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謙虚、堅実をモットーに生きております! 作者:ひよこのケーキ
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 ワタクシ吉祥院麗華、皇帝陛下からスパイという名のパシリを拝命しました…。



 あの後、皇帝はサロンにいた方々を部屋から追い出し、私、皇帝、円城の3人だけになると、作戦会議を始めた。


「まず、お前は愛羅から何を聞いた」


 ううっ、目力が怖いです…。

 逃げ出したい。


「で、ですからお灸を据えるつもりという話を…」


「なんでお前が愛羅からそんな事聞いてんだよ」


「英語教室で偶然お会いした時に、愛羅様から、か、鏑木さ、まのご様子を聞かれて、お元気がなさそうですとお答えしたら、優理絵様のお気持ちを教えて頂いて」


 怖い、怖すぎる。睨まないで~。

 ついでに本人に対して、初めて名前呼んじゃったよ。

 緊張のあまりつっかえちゃった。

 もう誰か助けて~。


「なに勝手に人の事、噂してんの?」


 仰せごもっとも。

 誰だって、自分の知らないところで自分の噂されてたら、いい気持ちしないよね。

 私、主人公が入学してくる前に、終わるかもしれない…。


「まぁまぁ、そんなに脅かすなよ。怯えちゃってるじゃん」


 ね、と私に笑顔を向けてくれる円城秀介。

 その笑顔、信じていいんですか?


「うるせぇよ、秀介」


「大体、今の雅哉の状態は、学院中が噂しててもおかしくないんじゃない?ねぇ、吉祥院さん?」


 そんな話、振らないで。

 思ってても、絶対同意できませんから。

 たとえそれが真実であろうとも。


「秀介、てめぇ…」


「雅哉も優理絵の情報が欲しいんでしょ?だったら脅かすんじゃなくて、ちゃんとお願いしなくちゃ。まぁ、愛羅だったら僕が聞いてもいいんだけどね」


 ぜひぜひ、そうしてください。

 そして一刻も早く、私をここから解放して。


「ダメだ。秀介じゃきっと愛羅はしゃべらない。この女を使う」


「あぁそうかもね。じゃあ吉祥院さん、お願いできる?具体的には、優理絵がどれくらい怒っているのかと、いつごろ許すつもりでいるか。雅哉、あとは何を聞く?」


「……優理絵は許す気あるのか」


「う~ん、お灸を据えるつもりって本人が言ってるんだから、絶交って事じゃないと思うよ。雅哉がこれだけ反省してますって事が伝われば、優理絵も許してくれるかも」


「そうか!」


 いきなり元気になった。

 案外この人、単純?

 ぎゃっ、生意気なこと考えてごめんなさい!ごめんなさい!

 睨まないで~。

 やっぱり皇帝は人の心を読めるのかも。


「よし!お前、英語教室はいつだ?」


「明後日です」


「なんだ、まだ先じゃないか。いっそ今から中等科行って愛羅に聞いてこいよ」


 無茶言わないで。


「また強引な事してるのがバレたら、優理絵がもっと怒るよ。ここはおとなしく明後日まで待った方がいい」


「はっ、そうだな。これ以上怒らせるのはまずい」


 優理絵様の名前が出ると、素直に聞くんだな。

 やっぱり単純。


「じゃあそういう事で。吉祥院さん、頼むね」


 にーっこり。

 私の意志は無視ですか。そうですか。


「お前!名前なんだっけ」


「吉祥院麗華です…」


 今更ですか。別にいいけど。


「よし!吉祥院!立派にスパイの使命を果たせよ!」


「はぁ」


 なにがスパイだ。ただのパシリじゃないか。


 すっかり元気になった皇帝は、おなかがすいたのかお菓子を取りに行った。


「俺様ではないけれど」なんて誰が言った。私が言った。

 見る目ないわ~、私。

 これを俺様と言わずして、なんというか。

 なぜ、ほとんど話したこともない、名前すらあやふやな人間を、ここまで当たり前にこき使える。

 いっそ愛羅様を通じて、優理絵様にチクッてやろうか。

 いたいけな女子生徒を脅かしてパシリに使おうとしてるんですよ、と。

 ……いやいやいや、ヤケになってはいけない。

 そんな事をしたら、100%確実に殺される。えぇ確実に。


「がんばってね、吉祥院さん。成功したら憧れの雅哉に感謝されるよ」


「別に憧れてないし…」


 あまりに理不尽な扱いに、思わず小声で本音がもれてしまった。

 皇帝に憧れていた過去なんて、きれいさっぱり前世に捨ててきましたよ。

 二次元に憧れる、ちょっぴり痛い女子でしたがなにか?

 今の私にとっては皇帝は破滅の代名詞であって、憧れた事なんて一度もない。


「あれ、そうなの?だってよく雅哉のこと見てるでしょ。だから吉祥院さんも雅哉が好きなんだと思ってた。ほら、吉祥院さんの友達って、僕らの周りをうろちょろしてるし」


 なんて言い草だ。しかも私がこっそり観察してるのばれてるし。


「お二人は目立つので、つい目がいってしまうのですわ。ご迷惑だったらごめんなさい。これからは気を付けますわ」


 とりあえず気持ちを立て直さなければ。

 皇帝の目力さえなければ、私の飼っている巨大な猫は復活する。

 円城だけなら負けるもんか。


「ではお話がこれだけならば、私は帰りますね。ごきげんよう」


 一刻も早く、この魔窟から立ち去りたい。

 尻尾丸めて、全力疾走で逃げ去りたい。


「うん、さよなら。気を付けてね」


 円城が優しく手を振った。


 私が帰るのを、クッキーをかじりながら歩いてきた皇帝が見つけると、


「おぉ!パシリ、しっかり働けよ!」


 パシリって言っちゃってるし…。

 スパイじゃないのかよ。スパイじゃ。




 口は災いの元。

 なんかもう、いろいろ泣きそうだ。

 古今東西、任務に失敗したスパイは、組織によって始末されるという。

 私の明日はどっちだ。




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