世界的に大活躍 クライミング「TEAM au」の面々
こちらの彼女、野中生萌(のなか・みほう)、2018年スポーツクライミングの「世界一」である。
2018年8月17日、スポーツクライミングのワールドカップ最終戦となる第7戦がミュンヘンで行われ、野中は2位入賞。その結果「IFSCワールドカップ2018」において、初の年間総合優勝に輝いた。この大会では日本の野口啓代も3位に入り、年間総合2位を確定。
そして藤井快(ふじい・こころ)。
ワールドランキング5位、IFSCワールドカップ2018では年間6位。都内で勤務しながら世界で活躍するトップクライマーである。
ほかにも2017年W杯年間総合王者の楢崎智亜に、2年前にボルダリングジャパンカップを史上最年少の14歳で制した伊藤ふたばなどなど、日本のスポーツクライミングの実力と勢いと選手層、ハンパないのである。ちなみに上の5人、実はみんな「TEAM au」に所属している選手たちなのだ。
世界レベルで戦える選手の台頭もあり、今メディアでもものすごく注目されている競技なのだが、メダルなどを期待するだけではもったいない。クライミングって、観ていてめちゃくちゃ興奮させられるスポーツなのである。
野中が世界一を決めたW杯ミュンヘン大会のおよそ2週間前、8月5日に東京・荻窪で「ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2018」が開催された。
ここでお伝えしたいことは大きく2点。
① クライミングって身震いするほど面白いよ! ということ。
② この大会に用いられた「自由視点映像」という5G時代のスポーツ観戦体験について。
身震いするほど面白い! スポーツクライミングという競技
「ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2018」は、毎年9月にドイツのシュツットガルトで世界最高峰の選手たちを集めて行われるスポーツクライミングの祭典の日本版。今回は「TEAM au」から野中、藤井、伊藤が参戦していた。世界レベルの選手たちが集うだけでなく、一般参加もできる事前予選から勝ち上がってきた若手(小中学生もいた!)たちも同じ“壁”に挑戦するのである。
ここでちょっと整理しておこう。そしていい機会なので覚えておこう。スポーツクライミングとは、ざっくりいうと次の3種目からなる。
- スポーツクライミングとは……
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「スピード」=高さ15メートルの壁を2人の選手がよーいドンで登り、速さを競う。
「ボルダリング」=高さ4メートルほどの壁を制限時間内にクリア(完登)する数を競う。
「リード」=高さ15メートル以上の壁を、制限時間内にどの高さまで登れるかを競う。
今回の「ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2018」で行われたのは「ボルダリング」だ。
高さ約4メートルの壁に、ポコポコと取り付けられた突起物(=ホールド)を頼りに登る。
黄色い矢印がスタート地点。まずここに両手足を置くところから。ホールドの横に赤いテープが2本ずつ貼られていますが、これは「ここに2点置く」という意味。手でも足でもいいので、とにかく2点をそこに保持。普通に考えると上のホールドに両手、下のホールドに両足を置くことになるけれど、それは自由。
そこから、青い矢印のホールド(=トップ)を目指す。最終的にそのホールドを両手で持って静止できたらゴール。
登るべき壁を“課題”と呼ぶ。登るにはフィジカルも必要だけど、アイデアや戦略も欠かせない。課題を観察する時間が長ければ長いほど有利になるので、スタート順で差がつかないように、選手たちは全員、一旦「アイソレーションエリア」に“隔離”される。その後、「せーの」で、全員同時に壁を観察(=オブザベーション)することになるのだ。
こんなふうに。
では、実際にどんな感じで登るのか
さて、こちら「ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2018」で登場した課題のひとつ。
ちょっとわかりにくいですが、赤いホールドだけを手掛かり&足がかりにしてトップを目指す。
スタートは下の三角柱に両足、上の五角形に左手と右手。では、「TEAM au」藤井快はこのルートをどんなふうに完登したのか。当日、会場から生中継配信していたスポーツウェブサイト「スポーツブル」の映像を使って見てみよう。
観客は、壁の攻略法を固唾を飲んで見つめる。次のホールドに「届いた!」と思った瞬間、ガッツポーズ。あえなく落下すると「ああ……」と落胆の声。応援は「ガンバ!」と声をかけるのが一般的らしい。難しいコースになると、誰もクリアできない状態がしばらく続いたりする。
そんななかクリエイティブな攻略法や、人並み外れたフィジカルを駆使して、トップにたどり着いた時の興奮は尋常じゃない。思わず知らない観客同士でハイタッチしてしまうほど。
動画でもちょっと聞こえていたが、実況は非常にファンキー。そしてBGMはリアルタイムでDJが担当。ヒップホップとかレゲエとかハウス的な曲をノンストップで、試合の局面に応じて繋いでいく。
落ちては登り、登っては落ち、ついには難関コースをクリアする選手たちの姿にアッパーなチューンが乗っかると、完全に感動のドラマなのだ。
自由視点とは? クライミングとの親和性は?
