが私の先祖が作ったものも含まれている。私は売った杖を全て覚えているが、その杖が売れることは稀だ。それは、その杖自体が殆どの人間に当てはまらないからだ。そう、魔法使いが杖を選ぶのではなく、杖が魔法使いを選ぶのだ。」

 

大体の説明が終わった時、丁度メジャーの方も動きを止めた。測り終わったのだろうか。

もしかしたら、接客に慣れてしまったオリバンダーはメジャーで測り終わる頃に説明もし終わる様にタイミングを合わせているのかもしれない。

 

「じゃあ、先ずはこれだ。アカシアの木にユニコーンの毛、26cm。謙虚」

 

杖に性格とかあるのか、と考えながら差し出された箱をまじまじと見つめた。

 

オリバンダーは「先ずは」と言っていたので、これを買うわけではないのだろうが私にこの箱を出されてもどうしろと言うのだ。

 

「ほら、早く振りなされ」

 

合点のいったラムズラは慎重にに箱から杖を取り出して左手に強く握った。

 

何も感じない。

 

何がどうなると自分の杖が決まるのかはよく分からなかったが、取り敢えず振ることにした。

 

「「「…」」」

 

何故だろう。ゴロゴロッという音と共に雨が降ってきた。

先程まで晴れていたので急に変わった天気に魔法使いたちが焦って何かしらの魔法をかけていた。マグル出身らしき人たちはなす術もなく、走って避難していた。

 

「天候を変えるなんて…魔力が強いようだな」

「…」

 

オリバンダーはそう言って場を和ませようとしているが、その原因となったラムズラは店内の屋根からポツリ、ポツリ、と落ちてくる雫を眺めていた。

 

「おや、この店もこんなに古くなってしまったのか」

 

感慨にふけったオリバンダーは杖を取り出し、一振りした。

 

それはたったの3秒ほどだったはずだが、ラムズラにはスローモーションのように見えた。

 

魔法。先程のような賑わった場所ではなく、端にひっそりと立っている古びたお店。不思議な店主。

 

それが昔からお気に入りの小説に似ていて心が昂ぶった。

 

「さて、次は…これだ。ヨーロッパナラの木に不死鳥の羽、24cm。洞察力が良い。」

 

洞察力が良いって…と頭を働かせながらも先程と同じように杖を手に取った。

 

すると、感情の昂りを感じた。ダイアゴン横丁に足を踏み入れた時よりも大きく心が動かされた。

まるで、蟠りがとけたようにスッキリし、ルーピンさんの手作りのスープと同じぐらい優しく温かく、2年前にルーピンさんから誕生日プレゼントとしてもらったうさぎの人形のようにふわふわしている感覚がした。

 

杖に優しい笑みを向けるラムズラは杖を握る力を緩めて優しく上下に一振りした。

 

オリバンダーとルーピンはラムズラの表情にピンときて、見守っていたが次に起こったことに驚きを隠せなかった。

 

 

 

…何も起きない。

 

「私、杖振った?」

「振っていたとも」

 

ラムズラの疑問と同じ疑問を持っていたオリバンダーだが、自分自身もちゃんと見ていた。彼女は確かに杖を振っていた。

 

…では、何故だ。

 

「ラムズラ、どうやらこの子が何か話したがっているようだよ」

 

ルーピンは籠から必死に出ようとしていた蛇を見かねて、扉を開けた。

 

その蛇は買った時よりも鱗が輝いていた。どこか歳をとったような印象を受けていたものの、今ではそれがすっかり消え去っていた。

 

そんな蛇はラムズラの腕に絡まり、話し始めた。

 

『ご主人様、私は今とても元気です!理由がわからないんですけど、なんか…力がみなぎってきます!恐らく…ご主人様がかけてくれた魔法のお陰ではないかと』

 

「かけた」のではなく、「かけてしまった」の方が正しいが、この蛇の体調が良くなったのならそれはそれで良いことだ。

 

『後で、もっかいさっきの店、行く。』

『良いんですか!?』

 

ラムズラが大きく頷けば、蛇は嬉しそうに舌をシューシューした。

 

