順位 | 作品 | 作家 |
---|---|---|
1 | 占星術殺人事件 | 島田荘司 |
2 | 十角館の殺人 | 綾辻行人 |
3 | 亜愛一郎の狼狽 | 泡坂妻夫 |
4 | 火車 | 宮部みゆき |
5 | 匣の中の失楽 | 竹本健治 |
6 | ガラスの麒麟 | 加納朋子 |
7 | 邪馬台国はどこですか? | 鯨統一郎 |
8 | 三毛猫ホームズの推理 | 赤川次郎 |
9 | すべてがFになる | 森博嗣 |
10 | 超・殺人事件 | 東野圭吾 |
私がミステリーにはまるきっかけとなったのは、漫画のミステリーを読んだことでした。漫画を読んでミステリーの面白さを知り、普通の ミステリー小説も読むようになったのです。そこで、管理人の私が読んできた主なミステリー漫画を(少ないですが)紹介していきたいと 思います。多分、今更紹介されなくても知っているという作品ばかりでしょうがどうかお付き合い下さい。
①金田一少年の事件簿私が最初に読んだミステリー漫画が、これです。1992年から2000年まで週刊少年マガジンに連載された作品で、「ミステリー漫画」と いうジャンルを初めて確立した漫画といえます。この作品の発表後、後続の作品が続々と出てきました。またその人気はものすごく、ドラマ やアニメが作られて、いずれも高視聴率を獲得しました。
名探偵・金田一耕助の孫で、高校生の金田一一が、次々と遭遇する数々の難事件を解決していくというのがこの作品の基本的な構造で あります。出てくる事件の内容は、ここで紹介している四つの作品の中で最も本格ミステリーに近い性質をしています。古めかしい建物や 曰く付きの背景、嵐の山荘や絶海の孤島などの外界と隔絶された空間、そのような場所を舞台にして起こる連続殺人とそれに使われる奇想 天外なトリック、残された僅かな手掛かりから真犯人に迫る主人公などなど、まさに本格ミステリーの内容です。出てくるトリックは、毎回 凝ったものばかりで楽しませてくれますし、ストーリーもよく練られています。
また漫画という特性を生かしたトリックや伏線などを生み出したのも、この作品の功績といっていいでしょう。例えば、メーントリックに 視覚効果の高い(文章では伝えにくい、あるいは盛り上がらない)トリックを使ったり、コマの隅にさりげなく伏線や証拠となる物を書いて おいたりなどのやり方です。これらの手法は、後続の漫画にも取り入れられています。
私の好きな作品:「飛騨からくり屋敷殺人事件」「タロット山荘殺人事件」「魔術列車殺人事件」「魔神遺跡殺人事件」「天草財宝伝説 殺人事件」「電脳山荘殺人事件」「鬼火島殺人事件」
②名探偵コナン「金田一少年の事件簿」の次に見るようになったのが、これです。1994年から週刊少年サンデーに連載され、現在も続いています。最初 はアニメだけを見ていましたが、アニメ放送開始からしばらくたって漫画も買うようになりました。絵柄の違いのためか、内容の違いのため かはわかりませんが、後続のミステリー漫画の中では唯一「金田一少年の事件簿」よりも人気が出た作品であるといえます。
高校生探偵の工藤新一は、ある日幼馴染の毛利蘭と行った遊園地で怪しげな黒ずくめの男たちの取引現場を目撃する。尾行に気付いた男 に殴られた新一は、「組織が新開発した毒薬」を飲まされ、意識を失ってしまった。そして気が付いたときには新一の体は六歳の少年のもの に変わっていたのだ。新一は隣人の阿笠博士に事情を説明、助けを求める。そこに新一を捜しに蘭がやってきた。彼女に名前を尋ねられた 新一は、周囲にあった推理小説の表紙をヒントに「僕の名前は江戸川コナン」と言ってしまう。新一が死んでいないことが黒ずくめの男たち に知られたらまた命を狙われる。元の体に戻るためにも、「組織」の情報が必要だ。探偵をしている蘭の父親、毛利小五郎のもとなら、組織 の情報が入る可能性も高い・・・阿笠博士のアドバイスに従って、新一は「江戸川コナン」として、毛利家の厄介になることにした。そし てコナンは小五郎に代わり、(表には出ないが)数々の事件を解決していく。
