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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 次の週の塾で、秋澤君にあの後の蕗丘さんの様子を聞いてみた。


「う~ん、なんだかやけに吉祥院さんの事を気にしてたかな」

「そうでしょうね」


 私だって逆の立場だったら、根掘り葉掘り追求するよ。


「変な誤解もしてるみたいだし」

「変な誤解。具体的には?」

「僕が吉祥院さんを好きなんじゃないか、逆に吉祥院さんが僕の事を好きなんじゃないかって。あっ!もちろん否定しておいたよ!吉祥院さんが僕の事を好きなんて、僕はそんな事考えてないから!嫌な気分にさせたらごめんね」

「別に、大丈夫ですよ」


 怒ったりなんかしない。だってありがちな流れだし。


「蕗丘さんは秋澤君が好きなんですね」


 ズバリ、確信をついてみる。


「うえぇっ!なに、いきなり!え、え」

「まぁまぁ落ち着いてくださいな。で、どうなんですの?秋澤君は蕗丘さんの気持ちには気づいていますの?」

「き、気持ちって。だって僕たちは兄妹みたいな関係で…」

「なに、ぬるい事言ってるんですか。蕗丘さんが秋澤君に恋しているのは、誰が見てもあきらかでしょう。で、どうなんですか?本当に気づいていないのですか?」


 秋澤君は黙り込んでしまった。


「黙り込んでも逃がしませんよ」

「う…。なんか吉祥院さんいつもと違うよ? あー、桜子が僕の事を好きっていうのは、よくわからない。好かれてるのはわかるけど、幼馴染としてかもしれないし。あ、でも幼稚園の時に、僕の…えっとお嫁さんになるって言ってた、かな」


 王道だ。


「それで毎年バレンタインにチョコをもらって。どうせ、頻繁に互いの家を行き来したりもしているのでしょう」

「えっ、なんでわかるの」

「わかりますとも」


 すべてお見通しですとも。


「たぶん、家族ぐるみで小さい頃から仲良しという事は、お互いのご両親が、将来ふたりが結婚してくれたらいいわね~とか、桜子ちゃんうちにお嫁さんにきてくれないかしら、あらどうぞどうぞ、なんて会話もあるでしょう」

「どうして知ってるの!その通りだけど」


 そうであろう、そうであろう。


「私には、秋澤君の将来が見えました」

「え…なにそれ」

「秋澤君が将来、蕗丘さん以外の女の子と結婚した場合、秋澤君のお母様とお嫁さんの仲は微妙なものになるでしょう」

「なんで?」

「秋澤君のお母様は、小さい頃から可愛がっていた蕗丘さんと息子である秋澤君が結婚したらいいなと思っています。そして蕗丘さん自身もそれを望んでいます。なのに秋澤君が別の女性を連れて来たら、そりゃあ気に食わないでしょう。蕗丘さんが陰で泣いていたりしようものなら大変です。お嫁さん憎しです」

「お母さんがそんな事を…」


 前世で見た木曜日のドラマでは、お姑さんの気に入らないお嫁さんと結婚した時の確執は恐ろしいものでした。


「ですから秋澤君は覚悟を決めないといけません」

「覚悟?」


 秋澤君は心なしか青ざめています。


「蕗丘さんの気持ちを受け入れる場合は、結婚までする覚悟です。なんといっても家族ぐるみのお付き合いですからね。途中で別れでもしたら、大変気まずい思いをします。もし蕗丘さんの気持ちを受け入れられない場合は、早めに言ったほうがよいでしょう。ずるずるこのまま引っ張ると、将来は…」

「将来は?」

「修羅場です」


 講師の先生が教室に入ってきたので、授業開始です。

 秋澤君は青ざめて勉強が手につかない様子でしたが、私は言いたい事が言えてすっきりしました。


 決して、王道ヒーローポジションだった秋澤君に嫉妬して、ちょっといじめてやろうなどと考えたわけではない。




 それ以来、秋澤君はなにかと蕗丘さんとの事を相談してくるようになった。


 秋澤君の幼馴染の蕗丘桜子さんは、私が幼稚園時代に瑞鸞初等科のお受験にわざと失敗して、通おうとしてたカソリック系のお嬢様学校に通っているらしい。

 家が近所で生まれた時から仲が良く、幼稚園も一緒だったそうで、本人は秋澤君と同じように瑞鸞に行きたかったそうだが、蕗丘さんのお母様の出身校が百合宮(ゆりのみや)女子学園で、どうしても娘を同じ学校に通わせたいという希望があったので、泣く泣く瑞鸞を諦めたそうだ。

 しかしその蕗丘さんが最近また、瑞鸞に行きたいと言い出したらしい。

 十中八九、私の存在のせいだろう。

 この前会った時は楚々とした和風美少女だと思ったけど、恋愛に関してなかなか猪突猛進型のようだ。

 女子版ミニ鏑木といったところか?


「どうしたらいいかなぁ」

「そうですわねぇ」


 正直言って、私の恋愛の知識なんて、ほぼ前世で読んだ少女マンガからのみだ。

 人様の恋愛相談に乗れるような人間ではないのだ。

 さて、どうしよう。


「とりあえず、蕗丘さんが一番心配しているのは、私という存在でしょう?だったらいっそ蕗丘さんもこの塾に通ったらいかが?学院では私と秋澤君はほとんど接点がありませんし」


 本当は、さらに面倒な事になりそうだから、同じ塾に通うのなんて嫌なんだけど。

 でも秋澤君の為だ。しょうがない。

 まぁ、私はライバルじゃないよ~私にとって秋澤君はただの友達だよ~っていうのを直接見てわかってもらえればいいかなって。



 早速、秋澤君はこの話を蕗丘さんにしたところ、5年生に進級した春から通ってくることになったらしい。

 そして今年のバレンタインのチョコはいつも以上に物凄く気合の入った品で、自分の気持ちがまだ決まっていない秋澤君は、ちょっと怖かったらしい。


 私また、自分で自分の首しめちゃったのかなぁ。


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