『本当にありがとうございます!私は、貴女に一生仕えましょう』

『?いいの?』

『貴女は私のご主人様であり、命の恩人でもあるのです』

『おー』

 

ラムズラにはよく理解出来なかったが、元々この蛇を気に入っていたので一緒に居られるならなによりだ。

 

有頂点になったラムズラにオリバンダーは感慨深そうに話しかけた。

 

「このヨーロッパナラの木材を使った杖の持ち主の大半は直感が鋭く、自然の魔法を感じることが多い故に動物や植物と密接な関係を結ぶ傾向にある。君はどうやら、この杖にぴったりのご主人なようだ。」

「ありがと」

「どういたしまして、可愛いラムズラ。お代は8ガリオンだよ」

 

ルーピンが会計を済ませている間、ラムズラは蛇を眺めていた。

 

先程と微塵も変わっていない赤い瞳。キリッとしていて何もかもお見通しだと言っているように感じる。キリッとしているのは蛇なら当たり前なのだろうか。だが、あのお店にいた蛇たちはそんな感じではなかった気がする。

 

彼は今までどんな人生を送ってきたのだろうか。

 

…興味深い。

 

 

 

 

 

 

 

 

リーマス・ルーピンとその娘らしいラムズラ・ルーピンがこの店から出て行ったのを見送り、先程の杖のことを考えていた。

 

彼女は蛇と話せる。だが、ヨーロッパナラの木材を使った杖の持ち主は魔法生物、動物と密接な関係にあるため、彼女は蛇以外とも話せるのではないだろうか。

 

この木材を使った杖を売ったのはこの頃ではあの大男だけだ。今ではもう折られてしまったが、彼もまた魔法生物のことを愛してやまない者だった。

 

…彼女は一体、何者なのだ。

 

オリバンダーはこれまで沢山の杖を売ってきたが、必ず客を見るようにしてきた。

それは、利き腕や魔法のメジャーだけでは客にとって1番相性の良い杖を得ることができないからだ。適当に杖を売るのも、こちらとして伊達に杖を作って売ってきた自分からすると1番許し難い行為だ。

 

彼女はあの年だがまだ言葉があまり喋れていない。その代わりによく目線をあちこちに動かしているのは、ただ単に興味があるのか、洞察力が鋭く冷静に分析しているかのどちらかだろう。

 

それに、彼女の纏う雰囲気はとても不思議なものだった。

 

あれが俗にいう不思議ちゃんというものなのか。そのな彼女ならそのどちらもあり得ると思えてきた。

 

1番疑問に思っていることは、彼女の名前を訪ねた際にファミリーネームのところで一瞬躊躇ったことだった。

 

その様子からして、リーマス・ルーピンは義父ということなのだろう。そう考えると、彼女があまり喋らないのも、言葉が達者ではないのも納得できる。彼女の本当の両親が何かしらの影響を彼女に与えていたことが原因なのだろう。

 

…飽く迄、私の予測に過ぎないが。

 

 

 

魔法界の未来を担う魔法使い、魔女たちには相性の良い杖が必要不可欠で、私はいつも客にとって気持ちよく魔法を使えるような杖を売ってきた。

それは、悪い意味も含まれており、実際にこれから来るであろうあの男の子に倒されたらしい悍ましい彼に杖を売ってしまった。

だが、それを後悔はしていない。自分自身の仕事を全うできたことだけで十分だからだ。これは私の生き甲斐でもあるのだ。

それに、実際に戦うのはあの男の子たちであり自分ではない、と他人事だと思っているのもある。つくづく最低な男だ、と自覚しているがやはり保身に走ってしまうのは自分が1番大切だからなのだと思う。

 

 

 

…話は戻るが、これからラムズラにとって絶対に厄介なことが起こることはなんとなく確信できた。

 

これは杖職人の勘というものなのか。

 

「そう言いながらも私自身、平和を望んでいるのだがな」

 

そう呟いた声は新しい客が扉を開けた時になったベルの音にかき消された。

 




杖については
↓を参考にさせていただきました。
hpsfan.com


感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。