・・・というのがこの漫画の主な内容です。簡潔にまとめても、結構説明の文章が長くなったのは、それだけこの漫画が複雑な構造を しているからです。主な登場人物を挙げるだけでも、主人公の江戸川コナン、その幼馴染の毛利蘭、蘭の父親で探偵の毛利小五郎、コナン の隣人で良き協力者である阿笠博士、警視庁捜査一課の目暮警部、高木刑事、佐藤刑事、コナンの通う小学校のクラスメートで友人の小嶋 元太、円谷光彦、吉田歩美、コナン(新一)のライバルでかつ友人でもある大阪の高校生探偵・服部平次とその幼馴染の遠山和葉、などなど 、大勢います。
「金田一少年の事件簿」と並ぶ二大推理漫画と呼ばれることもありますが、その作風にはいくつか異なる点があります。まあそれは、ど ちらかがより優れているということではなく、それぞれの特徴だと思います。以下にそれを列挙してみました。
私の好きな作品(題名はアニメ版のもの):「外交官殺人事件」「スキーロッジ殺人事件」「名陶芸家殺人事件」「黒の組織から来た女 大学 教授殺人事件」「奇術愛好家殺人事件」「黒の組織との再開」「命がけの復活」「そして人魚はいなくなった」「謎めいた乗客」「大阪ダブル ミステリー 浪花剣士と太閤の城」「犯罪の忘れ形見」「揺れる警視庁 1200万人の人質」
ミステリー漫画の紹介の第二弾です。ここで紹介する二つの漫画は、上で紹介した「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」ほどの知名度 はありませんが、どちらも負けず劣らずのレベルの作品だと思います。興味がわきましたら是非一度、読んでみて下さい。
③Q.E.D.~証明終了「金田一少年の事件簿」「名探偵コナン」のヒットを受け、九十年代後半以降ミステリーを題材とする数多くの漫画が生まれました。し かしこれら後発のミステリー漫画のほとんどは、「金田一」と「コナン」の二大推理漫画ほどの水準には達しておらず、同工異曲の作品が 多いこともあり二、三年で連載を終えています。
そんな中で、人気の点では「金田一」「コナン」に劣るもののその水準は決して引けを取らず、独自の路線を確立して現在まで連載が続いて いるのが「Q.E.D.~証明終了」です。1997年から講談社のマガジンGREATに連載されています。あまり聞いたことのない雑誌でしょうが(管理人も この漫画を知るまで、そんな雑誌があるとは知りませんでした。)一応コンビニのサンクスやサークルKには優先して置いてもらっていると のことです。(発売は二ヶ月に一度と月刊誌よりも間隔があいています。)
アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)を十五歳で卒業、その後なぜか日本で普通の高校に再入学した天才少年・燈馬想と、彼の クラスメートで父親が刑事のスポーツ万能女子高生・水原可奈、この二人の主人公が協力して事件を解決していくというのが基本的な構造 です。それだけだと「金田一」と大差ないと思われるでしょうが、いくつかの点で「金田一」や「コナン」とは異なっています。
私の好きな作品:「銀の瞳」「1st,April,1999」「ヤコブの階段」「光の残像」「Serial John Doe」「学園祭狂想曲」「魔女の手の中に」 「虹の鏡」「イレギュラーバウンド」「ガラスの部屋」「死者の涙」
④探偵学園Q「金田一少年の事件簿」の連載終了から半年ほどして、同じ原作者と漫画家のコンビが新たに作り出して連載を始めたミステリー漫画が この「探偵学園Q」です。名探偵の団守彦が設立した団探偵学園のトップクラスであるQクラスに入学した五人の少年・少女たちがあるとき は独りで、またあるときは互いに協力して探偵学園に持ち込まれる事件を解決していくというのが基本的な構造で、前作の「金田一」とは また違った作風になっています。
