さて、ここで「ラスボス」M氏の登場です。
彼は「親会社」の代表でありながら、この顛末にまだ本格的に登場はしていません。
それがかえって、彼をこじらせることになります。

『BtB』を僕らから取り上げ、M社の思いのままに作った結果、当初6000万で済んでいた予算超過が、見事に倍の1億2000万近くまで膨れ上がりました。

僕らは既に「3期」の準備に入っていました。そこにM氏の介入です。
「3期」の予算から借り入れ分を返済しろというのです。

これには堪忍袋の緒が切れました。
どうしてM社が使い放題使ったものをこちらで負担しなければならないのか?
しかも制作管理をしたのはあんたら「親会社」だ、Ordetに押し付けられる謂れは何もない!

僕は要求を突っぱねました。

そうするとM氏、手をこまねいてた分だけ感情的になります。
これまで登場したどの「極悪人」も始末に負えないのですが、一番幼稚なのは彼でした。

即効、僕のOrdet代表解任を、弁護士を通じて(こいつも極悪人ですが)通達しました。
Ordetの大株主は「親会社」、つまりM氏です。法律上は彼の一任で役員は解任できます。
しかし僕の方も弁護士を立て、処分が不当であることを主張します。

しかし、そこで選んだ弁護士が、全くの外れ。
業界内ではあまりにビッグな存在すぎて、こんなチンケな案件、最初からマトモに相手してくれなかったのです。
(今お世話になってる弁護士先生にすべての書類を見せたら、「なんでこんなこじれたことになるんですか?」と言われました……)


そして、肝心の『WUG』の原作権です。
これは僕個人ではなく、Ordetの名義になっていました。
ことの最初に戻りますが、avexが「会社名義でないと契約しない」と言い張ったのです。
(Ordetでずっとお世話になった某プロデューサーが言うには、「もうそこで仕組まれてたんじゃないか?」とか・・・)

『WUG』の権利は、OrdetごとM氏の手に渡ったのです。
そしてその代わりに、僕個人がOrdetの1億円以上になる金銭貸借契約の保証人となりました。当初決められていた6000万の貸借契約書には判を押していた。
弁護士的には「判を押した以上はどうにもならない」。
どうにも納得いかない状況で、こうして「親会社」と、覚書を交わし、判を押しました。
この覚書、そこには『WUG』のことについては一切発言してはならん、とまで書かれていました。なんで??

でも「新章」以降、自分のファンに対する「説明責任」を感じて、結局話せるギリギリまで話しつづけましたが。


僕はもちろん酷く落胆しました。しかし落ち込んでいる場合ではない。
『WUG』の3期をどうにかしなければならない!

ここで、最後の裏切りが待ってました。
H氏が僕を見捨て、M社とI氏を選んだのです。

この理由については未だ、どう推測しても疑問が残ります。
僕は「原作者」としての権利は失いましたが、「監督」としての権利は失っていなかったからです。
そして「親会社」=M氏も、「監督権は剥奪しない」と、念書に明記しました。

可能性はひとつ、H氏はこれを機に、僕から『WUG』を奪い取り、自由気ままに運営したかったのでしょう。

僕は奪われた悲しみ以上に、その渡り先があまりにあんまりなことに、憤慨しました。
「どうやったらM社が『WUG』を作れるんですか!TVシリーズもマトモに作ったことのない会社ですよ?ダンスパートを全部こちらに押し付けた連中ですよ?制作能力ありませんよ??」

しかし、H氏の欲の皮が勝ったようです。
どう考えても理のある判断ではなかったのですが、彼は自分の権力欲を優先したのです。
(因みに彼は当時から、周囲のスタッフから「帝王」と揶揄されるようになっていました)


僕の心は壊れました。
その後1ヶ月にわたって寝込み、周囲の勧めでいろいろな医者やカウンセラーに診てもらい、薬やさまざまな療法を駆使して、今にいたります。
正直、今も完治している訳ではありません。睡眠障害や謎の吐き気などが続いています。


『WUG』は何と、これだけ多くの「極悪人」によって作られ、そして壊された作品となりました。
ただ、僕だけは悪くない、と言うつもりはありません。いくつもの判断ミス、そして希望的観測を抱いて、ことを進めて行きました。
いつも僕が批判する「性善説」ですが、それを一番信じていたのは、僕だったのかも知れません。

自分の無力を恨むと同時に、改めて、この業界の醜さに、鳥肌が立つほどの怒りを覚えます。
僕が最低限出来ることは、こんな無様なことが二度とあってはならない、と自らの残りの人生を賭して皆さんに誓うことです。


そして今回の破産ですが、改めて言いますが、M氏からの申し立てよる「他己破産」なのです。
非常に珍しいケースだと、今お世話になっている弁護士から伺いました。
恐らく向こうが損金計上しなければならない事情ができたのだろうと。
あとは『薄暮』制作中のこのタイミングでの嫌がらせか。



