フォーサイト、魔導国の冒険者になる   作:塒魔法
<< 前の話 次の話 >>

8 / 31
タメ回
ナザリックメインだけど、文章量は少なめです


ナザリックにて

8

 

 

 

 ・

 

 

 

 属国となった帝国での任務──魔導国の「真の冒険者」を目指すものを募る事業に当然のごとく駆り出されたモモン一行は、ナザリックへと帰還を果たした。

 無論、モモン一行はすでにアインズ・ウール・ゴウン魔導国の“法の執行者”。魔導国冒険者組合の統括も同然という存在。それだけのチームであれば、ナザリック地下大墳墓に招くに足る人物であることは、誰の目から見ても明らか──ではあるが、さすがにモモンとアインズが、エ・ランテル以外で──しかもアインズの居城たるナザリックに出入りするところというのは、(いぶか)しむ者もいるだろう。とくに、両者の関係を、ありていに言えばグルを疑う第三者などがいれば、このように悠然と凱旋するがごとくナザリックに帰還を果たす姿は、あまりにも奇異な光景に映るやも。

 なので、今現在もモモン一行は、外で普通にモンスター討伐を行い、街の住人などの相談や揉め事を解消する役割に準じ続けている。

 モモン一行は現在、帝国領とエ・ランテルの中間地あたりの見回りにあって、野営用テントの周りを強大な魔獣──ハムスケに警戒させながら、二人はしばしの休息をとっている──ことになっている。

 だが、ナザリックのものにとって、テントの中で転移魔法を行使し、ナザリックのログハウスへと直帰する程度の工作は、容易に行えるもの。

 

「お疲れ様です、パンドラズ・アクター、ナーベラル」

 

 一行を歓待してくれたのは、アインズより帝国属国化に関する仕事を任され、昼頃にとある闇金業者のシッポを掴んだことを知らせておいた大悪魔。彼は「シャルティアから君へ。預かっていたものだよ」と言って、至高の御方の指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を手渡した。

 受け取った全身鎧の偉丈夫は、その指輪を大事そうにどこかへとしまう。

 

「デミウルゴス殿。首尾の方はいかがでしょう?」

 

 モモン姿のまま、彼は計画の推移状況を悪魔へ尋ねる。

 

「君のおかげで、なかなか有益な情報を引き出すことができたよ。さすがは、至高の御方のまとめ役であられるアインズ様に創られた同胞だ」

 

 デミウルゴスは本当に喜色満面の笑顔でパンドラズ・アクターと握手を交わす。

 

「そして、ナーベラルも。

 あなたとハムスケが、連中との“お話”──魅了魔法によって行われた訊問(じんもん)は素晴らしい情報を供与してくれたよ。拷問官(ニューロニスト)たちによる事情聴取もスムーズにいったようだ。本当に大手柄だよ。弐式炎雷様も、君の今回の功を知ればきっと、お褒めくださることでしょう」

「ありがとうございます。デミウルゴス様──しかし」

「おっと。すまないが、私は早速これから帝国に向かわねばならない。君らのおかげで我が配下たちが捕らえおさえた“羊共”を調教しに行くところでね。ただ、今回のことは直接、君たちへ今日中に礼を言っておきたく、ここで待っていたのだよ。本当にありがとう、二人共!」

 

 ついでに、アインズ様のペットたる彼女にも礼を伝えておいてほしいと言い終えて、デミウルゴスは名残おしくも、ログハウスから転移魔法によって帝都へ。

 

「では、私たちは予定通り、少しばかりナザリックで休養を取りましょう、ナーベラル殿」

「ハッ! ありがとうございます」

 

 モモンの姿のままの同族に促され、ナーベラルは転移の鏡を連れ立って進んだ。

 至った先は、ナザリックの最奥に近い第九階層。

 その廊下を進みつつ、ナーベラルは隣を歩くパンドラズ・アクターが、通常時の卵頭に軍服姿に戻るのをみとめた。自分も遅れをとるまいと、美姫ナーベの姿から、いつもの戦闘メイドの装束に立ち戻る。

 

「あの、パンドラズ・アクター様。差し支えなければ、質問してもよろしいでしょうか?」

「どうぞ、遠慮なく」

 

 同じ二重の影(ドッペルゲンガー)同士たる二人は、荘厳な宮殿に敬意を払うように一歩一歩を踏みしめる速度で語り合う。

 卵頭の戦闘メイド──ナーベラルの質問は、簡潔であった。

 

「昼間の帝国の闇金業者は、デミウルゴス様の求めていた情報を持っていたという話ですが、あんな人間(イナゴ)共の所属していた組織に、そこまでの価値があるというのは」

 

