4月に公開予定の映画「麻雀(マージャン)放浪記2020」(白石和彌監督、東映)をめぐり、東京五輪が中止になるという映画の設定に自民党国会議員がクレームをつけたとして公開中止の可能性が取りざたされ、「政治家の圧力か」「表現の自由の侵害だ」と議論を呼んでいる。しかし、取材を進めると、まったく違う事情が見えてきた。【中川聡子/統合デジタル取材センター】
「公開危機」に懸念の声渦巻く
映画は、敗戦から間もないころに強烈な個性を放つ雀士たちがマージャンで生き残りをかけて激闘を繰り広げる阿佐田哲也の小説「麻雀放浪記」を原案とする。作品の設定は、雀士たちが現代にタイムスリップし、新たな戦いに挑むというものだ。
主人公「坊や哲」を演じる俳優の斎藤工さんは2月12日、東京都内で行われた「ベストフンドシストアワード2018」受賞式に登場。映画で坊や哲がふんどし姿で大暴れすることから新人賞を受賞した。このときの斎藤さんと報道陣のやり取りを、同日配信のデイリースポーツが次のように報じた。
<1月31日に国会議員の麻雀議連限定試写を開いた際、東京五輪が中止になる映画の設定に“クレーム”が入り、斎藤は「(公開中止になる可能性が)あります」と渋い顔。マスコミ向けの試写は行わない方針で「設定自体がお叱りを受けています。試写をしてしまうといろんな指摘を受けて、(公開予定が)ゼロになる可能性もあるので、強行していきたいなということですよね」と内情を明かした>
これ以降、ツイッター上で
<圧力かよ。誰だ、その国会議員は。大問題だろ>
<こんなクレームで公開中止なんかしたら日本の文化や芸術の未来はないよ>
<何で『東京五輪中止の設定』の娯楽映画で国会議員からクレームを受けなければならないのですか。こういうのを表現の自由の侵害というのです>
などと懸念の声が上がり、政治家の圧力があった前提で「犯人探し」が始まった。
秋元氏「むしろ応援している」
1月31日の議員向け試写会は、自民党国会議員有志の「スポーツ麻雀議員連盟」を対象に行われた。同議連はお金を賭けない健全なマージャンの普及を目指し、昨年12月20日に発足した。試写後に取材に応じた議連事務局長の秋元司衆院議員が、五輪中止の設定に注文をつけたとして、ネット上で「圧力をかけた政治家ではないか」とやり玉に挙がった。
秋元氏は15日、毎日新聞の取材に応じ、「圧力などかけていない」と語った。同氏によると、試写会は配給会社の東映側から依頼を受けて「協力しよう」ということになったといい、試写後にマスコミ取材を受けたという。
秋元氏は「一人の記者から『五輪中止の設定をどう思うか』と質問を受けた。私は五輪の試合も多数予定されている江東区選出の議員。中止になったら困るという単純な気持ちで『みなさまが楽しみにしている五輪が中止になるのは腹立たしい。ありえない』とコメントした」と説明。「それに続けて『全体のストーリーとしては面白いエンターテインメントだ。多くの方がマージャンに関心を持つきっかけになればいい』とも話した。完成した作品に対して公開中止や内容変更を求めることはありえないし、むしろ私は公開を応援している立場だ」と語った。
配給元「圧力は一切ない」
東映側はどう受け止めているのか。
宣伝担当者は取材に「政治家からの圧力は一切受けていない」と明言した。騒動の広がりに困惑し、14日には秋元氏に謝罪と説明の電話をしたという。
担当者は、作品について「麻雀放浪記を原案としたエンターテインメント映画だが、製作陣には『今も戦前かもしれない』というきなくさい空気、マイナンバーによる管理社会や格差拡大という社会への危機感がベースにある野心作だ」と説明。「万人向けではない、あまりない映画。もともと従来のマスコミ向け試写会をやるつもりはなかった。普通のことはやらないでおこうという方針だった」と語った。
マスコミ試写は批判を招く可能性があるのでやらない――という趣旨の斎藤さんの発言と食い違う。斎藤さんの説明について担当者は「リップサービスとしかいいようがない。ジョークですね。映画も風刺、ブラックジョークです」と語った。
マスコミ試写会はやらない一方で、なぜ自民党の議連限定の試写会は開いたのか。
担当者によると、昨年末に議連発足を知り、限定試写を思いついたという。「マージャンを広めようという人たちなので発信力が高いと考えた。『全然だめだ』と言われるかもしれないが、どっちに転んでも政治家の反応が話題になるのでは、と考えました」。秋元氏の試写後の発言については「苦笑しながらのコメントで、圧力とは受け取っていない。むしろ協力していただいた」と感謝する。
過激な問題作だとアピール?
ツイッター上では、すでに紹介した公開危機を懸念する声の一方で、
<本当に公開危機ならフランクに話せるはずがない。話題づくりと知りつつ、すでに気になって見たくなっちゃってるから宣伝としては成功ですね>
<表現の自由、五輪、自民党と燃えやすそうな材料そろえて公開中止の危機を(ネタ的に)あおり、過激な問題作であることを再度アピール……受け手のイデオロギーや情動と結びつきやすい炎上プロモーションじゃないですかね>
など、炎上商法を疑う投稿も上がっている。
担当者は取材に「想定した話題作りではないが、そう思われてもしょうがないと思う。宣伝としてうまくいったのか、いっていないのか微妙だ」と語った。
斎藤さんの所属事務所は「公開危機」の臆測を呼んだ12日の説明について、毎日新聞の取材に、東映を通じて「実際にそのような発言をしたが、圧力を受けた認識はない」と回答した。