「金田一」といちばん違う点といえば、やはり探偵役が五人になったことでしょう。推理力が五人の中で最も優れているキュウ、唯一の 女の子で瞬間記憶能力という特殊能力を持った少女・メグ、キュウと並ぶ天才的な推理力を持っているがどこか謎めいた存在のリュウ、直感力 や身体能力、行動力は誰にも負けないキンタ、パソコンを使った情報収集や分析が得意なカズマと個性的な五人が協力して事件を解決する という、これまでのミステリー漫画ではなかった複数の探偵の同時活躍が描かれています。
また「コナン」の要素も新たに採り入れられています。それは謎の犯罪組織の存在です。「コナン」で「黒の組織」が出てきたようにこの「 探偵学園Q」でも「冥王星」という謎の犯罪組織が出てきて、それによって事件と事件の間に関連性が生じています。「冥王星」は直接犯罪 を行うのではなく、殺人をしたいという依頼人にその方法を提供し、依頼人が失敗して警察に捕まりそうになると後催眠効果で依頼人を始末 するという犯罪組織です。
その他にも、この作品にはまだ明かされていない謎がいくつかあります。例えば主人公であるはずのキュウの本名さえ、まだ明らかにさ れていません。これらの謎が「冥王星」をめぐる謎と共に読者の興味を掻き立てます。
あともう一つ特筆すべき点といえば、事件の難易度でしょうか。奇想天外なトリックは相変わらずなのですが、事件の難易度は「金田一 」のときより若干易しくなったと思います。解答編の前にキュウ君がヒントは~つ、○○、××、・・・と言ってくれるので読者にとって は解きやすくなったのでしょう。
私の好きな作品:「霧咲島の惨劇」「神隠し村殺人事件」「降霊術殺人事件」「Q対A延長戦」「魔矢姫伝説殺人事件」
ミステリーを最後まで読み終えたうえで、読者が感心するものとは何でしょうか?仕掛けられた奇抜なトリックや意外な真相に感心する のはもちろんですが、ミステリーにはもう一つ、それらとも密接に関わる醍醐味があります。それは、上の題名にもあるように「伏線」で す。
伏線はミステリーの文章中に何箇所かに分かれて散りばめられており、犯人あるいは犯人が仕掛けたトリックの手掛かりとなります。ど の部分が伏線なのかはもちろん知らされていないわけですから、それを推理しながら読んでいくのが読者にとっては面白いわけです。この 伏線の推理が犯人やトリックの推理に結びついていきます。
推理作家にとっては、この伏線の張り方はトリックを考え出すのと同じぐらい難しいようです。あんまりあからさまに出しすぎてもいけ ないし、そうかといって隠しすぎてもいけません。読者を感心させるには、この微妙なバランスの取り方が必要です。
例えば「彼はポケットにテグスを入れていた。」という文が唐突に挟まれると誰でも注意が向くでしょう。これでは最後にテグスを使った トリックが説明され、彼が犯人だと言われても感心できません。また逆に途中で何の手掛かりも与えられないまま最後にテグスを使ったトリック だと説明されても、やはり感心できません。
このように伏線は「はっきり」とそれでいて「さりげなく」書かれなければならないのです。そのために推理作家は様々な手法を使います。 まず挙げられるのが「分散」というやり方です。これは小説全体の中で離れた二箇所あるいはそれ以上の箇所の伏線を同時に意識することで初めて 犯人やトリックがわかるようにするというやり方です。
ある有名な作品から具体例を挙げてみます。まず最初に「殺された被害者は顔をつぶされており」という記述があります。それから少し 離れた箇所では被害者の司法解剖の結果が出ており「被害者の腹部にはここ数年のうちにできたと思われる新しい盲腸の手術跡があり」と いう記述があります。更に少し離れた箇所では被害者の勤務先に聞き込みに行く場面があり、そこでは「被害者は勤め始めてから十年間、 一度も長期間休んだことのない仕事熱心な男で」という記述があります。この三つを合わせて考えてみると、
