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2019-03-13

糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの今日のダーリン

・じぶんがねずみ年生まれであるせいか、
 鼠(ねずみ)ということばに反応しやすい。
 そのくせ、鼠という漢字が書けないままである。
 書家の井上有一の「鼠穴」という軸を持っているが、
 あれが「虎穴」だったら手に入れなかったと思う。
 井上有一さんが、どうして「鼠穴」と書いたのか、
 ほんとうのところはわからないけれど、
 おそらく落語の「鼠穴(ねずみあな)」という演目を、
 自身の筆で表してみたかっただろうとは思う。
 「鼠穴」には、辞書を調べてみても、
 「落語の演目のひとつ」以外の意味はみつからなかった。

 ぼくは「ほぼ日」をスタートさせるときに、
 居を構えた場所を、むりやりこの書に合わせて
 「鼠穴(ねずあな)」と呼ぶことにした。
 すぐ隣の地域が「狸穴」なので、洒落のつもりだった。
 そして、「鼠穴」ということばの意味も、勝手に決めた。
 ひとつのことわざがそのテーマになってくれた。

 「窮鼠猫を噛む」である。
 追い詰められてどうにも逃れられなくなったねずみは、
 逆に開き直って猫に反撃するぞ、という意味だ。
 「鼠穴」とは、穴のなかに追い込まれたねずみである。
 これほど「弱くて強いもの」はないじゃないか、とね。
 いい年をして「ほぼ日」をスタートさせたじぶんらを、
 「穴のなかのねずみ」に喩えたつもりであった。
 つまり、「窮鼠猫を噛む」ということわざがなかったら、
 ぼくのでっちあげた「鼠穴」ということばもなく、
 井上有一の書も生かされなかったというわけだ。

 劣勢の戦いをしているときには、窮鼠になれ。
 逃げることができなくなったら、命を賭けて噛みつく。
 そして、優勢の戦さをしているときには、
 絶対に、相手を窮鼠にしてはいけない、
 死ぬ気で噛んでくる鼠に、猫は勝てない。
 少しの逃げ道を空けておいて、そこから出てもらう。
 追い詰めすぎてはいけないのである。
 …というようなケンカのやり方についても、
 この「窮鼠猫を噛む」があってこそ生まれたものだ。
 ぼくは、このことわざが、とても好きであるようだ。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
逆に「豊鼠猫を養う」ってどう?意味は勝手に考えてみて。


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