フォーサイト、魔導国の冒険者になる   作:塒魔法
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※拙作はR-15です。
※R-15(大事なことなので


アンデッド・クレマンティーヌの受難

25

 

 

 

 時をかなり(さかのぼ)る。

 クレマンティーヌの死体が、死体安置所から消えた時まで。

 

 

 

 †

 

 

 

 死に(いだ)かれていた。

 私はそれを、振り払うことができなかった。

 そして、真っ暗闇に包まれたまま、真っ暗闇の中に突き落とされる。

 

「──ッ!?」

 

 自分という人間が存在してから経験したことがないほど、最悪な目覚め。

 臓物を口いっぱいに頬張ったような血臭の濃さが、目覚めてから一番最初の感覚だった。

 

「ぐ、おぇッ!」

 

 意識が覚醒した。

 咳こみ、えずき、何もない口から嗚咽(おえつ)じみた悲鳴をこぼす。

 わけもわからず手足をばたつかせ、全身にかかっていた布切れを払い落とすと、闇に包まれた部屋の中を見渡す。そう、闇だ。闇の中を自分は見渡している。明かり取りの窓もひとつもない空間で、嗅ぎなれた匂いと部屋の中にあるもので、そこがどこか知れた。

 

「死体、安置所? ケホ、えほッ!」

 

 積もり積もった死臭のしけた空気にさらされ、その冷たさに身を震わせる──ということはない。

 

「な、なに……いったい、なにガ?」

 

 覚醒したばかりの意識は未だに朦朧(もうろう)としている。

 しかし、はっきりと覚えていることが、脳裏にこびりついて離れない出来事が、ひとつだけ。

 

(──「では、始めるぞ?」──)

 

 まるで恋人同士の熱烈な情事のごとき、骸骨との距離。

 

(──「これで止めを刺そうと思っていたんだが」──)

 

 漆黒の剣を見せつける不死者の、静かな宣告。

 思い出すたびに、心臓が、脳髄が、クレマンティーヌの魂が、畏怖の感情に震撼する。

 

(──「そんなに暴れるなよ」──)

 

 自傷同然に暴れ狂ったクレマンティーヌ。血みどろになるほどの抵抗も反撃も意に介さず、万力(まんりき)のごとく腹部を圧迫し、拷問のごとく背骨を緩やかに割り砕く──アンデッドの豪腕。必死に狂い足掻く様を嘲虐する声音。地獄の猛獣の(あぎと)(もてあそ)ばれるがごとく、悪辣かつ残忍を極めた嗜虐の(すい)。凄惨な“死”そのものが、クレマンティーヌの体躯を破砕した……絶命の時。

 臓物が喉元をせりあがる瞬間、ズーラーノーンの十二高弟──元漆黒聖典・第九席次“疾風走破”──英雄の領域に足を踏み込んだ戦士が、やられた。殺された。

 完全な死を与えられ、完膚なき敗北を喫した。

 

「くそガ!」

 

 なんだ、あのエルダーリッチは!

 いや──もはやエルダーリッチとか、そんなレベルのアンデッドではない!

 情報を司る風花聖典でも、あれほど強力な存在は噂の端にも聞いたことがない。陽光聖典では惨殺される。漆黒聖典の連中でも──おそらく一人か二人だけを除いて──対応不能ではないか。クレマンティーヌの出自が、直感が、嘘偽りのない戦闘力が、あの化け物(アンデッド)は人外たる英雄の領域のさらに上の、そのまた上を行く……“超越し尽している”事実を理解させた。

 

「クソ……糞……ッ!」

 

 思い出すだけで胸が凍える。

 肩を抱いて、襲い掛かる死の恐怖と絶望に耐える。

 何も身に着けていない全身が、冷気とは違う要因で震え続けるのを抑えきれない。

 視界が滲み歪むという屈辱の感覚を久方ぶりに味わった。

 しかし──クレマンティーヌは即座に冷静さを取り戻し、そして気づく。

 

「──どうして、私──?」

 

 生きている?

