「Xデー」は2015年8月8日でした。
この日はWUGの2ndツアーの東京公演があったのです。

スタッフのほとんどは昼の公演だけ行く予定でした。
僕は夜の方を選びました。
昼はちゃんと作業しようと思ってました。

で、スタジオに入りました。
異様な光景を目の当たりにしました。

スタジオに積まれていたカット袋がないのです。
僕の机にも、誰の机にもなかった。

僕は慌てて制作に言いました。
「どうなってんのこれ!?」
「M社に……奪われました!」

僕は頭の中が真っ白になりました。
これはアニメか何かか?


M社が「親会社」と結託して、Ordetから全カットを引き上げたのです。
全カットです。強調しますが、「全部」ということに、何の意味があるのでしょう?
僕や近岡さんの分だけではなく、山崎さん、澤田さん、他Ordet全スタッフのカットが奪われたのです。

え、俺達、仕事しなくていいの?
要は、「親会社」が判断したのは、切り離すのはミルパンセの方ではなく、Ordetだったのです。
(この時の「親会社」の窓口となったのが、ひとり目の極悪人、S氏でした)


もう一度あの某演出家ブログに戻りましょう。どうして金をジャブジャブ使ってしまったのか?

それはお前が呼ばれたこと自体が証明してるんだよ!
お前のやったAパートは、山崎さんが粛々とやってたんだよ!!

N氏・I氏のヒステリーがここに極まった瞬間です。
「もうあいつら全部邪魔だ!『WUG』は奪って俺達で作る!!」

しかし「親会社」としては制作管理責任・納品責任があるのですから、いたずらに僕らを解雇して、変にスタッフ数を減らしてリスクを負うことはできない。
しかもメインスタッフ全員です。製作委員会への説明もつかない。

その代替案が、「ダンスパートだけやっとれ」ということでした。


しかしもう一度言いますが、彼らは僕ら抜きで作らなければならない。
つまり新しく演出や作監が必要だ、ということです。

その分、更に予算が超過することは明らかでした。
良く解らないスタッフが続々と入ってきました。
でもそれに手出しができない。「親会社」が制作元請けなので、その決定はどうしようもない。
それだけではありません、こっそりとOrdetでM社との連絡役となっていたスタッフが共有していた予算表をこっそり見たら、M社のありとあらゆるところに追加予算が付けられていたのです。
要は「M社のこの後の作品を延期しても充分食っていける」状態になっていたのです。


今だから言いますが、もう作品抱えて、M社に自爆テロでも起こして死のうかとも考えました。
これは人間のやることか?
血の通った人間のやることか?

しかし、僕らは『BtB』を、まっとうな形で世に送り出す義務がある。
そこで考え出した苦肉の策が、「自主リテイク」だったのです。

M社の上がりは幸いにしてデータ上で見ることができました。
僕らはそれを見て、ダメなカットを自主的に直していったのです。
これで大事なカットが(菜々美の泣くカットなど)いくつも救われました。


ここから『BtB』納品までは敢えて省略しますが、更に悲しいひと悶着がありました。
なんとも情けない、今思い出しても怒りに震えるものでした。
しかし100歩、いや1000歩、いや10000000歩譲って、『BtB』はなんとかなった。
これで良しとしよう。僕は煮えくり返った腹を鎮めるのに必死でした。
ここで既に次のシリーズ、「3期」の企画会議が始まっていたからです。

しかし、本当の「地獄」は、ここから始まったのです。(まだつづく)