二十九日に迫っていた英国の欧州連合(EU)離脱期限の延期が下院で決まった。しかし、打開策は見当たらない。続々判明する離脱の弊害。民意を問い直すことこそ、民主主義の本分ではないか。
新たな期限は六月末。メイ首相は離脱合意案を再び議会に諮る考えだが、可決される保証はない。代案もない。合意なき離脱の悪夢は去らない。
国民投票の賛成多数でEU離脱を決めてから三年近くたつ。しかし依然、離脱の手立てを決められないままだ。
メイ氏のリーダーシップ欠如、議員らの無為無策など政治の責任は大きい。
EU下では自由な往来が保障され、平和や利便を享受していた。その恩恵を失う見立てが甘いまま離脱を強行しようとして、無理が生じているのではないか。
国民投票時には「EUに払っている分担金を社会保障に回せる」など根拠のないキャンペーンが、離脱をあおった。
しかし、離脱で人や物の流れは滞る。部品調達がスムーズにできず企業の英国外流出が進み、食料や医薬品が手に入らなくなり生活も直撃を受ける-こうした離脱の弊害やリスクはあまり論じられなかった。もしくは、誰かがなんとかしてくれるだろうと楽観していた。そして、今の袋小路である。
ブレア元首相は「他の方法が尽くされたのなら再投票こそ論理的だ」と訴える。これに対し、メイ氏は「民主主義を信じた大勢の人たちに民主主義を届けられなくなる。政治の清廉を取り返しがつかないほど傷つける」として一貫して否定的だ。
しかし、ここへ来て英メディアの論調も危機感を増している。
フィナンシャル・タイムズ紙のコラムは「二回目の国民投票が今こそ必要だ」との見出しでこう訴える。
「民主主義は、国としての意見を変える権利も意味する。不正な国民投票キャンペーンが行われたのならなおさらだ。投票以後さまざまなことが起きている」
過ちてはすなわち改むるにはばかることなかれ、である。
解けないパズルに挑む努力も、民主主義政治の役割だ。
離脱期限の延期で考える猶予はできた。世論を見回し二回目の国民投票の可能性を探ってほしい。英国が覚悟を決めればEUの理解も得られるだろう。伝統で培った民主主義の底力に期待したい。
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