 自分は死んだ。

 そのはずだった。

 復活の魔法か……否──何かが、違う。

 

「……チッ。ああ、そういう、こト」

 

 さらけ出された胸の中心に手を当てる。

 鼓動がない。

 念のため、手首の脈や口の呼吸も確認してみるが、生物としての特徴は失われていた。

 闇を見透かせるのも、アンデッドの闇視(ダークヴィジョン)という能力によるものだろう。

 つまり、これは──

 

「〈不死者創造(クリエイト・アンデッド)〉の魔法……いや、その“応用”か……ズーラーノーンの高弟に、盟主のクソヤロウが施術した、ネ」

 

 ズーラーノーンに加入する前から、噂には聞いていた。

 アンデッドを支配し、近隣諸国に脅威を振りまく秘密結社の幹部たちは、盟主への忠誠を捧げるとともに、その際に“死しても盟主の徒弟として従属する”という誓いを立てさせられる。強力な幹部連中は、たとえ死んでも、アンデッド化の魔法によって組織の強力な手駒に堕ちるのだ、と。ただでさえ強力な戦闘力を持つ高弟がアンデッドモンスターと化せば、その能力は飛躍的に上昇する道理。それによって、ズーラーノーンは周辺諸国が下手に手を出せない・手をこまねくしかないほど強力な戦力を、数百年単位で拡充していくことができたのである。

 クレマンティーヌは、不死の存在(アンデッド)に転生を果たした。

 しかし、どういうわけだろうか──

 もはやクレマンティーヌに、ズーラーノーンに対する執着も忠節も何もない。否、生前からそんなものはあってないようなものだが、盟主の魔法がきちんと働いたわりには、盟主のもとへ戻ろうという、そういった手駒らしい従属の心胆は、まったくこれっぽっちも芽生えはしなかった。

 

 

 

 実は。

 これは直接クレマンティーヌを殺害したのが、最強の死霊術師(ネクロマンサー)にして“死の支配者(オーバーロード)”たるアインズであったことから、盟主の施術した死霊魔法に誤作動が生じていたのだ。クレマンティーヌはアンデッドとなったが、同じアンデッドの中でも最上位に位置する死の支配者(オーバーロード)瘴気(しょうき)ないし威光(オーラ)の影響で、または死霊術師(ネクロマンサー)の極みに位置する者の有するアンデッド支配の職業(クラス)スキルで、アンデッドとして復活した彼女の支配権は、クレマンティーヌを殺したアインズが握るものとなった──“はずだった”。

 だが、当のアインズ本人が、その支配権の移行現象に気付くことができない──召喚し、実験し、ナザリックで増産を始めた中位アンデッドの気配・支配の繋がりの糸に紛れてしまい──その上、現地の応用魔法を十分に把握できないユグドラシルプレイヤーであったことから、クレマンティーヌの支配権は奇跡的な確率で“宙ぶらりん”な状態となり、クレマンティーヌは生前と変わらぬ自由意志を獲得するに至ったのだ。

 彼女の身体が生前と遜色がない──アインズとの戦いで破砕されつくした背骨や臓器、抵抗の際に欠け落ちた歯や爪が完全に治っているのも、彼女を支配するはずだった最上位アンデッド(アインズ)の影響──濃厚で濃密に過ぎる負のエネルギーによって、アンデッド化した身体を修復した結果だった。

 なので、ズーラーノーン側にも、クレマンティーヌの状態は正確に把握されず、アンデッド化した同胞の回収に来るのが遅れに遅れた。

 

 

 

「……まぁ、なんでもいイ」

 

 死体だった女の総身にかかっていた白布……骸布を掴んで身に纏い、クレマンティーヌは死体安置所内を物色する。

 だが、あるものは当然死体ばかり。その死体に見知った者があるのは、あの墓地でカジット主催の「死の螺旋」儀式の手伝いをしていた弟子たち──組織の雑魚術師たち──こいつらも死んで諸共に此処へ収容されたからだ。そして、当然ながら、エ・ランテルで凶悪事件を巻き起こそうとした連中の装備品や持ち物は、都市の連中に調査目的で剥奪されているという、当然すぎる顛末。せっかく盗み出した最秘宝“叡者の額冠”は勿論、愛用していた武器も鎧も、クレマンティーヌは何もかもを失った。

