ウェイトリフターのトレーニングにおけるプル種目の相対的な価値

「筋肉がそれぞれの役割を果たせるように体の力を分配することは特に重要である。例え筋肉の使われる時間が一秒に満たないとしても。」

この記事の目的はウェイトリフティングにおけるプル種目の価値を検討することである。

スナッチ・クリーンプルはスナッチ、クリーンアンドジャークの補助種目である。選手や時期によって異なるが、プル種目は全練習量の8~17%を占める(スナッチ、クリーンアンドジャーク、スクワットしかしない場合は0%である)。プル種目で用いられる重量は60~120%である。プル種目はプルの技術を完璧にし、さらにスピード力を高めるため、練習に採り入れられる。

100%以上の力でプル種目を、特に繰り返して行うと悪い癖をつけてしまう ということが常識になった。この癖は95~100%の重量を扱う大会時に出てしまう。したがって、スピードや持ち上げる高さ、動作のリズムを考えれば、プル種目の基本重量は90~95%になる。

練習からプル種目を除いてもよいという人もいる。プル種目をせずに世界記録保持者になった選手の例はたくさんある。現在、多くのナショナルチームは、スナッチ、クリーンアンドジャーク、スクワットをメインに練習している。この方法は、大きな成功を収めたブルガリアのナショナルコーチ Ivan Abajiev によって広められた。

Abajiev によれば、例え練習で、試合の3倍の総重量を扱ったとしても、選手の体に起こる生理学的変化は、試合によるもののほうが大きいそうだ。負荷は小さくても質的に特異な試合での運動のほうが生理学的により高負荷であるとして、Abajiev は15日ごとに彼らの練習場で試合を行う計画を立てた。彼によれば試合でいい成績を残したいなら試合の練習をすればよいのだそうだ。

プル種目をせずに成功する選手がなぜ存在するかという問いに、科学的、実践的に答える文献がないため、この問いに対する答えを探すことが、プル種目を評価する際の決め手になりそうだ。

ウェイトリフターはプル種目を採り入れるべきか?

練習からプル種目を外そうと真剣に考える主な理由は、ハイプルがスナッチやクリーンアンドジャーク動作の半分しかしていないという点である。これはプル種目を練習に採り入れる際の最も大きな制限である。事実として、スナッチやクリーンアンドジャークにおいて最も困難で複雑な動作は、しゃがみこんでバーを抑える所、言いかえればバーを捕まえて受け止める所、だ。

バーを持ち上げる動作から捕まえ、受け止める動作への自然な切り替えは控えめに言ってもかなり複雑である。事実上一瞬の間に、選手は重量を支持する土台を変え、頭上または胸の上にバーを停止させ、バーと自分の体とのバランスをとらなければならないのだ。

この動作は、単にハイプルを行うよりずっと複雑で難しい。そういう意味では、スナッチやクリーンアンドジャークに含まれる挙上と捕まえ・受け止める いう組み合わせは、リフターにとってもっとも複雑な動作であり、この競技を行う上で、特異的に求められるスキルであるといえる。ハイプルは、特に必要だと考える高さまでバーベルを挙げようとするものについては、時代遅れであるといえる。

十分な高さまでバーを上げることができればスナッチやクリーンアンドジャークに好影響を与えると考える人がいるかもしれない。しかしこの考え方は間違いである。なぜなら、リフターはバーが最高点に達する前に、足が伸びきる前に、しゃがみこむための方向転換を行う必要があるからだ。

必要な高さまでバーを上げる練習をしなければならないという考え方は、1964年の、IWFによるルール改正以前のもので、この年からバーを太ももに当ててもよくなり、体の近くでバーを扱うことが可能になったのである。これにより、動作に対して技術のもたらす効果が大きくなった。さらにハイプルは、ウェイトリフティングにおける技術進化を考慮していない。受けの位置はsplotからハイスプリット、ロウスプリット、スクワットスプリットと変化してきたのである。

そして、この技術進化によりsplotまたはスプリット姿勢でバーを受け止める為に必要な高さまでバーを上げようとする際の上体の筋肉の役割は劇的に減少した。

上体の筋肉の最適な使い方は積極的に挙上に使うことではなく、バーの下にもぐりこむときに使うことなのだ。

プル種目を制限しなければならない実際的な説明

フェイズ2~4(プル局面)が、道具を常に加速させるのが正しいとされる陸上の投擲に似ているということが言われてきた。これは、正しいがスナッチ、クリーンアンドジャークの一面しか表わしていない。投擲では、 爆発の瞬間まで道具を加速させる。これは、スナッチやクリーンアンドジャークのプル動作と同じかもしれない。

