インターネット上の海賊版対策として、政府が今国会中に目指していた著作権法改正案の提出は、見送られました。文化庁が作った改正案は自民党文部科学部会や知的財産戦略調査会が了承し、政調審議会(政審)も承認していました。3月1日の総務会を通れば閣議決定、国会提出という流れでした。
違法ダウンロード(DL)の規制範囲を現行の音楽・映像から漫画やゲーム、雑誌、写真集、学術論文などすべての著作物に広げることが盛り込まれていることを、政審の直前に知りました。
超党派の「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」(MANGA議連)の会長として漫画文化の振興や海賊版対策に取り組んできたので「大変なことになる」と思い、総務会で「規制の範囲が広すぎる」と主張しました。文化庁の担当者に一番の権利者である日本漫画家協会にヒアリングをしているのかと尋ねると、「パブリックコメントで募集したが協会からは意見がなかった」とお茶を濁そうとした。問題ですよね。加藤勝信総務会長も理解して文科部会に差し戻されることになったんです。
漫画はパロディーやオマージュなど原作を基にした二次創作によって文化の裾野を広げてきました。7~8割が二次創作といわれるほどです。違法DLの規制拡大は漫画家をはじめ次世代のクリエーターを萎縮させ、創作活動の基盤である表現の自由に支障をきたしかねない。ネット利用に影響が及べば経済活動にもマイナスです。
安倍晋三首相にも伝え、理解していただきました。規制範囲を全著作物に広げるという極端なことをすると、違法DL対策という名目で投網で一網打尽にされるリスクがあるのです。守られるべきものは守るべきですが、そうでないものまで取り締まる必要はないんですよ。
実際、文科部会が改正案を了承した後の2月27日、日本漫画家協会が懸念を表明する声明を出しました。その後、全国同人誌即売会連絡会や日本建築学会、日本学術会議の有志らが次々と規制範囲の拡大に反対の声を上げました。
法案を担当した赤池誠章文科部会長や甘利明・知的財産戦略調査会長は英断を下してくれたと思います。問題点があれば真摯に受け止めて再出発する。これが自民党の強さですよ。政治がこの問題に気付くことができてよかった。あのまま通していたら、間違いなく厳しい批判が出て国会運営やこれから続く統一地方選や参院選にも影響していたかもしれません。
もちろん、海賊版対策は急務です。これからが本当の勝負。超高速通信が可能となる「第5世代(5G)移動通信方式」の導入を控え、IT業界にも変化の波が訪れています。改正案には海賊版サイトにネット利用者を誘導する「リーチサイト」の規制なども盛り込まれ一定の評価はできますが、まだ問題もあります。専門家を交え、しっかりと議論する必要があります。
政府が昨年6月に策定した経済財政運営の指針「骨太の方針」にも海賊版対策の強化や、漫画やアニメの情報拠点の整備促進が盛り込まれています。漫画文化の育成は国策なのです。法律で推進のための環境を整えることが大事です。
そのために自民党が主導してネット時代にふさわしい改正案を提言していきます。(長嶋雅子)