ドロメダと話すたびに、ドロレスは自分が魔法界のことについてなにも知らないことに気づかされた。名門の家も知らなければ、人気のスポーツも知らない。ダイアゴン横町へ行ったのは入学前に父に連れられた一回だけだったので、魔法具や店の名前も知らなかった。
そんなドロレスの様子に、ドロメダは気が付いた。彼女はマグル生まれであるのだと。
極めつけは、車内販売でカートを引いてきた愛想のいい魔女がコンパートメントに入ってきた時だった。マグルの中で育ったドロレスは、魔法界のお菓子についてもこれっぽっちも知らない。カートには色とりどりのきれいな包装紙が山のように積まれていた。ドロレスはどれも手に取りたいと思ったが、持ち合わせはなかった。
サンドイッチがあるから、と言って座ったが、目線はカートから放さなかった。
ドロメダもまた、何も買わなかった。物欲しそうにカートを見つめるドロレスの手前、自分だけが買うことに気が引けたからだ。魔女は入ってきた時と同じように愛想よく、カートを引いてコンパートメントから出て行った。
そこから少し、気まずい沈黙が続いたので、ドロメダは話題を変えることにした。
「それで、ドロレスはどの寮に入りたいの」
それを聞いて、ドロレスは困ってしまった。時折父からホグワーツのことは聞いていたものの、寮の話は聞いたことがなかったからだ。自分と同年代との間に、とてつもない差が生まれているような気がして、車内販売が来た時よりもドロレスはみじめな思いがした。
「まだわからない。ドロメダは?」
何とか言葉を絞り出した。
気を利かせたドロメダは、雑談に交えてホグワーツの寮のことをドロレスに教えた。
勇敢なものが集うグリフィンドール、勤勉なハッフルパフ、機知と学びのレイブンクロー、そしてスリザリン。
「私の家族はみんなスリザリンなんだ。多分私もそうだと思う」
ドロメダがスリザリンの説明を省いたのは、魔法界のことに疎いドロレスに、自分の家柄を誇るようなことをしたくなかったからだ。魔法界の純血を誇るブラック家では、スリザリンか、然らずば死を、が家訓だった。ドロメダも家では飽きるほどスリザリンの優位さについて聞かされていた。スリザリンは血統の正しいものが入る寮だ、スリザリンは選ばれたものの寮だ、スリザリンは...
ドロメダの姉も当然のようにスリザリンに入ったし、妹もきっとそうなのだろう。
家族と円滑に付き合おうと思ったら、ドロメダにしてもスリザリン以外の選択肢はなかったのである。