エバンジェリストのケーススタディ
ITに精通する開発者から“伝道者”へ
プレゼン極意は顧客視点と製品への愛着
多くの企業にとって、ITの積極的活用はいまや経営戦略の根幹として位置付けられています。自社に最適な情報システムを構築できるか否かが企業の命運を分けるといっても過言ではなく、担当者はビジネス動向に応じてシステムを最適化するために、その時々に利用可能な最新テクノロジーについて広く、深く理解していなければなりません。
とはいえ、ITの新技術は加速度的に高度化・複雑化し、難解さの度合を増しています。しかもさまざまなITベンダーがあらゆる目的や用途に向けて、無数の製品・サービスを開発し提供しているので、実際に個々のユーザーがそれらすべての内容を理解した上で、最適解を導き出すことは至難の業といえるでしょう。そうした顧客の問題解決をサポートするために営業に同行したり、セミナーで講演を行ったりして、自社の製品やサービス、ノウハウをわかりやすく説明し、理解を促すのが「エバンジェリスト」と呼ばれる担当者。日本のIT業界でも日本IBMや日本マイクロソフト、アマゾンデータサービスジャパンなど外資系の事業者を中心に、活躍の場を広げています。
エバンジェリストには、技術やサービス全般に精通したエンジニアや開発者出身が多く、正式な職位として採用する企業も増えています。単なる営業や宣伝と一線を画すのは、公益性や中立性を意識して、専門的な視点からより正確に情報を伝えるスタンス。自社の技術や製品でも短所があれば開示し、他社の技術でも利点があれば、それとの比較を踏まえて説明します。
内外のイベントでの講演は、エバンジェリストの真価が最も問われる活動の一つです。日本経済新聞(2012年8月28日付)によると、日本の代表的なエバンジェリストの一人といわれる日本マイクロソフトのテクニカルソリューションエバンジェリスト、西脇資哲氏は年に180~190回、アマゾンデータサービスジャパンの玉川憲氏は160回もの講演回数をこなすといいます。当然、それだけの優れた情報発信力やプレゼンテーションのスキルがなければ、務まる仕事ではありません。西脇氏は、エバンジェリストの成功のカギとして「顧客の視点を持つこと」と「製品に愛着を持ち、自信を持つこと」の二点を挙げ、そのために自社製品を自腹で購入し、とことん使い込むなど、努力を重ねているそうです。こうした姿勢や取り組みは、エバンジェリストに限らず、またIT以外の分野でも大いに参考になるのではないでしょうか。