しかし、加速の最後にリフターは、方向転換を行う必要がある。新しい土台を見つけて、下方に動き、スクワット姿勢でバーを受け止め、バランスを保つ必要がある。これらの動作は一秒以内で行われる。逆に、投擲の選手はリリースしたところで動作は終了する。スナッチやクリーンアンドジャークで最も複雑なのはこの類似局面( 爆発の終わる局面)なのである。リフターはバーベルを効率よく持ち上げて、そして捕まえる。たとえばもし、投擲の選手が、槍を投げて、離れたところで受け止めねばならないとしたら、技術はまったく異なっていただろう。r

ウェイトリフターは適切なときに投げるのをやめなければならない。そして捕まえる部分を効率よく行わねばならないのである。したがって、スナッチやクリーンアンドジャークと比べるなら、ハードル走のほうがふさわしいかもしれない。ハードル走で、もし、遅れて走っているとしたら、 追いつかれないように速く走らねばならない各ハードル間の歩幅は3歩が典型的なのである。4歩目で向かってくるハードルを効率良く飛び越えるのだ。

したがってハードル走には基本的に2つの部分がある。ランとジャンプである。選手が最も速く走ろうとすれば、ストライドが一歩以上増えてしまう危険がある。その結果、効率よくジャンプできず、スピードが死んでしまう。そこで、ランでの注意点はできるだけ速く走ると同時に最も効率のよい調和を保つことだ。3歩走ってジャンプ、また3歩走ってジャンプ、という風に。

ウェイトリフティングのしゃがみこみと同様に、ハードルを跳ぶ動作はランより複雑なのである。なぜなら、跳躍と着地は、スピードをなるべく殺さないように、次の一歩へ効率よく移行できるよう正確に行わねばならないからだ。ウェイトリフティングでも同じことが言える。

<スナッチとクリーンアンドジャークには2つの部分がある。プルとしゃがみこみである。ハードル間の歩数を無視したハードラーはレースに負ける危険にさらされる。同様にプルに力を入れすぎるリフターは、最も難しくて複雑なしゃがみこみの部分を効率よく行えなくなる可能性がある。

トレーニングでプル種目を行うリフターは、バーベルを長い間挙げすぎるという悪い癖を強化してしまう恐れがある。これは動作に悪影響をもたらす、なぜなら、プルに重点を置きすぎると、試技成功の鍵を握るしゃがみこみが犠牲になるからだ。リフターが腕を伸ばしきれず、また胸に乗せきれずに失敗したとき、その理由として言われるのは大抵、バーの高さが足りなかったからだとか引ききれなかったからだというものである。

ランに重点を置きすぎてハードルのジャンプに十分な時間と努力を注がないのと同じように、バーベルを長い間引きすぎて方向転換や力強いしゃがみこみに注力できなかったからだとは決して言われない。

Barton はバーの軌道やスナッチの技術に関係する要素についての研究を行った。彼によれば、バーの軌道は、成功失敗にかかわらずほとんど同じであるという。彼はまた、文献でよく言われる事実とは異なり、バーの最高到達点の高さはエリートレベルリフターのパフォーマンスにそれほど影響を与えないことに気づいた。

失敗時と成功時のバーの高さが同じであること、失敗時でもバーの高さが十分(身長の60%)であることを考えると、成功の鍵となる要素は他にもありそうである。この要素は、挙上から受けへ切り替える能力に関連したものである。切り替えるだけではなく、腕を曲げる筋肉を使ってバーを引き、体を下げることから、腕を伸ばす筋肉でバーを押すことへと、切り替えるタイミングも重要なのである。

引ききるためにシュラッグによって、バーベルを高く上げるようにアドバイスを受けるリフターはたくさんいるようだ。このアドバイスは明らかに、ハイプルによって鍛えられる能力、つまりバーベルを高く上げる能力を強化せよといっているに等しい。こういったリフターはバーベルの下へのしゃがみこみや受けは自然にできるものと思い込んでいる。しかしこれはハードル走の選手に、速く走ればハードルをうまく跳べるといっているのに等しい。

上記の例とは逆に、リフターはスナッチやクリーンアンドジャークが、正しい調和構造を伴い、主に2つの要素からなり、最大限の努力を必要とする一連の動作であるという概念を持たねばならない。端的に言えば、ハイプルで身につくのは引いて流す(フルエクステンション)ことである。これは不適切な動作であり、効率の良い挙上を行うために身につけねばならない効率の良い方向転換の動作に悪影響を与えてしまう恐れがある。

