『青春の影』をなんとか作り終えた私達ですが、『Beyond the Bottom』は予算的にも、スケジュール的にもかなりの苦戦が予想されました。
その間に何を思ったのか、Ordet社内に間借りの状態だったM社が、突如Ordetの敷地を出て、今のスタジオへ移転してしまいます。

一見そんなに大きな問題ではないように見えるかも知れません。しかし「予算的には丸抱え」の約束なので、Ordetは出て行かれた敷地と彼らで勝手に移った敷地の、両方の地代家賃を支払うことになったのです。


ここから彼らの身勝手な、いやそれ以上に意味不明な行動が始まります。

僕は追加予算を「親会社」に要請し、スケジュールの延長をavexに訴えます。
でないとマトモなものができない、TV1期の二の舞だ、と。

「親会社」はこの段階ではそれを飲み、最大6000万円の追加予算を融資として工面してくれることになりました。
avexとも前向きな交渉を続けていました。

しかしそれに反旗を翻したのは、他ならぬM社です。
「スケジュールが超過したら、自社の次の仕事に影響して、作業できなくなる!」というものでした。
(しかし結果として、M社のその後の作品は短編と、ほぼ3Dの作品の一部2Dパートのみで、作業量としては大したことはなかったのです)

これも後から周囲に言われるのですが、要はN氏・I氏は「自分の思い通りにならないと気が済まない」性格だったのです。
それを『青春の影』ではOrdetに善人のフリして合わせ、しかし海外へぶん投げたものが勝手に直されたり、そのフラストレーションが蓄積されたのでしょう。

そこからの彼らのヒステリーは尋常なものではありませんでした。
まずはコンテの修正を要求してきました。
曰く、「七人の登場を減らせ」というものでした。
七人描くのは作業量的に大変だから、七人を映すな、というものです。
しかしWUGは七人の物語なのだから、七人を映すしか映像文法上ありえません。無茶な要求でした。
その後「新章」ではっきりと明らかになりますが、彼らにとって大事なのは作業効率(=いかに楽できるか)であり、作品の内容や設定、クオリティは完全度外視だったのです。

僕は、噴き出しそうな怒りを必死に堪えて、カットのつながりがメチャクチャになるギリギリまで堪えて、カットを削りました。


それと、以下の某演出家ブログに書かれた「僕の手元にカットが溜まった」事件。

http://d.hatena.ne.jp/mitahiroshi/mobile?date=20170801


この輩、他の件でもネットでメチャクチャに言われ、その都度良く解らない言い訳をしているので、まぁそういう奴だったのでしょう。

サボってるどころではない、僕は正月返上で『青春の影』のチェックをしながら『BtB』のコンテを進めていたので、いつ休んだかも憶えていません。

僕は演出スタッフは『青春の影』のままで、なんとかスピードを落とさぬようクオリティを担保して作業できるよう考えていました。
しかしM社が、というかI氏が突如要求してきました。
この演出陣のひとりで、近年僕の片腕的存在となっていた、有冨さんを降ろせというものでした。

有冨さんは『青春の影』で、M社の特に新人達の担当するパートを見なければならなくなり、上がりの状態も悪い中、新人教育の意味も含めて、丁寧に指導してくれました。
それが、M社の作画を統括するI氏の逆鱗に触れたのです。
「俺の教え子に手を出すな!」ということだったのでしょう。

有冨さんはジブリ上がりの職人肌で、演出家としても大ベテランです。
間違ったことを言うはずもなかった。

一方で間違ったことばかり言うのはI氏の方でした。
ちょっと専門的な話になりますが、彼の下に付いていた新人演出君は、『青春の影』カッティングの際に全てのセリフをカット頭から始め、編集さんを怒らせました。
「これ、なんでこうなってるの?」
「いや、Iさんにそうしろと言われたから……」
こりゃいかん、可哀想だと思って、僕は最低限の「常識」を、新人演出君に教えておきました。
「あんまり彼の事信用するんじゃないよ」

これもI氏の逆鱗に触れたらしく、新人演出君は『BtB』から一旦外れました。

ともあれ、Bパートのコンテが上がったにも関わらず、その演出を担当するはずだった有冨さんに、仕事が行かなくなりました。
僕は大分抗議しましたが、なんせN氏・I氏のヒステリーです。聴き入れる訳もありません。
落胆した僕は、でもまだコンテ作業が残っている、せめて代わりの演出を立ててくれ、とM社に要求しました。

しかし、それから1か月以上、何の音沙汰もなかったのです。
完成したBパートのコンテ、200カット以上が、僕の机に眠った状態になったのです。

え、どうなってるの?と業を煮やした僕がM社に問い合わせると、
「とりあえず監督が持ってほしい」
というものでした。
は?と呆気に取られました。え、これ、俺のせい??
スケジュールがどうだ、間に合わないからどうだとかキーキャー言ってたのに、コンテ1か月眠らせて、俺に押し付けるの??


正直言ってここで独断でM社を斬り捨てるべきでした。
しかし思い出してください、制作管理は、「親会社」なのです。
融資を取り付けた状態で、「親会社」に訴えて、M社とは馬が合わないから、切り離してくれ、とは、なかなか言えなかった。

なぜか件の某演出家のブログでは「俺が全カット見る」ということになっていましたが、完全にN氏・I氏の嘘でしょう。
それはもう皆さん容易に想像がつくと思います。

僕としてはどうしようもない、宙に浮いた200カットを持って、途方に暮れました。
そしてその間に、N氏・I氏による「乗っ取り」計画が、着々と進んでいたのです。(つづく)