ちょっとウサン臭い話

 いやはや、本来なら歓喜の声に包まれるべきはずの東ティモールも、今や無法地帯と化して、大変な事態になってしまいました。

 今回の投票は俗に「独立投票」と言われてますが、あれ、実際には「東ティモールに広範な自治権を与え特別州にする」の賛否を問う投票だったわけですね。で、ハビビ大統領が「もし特別州の案が否決されたら、独立したってかまわない」と言ったので、反対票多数→独立というわけですが、それはあくまでハビビ大統領が言ったことで、インドネシア国会で決まったわけではなく、国会の独立承認はこれからです。
 でも、国会で独立はすんなり通るでしょうか?フツーのインドネシア人にしてみたら、「西ティモールと同じ連中が住んでるのに、何で東ティモールに独立を認めるんだ!」ということになるでしょうし、アチェ(宗教がらみ)やイリアンジャヤ(民族がらみ)での独立運動も勢いがついて、「俺達のインドネシアがバラバラになっちゃう」という危機感が強まるでしょう。
 インドネシア軍はディリの騒乱をほとんど放置しているようですが、下手をするとクーデターで「国賊ハビビ」を倒して、スハルト並みの独裁政権が誕生し、「独立は認めず自治も与えない。フツーの州のままとする」となる危険性もありそうです。そうなれば、インドネシアも東ティモールも、ますます混迷を深めるでしょう。
 

 話は少し変わりますが、東西冷戦が終結したいま、世界の新たな対立軸は東洋と西洋の「東西冷戦」になるかもしれません。
 なんせアジア人は頭がよくて勤勉だし、インドシナ戦争だの文化大革命だの混乱が続いた時代が過ぎ去ったら、一気に経済発展に弾みがついています。アメリカも当初は日本や韓国に「貿易摩擦を解消せよ」と圧力をかけていた程度でしたが、眠れる獅子の人民中国が「改革開放」で実力を付け始めたので、本気で慌てだしたと思います。
 まず「規制緩和」の圧力で安定と秩序を重んじるアジアの経済を混乱させ、「人権」の圧力で安定と秩序を重んじるアジアの政治を混乱させる。まぁ「規制緩和」や「人権」は国民が喜ぶから拒否し続けにくいでしょう。そうしてアジア諸国がぐらついたところで、ヘッジファンドなる金融ギャングに攻撃させ、金融危機を引き起こした…。アメリカからの外圧に一番抵抗し続けていた中国が、金融危機の影響を一番受けなかったのも事実です(もっと上をゆく北朝鮮ってのもありますが…笑)。
 しかしアジア諸国は、意外と早く金融危機から立ち直りつつあったので、今度はユーゴや旧ソ連のような泥沼化しそうな紛争を引き起こしてしまえということで、ちょうど良く利用されたのが東ティモールだった……、てな見方は考えすぎでしょうか?

 国連もけったいなもので、東ティモールの独立要求については、これまで長年見て見ぬふりでした。これは独立勢力がかつて社会主義路線を掲げていたため、「アジアの共産化を防ぐ」というアメリカ(およびそれに追随する日本など)の意向が働いていたためだと思います。それが一転して東ティモールの独立に、手取り足取り援助する形になったのですが、同じく独立運動とそれに対する苛酷な弾圧が続いているチベットやウイグルに関しては、全く見ないふりを続けています。これは「とりあえず今は中国と仲良くするのが得策」というアメリカ(およびそれに追随する日本など)の意向を反映したものとも言えそうです。
 しかし今回、とりあえず最高権力者をうまく言いくるめ、かつ国連が介入すれば、その国の政府の正式な手続きは後回しにしても独立させられるという実績ができれば、アメリカの最終的な狙いは、21世紀には日本に代わってアジアの盟主となりそうな中国に、紛争の火種をまくことにあるのかも知れません。

 もちろん私は「インドネシアには散々ひどい目に遇った。何が何でも独立したい」というヒガチモの多数の人の意志に基づいて、東ティモールは独立すべきと思います。しかしなんか今回の「独立」への手順の背後には、ちょっとウサン臭さを感じました。

1999/9/7
  
目次に戻る