ホグワーツ特急の広いコンパートメントに、ドロレスは一人座っていた。
窓から見える光景は、プラットフォームで名残惜しそうに子供に手を振る親ばかりだった。
ドロレスはいやなものを見てしまったとばかりに、窓のカーテンを閉じた。
カーディフからロンドンまで、ドロレスは一人で来た。魔法省の役人である父も、マグルの母も、ドロレスを見送りに来てはくれなかった。
マグルの世界で育ったドロレスにとって、ホグワーツ城へ向かう汽車の旅は、刺激的ですばらしいものになるはずだった。
生まれてからずっとマグルの環境で育ったドロレスは、ホグワーツからの手紙が来るまで、ずっと自分は生まれそこないであるといわれ続けていたし、そう思わざるを得ないような環境で育った。魔力を持つドロレスを母は出来損ないと罵り、スクイブの弟に二人分の愛情を注いでいたからだ。
スクールに通っていた時のことだった。ドロレスは意地悪なクラスの男の子に髪を引っ張られた。やめて、放して、何度も叫んだが、男の子はやめなかった。アンブリッジの娘であるドロレスは、クラスの中でも鼻つまみものだった。周囲の誰も助けてはくれずに、痛がるドロレスを見て、誰もが笑っていた。
その時、ドロレスの中で怒りが燃え上がった。男の子に自分の痛みを味あわせてやりたい、と心の底から望んだ。すると、男の子は途端に痛がり始めたのだ。髪をつかんでいた指を放して、頭を押さえて、痛い、痛いと喚き始めた。そんな奇妙な光景に、クラス中がざわついた。ドロレスが何かをしたに違いない。担任の教師をはじめ、そこにいた誰もがドロレスを恐れ、不気味に思った。その日のうちに担任の教師は母に報告をした。みじめな気持ちで家に帰ったドロレスは、連絡を受けて玄関で待ちかまえていた母に捕まってしまった。
”化け物、バケモノ”
母は、繰り返し、繰り返し、ドロレスを叩いた。バケモノという言葉を身体に刻みつけるように。そして、終わった後に弟を抱きかかえて、ねっとりと甘い声で言った。
”あなたはあのバケモノとは違うのよ”と。
「あなたは特別な存在なの。正真正銘私の子供なのよ。あのバケモノはあなたの姉でもなんでもない。出来損ないなんだから」
ドロレスに聞こえるように、母は言った。チクチクと刺すような痛みをドロレスは感じた。私はなにもしていないし、私は出来損ないなんかじゃない。ドロレスは思った。傷つけられたのは私で、あいつはひどい奴なのだと。
しかし、周囲の人間はドロレスを傷つけることに、罪悪感も躊躇いもなかった。
なぜなら、ドロレスは異常な人間であるから。出来損ないであるから。後になってこっそりと、父はドロレスに教えてくれた。ドロレスも父も、魔法使いなのだと。