転生狩人さんが行くスローライフ 作:Opium
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太陽の光がさす、
やわらかな新緑の草原をなであげるように。
蒼の花が咲く、
ハイリアの姫が愛した花が。
馬が嘶く、
緑の衣の勇者が乗った馬によく似た、栗毛の馬が。
鳥たちが歌う、
女神の騎士の相棒そっくりの、紅い羽をした鳥が。
遥か遠くの旧ハイリア城は未だに瘴気に覆われど、
平地を、自らの使命を見失った守り手たちが闊歩して吐いても、
とある姫の名を冠した伝説の舞台だったこの地に、
かつて、女神たちの愛した姿が戻りつつあった。
顔を洗い、鏡を見る。
そこには腰まで銀の髪を伸ばした女性が立っていた。
森の賢者の葉の色をした目はまだ眠そうに細められている。
髪をいつもの三つ編みにして、サクラダさんがくれた髪紐で結ぶ。
そういえばサクラダさんの誕生日はいつだろう?
たくさんのベリーをのせたベリーケーキを焼いてあげよう。
カスタードタルトも美味しそうだ。
手紙が食卓に置いてある。
『昨日はおつかれだったのかしら?
エラのご飯ならもうあげておいたわ。少し休みなさい。
先にお仕事行ってくるけど無理は禁物よ‼︎
サクラダ』
話題のサクラダさんは先に家を出たようだ。
私のことをスパダリと騒ぐけれど、サクラダさんだってイケオジだと思う。
オネェだけど。
しかし
だれか目覚まし時計ってつくれないものだろうか?
テキパキと朝食をつくって食べる。
焼きたてのパンに手作りの茜色のりんごのジャムをつけてかじれば、ふわりと優しい香りと上品な甘さが広がってとける。
産みたて卵と、この前作ったベーコンを使ったベーコンエッグもわりと美味しいが、
ベーコンの塩抜きが足りなかったようで少し塩辛い。
そんな塩辛さもまとめて牛乳で飲み込む。
「仕事の支度をしないと」
いつもの仕事着に着替え、弓と矢筒、
ハイリアの加護がこもった刀と首飾り、そしてサクラダ工務店の従業員一同よりということでもらったピアスをつける。
依頼されていた、鹿を狩らねば。
春先は腹ペコの鹿が若葉を食べ過ぎて木を駄目にしてしまうから、
狩って数を減らす必要がある。
ラディッシュで作った、たくあんもどきと、山菜の炊き込みご飯の握り飯を手早く包んで、戸を開ける。
一陣の風が吹く。
花の香りが鼻をくすぐった。
子供たちのわらう声も風にのって聞こえた。
あんな最期だったんだ、少しぐらいゆっくり暮らしたって罰は当たらないだろう。