沈んだ気持ちでドロレスが一人座っていると、勢いよくコンパートメントのドアが開けられ、柔らかそうな栗色の髪の女の子が入ってきた。どことなく気取っているような感じはするが、人好きのするような顔をしていた。ピカピカの制服で、トランクを重そうに引きずっている。
「ここ空いてる? 他はどこも満席だったの」
フランクな口調で聞くと、ドロレスの返事も待たずに座ってしまった。
「私はアンドロメダ ブラック。今年からホグワーツに入るの。姉妹からはドロメダって呼ばれてるから、良かったらそう呼んで」
ドロレスの向かいに座って、その女の子は柔らかい口調で自己紹介をした。
「私はドロレス・アンブリッジ。私も新入生よ。私はアンブリッジと呼ばれるのは嫌いだから、ドロレスって呼んでちょうだい。」
ドロレスは嬉しくなった。ようやく魔法族の友達ができるのだ。今までのマグルたちとは違う。ここではマグルが馬鹿にされるのだ。ドロレスははやる期待を押し殺しながら、向かいに座ったドロメダを眺めた。アンブリッジという名前を聞いても、トンクスは嫌そうな顔をしなければ、意地の悪い顔もしなかった。
二人で協力してトランクを荷台へ上げると、ドロメダは輝くような笑顔でお礼を言った。スクールでは常にアンブリッジの娘として、出来損ないとして扱われてきたので、ドロレスは思わず赤面してしまった。そんな様子を見て、ドロメダは不思議そうな顔をした。
「どうしたの、ドロレス、 大丈夫?」
なんでもない、咳ばらいをしてドロレスはごまかした。笑顔を向けられたことがなかったと告白するのは、ドロレスのプライドが許さなかった。
初めて同年代の魔法族と話したドロレスは、ドロメダとの会話に夢中になった。ドロメダの両親は魔法使いと魔女で、ロンドンに住んでいた。はっきりと言わなかったが、かなり裕福な家庭で育ったらしい。言葉の端々からそれを感じることができた。
何よりドロレスが羨んだのは、ドロメダは両親に愛されて育ったらしいということだ。
バケモノとも言われずに、出来損ないともいわれずに、その魔法の素質を純粋に褒めてもらいながら育った。おしゃべりな彼女の聞き手に徹しながら、ドロレスはそこに自分の境遇と比べることをやめられなかった。
ドロメダには三つ上の姉と二つ下の妹がいた。姉の方はすでにホグワーツで才女と誉が高く、ドロメダも両親から優秀な成績をとることを期待されているらしい。あっけらかんと楽しそうに語るドロメダに、ドロレスは眩しいほどの羨望を感じた。
父はドロレスの成績など気にしないだろうし、母は魔法学校の成績なんて罵る材料にもならないと思うだろう。ドロレスは生まれてから今まで、何かを期待をされたことはなかった。