フラを踊る上で曲にまつわる場所やハワイの歴史を感じるところを訪れるのは非常に勉強になるといわれますが、勉強云々よりも前に私個人的には、そのような場所に佇むと、子どものようにワクワクするような、心のモヤモヤが晴れるような、時に胸がキュッと締めつけられるような… ひと言では説明し難い、とても心が震えることがあるのです。
もちろん個人差はあると思いますが、上手く説明できないそんな心の動きを皆さんにも感じてもらえたら素敵だなぁと思うので、ハワイにいらっしゃる際は是非どこかフラを感じる場所にも訪れていただけたらと思います。
私にとってそんな場所のひとつが『クイーン・エマ・サマーパレス(エマ王妃の夏の宮殿)』です。ビショップミュージアムやイオラニ宮殿のような華やかな印象はなく、こぢんまりとした佇まいですが、爽やかなヌウアヌの風が通り抜けるとても気持ちの良い空間なのです。パリハイウェイ沿いに位置するこのサマーパレスは、少し高台にあるため、ホノルルの街中と比べると涼しく、1800年代中頃にエマ王妃とその夫のカメハメハ4世、そして息子のアルバート王子が避暑地として過ごした別荘です。
ハワイ諸島では残り少ないギリシャ風リバイバル様式のこの建物は、骨組みをボストンで作った後ハワイに輸送したそうで、当時流行した東部建築様式とハワイ建築様式が融和された独特のもの。華美というより可愛らしく品のある佇まいは、部屋数も少なく、あっという間に回れてしまう大きさです。
当時を偲ぶベッドルームにはハワイ王家の紋章が施されたハワイアンキルトのベッドカバーや、コアウッドで作られたベッド、国宝のゆりかごなどがあります。
マントの間には非常に優れたハワイ原産の灌木オロナを用い、ハワイ固有の鳥イイヴィの小さな赤い羽根と、絶滅したハワイ固有種のマモの黄色い羽を何千枚も重ね三代に渡って作られた見事な王室用のマントが飾られています。
奥のエジンバラの間にはコアを使い珍しい凹凸のガラスがはめ込まれたロイヤルキャビネットや家具など各国からの贈り物、その他のお部屋にもフラでも馴染みの深いカーヒリなどの小物をはじめ様々な美術品や装飾品が陳列されています。
私が訪れた日はエマ王妃の181回目のお誕生日祝いが行われた日だったため、特別にエマ王妃のウエディングドレスが展示されていました。
シルクのレース使いがとても品のある素敵なドレスで、カワイアハオ教会で挙げられたエマ王妃とカメハメハ4世の幸せそうな結婚式を想像し、私まで涙がでそうな気分でした。
というのも、エマ王妃は非常に悲しい運命を迎えてしまうのです。ご夫妻にとって待望の赤ちゃんだったアルバート王子が4歳で突然亡くなってしまい、カメハメハ4世はその悲しみにくれ、約1年後、王子のあとを追うかのように亡くなってしまったのです。1年で最愛の息子と夫を亡くしたエマ王妃のことを思うと誰もが胸を締めつけられる思いでしょう。27歳で未亡人となったエマ王妃は、49歳でその人生を閉じる時まで再婚もせずハワイの民のために力を尽くしたと伝えられています。病院建設は特に有名ですね。
このサマーパレスは、何も知らずに見て回ると、正直小さな建物ですし、装飾品などもいろいろとあるものの、ビショップミュージアムやイオラニ宮殿ほどではないので物足りなさを感じるかもしれません。ただ、ここに存在したエマ王妃とカメハメハ4世、アルバート王子のお話を聞きながら巡るととても感慨深いものとなる場所なのです。
毎週日曜日には日本人ドーセントのHarumiさんがいらっしゃるので、そんな三人家族のストーリーを伺いながら、是非この地に思いを馳せていただけたらと思います。アルバート王子の小さなお洋服や、消防士になりたかったという王子のために作られた消防士の小さな制服など、そのお話を聞けば涙なくして見られないものも多数あります。
そんな悲しいストーリーのあるこの場所なのに、エマ王妃の前向きな生き方が影響しているのか、とても良い気を感じるところです。建物の裏には大きな公園があり、お弁当などを広げてゆったり過ごすにも最適です。普段は観光客も少なくのんびりしており、お庭ではオーヒアレフアやロケラニなど季節によってフラでおなじみのお花や植物を目にすることもできます。
派手さはないものの、王家の避暑地としての佇まいを感じられる素敵な場所。ハワイ語で『月の養子』という意味をもつ『Hānaiakamalama(ハーナイアカマラマ)』の名でも知られるこのサマーパレス。月の輝く時間に訪れることはできませんが、月のような穏やかな優しさに包まれる空間で私にはとても心地よく、時折ふらりと一人で伺うことも多くあります。是非皆さんにもここに流れる優しい空気を感じていただけたら嬉しいです。
クイーン・エマ・サマーパレス(Queen Emma Summer Palace)
2913 Pali Hwy., Honolulu
(808)595-3167
09:00~16:00(祝日は閉館)
http://daughtersofhawaii.org/2017/01/12/queen-emma-summer-palace/
プロフィール
荒川 れん子
現在ハワイ在住フリーアナウンサー。本格的にハワイに拠点を移し14年目。その大半をモロカイ島という小さな島で過ごせたことに感謝の日々。現在はオアフにも拠点を持ち、できる限りモロカイと行ったり来たりしている。
ソニー・ミュージックアーティスツ所属
オフィシャル・ブログ『ALOHA♡Life』