 そんな中で──

 

「あア?」

 

 奇妙な塊があった。

 一見すると焼死体のような外見──全身が魔法の雷撃で焼かれ、手足すらもげ落ち、炭化の限りを尽くした死体は、しかし、“動いている”。

 瞬間、戦士の勘が告げる。揺れる炭の頭蓋骨……その正体を見抜いた。

 

「あれ──もしかして、カジッちゃん、じゃネ?」

 

 カジットだった炭化体が、頷くようにゴトンと跳ねた。

 

「ああ。なるほど──アンデッド化は“高弟”に施されるものだからねエ」

 

 同じ十二幹部だったカジットも、クレマンティーヌと同じタイミングでアンデッドに成り果てたわけだ。

 腐っても、焼かれても、アンデッドになる分には問題ない。

 腐乱死体も焼死体も溺死体も、たとえバラバラ死体でも、死体は死体。

 アンデッドならば身体の欠損など、何の問題にもなりえないのだ。頭蓋骨だけでも申し分ない。

 ちなみに、雑魚の弟子たち──たとえば、カジットの手伝いをしていた連中には、同様の施術はされていない。盟主と直接的に交わることができるのは幹部たちのみ。なにより、十分な能力・魂の強度に達していないものでは、これほどの魔法行使を施そうとしても、施術した瞬間に死亡・アンデッド化するため、条件付きの時間差で発動する複雑な術式の意味がないらしい。

 

「ああ、と──どうする、カジッちゃん? このまま、ここで待っていれば、とりあえず不死者(アンデッド)になった私らの回収に来る連中、組織の奴らに会えるんじゃなイ?」

 

 だが。クレマンティーヌの知る限り、このような状態のアンデッドなど、使い方は限られている。

 意思疎通が難しく、おまけに手足がないため、自力移動も不可能に近い。いいところ、カジットが持っていた超レアな“死の宝珠”──あれの基礎部分に利用され、加工され、ただの(インテリジェンス・アイテム)として消費される運命に堕ちるだろう。

 当然、自らの意識を保つカジットは、そんな運命など受け入れようがない。

 ──これも偶然だが、アインズの能力は近くで焼き殺されたカジットにも、クレマンティーヌと同様の影響を与えていたようだ(ただし、ナーベラルに殺された彼はアインズとの距離が離れていたために、死体修復の恩恵までは受けられなかった)。

 

「──しゃーない。ここに放っておいて、逃げる私のことを洗いざらい吐かれても困るシ」

 

 クレマンティーヌは我が身の安全のためにも、カジットの死体──動く頭蓋骨を適当な骸布にくるみ、死体安置所から姿を消した。

 

 

 

 

 それからクレマンティーヌは、衣服を盗み、武器を盗み、金銭も盗み、カジットを連れて、逃げた。

 ズーラーノーンから。

 法国の特殊部隊から。

 そして何より──あのアンデッド──死の神とも称すべき異常な化け物に見つからぬよう、一路バハルス帝国を目指し、逃げ続けた。

 王国のエ・ランテルから距離的にほどほど近い、別の国へ。エ・ランテルをはじめ、王国内に留まるなど、あの化け物の活動領域内をうろつく行為は、論外。抜け出して逃げ出した先の法国に帰るのも、これまた論外。進路の都合上、逃げ道は帝国以外にありえなかった。組織の手から逃れることを考えると、ズーラーノーンの手が及んでいない聖王国に逃げることが最善手なのだろうが、組織よりも何よりも、あのアンデッドが巣食う王国から逃れられる最短ルートが、エ・ランテルに程近いバハルス帝国だったわけだ。

