破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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「ねぇ、あれ何? あれなにーっ?」
「僕に訊くなよ。知るわけないじゃないか」
ウイスはいつも通りニコニコしていたし、例外にその雰囲気に馴染めないでいたのはセイバーことアルトリア一人だった。
そんなアルトリアの雰囲気を気付いたイリヤがこれまた無邪気に話しかけてきた。
「どうしたのセイバー? なんか元気がに無いようね?」
「あ、いえ……」
そう答えるアルトリアであったが、思わぬマスターとの別行動、イリヤの護衛などの事情もあり、その言葉には覇気がなかった。
「そういえば聖杯戦争ってやつをここでするんだったな。戦争って事は何かと闘うんだろ?」
一方ビルスはビルスで憂鬱そうなアルトリアなど気に欠ける事もなく、聖杯戦争の事を暇潰しに彼女に訊いてきた。
アルトリアは、自分が今こういう気分である原因の根本である彼に対しても生真面目な騎士らしく律儀に応対した。
「あ、はい。聖杯戦争という名が表す通り……」
アルトリアは大凡の自分が知り得る限りの聖杯戦争の説明をビルスにした。
その話の途中途中で、自分もある程度は既にその戦争に関する知識を授けられていたイリヤも解説するなどして手伝った。
そのおかげもあってビルスは割とすんなりと聖杯戦争に関して理解ができた。
「なるほどねぇ……面倒な事するな」
「え」
その言葉にアルトリアは思わず固まる。
「だって君の雰囲気だとまるでその参加者のサーヴァント一人一人と闘うみたいじゃないか。どうせなら一気に対戦して終わらせたらいいんじゃないか?」
「さ、流石にどんな強力なサーヴァントであったとしても、サーヴァント自体が現世の人とは比較にならない強力な存在ですから、それらと複数と闘うとなると……」
「ああ、共闘される可能性もあるか。ふーん……じゃぁ君が強くなったらいいじゃないか」
「え?」
またアルトリアは上手く反応できなかった。
しかし今度は少し事情が違った。
自分は元々セイバーとして自惚れなく確かな実力である自信がある。
それに対してあっさりともっと強くなればいいというビルスの言葉には少々自尊心に響いたのだ。
「いえ、まぁ……貴方には敵わないにしても、私も現世に残る騎士王の話の代表格としてそれなりの実力はあります」
「ん? そうんなの? でも僕にはまだ君が本来の力を出していないように見えるんだけどな」
「え……? あ……」
アルトリアはビルスの指摘にある心当たりに思い至り声を漏らした。
「そうですね。サーヴァントは伝説や由来の発祥の地で召喚されれば知名度や土地の相性なども関係してその強さも当然上がります。ビルスさんはきっとその事を本質として察知したのでしょう」
「ああ、じゃ、やっぱり本当の意味で全力は出せてないわけか」
「こればかりは仕方ありませんね。何しろ舞台はこの国に固定されていますから」
「ふーん……ん?」
顎に手を当てて何かを考えていたビルスは自分のズボンを引く感触に気付いてそこに目を向けた。
そこにはイリヤが自分だけ途中から話の蚊帳の外に置かれて不満そうにしている顔があった。
「ねぇ、イリヤも仲間に入れてよ!」
「あー……ん?」
やはり面倒そうに適当に言葉を返して考え事を再開しようとビルスだったが、自分を見るイリヤを見て彼女にも何か違和感を感じた。
「ん?ん?」
「な、なぁに?」
急に眼をパチパチさせて自分を見てきたビルスにイリヤは少し驚いて後ずさりした。
「いや、君……人、じゃないな?」
「っ」
その言葉にイリヤは初めてビルスに対して本気で警戒する態度を見せた。
胸の前で手を組み、自分を守るようにしてさらに後ずさる。
ビルスはビルスでそんな彼女に構うことなく更に言葉を続けてきた。
「なんだこれ。見た目は変わらないのに母親と違って随分となんか……」
「だめ! 弄らないで!」
ビルスが自分の何に気付いのかを察知したイリヤは突然そう叫んだ。
「え?」
「これはお爺様が用心の為に私に施した大事な仕組みなの。切嗣がこの戦争の勝利者になる事が確定しない限り『これ』は絶対に弄っちゃダメなの」