盲腸の手術では少なくとも二 週間は入院が必要なのになぜ一度も長期欠勤の記録がないのか→そういえば被害者の遺体は顔をつぶされていた→遺体で見つかったのは別人 ではないかと推理を進めていくことができるわけです。
この他の方法としては「並列」というやり方があります。例えば「死体が見つかった部屋の机の上には鉛筆、消しゴム、万年筆、便箋、 封筒、卓上時計、・・・などが置いてあり」といった記述のように、いくつかの品物の中に犯人やトリックを突き止める手掛かりとなる重要 なものを紛れ込ませるのです。
しかしいずれの方法でも、ある程度読み慣れた読者にはおおよその見当がつくものです。それを防ぐのに推理作家のほうも新たな手を考え ようとします。このようにミステリーにおける伏線は、読者と作者の知恵比べの場であるのです。
ミステリーを構成する要素として商業的に(つまりそのミステリーが売れるかどうかということ)大切なのは、何でしょうか?トリック ?いえいえ、違います。確かに新しいトリックは純粋なミステリーのファンを喜ばせますが、もっと幅広く売るのに大切なのは、登場人物 、特に主人公(ミステリーでは探偵役と言ってもよい)です。
つまり、ミステリーとしての完成度の高さよりも、探偵役を務める主人公が魅力的だからという理由で購買欲をそそるのです。このよう に、主人公や登場人物たちに魅力を感じることを「キャラ萌え」と言います。キャラ萌えはおそらく、アニメの分野から始まってそれがミス テリー界にも浸透してきたのでしょう。ちなみにミステリー読者の中で、キャラ萌えでミステリーを読み続けている人は、女性の方が多い ようです。実はかくいう私も、キャラ萌え読者の傾向があります。ただし私、管理人は男性です。私はトリックとか意外な結末を楽しみに してミステリーを読むタイプですが、また同時に探偵役をはじめとする登場人物の魅力も楽しんでいます。
トリックや意外な結末などはミステリーの世界で欠かすことのできないものですが、それだけでいいミステリーはできません。いくらす ごいトリックが使われていても、それが明かされるに至るまでの展開が単調で、登場人物が魅力を感じるように描写されていなければ、読む のが辛いでしょう。例えばアリバイもので有名なクロフツは、文章が新聞記事のように単調だと批判されたことがあります。これはあくまで管理人 個人の意見ですが、その批判は的を射ていると思います。彼の作品を一作だけ読んだことがあるのですが、文章の単調さにほとほとまいり ました。確かにアリバイトリックは論理的には優れているのですが、どうも好感をもてず以後クロフツの作品は読んでいません。それに比べる と、アガサ=クリスティーなどは、人物描写が実に丁寧でしかも探偵であるポアロやマープルは勿論、犯人でさえもときには魅力的に感じて しまいます。
主人公をはじめとする登場人物に魅力を感じるとは、そもそもどういうことでしょうか?それはおそらく、作品中の彼らの性格や感情、行動、言葉 などに共感することだと思います。探偵役だと、風変わりだけど実はいい人とか、普段はたいしたことがなさそうでもいざとなったら頼りになるとか、 背が高くてハンサムだけど、ドジなところがあるとか、事件を解決するという能力以外において個性や人間味を持たせておくと親しみが増し ます。そんな探偵が仲間と共に、あるいは独りで事件に立ち向かいその途中には冒険がありロマンスがあり、という展開だと一層良いです。 これでトリックもすばらしければ、文句はありません。
今回はちょっとまとまりのない文章になってしまいました。次回はもう少し明快で論点の絞れたコラムにしたいです。
ミステリー小説でよく使われている手法に、「作品内リンク」があります。何それ?って思う人もいることでしょう。それでは説明していき ます。
作品内リンクとは、簡潔に言えばあるAというシリーズものに頻繁に登場する人物など(ミステリーの場合だと探偵役やワトソン役、刑事 など)が、同じ作者のBという異なるシリーズものやCという単発の作品に脇役としてちょこっとだけ登場することです。
