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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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「あの、吉祥院さん。少し話があるんだけどいいかな」


 委員長の顔つきから、大事な話のようなので人気のなさそうな校舎裏に行く。


「話ってなにかしら?」


 ずいぶん前から何か言いたそうだったもんね。

 でも委員長はもじもじして、なかなか話しださない。

 言いにくいことのようなので、黙って待ってあげる。


「あの、もしかしたら頭のいい吉祥院さんなら気づいているかもしれないけど」

「あら、頭がいいなんて、そんなことありませんわよ?」


 委員長の中では私は頭のいいイメージなのかぁ。

 それにしても話っていったいなんだろう。

 心当たりないなぁ。

 あ、委員長の顔が赤くなった。

 本当にどうしちゃったのかなぁ。


「実は、僕、本田さんが好きなんだ」


「…………」


 ………すみません、自惚れていました。

 委員長、もしかして私のこと好きなんじゃない?って思っていました。

 話ってなんだろう、心当たりないなぁって、絶対告白だと思っていました。


 いーーーやーーーっ!!私って恥ずかしいっ!!


 なに自惚れちゃってんだよ!

 とうとう私にもモテ期到来か?!とか考えちゃったよ!

 困ったなぁ、私は委員長のことそんな風に考えたことないんだけどなぁ、なんて上から目線で妄想してたよ!

 ごめんなさい!身の程知らずでごめんなさい!

 委員長には赤ベコのように何度も頭を下げてお詫びしたい!


 だってモテたことないんだもん。

 浮かれちゃったんだもん。

 とうとう私にも、少女マンガ的展開が?!って思っちゃったんだもん。


「あの、吉祥院さん?どうかしたの?」

「…いえ、なんでもありませんわ」


 私は気を取り直して委員長に向き合った。

 幸い、委員長は私の自惚れ勘違いには気が付いていないようだ。

 このまま何事もなかったように話を進めよう。


「それで?本田さんが好きだって、なぜ私にそんな話を?」


 そうなんだよ。そもそもなんで私にこんな話してくるの?

 だいたいさぁ、委員長も紛らわしいんだよねー。

 美波留ちゃんが好きなら、本人に直接言えばよくない?なんで私をチラチラ見たり、こんなところに呼び出したりするわけ?

 私、関係ないよねぇ?

 と逆ギレ気味で開き直ることにする。


「吉祥院さんは女子のリーダーみたいな人だし。協力してもらえたらなぁって」

「協力って、告白のお手伝いをしろってことですの?」

「告白なんて?!ただ、本田さんのこと教えてもらえたらなって。あとこれ、出来れば使って欲しいんだ」


 もじもじしながら手渡されたのは、委員長と本田さんが一緒に学級活動をしている写真。

 卒業アルバムに載せて欲しいってことか。


 それから委員長は思いの丈を私に話し始めた。

 去年一緒に学級委員をやって、好きになったとか。

 委員長が指を切ったら本田さんがバンドエイドをくれて、女の子らしいと感動したとか。

 今年も一緒に学級委員を出来ると思っていたら、違ったので落ち込んだとか。(相方が私で悪かったね!)


「それとこれも、書いて欲しくて…」


 出してきたのはサイン帳。

 サイン帳なんて女子しかやらないものだと思ってたけど、男子もやるのか。

 そういえば修学旅行の縁結び神社でも男子が恋みくじ引いてたっけ。

 案外、私の同級生の男子達には乙女が多いらしい。


「委員長、京都で恋みくじ引いてましたわね」

「大吉だったんだ」


 ポッと顔を赤くする委員長。

 そりゃ良かったね。私は末吉だったよ。


「写真はともかく、サイン帳は本人に言えばいいでしょう。私になぜ言う必要が?」

「だって突然書いて欲しいなんて言いにくいよ。今は一緒に学級委員もやってないから、ほとんどしゃべったことがないんだ」

「…私が副委員長になって悪かったですわねぇ」


 浮かれ気味の委員長をグサリと刺してみる。

 案の定、委員長は慌ててそんなことない!吉祥院さんのおかげで助かっている!とフォローし始めた。

 ふんっ。


「わかりました、いいでしょう。では委員長は私が本田さんと一緒にいる時に、さりげなく私にサイン帳を書いて欲しいと頼みに来てください。一緒に学級委員をやった記念にと。その時に私が、そういえば本田さんとも去年一緒に委員をやっていましたよねと話を向けますから、本田さんにもぜひ記念に書いて欲しいと頼んでください」

「えっ、僕にそんな演技出来るかな。あっ、でも頑張るけど」


 そわそわとする委員長。

 委員長ってこんな子だったんだ。真面目でいかにも委員長ってタイプの子だと思ってたんだけどなぁ。


 後日、委員長がサイン帳を持ってなかなかの棒演技を披露した。

 美波留ちゃんは委員長の気持ちに全く気付く様子もなく、快くサイン帳を引き受けていた。ついでに美波留ちゃんからもサイン帳を頼まれ、委員長は顔を赤くしていた。


 それから美波留ちゃんには今好きな人がいるのか聞いてみたら、いないけど好きなタイプは円城様みたいな人だという情報をもらったので、委員長にそのまま伝えてみたら、「円城君か…」と落ち込んでいた。

 別に円城が好きなわけじゃなく、円城みたいなタイプが好きだって言ってたんだから、まだ委員長にも望みはあるよ?と慰めてみたけど、あまり効果はなかったみたい。

 ごめん、委員長。ちょっと意地悪したくなったんだ。



 そして委員長以外にも、サイン帳を使って近づく男女がちらほらいたようだ。

 私には特になにもなかった。

 大人な私としては、小学生が恋愛なんてまだ早いと思うんですけど、どうなんですかねー?

 別に僻んでるわけじゃありませんけど?



 あぁ来年はもう、卒業だなぁ。

 中等科に行ったら、今度こそ私にも春がやってくるかしら?

 末吉だから望みは薄いけど。



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