 にわかには信じがたい、と。

 パンドラズ・アクターは粛然と頷いた。

 

「お気持ちはわかります。ですが、あの帝国皇帝、ジルクニフ帝の治世下においても、幅を利かせることを可能にした裏組織が、帝国内部に──いいえ、ひいては王国や法国など、およそ周辺地域に存在する人間の国家すべてに、その毒牙を伸ばしていると聞いております」

 

 ただの闇金であれば、帝国法の──というかジルクニフの号令ひとつで駆逐することは簡単なはず。

 だが、それができない勢力というのが、帝国皇帝の絶対強権をもってしても根絶することは不可能な存在が、とある“宗教”という形で、帝国内部に巣食っていたのだ。

 パンドラズ・アクターは詩吟を奏でるがごとく告げる。

 

「あの闇金連中の背後にいるモノ。

 それはすなわち“邪神教団”──ズーラーノーンに他なりません」

「“邪神、教団”──ですか?」

 

 軍服を着込んだ埴輪(はにわ)は、本性は同じ埴輪(はにわ)の同族に頷く。

 

「もともとはデミウルゴス殿が帝国の属国化プランで使うコマ……暴動を引き起こす要因のひとつとする予定だった、帝国などの人間国家──その暗部に巣食う、実態が不明瞭な宗教団体のようです」

「そのような組織が?」

 

 帝国のみならず、王国や法国などの人間国家の暗部において、一定の支持と信仰を集めている“邪神”の存在。

 その姿は、死の支配者(オーバーロード)たるアインズと似通った姿形であるとの情報を得ているが、真偽のほどは不明という。

 

「では、もしや、アインズ様と同じ最高位アンデッドが?」

「わかりかねます」

 

 何しろ邪神教団……あの“ズーラーノーン”は、存在していること自体は確認されているが、その活動実態や構成員などについては多くの謎に包まれている。

 パンドラズ・アクターの四本指の一本が、何かを思い出したように天を指した。

 

「そういえば。エ・ランテルで最初にアインズ様が解決した事件の首謀者共が、その“ズーラーノーン”の一味だったと伺っておりますが?」

「え。……そうなのですか?」

 

 ナーベラルは小首をかしげた。

 人間に対していかなる興味も懐かない彼女にとって、自分が焼き殺した人間(アリ)の所属や正体などに、思慮を巡らせるどころか、記憶の端に留め置くことも難しいこと。

 それを共に任務に励むパンドラズ・アクターは知悉していたが、別段問題とも思っていない。彼女の創造主が「かくあれ」と定めた姿が彼女であれば、それを是正することができるのは、やはり至高の御身以外に在りはしない。

 

 デミウルゴスの計画できる範囲において、邪神教団は帝国皇帝でも手に余る存在──帝国の有力貴族や資産家を(とりこ)とし、その権益の広さや深さから、そのすべてを粛正の対象に据えることは、下手をすれば帝国の自滅を招きかねないほどの厄種であった。それほどまでに、人々の“邪神”に対する信仰は篤く、重い。だが、デミウルゴスの悪魔的な先導と秘密工作活動を繰り広げ、邪神教団を利用する形で帝国を内部から蚕食(さんしょく)し、瓦解に追い込む。そうして、皇帝が同盟者である魔導王(アインズ)に助力と救済を(こいねが)うことで、帝国は魔導国の属国統治を受け入れる…………というのが、デミウルゴスの計画案の中で、最短にして最速の案であった。

 

 だが、帝国の属国化はアインズ自身の働きによって、わずか三日の、しかもほぼ無血で完了してしまった。そこまでに至る日数や人的資源の消耗は、デミウルゴスが用意していた計画とは比べるべくもない。ナザリックにとっても出費が少なく、また想定される死亡者などの発生もないというのが素晴らしかった。

 人間の死亡は、場合によっては未来の大器を打ち壊すことになりかねない。たとえば、将来的には国家で一角(ひとかど)の大人物に成長しうる赤子がいたとして、その子が死ぬ事態になっては、それを蘇生させることは、まず不可能。レベルが低すぎる者は低位の蘇生で灰と化すだけ。高位の蘇生に必要な財を確保することも難しい。そもそも大量に死んだ人間の中から、ナザリックにとって有益な人間だけを拾い上げるという事業からして無理だと判るもの。減ったのであれば増やせばよいだけ。そういったどうしようもない損害を当然の損失と計算して、帝国の将来的な属国化プランは描かれるしかなかった。