私がこれまで読んだ作品の中から具体例を挙げていきます。例えば泡坂妻夫の『11枚のとらんぷ』には、彼の書いた別のシリーズ作であ る「亜愛一郎シリーズ」によく出てきた老婦人が観客の一人として登場します。また宮部みゆきの『レベル7』には、『パーフェクト・ブルー 』で探偵役を務めていた女性がやはりちょこっとだけ登場します。綾辻行人の『人形館の殺人』では何と、別の作者・島田荘司が書いた 『占星術殺人事件』で物語の主要な謎となる「アゾート殺人」のことがちょっとですがあからさまに出てきます。(綾辻氏が島田氏に承諾 を取って書いたのでしょう。)いえいえまだそんなのは序の口です。辻真先の『迷犬ルパンと三毛猫ホームズ』では、赤川次郎が生み出した 人気の「三毛猫ホームズシリーズ」の登場人物がそのまま作品の中に登場していて、しかも脇役などではなくと主人公と一緒に協力して事件 の謎を解いているのですから。(これも辻氏が赤川氏に承諾を取ったのでしょう。)
このように、別のシリーズの人物がほとんどの場合ちょこっと登場しているだけで物語の本筋とは直接関係がないので、作品内リンクと いうものが仕掛けられていることに気付かなくても充分にその作品を堪能できます。しかしその作者のファンとしては、このように仕掛けられた 作品内リンクに気付くと思わずにやりとして、その作者の細やかな仕掛けに喜びます。そして他にも同じような仕掛けはないかと、探して みたくなってきます。この感覚は、テレビゲームで製作者の設定した隠しメッセージや裏技を発見して嬉しくなるときの感覚と似ていると 思います。つまり自分はそれに気付くことができるほど、その作者が著した作品群(テレビゲームの場合はソフト)について繰り返し読んで いて、他の人よりも精通しているのだという自負の気持ちなのです。すなわち作品内リンクとは、そのような気持ちをファンである読者に 抱かせるためのサービスであり、その作者の本をもっと読みたいようにさせる作者の戦略でもあると言えるでしょう。
ちなみにこの作品内リンクを最も頻繁に使っている作家は、おそらく島田荘司でしょう。彼が創造した二大探偵の御手洗潔と吉敷竹史の 共演こそまだないものの、それ以外の登場人物(例えば刑事やワトソン役)はかなりお互いの作品内に脇役として登場しているようです。 (私はまだ読んだ作品数が少ないので伝聞形ですが)また小説ではありませんが、漫画『名探偵コナン』の作者青山剛昌氏もこの手の仕掛け が好きなようで、漫画の中には一目でわかるものから注意して見ないと気付かないものまで実に様々な作品内リンクが描かれています。暇 があったらシリーズを読み返して探してみるのも面白いかもしれません。
「三大ミステリー漫画」とは、「金田一少年の事件簿」「名探偵コナン」「Q.E.D.~証明終了」の三作品で、数々のミステリー漫画の中 でも特に水準が高い作品群です。でも上のタイトルを見た方は、「三大ミステリー漫画」って初めて聞く言葉だけど、と思っていることで しょう。そりゃそうです。管理人の私が勝手に言い出した言葉ですから。
まあそれはさておき、今回のコラムではこの三作品における学校を舞台にした事件、あるいは学校関係者が被害者や加害者となった事件 を比較してみることにします。三大ミステリー漫画の主人公は全員が高校生ですから(一人だけ小学生になっちゃっている人もいますが)、 学校が事件の舞台になること、あるいは学校関係者が事件の関係者にもなることは、作者にとっては思いつきやすいシチュエーションであ り、どの作品にも学校関係の事件が出てきます。しかしそれらを比較してみると違いが出てきて、なかなか興味深いです。
なお以下の比較では、事件は殺人・殺人未遂事件を扱ってます。また主人公をはじめとするレギュラーな登場人物はよく事件に巻き込まれて ときには殺害されそうになってますが、それはカウントしてません。