ともあれ、以上、この破産にいたるまでの経緯の説明を終わります。
本当に思い出す度、断腸の思いで死にたくなります。
今も体調不良には苦しんでいます。

しかし、この負債は果たして僕自身が負うべきものだったのか?
今も疑問に思います。
しかし、過ぎたことはもう忘れたいです。
記憶に残っているだけで不快です。

今ドラマで注目されているかの安藤百福だって、不当な経緯で財産をすべて失った時、あの「チキンラーメン」を生み出したのです。
しかも、僕よりもっと歳を取った48歳の時です。

僕も彼のように、不屈の闘志で立ち上がらなければならない。
そう思い、今も作画机に向かっています。


現在制作中の『薄暮』はもちろん完成させます。
僕個人の破産とTwilight Studioの資本、『薄暮』の予算とは何の関係もありません。
むしろ、この状況下でも尚立ち向かい、戦い、作るという行為を続けていることに、何卒皆様のご理解の程をよろしくお願いいたします。

「Xデー」は2015年8月8日でした。
この日はWUGの2ndツアーの東京公演があったのです。

スタッフのほとんどは昼の公演だけ行く予定でした。
僕は夜の方を選びました。
昼はちゃんと作業しようと思ってました。

で、スタジオに入りました。
異様な光景を目の当たりにしました。

スタジオに積まれていたカット袋がないのです。
僕の机にも、誰の机にもなかった。

僕は慌てて制作に言いました。
「どうなってんのこれ!?」
「M社に……奪われました!」

僕は頭の中が真っ白になりました。
これはアニメか何かか?


M社が「親会社」と結託して、Ordetから全カットを引き上げたのです。
全カットです。強調しますが、「全部」ということに、何の意味があるのでしょう?
僕や近岡さんの分だけではなく、山崎さん、澤田さん、他Ordet全スタッフのカットが奪われたのです。

え、俺達、仕事しなくていいの?
要は、「親会社」が判断したのは、切り離すのはミルパンセの方ではなく、Ordetだったのです。
(この時の「親会社」の窓口となったのが、ひとり目の極悪人、S氏でした)


もう一度あの某演出家ブログに戻りましょう。どうして金をジャブジャブ使ってしまったのか?

それはお前が呼ばれたこと自体が証明してるんだよ!
お前のやったAパートは、山崎さんが粛々とやってたんだよ!!

N氏・I氏のヒステリーがここに極まった瞬間です。
「もうあいつら全部邪魔だ!『WUG』は奪って俺達で作る!!」

しかし「親会社」としては制作管理責任・納品責任があるのですから、いたずらに僕らを解雇して、変にスタッフ数を減らしてリスクを負うことはできない。
しかもメインスタッフ全員です。製作委員会への説明もつかない。

その代替案が、「ダンスパートだけやっとれ」ということでした。


しかしもう一度言いますが、彼らは僕ら抜きで作らなければならない。
つまり新しく演出や作監が必要だ、ということです。

その分、更に予算が超過することは明らかでした。
良く解らないスタッフが続々と入ってきました。
でもそれに手出しができない。「親会社」が制作元請けなので、その決定はどうしようもない。
それだけではありません、こっそりとOrdetでM社との連絡役となっていたスタッフが共有していた予算表をこっそり見たら、M社のありとあらゆるところに追加予算が付けられていたのです。
要は「M社のこの後の作品を延期しても充分食っていける」状態になっていたのです。


今だから言いますが、もう作品抱えて、M社に自爆テロでも起こして死のうかとも考えました。
これは人間のやることか?
血の通った人間のやることか?

しかし、僕らは『BtB』を、まっとうな形で世に送り出す義務がある。
そこで考え出した苦肉の策が、「自主リテイク」だったのです。

M社の上がりは幸いにしてデータ上で見ることができました。
僕らはそれを見て、ダメなカットを自主的に直していったのです。
これで大事なカットが(菜々美の泣くカットなど)いくつも救われました。


ここから『BtB』納品までは敢えて省略しますが、更に悲しいひと悶着がありました。
なんとも情けない、今思い出しても怒りに震えるものでした。
しかし100歩、いや1000歩、いや10000000歩譲って、『BtB』はなんとかなった。
これで良しとしよう。僕は煮えくり返った腹を鎮めるのに必死でした。
ここで既に次のシリーズ、「3期」の企画会議が始まっていたからです。

しかし、本当の「地獄」は、ここから始まったのです。(まだつづく)

『青春の影』をなんとか作り終えた私達ですが、『Beyond the Bottom』は予算的にも、スケジュール的にもかなりの苦戦が予想されました。
その間に何を思ったのか、Ordet社内に間借りの状態だったM社が、突如Ordetの敷地を出て、今のスタジオへ移転してしまいます。

一見そんなに大きな問題ではないように見えるかも知れません。しかし「予算的には丸抱え」の約束なので、Ordetは出て行かれた敷地と彼らで勝手に移った敷地の、両方の地代家賃を支払うことになったのです。


