ハリー・ポッターと金銀の少女   作:*Foona*
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初投稿です。


プロローグ
0.始まり


 乗客がごったがえすプラットホーム、9と3/4番線に停車する、紅色の蒸気機関車。私はそれをまじまじと見つめて、小声でつぶやいた。

 

「……本物だ。」

 

 周りの客はみな、家族に別れを告げたり、友達と再会したりと、楽しそうにしている。私は逃げるようにして、列車に乗車した。

適当なコパートメントに座り、窓の外を眺める。ふと、私の目に黒縁メガネの少年が目に入った。あれはきっと、この話の主人公『ハリーポッター』だろう。

 改めて私は言う。

 

「本物だ。」

 

 今、座っている座席も、覗く窓も、トランクも、そして自分自身も。

 分かってはいる。だが、証拠がない、答えがない。それが現実なのである。

 

 なぜ、そんなことを言うのか。答えは簡単である。それは、

 

 ―――私が転生者だからだ。

 

 私は死んでいない。だが、転生したことは確か。

 分かっているのに、証拠がない、答えがない。それが、現実(転生)なのだ。

 

 そして、私はこの世界を知っている。鍵を握っているのは私。

そう、

 

 

 

 

『物語は始まっている』――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2024年 6月2日 日本国内

 

 帰宅ラッシュの駅。

 たくさんの人で賑わう中、一人足早に、帰路に着く少女がいた。

 

 彼女の名前は、星崎心笑留。高校一年の十五歳。

 フランス人の叔父がつけたこの名前は、シエル。意味は空らしい。意味はともかく、心笑留はこの名前が好きだった。

 

 心笑留は、兄がおり、3人家族。家族仲は良いが、父は仕事でほとんどいない。兄は高二で、今日は一人だが、いつも一緒に登下校する仲だ。

 

 そんなことを考えていると、いつの間にかもう家に着いていた。

 

 ―――――何の変化のない日常。

 別に変化を求めているわけではない。

 だが心笑留は、この何の変化もない日々に、少しだけ不満に思っていた。

 

 そんな心笑留を、黒い影が電柱から覗いていた。

 

 

 

 

*     *     *     *     *     *     *

 

 

 

 

 家に帰った私は、部屋に上がるといつも通りやることを済ませ、自由時間に入った。

 何をしようかと、一人で考えていると、ドアをノックされた。この時間に部屋へ来るのはせいぜい、兄ぐらいだろう。

 そう考えた私は、「どうぞ」と声をかけた。

 

「心笑留、終わったか?」

 

 予想通り。兄がドアから顔を出しながら、私に問いかけた。

 

「うん。兄さん。」

 

 兄とは、ほんの数年前まで、顔を合わせるたびに喧嘩をしていた。

 だが、私が交通事故で入院をしてから、お互い角がなくなり、今では、こうやって毎晩一緒に過ごす仲だ。

 今日は、一緒にテレビを見る約束をしていた。

 

 いつも通り、定位置に座ってテレビを付ける。

 

 ―――――いつも通りの夜が更けていった。

 

 夜が更けていくごとに私は、今日が最後なんじゃないかと感じていた。そんなはずがない、そう思えば思うほどに、胸騒ぎを感じた。

 

 だがいつの間にかそんなことも忘れ、寝てしまった。

 

 そんな妹を見た兄は、心笑留をベッドに寝かし、テレビを消すと静かにドアを閉め、自分の部屋に戻った。

 

 そんな二人を窓から、フクロウが覗いていた。

 

 

 

 

*     *     *     *     *     *

 

 

 

 

 ―――心笑留は久しぶりに、夢を見ていた。

 

「兄さん、今度は何をする?」

 

心笑留が笑いながら聞くと、兄は寂しそうな顔をして、私に背を向けた。

 

「兄さん…?」

 

「……」

 

 返事はない。もう一度心笑留が、呼ぼうとすると、走って行ってしまった。

 

 心笑留は追いかけようとするが、早くてとても追いつけない。

 

「兄さん!兄さん!」

 

 何度も呼ぶが、次第に自分の声かもわからなくなる。

 必死に手を伸ばし、もがく。

 ―――――遠くから、汽笛が聞こえるような…誰かが話している声も…

 

 

 

『――この子は、その…?』

『おそらくは…』

『なぜ…一体?』

『時がくれば、この子から話してくれるはずじゃ。』

 

 

 

 待って…今の声はまさか…?!

 

 汽笛が全ての音をかき消してしまう。

 

 

 

 

『…-シェ、ルーシェ、ルーシェ!!』

 

 

 

 

「私/わたしは!!………」

 

 

 

 そう叫んだ瞬間、目の前が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1995年 10月 イギリス国内

 

 窓からは、柔らかな日差しが差し込み、気持ちのいい朝を迎えていた。

 長くてストレートな、銀髪、いや金髪だろうか。整った顔立ちをした少女/シエル・スタージェントは、いつも通りの朝を迎えていた。

 

 ベッドから降りて、身支度を整えると、ちょうどいいタイミングで、ドアがノックされた。

 

「どうぞ。」

 

 シエルがそう言うと、ドアが開く。開けたのは、小さくて長い耳を持つ、屋敷しもべ/サリーだった。

 

「お嬢様、朝食の準備が整いました。」

「ありがとう。すぐに降りるわね。」

 

 シエルがそう言うと、サリーは先に降りていった。

 

 シエルは現在5歳。来年度から小学校に入る年だ。と、言っても魔法界の小学校は義務教育ではないため、シエルは入学しない。

 3人家族で、兄も両親も魔法使い/魔女なのだが、なぜか誰も魔法を使いたがらなかった。また、父に至っては、仕事もマグルとして働いている。そのため、シエルはついこの間まで、家族が魔法使いだと知らずにいた。