まずは「金田一少年の事件簿」から。主人公の金田一一とその幼なじみの七瀬美雪が通っているのは私立不動高校で二人は二年生です。 さてこの不動高校の関係者(まあ要するに生徒と教師)で事件の被害者と加害者になった人を順に列挙していくことにします。
被害者名 | 職業など | 事件名 |
---|---|---|
日高織絵 | 二年生、演劇部 | オペラ座館殺人事件 |
桐生春美 | 二年生、演劇部 | オペラ座館殺人事件 |
緒方夏代 | 教師、演劇部顧問 | オペラ座館殺人事件 |
時田若葉 | 二年生、元生徒 | 異人館村殺人事件 |
桜樹るい子 | 三年生、ミス研会長 | 学園七不思議殺人事件 |
尾ノ上貴裕 | 二年生、ミス研所属 | 学園七不思議殺人事件 |
佐木竜太 | 一年生、ミス研所属 | 異人館ホテル殺人事件 |
白峰辰貴 | 二年生、スキー部 | 氷点下15度の殺意 |
中津川賢人 | 教師、美術部顧問 | 誰が女神を殺したか? |
加害者名 | 職業など | 事件名 |
---|---|---|
有森祐二 | 二年生、演劇部 | オペラ座館殺人事件 |
六星竜一 | 教師 | 異人館村殺人事件 |
的場勇一郎 | 教師、ミス研顧問 | 学園七不思議殺人事件 |
遠野英治 | 三年生 | 非恋湖伝説殺人事件 |
和泉さくら | 二年生、元生徒 | 怪盗紳士の殺人 |
森下麗美 | 二年生 | 墓場島殺人事件 |
鈴森笑美 | 二年生、スキー部マネージャー | 氷点下15度の殺意 |
汐見初音 | 三年生、美術部 | 誰が女神を殺したか? |
千家貴司 | 二年生 | 魔犬の森の殺人 |
次に「名探偵コナン」です。主人公は江戸川コナンで、通っているのは帝丹小学校――しかし彼の本当の姿は工藤新一、通っていたのは 、帝丹高校です。こちらは人数が少ないので、表は作らずに挙げていくことにします。まず被害者ですが、帝丹高校のOBに二人います (内田麻美、大学生、/蒲田耕平、医師)が、在校生では確認されていません。また加害者も、殺人・殺人未遂事件に関しては、教師に一人 だけです。(米原晃子、工藤新一と毛利蘭の帝丹小学校時代の担任)
最後に「Q.E.D.~証明終了」です。主人公の燈馬想と同級生の水原可奈が通っているのは私立咲坂高校で、二人は初めは一年生でしたが 、途中から二年生に進級しました。この作品でも殺人・殺人未遂事件においては、学校関係者の中では誰も被害者や加害者になってません 。
うーん、こうしてリストアップしてみると「金田一」の多さが目立ちます。被害者、加害者共に九人もいます。(ただし、被害者のうち 実際に殺害されたのは七人で、殺害されそうになったが命はとりとめた人が二人です。)この傾向は特に連載の初期に顕著で殺害された七人 は全員が初期の事件の被害者です。また加害者も四人は初期の事件に集中しています。でも連載が進むに従い、さすがに主人公の学校での み事件を頻発させるのが不自然になってきたのか、後期の作品では学校関係者が事件の被害者・加害者になることは少なくなってきました。 まあ度々事件が頻発するようでは、入学する生徒が激減するでしょうしね……。
ただ「金田一」は未成年の被害者・加害者率が他の二作品と比べると極端に高く、それは連載の後期でも変わっていません。ただ舞台が別 の高校などに変わっただけです。またもう一つ付け加えると、「金田一」では加害者が女性である確率も高く、全事件の約半数は犯人が女性 です。
これに対して「コナン」と「Q.E.D.」では、より現実の社会に近く、教師や生徒が殺人・殺人未遂のような凶悪事件の被害者、加害者に なることはほとんどありません。ただ小さい事件となると、両作品とも何件か教師や生徒が関わっている例があります。「コナン」では帝 丹高校と帝丹小学校の両方で学校の怪談事件が起こっており、犯人は小学校では教師、高校では生徒でした。また「Q.E.D.」では、学園祭 の準備中に模擬店や展示をする教室が荒らされた事件、夏休みの学校で起こる奇妙な事件の二件があり、犯人は共に生徒でした。