こちらは「ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2018」の決勝が行われた“壁”。
ここに自由視点映像の機材が隠されている。画像の上のほうに照明が並んでいます。その背後にはコンクリート製の“鴨居”。鴨居の裏側に数十センチ間隔で16台のカメラを配置し、壁を登る選手を一斉に撮影するのである。
自由視点とは、文字どおり映像を好きなアングルから見ることができる技術。タブレットやスマホを使って、私たち自身が自由に視点を切り替えることができる。壁を登る選手を背後からだけでなく、横や上から、どアップにしたりしながら見ることができるのである。
大会を生配信していた「スポーツブル」のサイトで、公開された自由視点映像のリプレイがこちら。
自由視点映像チームの基地はDJブースの横に設置。まだ誰もいない競技会場が、16台のカメラでとらえられモニターされている。
実際の試合のモニターの模様がこちら!
同時に収録した16台のカメラの映像をギュッとまとめて配信する。視聴者側には、特別なハードや専用アプリは不要。スマホやタブレットの画面を指でなぞればカメラがスイッチングされ、アングルは上下左右スムースに変えられる「タイムスライス自由視点」という方式だ。ピンチインで気になる箇所をズームアップもできる。
スポーツを観戦するときって、サッカーでも野球でもラグビーでもスタジアムの決まった席からしか見られない。たとえば一塁側から見ていて「今のシーン、三塁側からも見たい!」というのは無理。中継映像が補ってくれる部分はあるけれど、カメラアングルを自由に切り替えてみることはできない。
でも自由視点映像ならそれが可能なのである。
技術の進化によって、より多くの観客にスポーツの魅力を伝えることができる。アスリートにとってもスキル向上へのきっかけとなる。つまり「スポーツテック」。これからテクノロジーがスポーツのあり方を変える機会を積極的に作り出して行こうと考えているのだ。
以下は女子スーパーファイナルの模様。事前の予選から勝ち上がってきた16歳の平野夏海選手と野中生萌との一騎打ち。優勝者決定戦は、同じ課題をヨーイドンで登り、早く完登したほうが勝ち。
で、ヨーイドン!
「このホールドをこうつかんで」「次はあのホールドで」……なんて、余裕のまったくない超スピードレース。コンマ数秒の戦い!
また、この日の会場では誰でも試合の自由視点リプレイ映像を体験することができた。場内に設置された大型ディスプレイの映像をゲーム機のコントローラで自由に操るのだ。
小学生男子もノリノリだ!
来るべき5G時代のスポーツ体験はどんなふうに変わるのだろう
試合を終えたTEAM auの藤井快、野中生萌の2人に、クライミングの中継に自由視点映像の技術が導入されることへの印象を聞いてみた。
○藤井快
「こういうの欲しいと思ってたんです。僕自身、クライミングのW杯の中継映像を見るときにもっと自分の見たいアングルで、見たい選手を見たかったから(笑)。自由視点映像なら、それを自分で調整できるわけですからね。通常のクライミングの中継は、引きで背後から撮ってるアングルがほとんどなんですね。正面から見てるだけだと、ホールドの厚みもわからないし、課題のリアルな難しさも伝わらないと思います。アングルを変えたりズームアップするだけで、そこが視聴者のみなさんにも伝わって、観戦するのもより楽しくなると思いますね」
○野中生萌
「自分の登った映像を撮影して分析するのはこれまでもしてきたのですが、だいたい背後からフラットに撮るしかなかったんですね。今後、自分の登りが自由視点で見られると絶対いいと思います。観戦する側にとっても、フラットな映像だと登ってる選手がどういうふうにホールドを持ってるか、かなりわかりづらいと思うので、きっと見る人たちにとっても役立つ気がします。自由視点の技術で、選手の上や横からの映像を見ることができれば、これまで以上に楽しめそうですしね」
今回の「ADIDAS ROCKSTARS TOKYO 2018」には、間違いなくスポーツ観戦の未来があった。
今やすでに、会場に行けない人がネット中継で競技を見ることはできる。でもそこで自由視点映像が公開され、見る人が自由に好きなタイミングで好きなアングルで競技をリプレイできるなんて、完全に未来。会場内に設置されたディスプレイで、競技からほとんどタイムラグなく、自由視点で競技を見返せるのもまた未来。
複数のカメラの映像からなる自由視点映像のデータは大容量だ。現行のモバイル回線で配信するには圧縮する必要がある。間もなく次世代通信技術5Gの時代がやってくる。そうなると、モバイルの通信速度は4Gの約20倍になる。ネットワーク遅延現状の1/10に、誤差は1000分の1秒以下になる。大容量の自由視点映像データを中継と同時に配信するのはあたりまえになり、個人でもごくごく普通に体験できることになるだろう。
大会終了後2日間、会場のスーパーファイナルが行われた壁には自由視点映像撮影機器をそのまま配置し続けた。そして、一般のクライミングファンのみなさんに公開。実際に課題にチャレンジしていただき、壁を登る姿を自由視点映像で撮影し、動画プレゼントするイベントも行った。自分がどんなふうに壁にチャレンジするかを自由に視点を変えながら動画でチェックできるなんて、まさに未来!
これまでにないスポーツの新しい楽しみ方がどんどんできるようになってきた。その背景には通信のチカラがあり、進化がある。クライミングにサッカー、野球などなど、臨場感たっぷりの自由視点映像がこれからも活用されていく。そして、新しいところではバレーボールでも自由視点映像が楽しめる。テクロノロジーがスポーツの見方や体験そのものを下支えする。
来るべき5G時代の「スポーツテック」、今後もますます目が離せないのである。
文:武田篤典
撮影:稲田平
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