 

 兄は、魔法界で政治家をしているそうだが、家に居ることが少ないため、話す機会も少ない。

 母はシエルが1才の時、病気で他界してしまった。幼かったシエルは母の顔も覚えていない。だが母のことを聞くのは、5才のシエルにも、少しためらいがあった。だが、母の代わりにサリーが愛情をたっぷりと注ぎ、育ててくれたため、表面的(・・・)にはなんの問題もなかった。

 

 下へ降りると、ダイニングには父と、珍しく兄がおり、向かい合って座って朝食をとっていた。シエルもすぐに自分の席へつき、朝食をとり始めた。

 しばらくして、デザートのプリンに手を付けていると、チャイムが鳴った。

 

 この時間の来客と言えば、新聞配達ぐらいだ。そう思ったシエルは、自分が取りに行くことにした。

 

 長い廊下を歩き、玄関に立つ。ドアを開けると、そこには新聞配達員……ではなく、黒いローブを着た紳士が立っていた。

 紳士は、私を見ると少し驚くような顔を見せたが、すぐに状況を把握したらしく、優しく話しかけた。

 

「お嬢さん、この家に〝ロキス・スタージェント″さんと、〝ハリス・スタージェント″さんはいらっしゃるかね?」

 

 父と兄の名前を出された私は、何も言わず、ただコクリとうなずいた。

 

「じゃあ、二人を呼んでくれるかい?〝魔法省″とだけ、伝えておくれ。」

 

 そう言われた私は、もう一度うなずくと、すぐさま二人のところへ急いだ。

 

 ダイニングに着くと、先ほどと変わらず父も兄も座っていた。

 

「お父さま、お兄さま。お二人にお客様です。『魔法省』とのこと……」

 

 シエルが言い終わらない内に、二人が過剰反応した。驚いた顔をしたかと思えば、みるみるうちに青くなり、お互いに顔を見合わせ話し始めた。

 

「ま、まさか?こんなに早く……いや、こうしてはおれん!!すぐに仕度をするのだ!」

 

 いつもとは違う雰囲気に、ただ事ではないことを悟ったシエルは、急いで身支度を始めた。もともと荷物の少ないシエルは、1分もせずに完了した。すると、またチャイムが鳴る。

 

 「シエル!すぐにこれを持っていけ!」

 

 そう言った父から差し出されたのは、ティーカップがのったお盆だった。

 それと引き換えに荷物を取られると、「早く!」と念をおされた。

 

 本日2回目の玄関。開くと先ほどと変わらず、黒い紳士が立っていた。

 とりあえず適当にごまかす事が、シエルの仕事だ。

 思い付いた事を並べていく事にした。

 

「…お待たせしており、申し訳ございません。二人ともまだ眠っておりまして…。今、起こしましたので、仕度が終わり次第こちらへ参ります。良ければこちらをどうぞ」

 

 紳士はティーカップをもらいながら、シエルの見た目らしからぬ振る舞い方に、唖然としていた。

一応シエルはいいところのお嬢様なので、小さい頃から教育されており、この手の技は大人も顔負けだろう。

 

「それでは、もうしばらくお待ちください」

 

 そう言うと、私は紳士に軽く会釈をし、ドアを閉めた途端に猛ダッシュした。

 

 シエルが戻ると、家の中は文字通り空っぽになっていた。

 

 準備を終えた、4人は静かに裏口から出、車に乗り込んだ。

 エンジンをかけて前進……かと思えば、車体が宙に浮いた。

 初めてみる魔法(?)にシエルは驚きを隠せずにいたが、父も兄もそれどころではなかった。

 

「やはり、魔法省相手では、我らもこれまでか……。」

「でも父さん、シエルは…?」

「それは……。」

 

などと討論をしている。時々自分の名前が聞こえたような気がしたが、質問をする隙も無い。

 運転をする、サリーにも話が広がり、いきなり話が止まったかと思うと、3人同時に私の顔を見つめた。

 何とも言えない顔をしている、3人の沈黙の視線に耐えていると、その沈黙を破ったのは、父だった。

 

「………シエル、あの、だな…。父さんたちとは、その、今日でお別れだ……。これからは、サリーと一緒に暮らしておくれ……………」

 

 そう言った父の声は、今にも消え入りそうで、ほとんど泣き声に近かった。そんな父を見たシエルに、否定の余地はなった。か細くうなずくと、父が私を抱きしめた。

『最初で最後』。ふとそんなことをシエルは考えた。

 

 ガシャンッ―――――――――

 

大きく車体が揺れ、私たちを引き剥がした。後ろを見ると、先ほどの黒い紳士が箒に乗っているのが、遠くに見えた。

 

(箒?!)

 

 思わず、二度見してしまった。ほとんどパニック状態のシエルにかまうことなく………

 

 「まさか?もう気付かれたというのか?……サリー、運転を変わろう。」

 

 兄が言うと、サリーは運転を代わった。

 

「この子を…シエルを頼んだぞ。」

「はい、お嬢様はわたくしが、命を懸けてお守りします…。」

 

 また車体が揺れる。先ほどよりも幾分大きかった。

 

「サリー、行け!!!!!」

 

 サリーが私の手を握る。

 

 パチンッ、パチンッ――――――――――

 

 頭に残る、指鳴らしの音が2回。目の前が眩んで……

 

 

――――――――気づけばそこは、見知らぬ土地だった。

 




感想、誤字脱字、ここはどうなの?、等ありましたら、お気軽にお願いします。

次回、1.心笑留の始まり


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