 何しろ帝国の力は諸国の中でも比較的優良かつ巨大であり、その支配領域を端から端まで、無理矢理に属国とするというのは、相応の血を流すことになるのを覚悟せねば。それが、国家統一事業の必然の流れ。そう。それこそ各地で暴動や混乱を引き起こし、収拾がつかなくなったところで、ナザリックの圧倒的な力だけが、引き裂かれかけた帝国というパイ生地を、元の姿形に戻せる特効薬となりうる。その見返りとして──というのが、通常における属国化の計画概要となる。

 だが、アインズの成し遂げた偉業は、デミウルゴスのような智者の想定を上回る──

 否。上回りすぎていた。

 

「アインズ様がここで、帝国の属国化において発生するだろう、人的資源の消耗を憂慮された理由は、やはり帝国の人間たちの命を憐れんでのことでしょう」

「な、なるほど」

「さらに、アインズ様がデミウルゴス殿の予定していた計画内容を事前に看破──吟味し、その中で今後、他の事業に使えると判断して生き残らせたものこそが、件の“邪神教団”などと思われます」

「おお。さすがはアインズ様」

 

 アインズが頻繁にデミウルゴスからの連絡を気にしていたという話は、アルベドを経由して聞いたことがあったパンドラズ・アクターはそう理解していた。

 しかし、ナーベラルには理解しきれない。

 至高の四十一人以外の神を信仰する人間(ウジ)共など、即刻即座に滅ぼしてしまえばよいのに──としか、忠実なシモベたる戦闘メイドには思考できない。

 

「パンドラズ・アクター様は、アインズ様が今後、その人間の宗教組織をどのように使うのか、お分かりになるのですか?」

父上、アインズ様のお考えですか……可能性はいくつか、あげられますが──そうですね」

 

 パンドラズ・アクターの眼球部分・黒い空洞を、羨望にか敬愛にか判然としない眼差しを差し向ける同族に対し、彼は父たるアインズが考慮しただろう可能性について、四本指を折りつつ数える。

 

 王国王都で掌握した“八本指”のごとく蠢動させ、潜伏任務を遂行させる使い捨ての傭兵(コマ)? “邪神”などという、魔導王アインズ・ウール・ゴウン以外を信奉する不心得者(ふこころえもの)に対する懲罰例の一環? 邪神教団の悪辣非道を公衆の面前で(ただ)し、真の神たる者としての権勢を示す手段として利用? それとも、ナザリックの者達の求める食料や玩具(オモチャ)としてあてがうのに最適な罪人として畜産を?

 

 ──否。

 どれも御方の雄図大略としては不足しているはず。

 

 パンドラズ・アクターは、ナーベラルを見やる。“漆黒”のアダマンタイト級冒険者の片割れたる美姫を。

 そして、深く頷く。

 

「私たちに与えられた任務を思えば、それしかないでしょうか?」

「──それはどういう? 任務?」

「ナーベラル殿。昼間の案件のことは?」

 

 戦闘メイドは頭上を仰いだ。

 

「あの借金返済がどうのという連中の話でしょうか? それが何か?」

「魔導国で今後、冒険者は確実に増え、そして育つことになりましょう。その時に必要なものと言えば、おわかりでしょうか?」

「? 意味がよく──?」

「おそらく………………………………」

 

 それを聞いたナーベラルは目を輝かせた。

 一応、「あくまで、これは可能性のひとつにすぎません」と言い含めるが、彼女は感心したように、何度も頷き続ける。

 

「さすがです! パンドラズ・アクター様!」

「まぁ、言っているように、あくまで、本当にあくまで私の浅はかな予測に過ぎません。アインズ様の慧眼と計略の全貌など、私ごときでは到底、予測、不可能!」

 

 陶酔したか感涙したか判らないオーバーアクションで、我が身の不出来を嘆く二重の影(ドッペルゲンガー)

 だが、同種族の戦闘メイドは──

 

「何をおっしゃいますか! パンドラズ・アクター様は、そのアインズ様に直接創造された存在! アインズ様の意図を、そこまでお考えになられるとは、さすがとしか言えません! 素晴らしいです!」

 

 本気でそう思い、尊敬の眼差しを差し向けているナーベラル。

 頬を染めた乙女に褒められ尽くす卵頭は、照れたように軍帽の鍔を指先でつまみ下げた。

 

「コホン。さ。ナーベラル殿。あなたの私室の前です。存分に休息を頂き、明日の任務に備えてください」

「ハッ! 明日も精一杯、任務に勤めさせていただきます。お忙しい中お送りくださり、誠にありがとうございます。それでは!」

 

 言って、ナーベラルは与えられた自室へ。

 扉を閉めるときまで、彼女はメイドらしい謹直な姿勢のまま、尊敬する同族への礼儀を尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




闇金たちがどうなったかの詳細は……救済ルートで語る必要はないかな?
テンポ悪くなりそうだし


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。