「はぁ……んー、つまり……?」
「ビルス様、イリヤさんは見た目の割にお母さまよりずっと強い魔力を持っているようです。ビルス様が気付いた仕組みはそれを維持する為のものみたいですね」
遠目にしか見ていなかったはずのウイスがイリヤの秘密をあっさりと看破してビルスに説明してあげた。
その言葉にイリヤは少し悔しそうにしながらも無言でコクコクと頷いいた。
「ふーん、だからなんか人としての成長の限界点が低く見えたのか」
「なんか無理矢理な感じですからね。副次的な効果でしょう」
「でも要は魔力があればいいんだよな?」
「「え?」」
この言葉にはイリヤとアルトリアも同時に反応した。
そして二人して彼が何を言っているのかしたいのか咄嗟には理解できなかった。
「ふふ、自分では上手くやったつもりでも成長が止まる効果が出るなんて雑だな。なら最初から尽きない魔力の炉があればいいじゃないか」
ビルスはこう言うと人差し指を一本イリヤに向けてきた。
本能的に護衛としての役割を果たそうとしてアルトリアが前に出ようとしたが、ビルスの指先が紫色に光るのが早く、その気遣いも徒労に終わった。
というか徒労と終わったのに気付く暇がない程出来事は一瞬で終わり、二人とも彼が何をしたのか全く理解できなかった。
「……ビルスさん、イリヤに何かしたの……?」
自分に何をされたのかは理解出来ないが、それでも彼が自分に対して何かを行使したのは理解できたイリヤが不安に震えたか細い声で訊いた。
だがビルスはそんなイリヤに安心させる風でもなく普段と変わらない様子でこう答えただけだった。
「君に施されていた何かよく分からないのを壊して、代わりに僕の力を少し入れた」
「は?」
「え?」
アルトリアとイリヤはまとも呆然とし、言葉にならない声をあげた。
「ホントに僅かな力を君の魔力を生む炉に入れただけなんだけどね。それが今炉として機能したから……」
「神核というところですね。ちゃんと壊れないようにイリヤさんの元々の核も補強しておきましたよ」
「察しがいいな」
「いえ、ビルス様あまりにも考えなさ過ぎでしたので。ただ入れ替えただけだったら彼女壊れてましたよ?」
「破壊神だからな」
「上手く言ったつもりですか?」
「ふん」
「え? え?」
イリヤはまだ状況が理解できず、目をパチパチさせていた。
ウイスはそんなイリヤに優しく説明してあげた。
「ビルス様が元々あった施しを壊して、代わりに前より魔力を生産する核を入れてくれたんですよ。だからこれからはお母様と同じように成長します」
「はぁ……」
イリヤはまだよく解っていないの様だった。
その所為で痺れを切らしたビルスが少しイライラした様子でこう付け加えた。
「だから前よりずっと強くなったんだよ。そしてお前も母親みたいになるって事だ」
「え……」
雑な説明だったが実に単純だった。
故にイリヤもやっと理解した。
「イリヤ大きくなれるの?」
「ああ」
「魔力もずっと……?」
「というかこの地球でなら最強だろう。魔力だけならいくら使っても尽きる事はないんじゃないか? それより生み出す量と速さが上だし」
「……っ」
「おいっ」
込み上げてくる嬉しさに耐えきれずイリヤは思わずビルスに思いっきり抱き付いた。
ビルスは彼女の突然の行動に鬱陶し気にしながらも仕方なく抱き付かれた。
「ビルス様大好き! お母様や切嗣の次にだぁぁぁいすき! ほんとうに、ほんっっとうに、ありがとう!」
「分かったから。おい、耳を掴むなよ?」
感謝の気持ちを向けられているのにそれをやっぱり鬱陶しそうにしているビルス。
そんな二人を一人蚊帳の外的な扱いを受けながらも、自然と微笑んで見ていたアルトリアだったが、ふとイリヤを背中から背負う形になっていたビルスがこっちを向いたことに気付いた。
「……」
何故か嫌な予感がして思わず最初のイリヤの様に後ずさるアルトリア。
だがビルスはそんなアルトリアを逃がさないとでも言うように視線を逸らさずに言った。
「さて、次はお前の番だ」
できる時に、思いついた時に投稿。
でも話が進んでなくてすいません。
今回は長くなる気がする……!