「不良な子孫」と差別され、「子どもを産み育てる権利」を奪われた被害への謝罪や補償としては極めて不十分だ。

 旧優生保護法のもと、障がい者らへの不妊手術が繰り返された問題で、与党ワーキングチームと超党派議員連盟が救済法案を決定した。今国会に提出し、4月中の成立、施行を目指すという。

 法案の柱は二つ。

 まず前文で被害者の心身の苦痛に「われわれは、それぞれの立場において、真摯(しんし)に反省し、心から深くおわびする」と明記。

 本人が「同意」したケースも含め、1人当たり320万円の一時金を支払う。

 中には入所する施設で、周囲の説得にあらがえず、同意したというケースもあり、対象を柔軟にとらえた点は評価したい。被害者の高齢化を踏まえれば、救済は一日も早い方がいい。

 ただ被害者・家族の会が「私たちの気持ちを尊重して、私たちが納得できる法律を」との声明を出したことからも分かるように、決定した法案は求めていた内容とは大きくかけ離れている。

 被害者らの要望が、「国」による謝罪という責任の明確化なのに対し、前文に盛り込まれた「われわれ」にはあいまいさが漂う。 

 与党ワーキングチームの田村憲久座長は「『われわれ』の中には国会と政府が色濃く入っている」と述べている。

 だとしたらなぜそう書かないのか。非人道的な政策が長く放置されてきたのだから、国による謝罪は当然だ。

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 一時金として示された320万円も、個人としての尊厳や権利を傷つけられた人たちに向き合う額としては、低いと言わざるを得ない。

 過去の優生政策に対し補償を実施したスウェーデンを参考にした結果とするものの、そもそも賠償基準が日本より低いことが指摘されている。

 現在、7地裁で20人が起こす旧法を巡る国賠訴訟の請求額は、1人当たり1千万円から3千万円台。救済の在り方で引き合いに出されるハンセン病元患者らへの補償金は800万~1400万円だ。

 ハンセン病問題では隔離政策を違憲とした熊本地裁判決を機に、補償金支給法が施行された経緯がある。

 今後、一時金を不満とする追加提訴など、裁判で解決を目指す動きが高まる可能性もある。被害の実態を直視するのなら、早急に上積みを図るべきだ。

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 厚生労働省によると、不妊手術を受けた障がい者らは約2万5千人に上る。そのうち個人が特定できる記録は約3千人分しか残っていない。

 旧法が母体保護法に改正され20年余り。被害を見過ごし、問題を放置した結果、救済に必要な資料の多くが失われてしまったのだ。

 声を上げにくい問題である。同時にハンディを抱え情報が届きにくい環境にある人が少なくない。

 被害認定は幅広く行われるべきで、記録がない場合でも当時の関係者から聞き取りを行うなど、特別な配慮を求めたい。