まあ要するに、学校で事件が起こる、あるいは学校関係者が事件の被害者や加害者になるという点では、三作品全てにその例を見出すこ とはできますが、事件の質が凶悪かそうでないかが違うのだと思います。
「金田一」「コナン」「Q.E.D.」などの推理漫画では、もちろん探偵役の主人公が日々遭遇した事件を解決していきます。殺人事件を 中心として、彼らは法律を犯した犯罪者を見事な推理で指摘するのです。
では彼ら自身はきちんと法律を遵守しているのかと思ってそれぞれの作品を注意深く見てみると、いや意外に皆さん違法行為に加担しちゃ っていることが判明しました。以下にその例を挙げていきます。
金田一少年の事件簿(金田一一)数多くのミステリーの中には、読んだほとんどの人が口をそろえて面白い、すごいと称賛し長く売れ続けている傑作がほんの少しだけあ ります。それらの作品のほとんどは、管理人の私が読んでもこれは面白い、すごいと感じるものばかりでした。
しかし、そのような作品群を読んでも得られない満足感があります。それは、初めて読んだ時の驚きです。
どういうことかと言いますと、誰もがすごいと認める傑作はその有名さゆえ事前知識を持ったり構えて読んだりすることが多いのです。 つまり、その作品のトリックを簡潔に紹介している文章を見てしまったり、先にその作品を読んだ家族や友人などから犯人が意外な人物で あることを聞いてしまったり、もしくはその作品のあらすじを見ただけでこれは叙述トリックが仕掛けられているかもしれないから注意して 読もうと思ったりしてしまうのです。
ミステリーの醍醐味は何といっても結末における意外性です。(もちろん提示された謎の不可解性や中盤のサスペンス性も重要ですが) そこで作者の仕掛けたトリックが明かされ、隠されていたそのトリック(密室、アリバイ、意外な犯人、叙述トリック…)の巧みさ、鮮やかさ に読者は感心するのです。
上記のように、有名作品ではこの満足感が得にくい場合が多々あります。例えば(具体的な作品名とトリックを読みたい 人はマウスで反転させて読んで下さい。)アガサ=クリスティーの『アクロイド殺し:記述者が犯人』 や『オリエント急行の殺人:被害者以外の全員が犯人』、エラリイ=クイーンの『 Yの悲劇:子供が犯人』などはいずれもどこかで意外な結末のことを耳にはさんでしまいましたし、赤川次郎の『 三毛猫ホームズの推理』は事前に推理ブックでのトリック紹介を読んでしまい、島田壮司の『占星術殺人事件 』に至っては漫画にこのトリックが流用されていました。このように、有名であり傑作であるがゆえに心ゆくまでその驚きと感動を 味わえないのは、逆説的であり残念でもあります。
逆にそれほど有名でない作品の方が、こういった意味では楽しめるのではないでしょうか。有名でないということは、それが傑作でない ということと同一ではありません。傑作の中には世間からそれほど高い注目や評価を受けずに、あるいは昔は受けていたけれども今では忘れ られてしまったという作品が、数多くあります。ミステリーのファンは、有名どころの作品を読みあさった後、この埋もれた作品を探してゆくのです。 偶然そのような隠れた傑作に出会えれば、読み終わって本当に感激してしまいます。
いいミステリーに、傑作といえる作品にどれだけ出会えるか、それは偶然と運によるでしょう。是非とも一冊でも多くの傑作を読みたい ものです。
ミステリーに限ったことではないですが、作家にはそれぞれ固有の作風があり、それがその作家の持ち味というか特徴になっています。 そしてこの作風ですが、ミステリーにおいては男性作家と女性作家で異なった傾向がいくつかあると思います。それは男性と女性の思考や 認識のパターンの違いによると思われます。