Medevedyev は著書A Multi Year System of Training in Weightliftingの中で28種ものプル種目を紹介しているが、(スナッチプルやクリーンプルを含めて)プル種目他にもたくさんある。このすべてのプルには、足や股関節を伸ばし、爪先立ちになり、シュラッグするという動作が含まれる。 この動作によって、選手は得意な動作癖がついてしまう。この特異な動作はしゃがみこむ動作においては生体力学的に不利となる。

このことも、ウェイトリフターがプルを練習に採り入れるのをためらう2番目に大きな理由なのだ。スナッチやクリーンアンドジャークを伸ばすための正しいスキルは、足や股関節を伸ばしきるところまで引いてから、バーを受け取るために沈むことではなく、爆発局面において、足や股関節が伸びきる前に方向転換としゃがみこみを効果的に始められるように力を配分することなのだ。

<試合で92~100%の重量を扱うときのパフォーマンス向上には正しい動作癖の習得が重要であるが、過信してはならない。間違いは除くよりも避けるほうがたやすい。というのも、間違いの消去は定義済みの動作プログラムの再構築になるからだ。これは非常に複雑な仕事だ。したがって、プルに賛成の人も反対の人も競技力向上のために正しい動作習慣を確立、強化することが本当に必要なのかどうかを考えねばならない。

スナッチプルは、足幅、手幅ともにスナッチと同じである。スナッチプルの典型的なやり方は、足や股関節が完全に伸び、かかと、肩が上がるところまでバーベルを挙げるというものである。このプルの目的は、スナッチにおけるプル局面に関わる筋肉を鍛えたり、プルの技術を練習することである。しかし、この動作はスナッチだけにしか言えないと思われる。 スナッチのようには床に大きな力を与えられないプルの最後のスピードもスナッチに比べると遅い重量が90%以上になるとプルのスピードはスナッチよりも遅くなってしまう。カイネマティクス(関節の動き)を見る限りでは、スナッチプル(90%以上の重量)ではバー下に膝を入れる速度がスナッチよりも遅いと言える。つまり太腿の筋肉の伸長速度が遅くなっている。さらに、スナッチでは膝がバーの下に入るときにすねの角度が垂直から大きく変化するが、スナッチプルでは、膝の角度は足首の角度より大きくなっている。

したがって、スナッチプルの3番目と4番目のフェイズの境に位置する選手の姿勢は、力学的に好ましい状態ではない。90%以上の重量を扱うスナッチプルが、スナッチの調和構造に悪影響をもたらすという前述の指摘はプル局面に関してのみ当てはまる。スナッチやクリーン成功のためには、ある程度のしゃがみこみのスピードが必要だとされている。そのスピードとは、バーベルが最高速に達したときにバーの下に体が動くスピードである。

実はバーベルが下降し始める0.1秒前に選手はバーを引くのをやめてしゃがみこみの体勢に入れる。うまい選手はバーベルがまだほとんど慣性で上昇している時すでにしゃがみこむスピードを持っているのだ。選手はバーが最高速に達する前にしゃがみこむ準備を始めるべきだ。しかし、足や股関節を伸ばしきり、シュラッグをし、爪先立ちになるまで待つという意識があると、上記のような動作はできない。なぜなら、バーが最高速に達するときは足を伸ばしきる前であるし、伸ばしきったときには体が垂直から10度程度傾いているからだ。

したがって、足や股関節を伸ばしきり、かかとを上げ、シュラッグをして、引ききることを覚えるということは、すなわち、効果的なポイントを過ぎるまで引き続けることを覚えるということなのだ。これは、悪い癖の形成につながる。タイミングの良い積極的なしゃがみこみではなく、悪く言えば引いて、落とすという動作を覚えてしまうのだ。これは効率が悪い。

拮抗筋によるブレーキ効果

足を伸ばしきり、プルを力強く終わらせることにおけるもうひとつの明らかな矛盾点はこうである。足が伸びきる前に足を曲げる筋肉(四頭筋の拮抗筋)が活性化され、足の伸びきる前にブレーキをかけるはずだということである。この先天的なメカニズムは関節の怪我を防ぐために存在する。このとき足の伸びにブレーキをかけやすくするために四頭筋は弛緩するはずである。 この筋群の入れ替わりは明らかにプルの途中で起こるはずだし、バーの速度の減少につながる。 この主要な筋群の入れ替わりは、足を伸ばしきるという意識を持つリフターに更なる問題をもたらす。意識的に足を伸ばそうとすることは、その性質上しゃがみこみの時に四頭筋の再利用を妨げるのだ。四頭筋再利用の目的は2つある。①腕や肩を使って床からジャンプすることでバーベルに垂直方向の力を与えること。そして②しゃがみこみと同時にバーベルの下降にブレーキをかけることである。