ここから彼らの身勝手な、いやそれ以上に意味不明な行動が始まります。

僕は追加予算を「親会社」に要請し、スケジュールの延長をavexに訴えます。
でないとマトモなものができない、TV1期の二の舞だ、と。

「親会社」はこの段階ではそれを飲み、最大6000万円の追加予算を融資として工面してくれることになりました。
avexとも前向きな交渉を続けていました。

しかしそれに反旗を翻したのは、他ならぬM社です。
「スケジュールが超過したら、自社の次の仕事に影響して、作業できなくなる!」というものでした。
(しかし結果として、M社のその後の作品は短編と、ほぼ3Dの作品の一部2Dパートのみで、作業量としては大したことはなかったのです)

これも後から周囲に言われるのですが、要はN氏・I氏は「自分の思い通りにならないと気が済まない」性格だったのです。
それを『青春の影』ではOrdetに善人のフリして合わせ、しかし海外へぶん投げたものが勝手に直されたり、そのフラストレーションが蓄積されたのでしょう。

そこからの彼らのヒステリーは尋常なものではありませんでした。
まずはコンテの修正を要求してきました。
曰く、「七人の登場を減らせ」というものでした。
七人描くのは作業量的に大変だから、七人を映すな、というものです。
しかしWUGは七人の物語なのだから、七人を映すしか映像文法上ありえません。無茶な要求でした。
その後「新章」ではっきりと明らかになりますが、彼らにとって大事なのは作業効率(=いかに楽できるか)であり、作品の内容や設定、クオリティは完全度外視だったのです。

僕は、噴き出しそうな怒りを必死に堪えて、カットのつながりがメチャクチャになるギリギリまで堪えて、カットを削りました。


それと、以下の某演出家ブログに書かれた「僕の手元にカットが溜まった」事件。

http://d.hatena.ne.jp/mitahiroshi/mobile?date=20170801


この輩、他の件でもネットでメチャクチャに言われ、その都度良く解らない言い訳をしているので、まぁそういう奴だったのでしょう。

サボってるどころではない、僕は正月返上で『青春の影』のチェックをしながら『BtB』のコンテを進めていたので、いつ休んだかも憶えていません。

僕は演出スタッフは『青春の影』のままで、なんとかスピードを落とさぬようクオリティを担保して作業できるよう考えていました。
しかしM社が、というかI氏が突如要求してきました。
この演出陣のひとりで、近年僕の片腕的存在となっていた、有冨さんを降ろせというものでした。

有冨さんは『青春の影』で、M社の特に新人達の担当するパートを見なければならなくなり、上がりの状態も悪い中、新人教育の意味も含めて、丁寧に指導してくれました。
それが、M社の作画を統括するI氏の逆鱗に触れたのです。
「俺の教え子に手を出すな!」ということだったのでしょう。

有冨さんはジブリ上がりの職人肌で、演出家としても大ベテランです。
間違ったことを言うはずもなかった。

一方で間違ったことばかり言うのはI氏の方でした。
ちょっと専門的な話になりますが、彼の下に付いていた新人演出君は、『青春の影』カッティングの際に全てのセリフをカット頭から始め、編集さんを怒らせました。
「これ、なんでこうなってるの?」
「いや、Iさんにそうしろと言われたから……」
こりゃいかん、可哀想だと思って、僕は最低限の「常識」を、新人演出君に教えておきました。
「あんまり彼の事信用するんじゃないよ」

これもI氏の逆鱗に触れたらしく、新人演出君は『BtB』から一旦外れました。

ともあれ、Bパートのコンテが上がったにも関わらず、その演出を担当するはずだった有冨さんに、仕事が行かなくなりました。
僕は大分抗議しましたが、なんせN氏・I氏のヒステリーです。聴き入れる訳もありません。
落胆した僕は、でもまだコンテ作業が残っている、せめて代わりの演出を立ててくれ、とM社に要求しました。

しかし、それから1か月以上、何の音沙汰もなかったのです。
完成したBパートのコンテ、200カット以上が、僕の机に眠った状態になったのです。

え、どうなってるの?と業を煮やした僕がM社に問い合わせると、
「とりあえず監督が持ってほしい」
というものでした。
は?と呆気に取られました。え、これ、俺のせい??
スケジュールがどうだ、間に合わないからどうだとかキーキャー言ってたのに、コンテ1か月眠らせて、俺に押し付けるの??


正直言ってここで独断でM社を斬り捨てるべきでした。
しかし思い出してください、制作管理は、「親会社」なのです。
融資を取り付けた状態で、「親会社」に訴えて、M社とは馬が合わないから、切り離してくれ、とは、なかなか言えなかった。

なぜか件の某演出家のブログでは「俺が全カット見る」ということになっていましたが、完全にN氏・I氏の嘘でしょう。
それはもう皆さん容易に想像がつくと思います。

僕としてはどうしようもない、宙に浮いた200カットを持って、途方に暮れました。
そしてその間に、N氏・I氏による「乗っ取り」計画が、着々と進んでいたのです。(つづく)

↑このページのトップへ