男性作家のミステリーは、多くが論理的な思考に基づいて書かれていると思います。 情景描写が長く、その中に伏線を潜ませていたりします。人物描写はそのぶん浅くなりがちで登場人物の見分けが付きにくいといった批判 もあります。あるいは、人間というものを客観的に冷めた視線で描いて、あくまでその感情や行動を論理的に説明できるようなパターンに 当てはめようとします。
それに対して女性作家のミステリーは論理的な要素は少なく、直感的な思考パターンの元で書かれていると 思います。情景描写は簡潔で必要最小限であり、その代わり人物描写に焦点を当てています。そのため、会話文や登場人物の心理描写、内面 描写が中心となります。その人物中心の描写は読者に自分の体験を思い出させて、作中の人物への共感を呼び起こします。全てのことを論理的に 説明できるとは思っていませんので、曖昧な点は敢えてそのままにしておくという傾向があります。
本格ミステリーの作者に女性が 少ないのも、この傾向で説明できます。ただベストセラーになる、後世まで読まれ続けるといった点で言えば、男性作家のミステリーよりも 女性作家のミステリーの方が強みがあるのではないでしょうか。海外の作品では、アガサ=クリスティーが他のどの同時代のミステリー作家 の作品よりも多くの人に読まれ続けていますし、国内でも一冊ごとの売れ筋で見れば、ベストセラーになっているのは、宮部みゆき、高村 薫、桐野夏生と女性作家ばかりです。この辺は男性である管理人はちょっと寂しいかなと思います。
これもまた、ミステリーに限ったことではないですが、登場人物の名前の付け方にはそれぞれの作家の個性が出ていて比較すると面白い です。
まず最もよくみられるのが登場人物のほとんど、もしくは主人公も含めた全員がごくありふれた名前である場合です。例えば 苗字では鈴木さんや佐藤さんなどの最も多いものから上位500ぐらいの中に入るものばかりを使い、珍しい苗字が出てくるのは本当にごくたまに です。名前も突拍子もないものは皆無でどの人もどこかで一度は聞いたことのあるものばかりです。このような名前の付け方は、トラベル ミステリーや、社会派推理小説に多いと思います。例えば赤川次郎、西村京太郎、内田康男のようなベストセラー作家や島田荘司、宮部み ゆきなどが挙げられます。また最近では乙一もこの部類に入る作家でしょうか。
次によくみられるのが、ここ二十年ほどの傾向です が、珍しい名前の割合が多い場合です。この場合、登場人物の中でいちばん珍しい名前が付けられる傾向にあるのが探偵役や語り手(ワトソン 役)などいわゆる主人公とされる面々です。これはおそらく、作家自身が電話帳や自分の親戚、知人などの珍しい名前をメモして自分の作品 を際立たせるためにあえて使っているのでしょう。確かに珍しい名前というのは、よくある名前よりも目立つし、往々にしてかっこよく見える ものです。この部類の例として、綾辻行人や森博嗣などの作家が挙げられます。
最後に、これは最近の若手作家の間で流行っている 手法なのでしょうか、珍しいどころか実際にはありえそうにない名前をほとんどの登場人物に使っている場合です。ここまでくると、読んで いてついつい(こんな名前の人いないよ!)とつっこみを入れたくなりますが、何冊か読んでいるうちに慣れてきてそれほど気にならなくな ります。まあここは、突拍子もない名前を幾つも考え付ける作者の頭脳に素直に感心するとしましょう。ちなみに最後に、この部類に入って 最近の管理人のお気に入りの作家である西尾維新の作品の登場人物を以下に列挙してみました。どう読むのかわかりますか?
①玖渚友 ②零崎人識③葵井巫女子④斑鳩数一⑤萩原子荻⑥根尾古新⑦鈴無音々⑧匂宮出夢⑨闇口崩子⑩早蕨薙真
さて何人正しく読めたでしょう。正解は以下の通りです。(読みたい人はマウスで反転させて読んで下さい。)
解答:①くなぎさ・とも②ぜろざき・ひとしき ③あおいい・みここ④いかるが・かずひと ⑤はぎはら・しおぎ⑥ねお・ふるあら ⑦すずなし・ねおん⑧におうのみや・いずむ ⑨やみぐち・ほうこ⑩さわらび・なぐま