しかし、いわゆる 引ききることは、ほぼ一瞬の間にしゃがみこみ、 ブレーキをかける 能力を制限してしまうのだ。

Trapezius(僧帽筋) の神話

最大重量を挙上するためには、足や胴の筋肉群が使われる。ハイプルを評価するためには、スナッチやクリーンの動作を詳細に考慮する必要がある。特に重要なのは、足や股関節を意識的に伸ばすこと、とりわけシュラッグをすることである。つまり、僧帽筋の重要性についてである。

僧帽筋は胴が垂直になったときにだけシュラッグに伴って使われるべきだ。そうすればバーベルに垂直な力が加わる。

もし、たとえば、胴が垂直になる前に少しでもシュラッグをしてしまうと、バーに加わる力は水平方向に分散してしまう。なぜなら、胴が前に傾いているからである。さらに、弱い筋群を早めに使ってしまうと生体力学的な鎖に、いわゆる弱い鎖を作り出すことになり、、主要な筋群の作り出す力が急落し、全体的な効率も低下してしまう。

もちろんこれは、足や胴がまだバーベルに力を与えているときに腕を曲げたりシュラッグをすることについて言っているのだ。したがって、僧帽筋を効果的に利用するためには、胴がほとんど垂直になっているか、もしくは少し反っていることが必要だ。バーベルを持ち上げる主要な仕事は胴が垂直になる前に終わることを既に指摘した。そして、四頭筋は既に使っている 状態から、さらに繰り返し使うことでバーのスピードに寄与させることができるようになるが、僧帽筋は意識しないと使えないのだ。

肩の筋肉を使えるのは一回きりだ。そしてそのためにはシュラッグをする前に胴が垂直でなければならない。ではどうすればよいのか。バーベルを上げるためにシュラッグをしますか?それとも体を沈めるために使う?論理的に言えば答えはひとつしかない。リフターはバーベルに更なる力を与えるために足や股関節が伸びるのを待って シュラッグ すべきではない。僧帽筋は腕とともにしゃがみこみのために使うべきだ。しかし、ハイプルをすると僧帽筋で上げることを覚えてしまう。

僧帽筋に関する神話として言われているのは、高い技術をもったリフターはバーベルを上げるためではなく体を沈めるために僧帽筋を使っているというものだ。

引ききることと体を倒す効果

スナッチやクリーンアンドジャークの最初の姿勢でバーは大体足の親指の付け根の上にある。この時バーベルは足首の関節からはかなり前方に位置しており、すねを前に傾けることができる。この、足首に対するバーベルの相対的な位置によってリフターは、足や股関節の主要な筋群をより効果的に利用することができるのである。

バーが足首に近づきすぎると最初の胴の位置によっては過剰な負荷が胴や足にかかってしまう。したがって、ファースト姿勢は胴を伸ばす筋肉や足の筋群の効率的な分配に関わっていると言える。しかし、力学的に普通であるこの姿勢も体を前に倒す 効果を助長してしまう。

バーベルが床から離れた瞬間、バーベルにかかる重力は、リフターを前に倒そうとする。この前に倒そうとする力は、バーベルの重さがリフターの体重に対して相対的に増えれば増えるほど大きくなる。

バーベルが床から離れると、リフターとバーベルはいわゆる選手/バーベルシステムを形成する。床からバーベルが離れる前リフターはただ体の重心をとりさえすればよいが、床からバーベルが離れた後は、バーベルと自分の体を合わせた重心のバランスをとらねばならない。

最も良い平衡状態は選手/バーベルシステムの重心が足裏の真ん中にある時であるというのが常識になっている。したがってリフターはまず、バーベルが床から離れると同時にバーベルを足首の方に動かす必要がある。そうすることによって、①バーベルにかかる重力のラインが主要な関節に近づき、また、②体を前に倒す力のモーメントを減らして選手/バーベルシステムのバランスがとりやすくなる。

だから、リフターがすねの方にバーベルを寄せたとき、体幹を伸ばす筋肉や足をもっとも効果的に使えるようになり、 選手/バーベル システムの平衡を保つことができる。Romanによれば、 爆発のはじめに、膝と股関節が前に沈むとき、バーの下に膝を入れることでバーベルにかかる重力のモーメントが減少し、股関節進展に関わる筋肉の効率が増す。最初はすねの方にバーベルを動かし、 爆発局面でバーの下に膝を入れることで、 体を前に倒す 効果が低下する。これがスキル改善につながる。

