漆黒の英雄譚   作:焼きプリンにキャラメル水
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ダークエルフの双子

カルネ村 トブの大森林前 

 

 

 

森の入り口の証拠として切り株が何個もあるその場所で3組の冒険者チームが集まっていた。

 

後の『漆黒』、『虹』、『天狼』である。

 

彼らが集まってから既に20分は経った。

 

冒険者と言うのは大雑把な者も多い。その者たちならば集合時間の10分ずれてやってくる者も多い。

 

これは冒険者の仕事が戦闘に関するものが大半だからだろう。

 

血気盛んな者が多く、そういった者たちは酒や女が原因で集合時間に来ないこともある。

 

だが20分というのはちょっとした異常事態である。

 

「イグヴァルジたちはまだ来ないのか?」

 

そのためモックナックは仲間の一人に彼らが休んでいたはずの空き家の様子を見に行かせたのだ。

 

「空き家にもいなかったぞ!」

 

「まさか・・・」

 

仲間の言葉にモックナックは眉を顰めた。他の冒険者たちも状況を察したのだ。

 

その場の冒険者が全員森の入り口に目を向けた。

 

 

『クラルグラ』だけでここに入ったのか?

 

(不味いな・・・・)

 

モモンはそう思う。

 

(アインズ殿がわざわざ『気を付けろ』と言ったくらいだ。彼単独ではキツいだろう)

 

「・・・・・」

 

(しまった・・ハムスケを連れてくればよかったかもしれない・・・そうすれば彼らを救出できるかもしれない)

 

自身がエ・ランテルに留守番を命じてしまったので今回はいない。

 

(殿ぉ・・・・)

 

いないはずのハムスケの声が聞こえた。

 

「仕方ない。入ろう」

 

モックナックの言葉に頷くとミスリル級冒険者たちは森へ入っていった。

 

(死ぬなよ。イグヴァルジ・・)

 

モモンが森に足を踏み入れた時、何故か異様に静かであった。

 

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

トブの大森林 中

 

 

 

 

トブの大森林の中を歩く集団がいた。

 

ミスリル級冒険者である『クラルグラ』だ。

 

リーダーであるイグヴァルジは自らが取得している森伏(レンジャー)の技術により頭の中で地図を描いていた。いわゆるマッピングだ。

 

「今度はこっちだ」

 

その言葉に仲間たちは従う。

 

「本当に彼らを置いてきて良かったのか?」

 

「何度も言わせるな!お前らは俺についてくればいいんだ!」

 

(普段ならここまで怒鳴ることはまずない。原因は恐らく・・・・いや絶対『モモンさん』だろうな)

 

男は思う。カルネ村に向かう道中のやり取りなどを見ていて彼らに非は絶対にないと言い切れた。

 

だが俺たちが数年かけて『ミスリル級』に昇級したのに対して、彼らは冒険者登録してから一週間もしない内に昇級した。

 

(それが気にくわないんだろうな・・・)

 

イグヴァルジは目先の欲望に囚われがちな男である。

 

今回、他のチームより先に森に入ったのもモモンさんたちに対抗意識を燃やして『功に焦っている』からなのだろう。

 

(能力は優秀なんだが・・・・)

 

だが以外にも冒険者チーム『クラルグラ』を結成してから仲間を失ったことは一度も無い。

 

(人格面がな・・・・・)

 

仲間の男は眉間に皺が寄った。仲間の一人にそう思われていたことに彼は気付いていなかったのだろう。イグヴァルジは振り返ることなく命令を出す。

 

「止まれ!この辺りだ。お前ら『薬草』を探すぞ!」

 

その命令を聞いて仲間たちが散ろうとした時であった。

 

「あ・・あのー」

 

「!!っ」

 

イグヴァルジは目の前の存在に警戒して距離を取る様に跳ぶと剣を抜いた。

 

「何者だ!お前!」

 

イグヴァルジが目前の少女に言葉を投げかけて初めて仲間たちは武器を構えた。その言葉のトーンで仲間たちはイグヴァルジですら接近に気付けなかった存在なのだと認識し警戒心を最大にする。

 

「あの・・・えーと。僕はマーレと言います」

 

そう言って目の前にいる闇妖精(ダークエルフ)の『少女』は杖を両手に持って名乗った。

 

「ダークエルフがこんな所で何をしている!?」

 

「えーと・・」

 

イグヴァルジは目の前の少女のオドオドした様子に苛立ちながらも同時に恐怖を感じていた。

 

(何でこんな奴が俺より『上』なんだよ!)

 

明らかに英雄を目指している自分より格上の存在であるダークエルフはチームで戦っても勝てないだろう。

 

「あー!もういいよ!」

 

耳にその声が聞こえた瞬間、イグヴァルジはこれ以上ないくらい冷や汗を流す。

 

「ごめん・・お姉ちゃん。でも・・」

 

ダークエルフの少女がお姉ちゃんと呼ぶ人物がイグヴァルジの目の前に飛び降りた。

その容姿を見て瞬時に察した。

 

(この二人は双子なのだろうと・・)

 

「マーレ!後は私が説明するから!」

 

「!っ・・」

 

イグヴァルジは困惑していた。頭の中にあった常識が破壊された気分であった。

 

「まず最初に説明しておくと・・・・」

 

そうしてダークエルフの少年は説明を始めた。だがイグヴァルジは他のことを考えていた。

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

 

「聞いてる?」

 

「あ・・あぁ。聞いてる。どうしたんだ?」

 

イグヴァルジはこの場から去ろうと森の奥に向かって歩こうとした。

 

「だからぁ!この先は危険だから入っちゃダメだって言ってるでしょ!」

 

その言葉を聞いてイグヴァルジの中で何かが壊れた。

 

自分より格上の存在を相手に何も出来ない自分、

 

そんな自分の胸中を仲間から隠すために・・・

 

自分は英雄になれるのだと思い込みたいがために・・・

 

彼は怒鳴ることにした。

 

 

「うるせぇ!ダークエルフが人間様に注意するなんて一万年早いんだよ」

 

「はぁ」

 

ダークエルフはあからさまに溜息を吐く。「面倒くさいな。こいつ」と顔に書いてあるのは一目瞭然だ。

 

「だったら最終警告!この先でどんな目にあっても文句を言わないって誓いなさいよ」

 

「死なねーよ。俺は『英雄』になるんだからな・・・」

 

他の仲間たちが困惑する中、イグヴァルジは奥に入っていった。その動きはとても早く、その場から立ち去りたいように思えた。

 

「『英雄』・・・あの人が?」

 

少女・・の恰好をした少年であるマーレは思った。『英雄』とは『至高の御方』の様な存在のことを指すのだと。

 

「『英雄』ね・・・」

 

少年は・・・少年の恰好をした少女はそう呟く。

 

「はぁ・・・早く『モモン』来ないかな?」

 

そう言うとダークエルフの少年は両手で後頭部を支えるように組んだ。

 

 

 

 

 

 


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