破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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だが自ら彼らの排除を提案(半分冗談のつもりだったが)し、それが成功したというのに、何故かセイバー陣営は重苦しい雰囲気に包まれていた。
「……」
「切嗣……」
口前で手を組んで沈黙している切嗣にアイリが心配そうに声を掛ける。
彼女は切嗣ほど暗くは無かったが、しかしその眼は明確な不安に震えていた。
理由は単純だった。
切嗣はビルスの力を改めて確認する為に先の提案をした。
ビルスはそれに対してお茶の礼がそのくらいでいいならと一つ返事で引き受けたのだが、それがある意味不味かった。
先ず、切嗣はインターネットで見せた事件の記事を見て、彼らがどういう行動に出るのかを窺った。
ここまでの時点で彼は、自分達を今いる場所まで連れて来たような方法を体験していたので、今度もまた同じ様な事が起きるのではという程度の事は最初から予測はしていた。
だが甘かった。
なんと日本に行くどころか、ビルスと一緒に居たウイスという人物が、その場で持っていた杖に付いている球体に今まさに凶行を行っていた事件の犯人の映像を映してみせたのだ。
ここまで5秒足らず。
アイリはその光景が何かを瞬時に理解してイリヤが球体を覗く前にすかさず彼女を抱き締めて視界を遮った。
現場は凄惨の一言に尽き、無表情で冷静にその光景を見ていた切嗣もその心中は決して穏やかではなかった。
一方ビルスはというと、流石に自ら自分達の理解を超えた超常の存在と言うだけに特に表情も変えずにただその光景を眺めていた。
「こいつらを破壊したらいいんだな」
「まぁ、今回は特に気を遣う必要はないでしょう」
ウイスもビルスの発言を諌める事も無く抑揚のない声であっさりと認めた。
そしてここからが第二の衝撃が起こる。
ビルスは球体を見ながらサーヴァントと思わしき男とマスターらしき一般人の映像を爪の先で一回ずつコンコン、と叩いた。
するとそれだけで水晶に映っていた二人はまるで霧が晴れる様に消えてしまった。
あまりの現象にアイリは口元を押さえて呆然とし、セイバーも絶句していた。
切嗣はというと彼女達に負けないくらいに驚愕して表情どころか体全体が衝撃で固まって動かす事ができなかった。
だがまだ衝撃はそれで終わりではなかった。
最後にもう一つ驚くべきことが起こったのである。
サーヴァントとマスターが消えた事を確認したウイスが、殺されずに生きていた残っていた子供を見て『ふむ』と声を漏らした。
そして彼は片手を広げて球体を覆って何かを短く念じた。
すると犯行現場で驚くべき現象が起こった。
なんと既に殺されていたと思しき子供の家族の遺体が一瞬青く光ったかと思うと、何事も無かった様な姿で生き返ったのだ。
目の前の何かは間違いなく神だった。
でなければ奇跡などという手を伸ばしても容易に届かないモノをこう易々と実現させられるわけが無い。
だがそれでもこれは――これは少しばかり度が過ぎていた。
物理的な手がかりが皆無な状況で求めていたモノを探し出し、理解できない手段で目的を達し、そしてついでというばかりに悲惨だった結末まで覆してしまったのだ。
ここまでものの30秒程。
これは少々、奇跡という言葉で片付けるのも切嗣には安易に思えた。
いや、寧ろ逆に悪夢と呼んでさえ良い気がした。
それほどのものを見せつけられたのだ。
「……」
切嗣は考えた。
今後もビルスの機嫌を上手く取って先ほど見たものと同じ事をしてもらえばこの聖杯戦争は5分以内に終わられるだろう。
いや、もしかしたら今度は個々に実行するのではなくまとめて一瞬でという事も考えられた。
そうなると5分どころではない、それこそ1分すらかからず数秒の内に終わるだろう。
「……ふっ」
切嗣は思わず吹き出してしまった。
自分が今に至るまで懸けてきた代償と犠牲、自分自身のこれまでの人生が質の悪いコメディに思えた。
(僕は今まで何をしてきたんだ。この為にどれだけの準備と覚悟をしてきた……)
だが利用できるものは利用する。
切嗣は気持ちを切り替えて邁進を選ぶ事にした。
最短なら最短で結構。
外道と呼ばれようと常に最善の選択を選び、最良の結果を出してきた彼にとって、犠牲皆無で目的が達成できるのは願っても無い事だった。
「ビルス……」
どうにかしてビルスを懐柔してこの聖杯戦争の勝利者とならんと切嗣が彼の方を向いた時、そこに彼の姿は無かった。
「……?」
辺りを見回す切嗣に茫然とした様子でアイリが言った。
「ビルスさんならイリヤを連れて日本に遊びに行ったわよ……」
「……は?」
アイリの言う通りそこにはビルス達とイリヤの姿は無く、ついでにセイバーの姿も無くなっていた。
「わー! ねー、ウイスさん。ここが日本なの?」
ビルスはウイスの術で一瞬で勝手に日本に暇潰しに来ていた。
初めて見る外国という外の世界にはしゃぐイリヤにウイスが微笑んで返す。
「ええ、そうですよ。ここがえーと、なんでしたっけ。キリツグさんが仰っていた聖杯戦争の舞台となる国です」
「なんか何もない所だな」
「今回はちゃんと人目に付かない所を選びましたからね。えーとここはニホンの……フユキという所ですね」
ビルス達は冬木市の郊外にある倉庫街にいた。
時間帯は夜、場所が場所だけにビルスが言うように静まり返っており周りには積み上げられたコンテナと仄かな月明かり以外何もなかった。
「あ、あの……」
ついマスターの大事な御息女が誘拐同然に連れ出されようとするのを見過ごせず、同伴を申し入れたセイバーが居心地が悪そうに話に入って来た。
「流石にこれは不味いのでは? 切嗣もアイリスフィールも心配していると思うので……」
「別に問題無いだろ? どうせあいつもこっちに来るんだろう?」
「あ、なんでしたらセイバーさんだけ元の居た所に戻りますか?」
「いえ、そういう事ではなく……」
セイバーは困り果てた。
切嗣なら礼呪を使って自分だけ呼びもどす事もできるだろうが、恐らくそれは絶対にしないだろう。
何故なら今目の前にいるビルスとウイスが信用できないという意味においては恐らく二人の見解は一致しており、それ故にイリヤの護衛としての役目が自分になるのは必然だったからだ。
だからこそセイバーはウイスのこの提案を飲むわけにもいかなかった。
自分だけ戻ったとなるとそれこそ確実に切嗣に失望されて完全に見限られてしまうだろう。
それは不興を買うどころの話ではなかった。
騎士の沽券に関わる事だった。
「ま、取り敢えずブラブラしようか。行くぞー」
「はい、畏まりました」
「わーい♪」
「……」
セイバーは溜息を吐いて何かを諦めた様子で黙って彼らに着いて行った。
正論でビルスを諭して彼の不興を買っては元も子もない。
なら彼女にできる事は可能な限りイリヤを護る事だけだった。
お久しぶりです。
いえ特に何もありません。
ただ投げる気はないのでこれからも自分のペースで続けていきます。