だから、スキルを全うするために、足や股関節を伸ばし、爪先立ちになるように(これはハイプルによって身につく技術)意識すべきだと多くのコーチや選手が考える理由がわからない。なぜならプルで爪先立ちになるとバーベルが体から離れ、 選手/バーベルシステムの重心も動くため、平衡を保つために全体的にその方向へ移動せねばならなくなるからである。したがって、もしプルを全うするためにといって足や股関節を伸ばしきり爪先立ちになると、それは、そのポイントまでバーを体に寄せて得られたエネルギーを失ってしまうことになるのだ。

この引ききる 動作は、バーベルを前に動かし、主となる関節から離すことで体を前に倒す 効果を助長する。これは引ききることが、生体力学的に逆効果であることを説明する新たな材料である。

足や股関節を伸ばしきろうとすると、体から離れたバーベルを追いかける、同時に、バーベルにかかる力を垂直に保とうとしてしまう恐れがある。その結果、リフターはスクワット姿勢でバランスをとるために前方へジャンプしてしまうことになるのだ。そしてこれを勧める権威さえいるのだ。

今までスナッチプルへの疑問を述べてきたがクリーンプルに対しても同様のことが言える。たとえば、クリーンプルでクリーンで出せるような力を床に与えることはできない。スピードもクリーンプルだとかなり遅くなる。力やスピードが異なるため、100~110%のクリーンプルではリズムも違ってしまう。 しかしRoman によれば、スナッチやトータルの重量とスナッチプルの関係性は薄い、が、クリーンプルになると関係が強くなる。クリーンプルの重量が100%から上に行くほどクリーンアンドジャークやトータルの結果は良くなる。 Frolov らによると、 プルで限界重量を扱っても、いわゆる爆発力 は改善されず、理想的な技術を身につけることはできない。しかし、Frolov はまた、高重量のクリーンプルを排除する必要はないと言う。
プルを部分的に行うことはできる。床から膝まで、あるいは太ももの真ん中から、という風に。しかし、こういった部分的なプルでスクワットクリーンの正しい動作を身につけることができるだろうか?また、部分的な練習成果を、大会で最大重量を扱うときに必要になる一連の動作パターンへ統合する方法についてはっきりと述べていない。

次の文はトレーニングで何をすればよいかということについてさらに曖昧であるように思われる。 100%以上の重量でクリーンプルを行うのがふさわしいのはクリーンのテクニックに欠点のない選手だけである。

したがって、バーベルの下降を効果的に押さえる為のタイミングの良い方向転換がクリーンにトレーニングって重要であるといえる。引きをやめてしゃがみこみ、受け止め始めるタイミングが遅れることはスナッチよりもクリーンにとって影響が大きい。

まずクリーンの立ちについて言えばバーの下降にブレーキを正しくかけることによる力学的優位性の存在は明らかである。次に、バーベルの下降を効果的に抑えることは膝や背中などの怪我防止になるかもしれない。 引いて落とすやり方だと弱い組織を傷つけることになる。

結論

<スナッチプルやクリーンプルのプル動作とスナッチやクリーンアンドジャークのプル動作は全く違う。この違いを原因は、床へ加わる力、バーベルに加わる力、バーベルのスピード、動作の全体的なリズム、すねや体幹の角度、である。スナッチプルとクリーンプルとスナッチ、クリーンの調和構造は良く似ているが、大きな違いがある。スナッチやクリーンでは、投げ受け取る動作を効率よく行うが、ハイプルでは投げるだけである。ハイプルには、クリーンやスナッチのような爆発的な方向転換(必要不可欠な技術である)がない。

ハイプルを長期間行うと、技術的に非効率な動作癖がついてしまう。そして、Roman によれば、そのようなリフターは95~100%の重量を扱う大会においてその癖を出してしまう恐れがある。トレーニング種目や1セットあたりのレップ数、その他の面において考えるときは、効率に関する哲学を道しるべとせねばならない。

ソビエト黄金期の選手でありコーチであるBozhko はよくこう言っていた、トレーニングで行った種目や扱った重量には興味がない、大切なのは試合結果で自分より下になった選手の数なのだから。リフターが心に留めておかねばならないのは、トレーニングの基本的な目的が、試合で最大重量を挙げる準備である、ということである。

Vorobeyev ,Zhekov らは、現代的な考え方に沿った新しい考えや概念はたいてい冷たくあしらわれる。たとえそれらが科学的な研究に基づくものであるとしても、しばしば無視される。今回述べた事柄は決して新しいことではないが、いまだに無視されている。


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