 それで、あの銅級(カッパー)冒険者に化けていたアンデッドの脅威から完全に逃げられると思いこんだ。思い込む以外に処方がなかった。

 アンデッドになったおかげで、疲労や空腹、喉の渇きを感じずに走れた。人の眼に止まれば、どこから組織や法国の手のものに見つかるとも知れぬため、これまで以上に街道は使えない。まるで、自分がさんざんトロフィー目的で狩っていた冒険者のごとく、野山を馳せ、河川を渡り、モンスターなどの脅威を自慢の腕っぷしで黙らせて、どうにかこうにか逃げ果せた。アンデッド化の影響で、これまで以上の能力を獲得できたのも、クレマンティーヌの逃亡を手助けする要因たりえた。

 とりあえず一ヶ月ほどの逃亡生活の末、危難は去ったと思えた。

 しかし、油断はできない。

 とにかく、クレマンティーヌは情報を求めた。

 数ヶ月をかけ、あの強大に過ぎるアンデッドに関する、何かしらの情報が掴めないものか、今の自分に可能な範囲で調べた。法国の巫女姫から最秘宝を奪い去る手腕を持つクレマンティーヌであれば、帝国の魔法学院や冒険者組合などに侵入潜入し、文献をあさるのも苦ではない。学生に紛れ、受付嬢に化け──しかし、手掛かりは一向に掴めぬまま。帝国魔法省や、帝都にあるズーラーノーンの秘密アジトなどにも忍び込むべきかと考えたが、さすがに警備の厚さなどからリスクが大きすぎると判断した。生まれ育った法国の勝手は知るところ──隙を衝くのは容易だったが、帝国には三重魔法詠唱者(トライアッド)──フールーダ・パラダインがいる。そして、裏切り逃げ出した組織に自ら近寄るなど愚策でしかない。

 

 クレマンティーヌはアンデッドであることを巧みに隠しながら、カジットと共に帝国内部で活動を続けた。いよいよ王国から最も遠い都市国家連合あたりに逃亡することを考え始めたが、何故なのか、“あまり気が乗らなかった”。

 

「わかってるよ、カジッちゃん──でも、さ。都市国家連合に逃げたとしても、私をブチ殺した例のアンデッドの手から逃げきれるという保証にはなんないじゃん? それに、都市国家連合に逃げたところで、結局は組織の、ズーラーノーンの勢力図から逃げきれないわけだシ?」

 

 炭の塊のような形状のアンデッド──カジットの頭蓋骨と喋るのも慣れたものだ。

 

「それに、よくよく思い出してみると……あのアンデッド……私らの信仰していた六大神……死の神さま……スルシャーナと似ている気がしたんだよネ?」

 

 思い出したくもない、あの死の瞬間。

 間近で見た不死者(アンデッド)相貌(そうぼう)双眸(そうぼう)

 ──そう。

 あの姿は、スレイン法国の誰もが信奉する六大神の一柱と酷似していた。アンデッドでありながらも法国の民の信仰の対象として崇められる死の神と、あのアンデッドは似通っている気がした。いや、似通っているなどというどころではない。まさに、あれこそが──

 

「いや、いまさら、法国に戻るのも綱渡りだから、絶対に戻ってやんないけど…………とにかく、あのアンデッドに関する情報が手に入るとしたら、やっぱりここいらに留まっておくのが一番だと思ウ」

 

 普通の人間に扮し、安宿や空き家を活動の拠点とし、集められる情報を精査しながら、王国や法国の動向を吟味するのに、この帝都……帝国と王国の距離はうってつけだった。

 カジットは頷きながらも、ひとつの疑義を呈する。

 

「じゃあ、何故この間、わざわざエ・ランテルに行ったんだって──いや、その時は、その、……なんというか、そう、敵情偵察みたいナ──?」

 

 冒険とも呼べぬ愚案であったが。

 クレマンティーヌは一度だけ、エ・ランテルに戻ったことがあった。

 目的は勿論、自分を殺したアンデッド──冒険者モモンを探る目的で。

 危険を重々承知の上で、竜の口に飛び込む思いで、あの恐怖の大権化の動静を探りに行ったが、不発だった。あのアンデッド=モモンは、アダマンタイト級にまで昇り詰めているという風聞は帝国にも流れていたが、冒険者の任務故か、一ヶ所に留まっているわけがなかった。

 ──これも、まったくの偶然であるが。

 この時、モモンがある目的で帝国帝都に向かっていたこと……行き違いになっていたことを、クレマンティーヌは知る由もなかった。

 

「何故、逃げないって。そんなの……でも、さぁ……都市国家連合にまで行くと、王国や法国の情報は入りにくくなるし。あのアンデッドが、どこで何をどうしているのか把握しておける距離を保った方が、結果的に一番効率よく逃げられる、はズ──」

 

 自分の唇が紡いだ主張でありながら、奇妙な引っ掛かりを覚えた。

 何か言い訳じみたものをクレマンティーヌ自身が感じ取っていた。

 もう、あのアンデッドにはかかわりたくない・関知されたくないという思いがある一方で、どういう理屈でか、これ以上の逃亡を続けることに抵抗を覚える自分を、クレマンティーヌは自覚しきれていない。

 

(──「同じ“死”だ」──)

 

 ああ、まただ。

 眠ることができないアンデッドの脳髄は、ふとしたことがきっかけで、繰り返し繰り返し、あの鮮烈な“死”の降臨をフラッシュバックする。

 

(──「ゆっくりやってやるさ」──)

 

 女に覆いかぶさってくる“死”。

 いっそ今すぐ死にたくなるほどにクレマンティーヌは思いつめられるが、アンデッドの身体で自死など不可能な摂理──街で売られるポーションを服用したところで、クレマンティーヌの基礎能力のせいなのか、大したダメージにはならなかった──さりとて、気分転換に寝ることも飲食することもできず、帝都の人間をブチのめし拷問し殺してしまうという、お決まりのストレス発散の手も、危険が大きすぎる。クレマンティーヌは逃亡者だ。目立つ行為は極力避けねばならないと、十分わかってはいる。生き地獄とはこのことか。もう死んでいるのだから無性に笑えてくれる。畏怖に引き攣りまくった渇笑(かっしょう)がこぼれる。

 

 何より、自分は知ってしまった。

 

 あの死の結晶……あの絶対者にして超越者のもたらす恐怖と絶望に比べれば、自分がやってきた殺人の快楽劇など、ただの児戯に等しいことを。

 

(──「死の舞踊か」──)

 

 命の終わる間際。

 すべての余裕をなくすほど追い詰められた女の全身全霊に、(しか)と刻印された、凄絶な記憶。

 あの、──抱擁──

 胸を強くおさえる。

 至近で呟く男の声を思い出すたびに、していないはずの呼吸が荒れまくり、鼓動の止まった女の心臓が跳ねあがるかのよう。もはや体温などまったく無いはずの全身が、釜茹でにされたかのごとく熱を帯びていく気配さえ錯覚した。

 ……錯覚ではないのかもしれない。

 

「くそ──クソ……糞ッ」

 

 クレマンティーヌは涙声を吐き落とす。

 カジットの頭蓋を部屋に備え付けの私物入れ──箱の中に放り込み問答無用で蓋をする。

 そうして安宿のベッドの上に寝そべる。衣擦れのかすかな音色。あの圧倒的な死に際して露出した臓物……それを詰めなおされた下腹部に手指を這わせ、そこから今まさに生じる疼きを必死に──懸命に──なぐさめる。

 恥も外聞もない。

 片手の指をくわえ、甘い声をひそめて、……しのぶ。

 ──アンデッドなのに。

 

「ッ、っ……………………くそ、ゥ」

 

 どうして、こんなことをしているのか。

 どうして、こんな思いを(いだ)いているのか。

 クレマンティーヌは薄々(うすうす)──わかっている。

 

 

 

 

 

 そうして時は流れた。

 帝国はアインズ・ウール・ゴウン魔導国の属国となった。

 その属国内でクレマンティーヌは、とあるナザリックのシモベたちと、邂逅した。

 

 

 

 

 

 

 




箱入りカジッちゃん(……アンデッド化で性欲がなくなってて、ほんと助かったわい)


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